恋の葛藤
恋の葛藤
ある日、噂を耳にした。その噂とは、カノジョができたというものだった。
自分以外を好きになるより、他人を嫌いになるほうが難しい。それも、思いの丈を告白されたら無理ゲーになるというのは、私の人生を振り返れば確かな事実だ。だからこそ、彼女の存在が私の心に異変をもたらしたのだ。
喫緊の課題として、目が覚めるような美人に迫られた時、僕はどう反応すればいいのか。この問いに私は長い間悩んできた。彼女の瞳は深く、魅力にあふれていた。しかし、私は自分の感情に素直になれず、彼女に対して距離を置いてしまった。
滝のような涙でコンソールを濡らす彼女は、何度も何度もかぶりをふり、前髪を揺らし、許しを請うような上目づかいで這いまわる。彼女の悲しみが私の心を打ち砕いた。
「だから、どうして僕なんか選んだ? まだ死にたくない。心中なんて御免だ」と、私は苦悩に満ちた言葉を口にした。彼女の心の中には、私への想いが深く刻まれているのかもしれない。それでも、私は未熟な者であり、彼女の愛を受け入れることができなかった。
この出来事を通じて、私は自分の心の葛藤に向き合う必要があることを悟った。彼女との関係は終わってしまったかもしれないが、私は彼女から学ぶべきことがあると感じた。そして、次に訪れる恋に向けて、私は成長していく覚悟を固めたのである。
カノジョが出来たらしいです
自分以外を好きになるより、他人を嫌いになるほうが難しい。それも、思いの丈を告白されたら無理ゲーになる、
喫緊の課題として、目が覚めるような美人に迫られた時、僕はどう反応すればいい。
「恋のスイッチ、入れたら五秒で、ものの見事に振られましたぁ。ぴえん」
滝のような涙でコンソールを濡らす、その人は何度も何度もかぶりをふり、前髪を揺らし、許しを請うような上目づかいで這いまわる。
「だから、どうして僕なんか選んだ? まだ死にたくない。心中なんて御免だ」
まるで言語中枢だけ別人のようだ。心にもない残酷がこんこんと泉のように湧き出す。
「お願い致します。わたしじゃダメですか? 顔が嫌いですか? 可愛くないですか? 何でもします。努力します。どうぞ、あなた好みに染めてください」
胸の開いた服のボタンに手をかける。
「だから、ちょっと待ってくれ。僕はまだ、自分が何者で、君が誰だか名前すら知らない」
女はお構いなしに上着の前ボタンをすべて外した。
「名前なんて記号です。ルネ、ルーラ、ルリーフェ、ルカ、リュミエリーナ、ルフィーア、ローゼン、選り取り見取り」
彼女は僕に選択を強要する。待ってくれ。
そもそも僕にはまだ支配欲も隷属も共依存も愛憎も芽吹いてない。
「顔は誰でもいいんですね。じゃあ、ご注文はわたしのスカート丈ですか?」
やめてくれ。
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人類初の超光速恒星間探査船デカルトが失踪して半年が過ぎた。
オランダ王立突破科学アカデミーが創立十周年の記念事業として企画し、ヨーロッパ宇宙共同体や航空産業界がアフターコロナの基幹ビジネスと位置付けていただけに打撃は大きい。
デカルトはいわゆる「宇宙船」ではない。字義どおりの船なのだ。推進剤を噴射する乗り物は船でない。
デカルトは純粋数学を用いて物理法則を攪拌し時空の海を滑走する。
つまりは認識を実体化させることで心が物質に直接作用する「唯心論」の実用化した船なのだ。
心のおもむくままに想像を翼を広げて、どんな世界もひとっとび。
航続距離は無制限、機体寿命も真永久。だって想像に限界などありはしない。
そんなフリーダムで宇宙一の果報者デカルトは17歳の少女と観測可能宇宙の向こうへ旅立った。
そして、彼は人類にラストレターを遺した。
「ぼくはチジョにノリニゲされました」
結婚という名の墓場
まだOLをやってた頃の姉はスレンダーで膝頭が少し隠れるスカートをかわいく着こなし。ワンレングスの黒髪を肩まで垂らしていた。
そして、会社の帰りに南青山のシルキーポアだかトビーフェイスだかの高級パティスリーで苺てんこ盛りのホールケーキを買ってくれていた。
それが、結婚した今はどうだ。不二亭だ!
スポンジとは名ばかりの板敷きに、これまた紙みたいなウェハース。ホイップクリームを出し惜しみしてある。
チェリーを三分の一だけ使ってフルーツ感を出せという方がおかしい。
「あら、せっかく買ってきてあげたのに。要らないならアタシが喰らうね!」
秒で皿をさげられた。片手でヒョイと名ばかりショートケーキをつまみあげ、パクっと頬張る。手鏡で口周りのクリームを気にするくせにリビングの姿見に腰までめくれたスカートが大写しになっている。
「ちょ、姉。うしろうしろ!」
遠回しに注意すると、シュッと後ろ手に裾をおろし、何事もなかったかのようにキッチンへ戻る。
そして、一週間分の食器をジャブジャブ片付けていく。
まったく、結婚は人生の墓場というが最高にオシャレで可愛かった姉をこうまでダメにしてしまうものだろうか。
時の経過は残酷だ。離婚調停が長引いて明日で3年目に突入する。そこから一週間で彼女は人生二度目の決断を迫られる。
離婚冷却期間満了のまま、夫の浮気相手となかよく三人で暮らすか、死人を出すか。
こんな時、哲学者デカルトはどういうアドバイスをするだろう。
For nothing causes regret and remorse except irresolution.
優柔不断は後悔より先に立たず、だ。確か、あたしは3年前に同じ言葉を贈った。
好きでもない相手に情熱を燃やすってどういう気持ちだろう。配偶局がマッチングしたお相手は寄り目のブダイがラッシュアワーの車扉に挟まれたような容貌で、稼ぎも良くなかった。
それでも、「極超」稀子長老化社会の要請で罰則付きの就婚をしなかればならない。
違反者に待つ境遇は死ぬより恐ろしい。国家が子供を産もうとしない女に何をするか想像に難くない。「こうのとりナビ」が導く出会いは最後の慈悲といわれていた。
どうしてもダメという人は一定数いる。彼らに対しても国は里親というキャリアパスをちゃんと用意している。
ちゃんと人の親になれて幸せじゃないかとマッチングされたカップルはいう。でも、彼ら彼女らの顔は笑っていない。
そして、姉はみごとにこうのとりの陥穽に落ちた。
「貴女はいいわよねぇええ!」
くるりと振り向いた姉が裾で手を拭いている。バスタオルじゃないんだから、せめて家の中ではやめてほしい。私だって大学の単位を1つ落としていたら露出度の高い服を着いたのかもしれない。姉の側に行かなかった理由は配偶法の特例項目だ。極めて高度かつ国家戦略に必要欠かざる才能専門性を有し余人を以て代え難い人材は内閣が設置する専門者会議の助言と審査を経て結婚が免除される。
「アタシが稲田姫のプロジェクトと結婚したのはねーさんのためよ…」
「はいはい!たっぷりケツの毛まで毟り取って返すっていったじゃない!」
しつこいのも婚期を逃した原因だ。元夫も見合い当日から粘着されたらしい。
「とにかくあと一週間、大人しくしててよね!ハンコを貰えなかったら、慰謝料がパーになるんだから」
私がたしなめると引き戸がピシャッと閉まった。シルエットがすりガラスごしにゆらめいて、ヌッと大根脚が生える。そしてつま先でぐしゃぐしゃのドレスを蹴り出す。これを洗うのも私の仕事だ。
ジャーッという滝の音を背景に私は何とも言えない空しさを感じた。修行するのは姉の方だよ。暗澹たる気持ちで腰をあげ、ドレスに手を伸ばすとスピリッツが鳴った。招き寄せると風が逆巻いて半透明の正方形が実体化する。
「はい。清美です」
プロジェクトメンバーのえりっち。矢作絵里奈。私の概念上のオットだ。
「キヨ? すぐ来て!ヒメが大変なことになっているの」
「大変…って、あなた何時も大変じゃない」
「スペッッシャルたいへんなのよ!」
「だから、何?」
「姫がいなくなっちゃった!」
「ハァ?」
そこで通話が切れた。五分後、私は印旛沼アルゴリズム推進研究所の赤い建屋に舞い降りた。ワンマンドローンがよたよたと入道雲に消えていく。生ぬるい風が髪を揺らす。着陸前から察していたが人の気配がない。それどころか生活感が消えている。そういえばナビシステムが何度も念押ししたっけ。アルジェラボは25年前に廃された。押し問答が面倒になって私は3年ぶりにコマンドラインを手打ちしたのだ。経度緯度を指定して強引に到着した。屋内は禁コロだ。感染症対策のために服をダストシュートに入れ、シャワーを浴び、自分のロッカーから下着を含めた一式を取り出す。銀色の糸くずが一杯ついていた。
「うぇっ。衣魚だらけじゃん」
濡れた体のまま検疫場を素通りして職場に向かう。立体印刷機にパターンが入っていたハズだ。姫が着せ替えごっこするためのデータが。そこで私は見たくない文章に出会った。
〝KiY♡へ。これを見ているということはあたしは…"
AI結婚理論
人工知能の学習は結婚と似ている。人間は物事を予測する際、縦軸に深刻さや期待値を取り、横に時間軸を置く。
そして、経過に応じた結果を点に記していく。もっとわかりやすく例えるなら恋人の月収だ。
交際中の女は考える。このまま時間軸を結婚後に延長した時、あの人の収入でやっていけるだろうかと。
点と点を赤ペンで結び、出産や子供の入学など節目節目の収入を予測したい。その為にはなるべく多くの点を結ぶ曲線を探す必要がある。
彼女は赤ペンで何度も何度も線を引きなおすのだ。まるで運命の赤い糸をみつける作業だ。
人工知能も手探りで事物の因果関係を学んでいく。これをフィッティングという。
さて、恋愛において白馬の王子様が迎えに来たり、一目惚れした相手と幸せな夫婦生活を満了する奇跡はそうそうない。
人は異性遍歴を重ねながらパターン認識を鍛えて己の理想像に近似した相手を選ぶ。
恋する二人はまことに客観的な赤糸に寄り添うものなのだ。
「でも、二人がうまく行くかどうかなんて評価できませんよね」
英国、マンチェスターにあるラッセルフォード工科大学の講堂に失笑が満ちた。
機械学習に関する授業は美人のアリサ・テレーズ教授が教鞭を執っており、満席だ。
二回生のエドモンドがいい質問をした。アリサはさっそく評価関数の紹介をはじめる。
「伴侶にどれぐらい従っていけそうか、相手がどれほど理想像っぽいか。判断基準を設けるために評価関数という道具を用意します」
生徒のスピリッツに数式に流れる。「例として訓練データを用いる二関数を用います」
Σでおなじみの二項定理が右辺に記述された。
「Nは夫婦喧嘩の履歴です。愛する二人は衝突を繰り返して絆を深めていきます」
するとエドモンドが肩をすくめた。「夫婦喧嘩は犬も食わないってニホンのアニメで言ってましたよ?」
今度は爆笑の渦が巻く。
テレーズ教授は泣きそうな顔で多項式を書き換えた。
「で、ですから先ほど話したフィッティングデータ。赤い糸の描く理想像と現実の距離は定量化できますよね。ギャップを縮める関数を見つければいいのです」
男子生徒からヤジが飛んだ。
「日本製ジュブナイル(ライトノベル)の読み過ぎだ」
万事休すのテレーズ教授。助け舟を出したのはエドモンドだ。
「まぁ、お前ら落ち着けよ。ギャップ関数の皆無を証明してから騒げよな」
効果てきめん、ピタッと雑談が止んだ。アリスに微笑んで見せる。
「…まぁ、どうもありがとう。わたしの騎士」
教授は照れながら単元を次に進めた。
「さて、夫婦が元さやに納まったとしましょうね…そこ、うるさいです! 夫婦円満になったといったらなったんです」
テレーズ教授は仮説上の夫婦に更なる試練を与えた。破局の危機を回避する方法の一つとして互いの理解を深める道がある。
夫婦が相手の趣味や娯楽を理解し、価値観を共有する。もちろん、喧嘩の回数も増えるだろう、
ギャップ関数を