第19話 この世界の常識
〖間違いなく、命を落とす〗
武神様の重い言葉が、この場を支配する。
誰もが押し黙り、身動きもせず、一様に考え込んでしまった。
だから、私はこの空気を打ち破るように
『ですから、私は地上に降りて冒険者になります!』
明るく宣言をする。でも⋯
『⋯じゃが、じゃが其方はこちらの世界の常識も知らぬではないか!魔物の種類どころか、貨幣価値すら知らぬであろう!?』
さっきから涙目で私を睨んでいた天界樹様が反撃に出てきた!
『うぐっ⋯』
それは、確かにっ
『ほれ見い!それでどうやって地上で冒険者になると言うのえ!?』
『うぐぐっ⋯』
天界樹の精様の正論にぐうの音も出ないっ
『そ、それは、誰かに聞く⋯とか?』あはは?
天界の誰かに聞きまくれば、少しくらい情報が集まるかもしれないじゃない?
『ふんっ!ここにはそんな常識人は居らぬぞ』
そこはぁ、そんな自信たっぷりに言ったらダメなんじゃ?
〖ん~天界樹が心配するのは分かるがよ。今まで武器を持ったこともないやつの目の前に、考えたくはないが、ヤツの息がかかったもんや、ヤツ自身が現れた時、今のままのこいつなら一瞬でやられるぞ〗
武神様、さすがにいきなり元神って言うのは、考えたくないです。
〖そうだよな。なら、いきなり対人戦ではなく、魔物から慣れていくのはいいかもいれねぇぞ。冒険者は悪くない考えかもしれんな〗
そうでしょ?鍛治神、もっと言って!
『じゃが、いったい何処に下りると言うのじゃ?馬鹿なエルフ共は粛清されたとはいえ、まだ馬鹿な人間共は沢山いるのじゃぞ!』
『あ~』
その問題があったか~。
実はこの世界のエルフや人間はかなり問題ありな存在だったのだ。
エルフ?まあ!これぞファンタジーね!と、浮かれた私に
〖あ~理想を打ち砕いちまってスマンが、この世界のエルフと人間は、そんないいもんじゃないぞ。特にエルフの王などオークじゃないかと思うほど、酷ぇしな〗
と、武神様が教えてくださった⋯
『な、何ですって?』
エルフと言えば見目麗しく、優しき森の戦士じゃないの!?
〖いや、たまたま精霊樹の近くに暮らしてただけなのに、自分たちは特別だとか勘違いした迷惑な奴らだな。精霊たちに見限られて精霊を見ることも出来ないくせにな。王族なんぞまるでオークのように醜いぞ。いや、オークに失礼なほど醜いぞ〗
『あ、あらあらまあまあ⋯』
それほどに?
〖そうだぞ。精霊樹はあまりの扱いの酷さに、怒りでブチ切れて、精霊樹の精が精霊樹を引っこ抜いて、空を飛んで別大陸に命懸けで逃れたほどだ〗
『はい?』
何ですって?
〖その精霊樹も、精霊もな、愛し子のおかげで長き眠りから目覚めて、今は聖域で自由気ままに人を振り回して暮らしてるぞ〗
『あらあらまあまあ⋯』
振り回してって、中々な御仁のようね⋯
『人間は?どう酷いの?』
〖ん~、エルフと一緒でな、とにかく何を勘違いしてんだか、自分たちが一番と思っていて、他種族をとにかく見下してんだよ。獣人や、ドワーフ、あとエルフの中でもまともなヤツを奴隷にしたりな?〗
『まあ、なんて酷い⋯』
同じ人間とは思いたくないわね。
〖もちろん、全部が全部そんなヤツばかりではないんだがな?俺たちは時々、あまりに酷い目にあってるやつを見つけたら天界に保護してるんだよ〗
『あ、鍛治神様と神獣様がよく遊んでいる子達は⋯』
なぜ、天界に獣人の子供たちがあんなにいるのか不思議だったけど
〖そうだ。地上で辛い目にあっていた子らだ。聖域の愛し子の傍にもな、ここから巣立った豹と兎の獣人がいるぞ。愛し子たちのおかげで、だいぶ笑うようになったんだぞ〗にこ
『そう。それは嬉しいわね』にこにこ
私の孫も頑張っているのね。
そんな話を聞いた数日後、事件が起こったのよね⋯
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