13話 最愛の人の死
災害の日から2年が経ち、子供も1歳となり、忙しい日々が続いていた。一方、日々の生活はできていたが、医療機関などは、医薬品や手術用の器具などはなくなり、ガソリンも尽きて車なども走らなくなり、人類が積み重ねてきた科学を土台にして成り立っていた豊かな生活はなかなか元に戻せなかった。
そんな中、河北は、ここに来てから、ずっと、料理を作るための薪を拾いに山に行っていたが、今日も山中を歩いていた。
「綺麗な花が崖の途中に咲いているな。これなら、この木につかまれば取れるから、たまには、みうに持っていってあげよう。」
足を踏み出した途端、地盤が崩れ、河北は崖から落ちてしまった。
これは死ぬな。真っ暗になってきた。今から思うと、みうと一緒にいたこの2年、幸せだったかもしれない。みうは、ずっと笑ってくれて、家はほのぼのとしていた。みうのように、みんなのことをいっぱい考えて、いつも周りのことを考えている女性って、そんなにいないんじゃないかな。本当に裏表がない、僕のことや娘を大切にすることしか考えていないみうには感謝だ。お花渡したかったけど、無理だね。これからどんな人生が待っ・・・・・。
近所のおじさんが、慌てて家に走ってきた。
「河北さん。旦那さんが崖から落ちたって。頭打って、病院には運ばれたけど、もうダメみたいだって。早く病院に行って。」
「え! なみさん、お父さんが崖から落ちたって、一緒に病院に行くよ。陽翔(はると)は私が抱っこしていく。亮介さん、家をよろしく。」
病院についたが、すでに河北は亡くなっていた。
「頭を強く打って、出血も多く、おそらく即死だったんじゃないかと。ご愁傷様です。」
「先生、ありがとうございます。本人も、ここまで生きれて楽しい人生だったんじゃないかと思います。」
涙に溢れるみうは、陽翔を抱きしめた。なみも、涙を静かに流し、茫然と立ちすくしていた。
「奥さん、大変だね。あんなに仲良かったのに、まだ、これからっていう時に亡くなっちゃうんなんて。」
「そうだね。俺が伝えに行った時には、顔真っ青だったし。娘さんも、久しぶり会えたって喜んでいたのに。」
「でも、子育てが大変だから、奥さんも気が紛れるんじゃないかな。また、娘さんの旦那さんがいるから農作業も当面は大丈夫なのは不幸中の幸いかも。」
聞こえているわ。そう思ってくれれば、これからもいい人演じられる。でも、これは天罰ね。やっと、聡さんから解放される。私のこと大切にしなかったから、当然の報いなのよ。これからは、陽翔を私が理想とする男に育てあげていく。立派な男にするからね。お母さんとずっと一緒だから。亮介さんの親も必要なら利用する。私は、あなたを立派に育てるために、ずっと頑張っていける。私の子だから。