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10話 欧米は全滅

 一方、この2人には伝わっていなかったが、世界各国では、大変なことが起きていた。

 太平洋以外に落ちた隕石の中に、とんでもない昆虫の卵があったのだ。それが孵化し、1日で1匹から数万という卵が産まれ、それが孵化する。部屋の壁にあった、1つの卵から、朝日がさす中で、バーと小さな蜘蛛のような虫が散らばり、いきなり走り始めて、近くの動物の口に入っていく。そして、あっという間に内臓を食い潰し、その夜中には卵を数万と産む。なんと怖い。

 この虫は、アッと言う間にアメリカ大陸、ユーラシア大陸、アフリカ大陸と広まり、各地では、阿鼻叫喚の状況だった。ニュースとかになる前に、周りの町は滅びさり、朝、なんか虫がいると気づいた時には、静かに人たち血を吐いて死んでいく。このことがニュースになり始めると、人々は、どこに逃げていいか分からないまま、北に逃げていくが、虫の方が早い。虫は小さく、飛ぶので、ビルに逃げても、車に乗っていても、いつでも入ってくる。車で逃げていて、横に乗っている家族の首に何か小さな虫がいると思ったら、さっと口に入って、あっと思っていたら、血を吐いて死んでしまう。ダメだと思ったら自分の胃に激痛が、そこで運転できなくなり、前の建物に激突という感じだ。バーナーで焼こうと思っても、小さくて飛んでいるし、ターゲットが定まらない。そんなこんなで、あっという間に近くに押し寄せ、考える間もなく横に虫が来ているという状況だ。

 最初は蚊のように小さいが、内臓に入ると、血とか肉ををたっぷり食べて、半日ぐらいで、ゴムのような体がテニスボールぐらいの大きさにまで膨れ上がり、体を破って出てくる。まず、体内にいる時にその人ごと焼くということも考えられたが、まずさっきまで一緒だった人を焼くことに躊躇いがあったのと、そんなことを考えている最中に虫が体に入り、そもそも、そんなことはできなかった。防護服とか着ても、衣服を破っているのか、隙間があるのか、どこからか入ってきてしまう。また、体から出てきた時に殺すという手もありそうだが、その頃には、周りに生き残っている動物は全くいないので、生き延びるという生態系であった。

 ただ、この虫は塩水があると生きていけなかったため、大陸から出ることができず、津波の被害を被った日本などには入らなった。その意味では、津波の被害を受けたものの、日本では人間は生き延びることができたのだ。1ヶ月ぐらい経った時に、オーストラリアや日本などの島国を除き、動物はいなくなった。ただ、逆にこれが原因で、隕石から広がった虫も食べるものがなくなり、消滅することになった。繁殖力が高い一方で、地球の環境では必ず孵化するため、卵のままで存在できなかったことがラッキーだった。

 この昆虫の生体を調べる間もなく、一部の地域を除き人類はいなくなってしまたったが、実は、別の惑星から彗星が拾ってきたものだった。そこでは、メタンの海があり、大きな生物もいるものの、0°Cを超えるのは年に1ヶ月程度で、あとはマイナス180°程度の極寒の星。そこで、マイナス50°C以下では卵でしか存続できないこの昆虫は、短期間に急激に繁殖する習性を身につけた。また、1ヶ月程度の間に食べられずに過ごせた生物も多く、残りの期間は生活を謳歌したので、バランスは保たれていた。ただ、地球では、この昆虫にとって生きやすい気温だった一方で、海を超えることができなかったことが限界となり、最終的に死滅した。北極などに彗星の破片が落ちなかったのも幸いだった。いずれにしても、塩水に満ちた地球に感謝だ。

 この頃、世界のネットワークに接続できるようになり、世界各国から、虫から逃げろという映像も含めて入ってきて、河北達は、さらに孤立した気分になった。

「これはひどい。日本だけが大変と思っていたが、これでは日本とか島国だけが孤立して生き残ったということだったんだ。なおさら、まずは、ここで安心して暮らせる環境を作らないと。」
「そうね。逆に、地球全体がダメにならなかっただけでも幸せと思うべきなのかも。」

 聡さんと一緒に山登りに来たのは運命だったのね。この人の子を産みたいと思ったのも、生き延びる方法を神様が教えていたのかもしれない。ただ、一緒に暮らし始めて3ヶ月程経ったが、まだ子供ができないな。聡さんが、危ない時を察して、そんな頃にコンドームをつけていたから。コンドームもいつかはなくなるだろうけど、聡さんも年だし、そんなに待てない。

「ねえ、相談なんだけど、聡さんとの子供が欲しいな〜と思っているんだけど、どう?」
「こんな環境で大丈夫かな?」

 みうも女だな。これだから女は面倒なんだよ。子供まで育てるのは大変だし、今後、やっていけるか不安。なんで分からないかな。馬鹿な女は嫌いなんだよな。でも、生活するうえで、みうには助かっているし、さすがに娘もいる中で捨てるわけにもいかない。また、みうの体の魅惑も手放し難い。子供ができるかは分からないし、まずはOKと言っておこうか。できたら、あとはどうにかするしかない。

「助産婦さんもいると聞いたし。」
「そうじゃなくてさ、子供の世話をしながら、日々生活できるかということだよ。」
「私との子供は欲しくないの? 前の人とは2人も作ったのに。」

 あ〜、今日はイライラする。あの日だから? でも、子供産みたいんだから、なんとしても合意させないと。どうして男の人って、はぐらかすんだろう。あなたが不安でも、ちゃんと私は育てる。まあ、作っちゃえば、こちらのもの。

「聞いている? 子供を育てる環境が不安だと言っているだ。」
「私も35歳は過ぎたし、あなたもいつまでも若くないし、早く作りたいの。」
「う〜ん。」
「もういい。寝る。」
 みうはしばらく粘り、河北も折れて、子作りを始めるしかなかった。

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