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5話 襲ってくる霊

 結心は、4番目の依頼主と話しをしていた。
「何に困っているんですか?」
「毎日、怖くて、怖くて、なんとかしてください。」
「わかりました。で、具体的には?」
「3年ぐらい前から、ときどき幽霊みたいものが見え始めたんです。最初は、道歩いていると、横の家の玄関に人気を感じたので見てみたけど誰もいないとか、自転車を運転してきた女性の後ろに、子供がいると感じて見てみたら、子供のチェアはあるけど、誰も乗っていないとか、不思議なことが時々あったんです。
 また、朝日ですごく爽やかな公園で、3人の男性の学生がいて、楽しく話しているようだったけど、よくみて見ると、そのうち1人が、1人の学生の肩にだら〜んと両腕を垂らして、肩に乗っていました。まあ、いじめているのかな? と思い通り過ぎたんですが、後で考えて見ると、いじめられているとしても、腕が乗っけられていた人、明るく話していたから、今から考えると変だったなと思ったんですよ。」
「それで。」
「その後、この家でも、なんか人の気配があって、気にしないようにしてきたんですけど、ここ数ヶ月、夜、まだ旦那が帰ってくる前に、すごい形相をした男性が、私にぶつかって来るんです。怪我するとか、そんなことはないので、実際の被害はないんですが、怖くて怖くて、もうメンタルが持ちそうもない。」

「もともと、幽霊を感じやすい方なんでしょうね。この家には、そんなに嫌な空気は感じないのですが、なんなんだろう。申し訳ないですが、2日ぐらい、この家で一緒に過ごしてもいいですか。」
「旦那も、私のことは心配しているから、大丈夫です。うちは、まだ結婚したばかりで、ここは子供部屋にする予定だけど、まだ子供がいないから使ってください。ベットはないので、布団を敷きますね。旦那もいるので、お風呂とか使うときは言ってください。ご飯はどうします?」
「ご飯は気にしないでください。その辺で、適当に食べますから。」
「では、こちらへ。」

 結心は、この家で、ご夫婦と一緒に過ごすことになった。
「でも、なんか分からないな。この家で、特に殺気とか感じないけど。旦那さんが原因なのかな? 例えば、旦那さんが浮気している女性の生霊とか。」
 その日は何もなく終わった。翌日、結心はこの女性と会話を重ねた。

「結婚はいつされたんですか? かっこいい方ですよね。」
「そろそろ1年目の結婚記念日っていう感じ。私、一目見て、この人だと思い、積極的にアプローチして、なんとかゲットしたの。結心さん、手を出さないでね。」
「大丈夫ですよ。他の方の旦那さんに手を出すって、ドラマじゃないですし。こんなこと聞いて失礼かと思うんですけど、旦那さん、モテるとすると、今でも、多くの女性が誘ってきて、浮気とかないとは言えないと思うんですけど、どうですか? 誤解があると困るので、言っておきますが、浮気相手の生霊という可能性もあるのかなと思って。」
「まず、旦那は私一筋だって、いつも言っているし、その目は嘘をついている気はしない。また、すごい形相の霊は、間違いなく男性だと思うんです。」
「そうなんですね。じゃあ、違うかな? 何か、男性から恨まれることって、ありますか?」
「あえていうと、今の旦那と結婚する前に、別の男性と付き合っていて、その人とは別れたのですが。」
「その人は、いまだにあなたと結婚したいとか?」
「それは違うと思う。あちらからふってきたの。他の女性ができたとかで。私は、その頃は、彼のこと、それほど好きでもなくなっていたから、それもいいんじゃないと思って別れたわ。」
「じゃあ、その彼も、あなたを恨んでいないと。」
「そうね。」
「じゃあ、誰なのかな?」

 結心は、その晩、部屋で、何が原因かと考えていたが、その時、なぜか赤ちゃんの泣き声のような音が聞こえた。
「猫でも鳴いてるのかな。この家は、若いご夫婦だけど、この辺は、高齢者ばかりで、赤ちゃんはいなそうね。お子さんとか、赤ちゃん連れて親のところに戻ってきているとか。夜、泣いてうるさくないといいけど。でも、考えてみると、赤ちゃんという可能性はあるかも。」

 そこで、結心は、赤ちゃんと話しかけてみた。いくら頑張っても返事はなかったが、根気良く続けていると、30分ぐらいしたあたりから、相手が話しかけてきた。
「お前、邪魔。」
「どうして。」
「お母さんと一緒がいい。お前は邪魔。」
「その人、お母さんなんだ。どうして、死んじゃったの?」
「いいたくない。」

 その後、結心は、強い力で、3度ほど壁に叩きつけられ、頭から血が少し出てきた。
「力、強いんだね。強引にはしたくなかったけど、今回は、そうしないと無理。」
 いきなり、結心は、赤ちゃんのうっすらとした姿の腕を掴み、「りょー」っと大きな声をかけた。その時、赤ちゃんの動きは止まり、結心は眩い光を放ち、赤ちゃんに向けて投げつけた。

「ひどいよ。僕、死にたくない。お母さんは、お父さんと別れて、今の人と結婚する話しが進んでいた。その中で、お母さんは、子供がいると結婚に支障があるって、僕をおろしたんだ。でも、僕は恨んでいない。そうしないと、お母さんが困ったんだもんね。僕は、お母さんを困らしたいわけじゃないんだ。ただ、お母さんのお腹の中に戻りたくて、何回も、お腹に向けて走ったんだ。でも、これで終わりだね。お母さんには、会いたかったと言っておい・・・・・。」
「消えちゃったね。でも、今回の依頼主は、きちんと、このこと話しておいて欲しかったな。いいづらいのはわかるけど。
 あと、名も無い赤ちゃん、お母さんに言っても、困るだけだと思うよ。静かにお眠り。」

「おはようございます。昨晩、除霊は終わりました。」
「それは、ありがとうございます。なんだったんですか?」
「道で拾ってきた、暴力男っていう感じですかね。これから何もないと思いますが、1週間経って、何もなければ報酬を払ってください。私が1週間後に受け取りに来ます。」
「では、そうするわ。本当にありがとうございました。」

 なんとなく、おろした赤ちゃんかもって思っていたかもしれない。また、言わずに済んだって、舌を出しているかもしれない。そんな、したたかそうな女性だもんね。でも、それでいい。女が生きるために必要な嘘もあるし、別に、私の仕事は、本当のことを明らかにすることじゃないから。

 明るくなった依頼主は、結心に雑談をしてきた。
「そうそう、昨日、ホテルのパーティーに参加して、その時にトイレに行ったら、横から、ジャーという大きな音がしてきたの。女性じゃ、あんな大きな音しないから、多分あれは、女性の服を着た男性のトランスジェンダーね。実際にいるんだって、びっくり。でも、気持ち悪いわよね。どうどう?」

 そうなんですねと、結心は、興味のない話しに相槌を打っておいた。
「こんな馬鹿な女の子供でなくて良かったんじゃないの。まあ、あの子は、いいお母さんの記憶しかないんだろうけど。他人の気持ちを、どうのこうのって言う立場じゃないわね。」

 今晩は、学生の頃の女友達との飲み会があり、依頼主の家から直接、会場に向かった。結心が到着すると、みんなはすでに到着していた。友達を見ると、誰も霊を背負っておらず、まだ見えていない可能性もあるけど、結心は安心した。

 ただ、横のテーブルでクダを巻いているおじさん達は、5人中3人の肩に霊が憑いていて、酒に酔ったのか、大声で話していた。
「この頃の、若い奴ら、本当にやわだよな。用事があるから5時に失礼させてもらいたいだって。そんな用事、会社に関係ないじゃないか。俺たちの頃は、終電がなくなっても働いて、翌日は朝7時には会社に来て、新聞のスクラップとかしていたのによ。本当に、ワガママというか、なんというか。クズだな。毎日18時間働かせて、教育してたら、ある朝来ないので1人暮らしの部屋に行ってみたら首つって死んでるだよ。本当に迷惑だ。早く死んで良かったんじゃねぇ。」
「本当にそうだよな。俺も、そんな理由で、サボってばかりの櫻井ってやつ、いびり倒したんだけど、会社に来れないので辞めるって。今でもメンタルで家を出れないって噂だ。その分、俺の仕事量が増えて賠償請求したいぐらいだ。」
「そうそう、うちも、女性社員が口から血吐いちゃって、なんか俺が悪いみたいに言われて、本当に迷惑なんだよ。その女が、のろまで仕事ができないだけじゃないか。」

 こんな会話を聞いていて、結心は吐きそうになった。このおじさん達こそが、死んだ方がいい。ただ、友達は明るく会話していたので、邪魔しないよう、笑顔を保っていた。

 女子会も終わり、結心は、夜でも明るい街の中をゆっくり歩き、明日からも、これまでのように女性に憑いた霊を払う人生を過ごしくぞと決意を固めていた。

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