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第四十二話 そのころ(2)


 男だけ45人が乗った改造されたワンボックスの中は指令室になっている。監視している者たちからの情報が集まってきている。
 暫く、動きを見せていなかったターゲットが、動きが活発になってきている。

 指令室には、上層部からの指示が出ている。ターゲットが何かを発見したと思われる動きが伝えられている。
 ターゲットが、海外のギルドカードに紐付けされた企業に送金していることが掴んでいる。

 ターゲットを監視しているのは、自分たちの組織だけではない。民間や別の組織が監視しているのが解っている。
 それらの組織を出し抜く為にも、ターゲットの近くである程度の権限を持った者が最前線に出てきている。

 上司の不在だった3日間の報告を、行う準備中に、ターゲットが動きを見せた。報告は、順次行うことになり、監視を優先した。

「C/Dは、Bの部屋の前で待機」

 監視対象は、現在は5名。

「Sは?」

 敵対組織の一つにスパイとして送り込まれているターゲットは、監視対象の中でも上位に入っている。

「動きはありません」

「SとAとBが、Bの部屋に移動」

「出たのか?」

「はい」

「Bの部屋は?」

 聞かれた男は、首を横に振る。

「収音は?」

 同じように、首を横に振る。
 個人の部屋に、仕掛けを行う時間はない。ターゲットも愚かではない。自分たちが監視されているのはわかっている。部屋の盗聴対策はしっかりと行われていた。

「わかった。Bは、由比に向ったのだよな?」

「はい」

 上司の言葉を肯定する。
 既に第一報の報告は上げられている。報告の準備と今後の対策を検討しなければならない状況になっていた。

「状況は?」

「駅でロスト」

「は?ターゲットは、素人だぞ?」

「ホームを降りて、改札を出たところまで、確認が出来ています」

「誰と会ったのかも解らないのか?」

「不明」

 尾行していた者の発見場所の報告も行う。
 尾行を行っていた者は、ホームにあるベンチに座っていた。尾行を行っていた者を監視していた者も同じ場所に座っていた。拘束はされていない。薬物も出てこなかった。しかし、3人は監視対象がホームに降りたところまでは覚えていたのだが、自分たちがホームにあるベンチに座っていた事を覚えていなかった。記憶を無くしていたのは、数分だと思われるが、その間に何があったのかはっきりとしていない。
 もちろん、持っていたカメラにも何も映っていない。

 他の組織の人間も同じように、ホームで発見されている。小さな寂れた港町にある駅の為、ベンチの数は少ない。階段の途中で見つかった組織もある。当日の駅が混乱したのは当然なことだ。
 幸いなことに身分証と思われる物は所持していたために、大事になるまえに騒動はおさまった。

「収音は?」

「ファンブル」

「電波は拾えないのか?」

「Bの部屋からは、電波は出ていません」

「昨日までは、WIFIが拾えたな?Bの部屋も?」

 4日前までは各部屋に設置されているWIFIの監視が成功していることを把握していた。
 今日になって失敗(ファンブル)したのが解らない。

「はい。WIFIを切ったのでは?」

「推測ではなく、実際に中の様子を知りたい。ベランダ側は?」

「あの建物は、窓からの盗聴は不可能です」

「・・・。近づけると思うか?」

「ご命令なら」

「実行しろ」

 監視している現場にいる。一人の男が、名乗り出た。
 マンションに向かう最中に、ターゲットを監視している別の組織と遭遇して、マンションに立ち入るのを回避した。

 自分たちの組織なら、警察に通報されても大丈夫だとは思っているが、例外はどこにでもある。

「え?消えた?」

「どうした?報告せよ」

「はっ」

 男は、見たままを報告した。
 別の組織の人間が、マンションに侵入した。ポスティングの格好をしているので、住宅街では目立たない。それでいて、人目に触れた時に記憶に残りにくい。持っているポスティング材が派手であれば、そちらだけが記憶に残る。

 ポスティングを行っていた者が、ターゲットの人間たちが入っていた部屋の壁に機材を近づけた。
 機材だけではなく、消えていなくなった。神隠しにでもあったかのようだ。

「・・・。撤収」

 現場に、”撤収”を伝える。

「はっ」

 現場からの報告を受けて、ワンボックスのなかにある仮の作戦本部では、撤収を決めた。
 未知ほど恐ろしい事はない。その未知を大量に抱え込んでいる可能性が高いターゲットの監視は必須な事だ。

 外に出ていた男が、監視場所に戻る。

 監視の現場には、現場で撮影した内容が転送されてきている。
 指示を出すために必要な情報が常に、指令室には届いている。

 ターゲットになっている5名が部屋に入ってから、かなりの時間が経過している。

 全員が部屋から出てきた。
 二人は、そのまま別の部屋に移動を開始した。

「どこに行くのかね?」

 軽口を叩いているが、臨時の作戦室からの指示が入る。

「確認せよ」

「乗ったのは、男1女2。不明1」

「ほぉ・・・。新しいメンバーか?」

 不明の1名が何時からターゲットの部屋に入ったのか判明していないことも、報告されるが、些細な情報だと無視される結果になった。

「不明」

「撮影は?」

「・・・。ファンブル」

「は?失敗?」

「いえ、正確には・・・」

 男は、現場から送られてきた写真を上位者が使っている端末に送信する。

「は?なんだ?これは?「どういうことだ?」

「不明」

 男たちは、共有された画像と動画を確認する。
 何度、見ても状況は変わらない。

 未確認の女は、動画にも写真にも映っていない。
 確かに、存在していたのだが、存在が無かったことになっている。

「ターゲットは、光学迷彩でも開発したのか?」

「不明」

「機材のチェックを行うように伝えろ」

「はっ」

 男は、イライラしていた。
 動き出したのは嬉しいのだが、不気味な雰囲気が拭えなくなってきている。

「A/B/Sを確認。新しいターゲットを、Fと呼称」

「追跡を開始します」

「Fを検索」

「該当なし。中尉」

「なんだ?」

「Fは見ました。情報が何もありません」

「どういうことだ?」

「Fは、女ですか、男ですか?子供ですか?大人ですか?顔は?髪の毛の色は?歩行は?何も、情報がありません。見ましたが、認識されていないかのように、思い出せません。中尉も見ましたよね?」

 中尉は、言われて初めて、思い出そうとしたが、思い出せない状況に背筋が寒くなる思いがした。
 慌てて、動画を巻き戻して見たが、人が居るのはわかるが、何か訳の分からない物が写っているだけだ。

「なんだ?これは・・・」

「追跡部隊から通信」

「どうした!」

「対象をロストしました」

「何?見失ったのか?発信機は?」

「ロスト」

「・・・。どういうことだ?対象が、発信機を破壊したのか?」

「いえ、移動中に・・・」

「なに?発信機が壊れたのか?」

「不明」

「ロストした場所は?」

 端末に、情報が表示される。

「目的地は・・・。Sの実家か?」

「おそらくは」

「追跡班を回せ」

「はっ」

 追跡をしていた者たちが、配置に着いた。

「ロスト」

「何?」

「中尉。追跡班の信号をロスト」

「ロスト?何を?」

「全部の信号をロスト」

「生存は?」

「不明」

「映像は?」

「出します」

 再生された動画は、”信じられない”状況になっている。
 監視していた者たちが乗っていた車の中にあるカメラの映像が、突然消えて、信号が無くなった。

 追跡班が、”どこ”に居て、”どんな”状況になっているのか不明な状況だ。
 カメラには、”何も”異常を閉める状況が撮影されていなかった。全部のカメラからの映像が同時に途切れている。追跡班は2台で行っていて、別々の場所に存在していた。それでも、同時に信号がロストした。

 映像から解るのは、追跡班が追跡中に突然消えてなくなったことだけだ。それも、同時刻に・・・。

「監視カメラはないのか?」

「ありません」

「2台はどこに?」

「不明」

「信号は?」

「ロスト」

「どういうことだ・・・」

 指令室の中は、沈黙だけが支配していた。

「撤退する」

 中尉の言葉が、指令室に木霊する。

 指令室になっていたワンボックスは、上空を見ていなかった。
 上空には、ムクドリとスズメがワンボックスを監視するように飛んでいた。

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