64 死闘①/ジン=マリード
2人とも、すでに、姿勢が低い。完全な臨戦態勢だ。
――ザッ……。
マナトも、ミトとラクトに続いて、草原に出た。
「……んっ?あぁ、なるほど〜、君かぁ〜」
マナトの顔が星空の光に当たると、亭主は察したような様子で言った。
「う〜ん。やっぱり、あの時かぁ〜」
どうやら、亭主自身、見られてしまったかもしれないという自覚はあったみたいだ。
「私も落ち目かな〜」
割とショックだといわんばかりの様子で、亭主はちょっと肩を落として、下を向いてしまった。
そして、お腹をぽんぽんと叩いた。
「こんなに太ってしまったしな〜」
恰幅がよく、お腹が出ていて、料理人によく見るような、ヒマワリ色の割烹着をまとい、腰あたりに濃い緑色の前掛けをつけているが、広いお腹まわりのせいで下にずり落ちている。
「……まあでも、こうなってしまったのは、仕方ないよね〜!わはは〜!」
亭主は、開き直ったような、気持ちを切り替えたような、そんな様子で快活に笑った。
笑ってはいるが、丸いメガネの奥のその目は、やはり、笑っていなかった。
……やはり、ジンだった。
人間ならざる者であり、塵から出来ているという事でジンと呼ばれ、幼い子どもをさらったり、殺人など、様々な形で人間に危害を加えている、謎多き存在。
亭主……ジンが、懐に右手をやった。
左手は、親指と一差し指を立てていた。
「2択だよ〜!私と契約するか、ここで死ん……」
――バッ!!
ジンが言い終わらないうちに、ミトとラクトが飛び出していた。
「おらぁ!!」
もはや瞬間移動ではないかと思うほどの、電光石火のスピードでラクトは一気に距離を詰め、ダガーを引き抜きざま亭主の顔目がけて一閃を放った。
――カキッ!
ジンの懐から、刺身を切るときに使用するような、片刃の小包丁が出てきて、ラクトのダガーを受け止めた。
「ダガーが、ふ、振り抜け……」
――パシッ!
ジンはラクトの突き刺してきたダガーを握る手を掴んだ。
「なに!?」
「はい、飛んでけ〜!」
くるっとジンは一回転して、その遠心力でブンッ!!とラクトを投げ飛ばした。投げ飛ばすまでの、その一連の行動に1秒もかかっていない。
「うわっ!!」
しかも、その先には、回り込んで攻撃を加えようとしたミトがいた。
――ドンッ!!
「うがっ!!」
「よ〜し!命中〜!」
投げ飛ばされたラクトに、ミトが思いっきりぶつかり、2人は吹き飛んだ。その先には、太い幹のある大木。
「そのままだと、木にぶつかっちゃ……」
ジンが言いかけた、次の瞬間、
――ブヨヨ〜〜ンブヨン。
ミトとラクトは、水のクッションに受け止められた。
マナトは両手をかざしていた。