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第3章の第76話 どうしようもない問題3

☆彡
【――どうしようもない問題に関わった人達がいて、その人たちがこう零していたんだけど……】
【あの時、ミシマさんが1番やっておかないといけなかったのは、どう考えてもあの時……】
【そのヨーシキワーカさんを一緒に連れて、昔の会社に行くべきだったと……後悔に滲んでいたそうよ?】
クリスティさんがそう語り。
次いで、サファイアリーさんとスバル(僕)が。
【あぁ、確かにそう聞いたわね……】
【何かその人、悪い事したの……!?】
僕は心配の声を上げたんだ。
けど、違った答えが返ってきて。
【ううん、大丈夫よ! 至って何も悪い事はしてないから】
【そうね! これは単にどう考えても、そのミシマさんの逆恨みで、仕返しが目的だったそうだからね!】
【へ……!?】
クリスティさんは、何も心配はないと言い。
サファイアリーさんが、その動機を語り。
僕の杞憂だったみたいで、呆けてしまう。
クリスティさんは、こう語っていく。
【簡潔に言うとね】
【そのミシマさんは、そのヨーシキワーカさんが何も悪い事はやっていない事を知っていて】
【こいつからちょっとだけ、お金を巻き上げる事ができないかと考えていたわけ……】
【何も悪い事はしていないのにね】
【それでもこいつのせいにして、それができないかと……多くの人達に電話を取り次いでいったの】
【で、いつもみたいにどうしようもない問題に見立てて、無実の罪の人を有罪に仕立てようとしてたんだって……! そんな事できないのにね!】
クリスティさんがそう語り。
僕が驚き得る。
【ゆ、有罪!?】
【うん! でね! その人はちっとも、あれだけの騒ぎが数年間続いたのに、普通なら気が狂いそうになるのに、動かなかったんだって……!】
【無視を決め込んでいたそうよ……!】
【達観したご両親の方がいてね、その2人が取り次いでたの】
【でね、詐欺である事が明るみになって、その無理な綻びが生じて、ヨーシキワーカさんの弟さんが何だか大変な事になったらしいわ!】
【自分たちのグループの1人だったから……!】
【……えっ……!?】
これには驚くしかない僕。
いったいあの家族の間で、何があったんだ。……凄い気になる。
【まぁ、その弟さんも、あーゆう目に会って、事の真相は語りたくないでしょうしね……】
【『集団催眠』にかかって、『共犯意識』のまま、誤って取次ぎを行って、『飴』すら安易に受け取っていたからね……。
【兄貴に電話やメールをすれば、まだ、回避できたってゆーのに……】
【軽率に動いてしまい、誤った情報のまま、鵜呑みに飲み込み、自身の取次ぎ上の間違いにより、スゴイ負い目と引け目を感じてるから……】
【ヨーシキワーカさんを語る、電話やメールが来たって、その偽物さんの話を鵜呑みに信じて、騙されて、安易に周りに取り次いでまわった事が、原因だとされてるわ】
【……】
よくわからないが、あの優秀な弟さんでも、時に間違いを犯すってことだった。
その人なら、事の真相を知っているのかもしれない。
……まぁ、言いたくないらしいが……。
にしても偽者からの電話やメールか……。
【でね、そのミシマさんの息子さんも、何かしら悪さをしていたところを抑えられて、学校でも騒ぎになったらしいわ!】
【ハッキングの手伝いをしてたらしいわね……。お父さんのミシマさんにでも教わって……!】
【自分でも、何か、その手伝いをしようとしたのかしら?】
【とんでもなくいけない事なのに……】
【ハッキングって、もう犯罪者じゃない!!】
【そうね……】
アユミちゃんが、そう苦言を零し。
これにはあたしも頷き得る。
【――つまり! あたしが言いたいことは、そのミシマさんの失態1つが原因で】
【ドクターイリヤマ、ドクターライセン、ヨシュディアエ、当時の修了生たちの一部の人たちまで、とんだ迷惑を被ったそうよ!】
【クリスティ……あんたは?】
その声は、サファイアリーだった。
【あたしの方でも、してやられたわ……。まぁ、運が良かったんだけどね……】
【『そのまま、豚箱にでも入っていれば良かったのにね……】
I Wish I Could Have Just Gone To Jail』(アイ ウィッシュ アイ クッド ハブ ジャスト ゴーン トゥ ジェイル)
【……】
サファイアリーのその苦言は、相当キツイものだったわ。
これにはクリスティ(あたし)でも、気が滅入ってしまう……キッツ……。
【? 今、何て言ったんだろう?】
【……】
一応、スバルやアユミちゃんが通う小学校でも、義務教育の一環として、1年生の頃から英語の授業を設けてはいるが……。
少年には、読解力はそこまで身についていなかった……。
アユミちゃんは、それをかろうじでわかっていたようだった。
【……で、どうなったの?】
【!】
その声は、アユミちゃんのものだったわ。
【……でね、いろいろとそのミシマさんを取り調べて行ったら……】
【昔、そのヨシュディアエさんと一緒に、ヨーシキワーカさんの時と同じような事をして、詐欺電話を通して、恫喝と恐喝行為を向こうの方で働き】
【その被害者さんを陥れてたって訳……】
【でもでもよくよく考えれば、その人が仮に、何もわからないまま、数年間就職できない状況が続けば、自殺まで追い込んでしまう……危険性が見え隠れしていたの】
【えっ!? 自殺!?】
【ええ、そうよ……自殺者予備軍ね……! だから、もう犯罪者も同然って事!! 実際に亡くなった方がいて、それを見て見ぬフリをしながら、揉み消していたらしいからね!】
【……】
これにはアユミ(あたし)も、その言葉を失ってしまう……。
人を自殺まで追い込んだの……信じられなかったわ……。
【そう言った被害者さんはね。他にもきっといるはずだから……】
【誰かが、そう言った被害者(人達)に取り次いで回り、その時、いったい何があったのか事の次第を訪ねるのがいいわ】
【必要だとご家族の方が感じれば、警察の方や弁護士さん、労働基準監督署の職員さんなどが、事情聴取を取っていけば】
【その事件性が明るみになり、自分たちの無実を晴らしていけるからね!】
【そのヨーシキワーカさんが、願ったのは……、『無条件の自由の解放』だったから!】
クリスティさんがそう語り。
次いでエメラルティさんがやサファイアリーさんが。
【誤った情報の取次ぎも、向こう方で勝手に、調整調整ツギハギされてて、各々の会社の方に間違った情報を流したものもあるらしいからね】
【だから恐いのよ……人の噂や、その人たちの数は……!】
【そうした被害者さん達の声を抑えて、自分たちの数が多ければ多いほど、そうした声を上げる事により、誤った勝ち方ができるわけだからね!】
【そんな人に捕まったんだ……】
(義兄さん……)

【――その日、ヨーシキワーカさんが尋ねたのは】
【フルスさんというご高齢の『Unlimited Electrical Contractor(アンリミテッド・エレクトリカル・コントラクター)』で】
【日本では、これを、電気主任技術者として、指すわね!】
【その『電気保安管理事務所』Electrical Safety Management Office(エレクトリカル セーフティー マネジメント オフィス)に訪ねたのが】
【どうしようもない問題の契機だったそうよ――】


★彡
【『電気保安管理事務所』Electrical Safety Management Office(エレクトリカル セーフティー マネジメント オフィス)】
ヨーシキワーカは、そのご高齢の人の所を訪ねていた。
『あれ!? お前さんは!?』
『こんにちは! ちょっと相談に乗ってもらいたいことがあって……』
『――まさかミシマ(あいつ)……また何かやらかしたのか!? これで何度目だ!?』
『へ……!?』

【――実はね……】
【そのミシマさんという人は、そのヨーシキワーカさんのお父さんも知っているところで……――】

『ミシマ!? お前が入ったところは、あのミシマのところか!? ちょっとその求人票を持ってこい!!』
『へ……!?』
【で、その確認を取ったら、ベッドの上で思いきり、寝込んだそうよ……?】
『お前が行く前に、もっと俺が確認を取っておくんだった……』
『……』
『あいつ前にも、うちの会社で、騒ぎになる問題事を持ち込んだからな……』
『あの時は正直、倒れそうになったぞ……』
『その後も何度も注意しても、あいつは聞かないし……』
『どこの誰と付き合っているのかもわからないが……。しょっちゅう、その問題事を持ち込んでは』
『そこで騒ぎを起こして、あいつはそこから『金だけ』持って行くんだ……!!』
『で、あいつの親父さんが、わざわざ出張ってきて、周りに頭を下げて回っているぐらいだ……』
『できればお前には、キチンとしたところに務めて欲しいのが、親としての本音だ』
『そしてできれば、今後、ミシマみたいな連中とは、付き合ってほしくないのが、親としての本音だ』
『そいつ等に関わって、散々な事になった人達が、うちの会社の連中が知っているところだからな……』
つまりそれは、ヨーシキワーカさんのお父さんが昔務めていた、会社の同僚たちも知り得ている所だった。
ミシマさんはそこで、いったい何をやらかし、騒ぎとなる問題を起こし、お金だけ取っていったのだろうか?

【――ってね】
【マジ……!?】
【フフフ……あたしは嘘をつく女でも、さすがにあの人だけは危ないから、スバル君には関わってほしくないかな!?】
【……】
【そう言えば……】
【!】
その呟きは、エメラルティさんのものだった。
【マイアミの公共職業安定所』Public Employment Services In Miami(パブリック エンプロイメント サービス イン マイアミ)でも、こんな騒ぎがあったんだけど……!?】
『電気のミシマ!?』
『おいっ!? ミシマってさっき言ったか!?』
『えっ……ええっ……!?』
『クソッ!! またあいつ、どこかで騒ぎになる問題事を持ち込んでいるのか!?』
『これでいったい何度目だ!? いくら、こっちからあいつに注意しても、騒ぎを起こしているだけだぞ!?』
『何でこんなに起こせるんだ!? あいつ!?』
『ホントに問題事の持ち込みが多過ぎっぞ!!』
『おい、お前達もそいつの名前と会社名を抑えておけ!!』
『要注意人物として、ブラックリストして注意を払っておけ!!』
『あいつの周りに、注意の網を張って、柵の防衛線を、周りに敷いておくんだ!!』
『急げ!! もう今度いう今度は、絶対に周りの連中も許さないぞ!!』
『オイッ!!、お前達もそのミシマの居所がどこか、電話を取り次いで回れ!!』
【――ってな事があったんだけどなぁ……】
【……】
エメラルティさんのその発言で、この場にいる一同、その言葉を無くす。
とんでもない人らしい……。
【……】
それからクリスティさんは、その日の出来事をこう語るのだった。


★彡
『――ハァ……もう、これ以上は周りも庇いきれんぞ……。……君はあいつに何かやられたのか?』
思い切り肩を落として、溜息を吐くフルスさん。
いったい、昔何があったのだろうか? 凄い気になる……。
『?』
『違うのか……?』
『……?』
当然ながら、この時、まだヨーシキワーカは、その電気のミシマさんの問題事の多さについて、親からは何も聞いていなかった……。
あくまで注意に留まる。
『……』
(もしかして……ミシマの今までの悪さを知らぬのか……? 要らぬ誤解を招くのもあれじゃし……、少し助け船でも出しやるかの……?)
『ミシマはあれでいて、昔と比べて、丸くなりつつある』
『……』
(ミシマさんの昔の事かな……?)
俺(わたし)は、そう考える。
『今では、会社も所帯も持っておるのじゃし、君に何か悪い事でも……、……したのかね……?』
『ううん……』
【――やりはしたが……。この人の前では、それを隠すことにしたんだ……】
【程度の問題もあり、余計な騒ぎを起こすのは、いらぬ誤解と偏見を招いてしまうから……】
『そうか、それは良かった……!』
パァ
とそのご高齢の人は、顔を輝かせた。
【このご年配(ひと)に、余計な心配を与えてはいけないと思ったんだ……】
【今でも、この判断は、間違ってはいなかったと思う】
『ここで話すのもなんじゃし、事務所の中に少し入りなさい。あいつのところのせがれさんがくるだなんてな……。茶ぐらい出すぞ?』
『あっ……お言葉に甘えて……』
そうして俺(わたし)は、【『電気保安管理事務所』Electrical Safety Management Office(エレクトリカル セーフティー マネジメント オフィス)】に招かれたんだった。



★彡
――事務所の中は、木造りで、しっかりとした内装だった。
辺りを見回す俺。
(キチンと手入れが行き届いている……さすがだな)
その人は、俺にお茶を出してくれた。
俺はそれを見て。
(あっ……しまったな……。ケーキぐらい持ってくるんだった……)
『……いただきます』
(ミシマさんのところが終わった後は、『父ちゃん』Dad(ダッド)に言われてちゃんとしたのに……。今度にするかな?)

【――私の生まれ故郷、米国(アメリカ)ではね】
【父親の呼び方は、Dad(ダッド)、もしくはDad(ダダ)が世間一般的で、幼い子供達がお父さんを呼ぶ特はDaddy(ダディー)と呼ぶのよ!】
【ヨーシキワーカさんなんかは、気分屋で、その時の気分で、使い分けていたそうね】
【で、海を渡り、日本に定着して、親しみやすい文法になっていくのが……】
【パパになるんだね?】
【フッ……正解よスバル君!】

『――Teavana(ティーバナ)か』
『ホゥ、いい目と舌を持っておるな……!』
『……』
『当たりじゃよ。えーと……』
『ヨーシキワーカです……』
『そうそう、そんな名前じゃったな……!』
『……』
嘆息す俺(わたし)。
どうやら、俺の名前はその程度のようだ。
まぁ、仕方ないちゃ仕方ない……。下から数えた方が、まだ早いくらいだし。

【――クリスティさん、ティーバナって?】
【お茶ならあたしに任せて!】
【えっ? エメラルティさん……!?】
【コホンッ! ティーバナとは、Heaven Of Tea(ヘブン オフ ティー)】
【……つまり、お茶の楽園を意味するのよ!】
【有名どころで立ち上げたのは、世界にもチェーン店舗を幾つも出している、スターバックス!!】
【その企業理念は、これまでにないティー体験を実現するために設立された、ティーブランド】
【フルーツや花、ハーブ・スパイス、果実の種などをすり潰したものを、特別な配合量でブレンドしたものよ!】
【乾燥した果実の皮にはね、薬効効果があり】
【また、様々な種類の茶葉を複雑に使い】
【これまでにない抽出方法を、今も試行錯誤しながら、新しい取り組みを続けていて】
【素材との組み合わせを、幾通りも試していき】
【斬新なビバレッジを生み出し、憩いの空間を醸し出しているのよ……!!】
エメラルティさんは、お茶の造形について、詳しそうだった。
でも僕は、全然わからなくて……。
【? ビバレッジ……?】
【あらら……スバル君は何も知らないのねぇ……】
【うっ……】
【でも、知ろうとするのは、いい事よ! ビバレッジとはね。水以外の飲み物の事を指す意味合いの言葉よ!】
【あぁ、なるほど……】
簡単にわかりやすく教えてくれるエメラルティさん。
ビバレッジとは、純粋な水以外の飲み物を差す、言葉らしい。

『――あぁ、実はですね。少し前にミシマさんと一緒に行ったところに、ある問題があって……』
『何ぃ!? あいつまたか!?』
『……へ……?』
『やっぱり、何度注意しても言う事聞かんなあいつは……!! あの娘(こ)にもよーく聞かせないとッ!!』
『???』
話がよくわからないまま進み、そのおじいちゃんは、TV電話画面に立ち、そのミシマさんに、急ぎ取り次いだのだった。
『――オイッ!! ミシマ!! 今ここにあの子が着ておるぞ!! 今度はいったい何をやらかしたんだ!!?』
『~~!! ~~!!』
『ゲッ!? ちょっと待って!?』
『ちょっとこっちに顔を出しにこい!! お前達2人に理由を聞いてやる!!』
『~~!! ~~!!』
『そんなミシマさんを呼ばなくていいのに……』
『何!? もうやってしまったぞ……!?』
『ッ……あぁ……』
俺(わたし)は、この人に上手く伝えられる言葉表現を、その時、まだ持ち合わせていなかった……。
軽率に動いてしまったのが、1番の敗因といえよう……。
しまった感を覚え、後悔に滲んでしまう……。

【――その後、ヨーシキワーカさんすら、何でこんな事になったのかすらよくわからず、困惑したそうよ……?】
【どーゆう事?】
アユミちゃんがそう尋ねたんだ。
【簡潔に言うとね……。ミシマさんを通さずに、勝手に行ったのがヨーシキワーカさんの1番悪い所!】
【電話口で、済ませるのが、一番穏便だったの】
【そうすれば、こーゆう事態には、発展しなかったでしょうからね……】
【……】
(じゃあ、一番悪いのは、御兄さんなんじゃ……!?)
この時、僕はそう思っても仕方がなかったんだった……。
だけども、その事件の全容を知った頃には、どっちが悪いかというと、その線引きができていたんだ。

(ど……どうしょう……!? ミシマさんを呼ぶ必要がなく、あの事について聞いて、自分の中で決着をつもりだったのに……!?)
ハァ……
俺(わたし)は、もう溜息を零すしかない……。

【バカ?】
【バカでしょ?】
【バカじゃない?】
アユミが、エメラルティさんが、サファイアリーさんがそう言い。
次いで僕が。
【……誰が?】
【その勝手気ままに動いた、ヨーシキワーカさんが……】
【あぁ……】
僕は、その3人にそう諭され、嘆いてしまう。
『……】
アヤネさんも、その話を聞いていて、嘆息するぐらいだった。
次いで、クリスティさんはこう語る。
【うん! あの時のフルスさんの判断は、何も間違っていないわ!!】
【ただ1つ言うならば、両人ともそこに呼んだ場合、とても気まずくなり……】
【言いたいことがあっても、中々言い出せないものよ!?】
【対処法としては、1人ずつ、事の次第を取り、聞いて回れば良かったの】
【人には、わだかまりという心理状態があって、ちょっとしたはずみで、どう転じるのかよくわからないからね……】


★彡
――ここで少し時間が進み、ヨーシキワーカとフルスさんが思っていたよりも速く、この場にミシマさんが訪れたんだった。
『何じゃミシマ、もうきたのか……? 意外に早かったの……?』
『……』
不承不承の顔を浮かべるミシマさん。
その足取りは、普段よりも足音を立てるもので、内心怒りが立ち込めていた。
そして、件のヨーシキワーカを、その眼に納め、呟いた一言目は――
『――こいつ……! まさかこんな事するなんてな……! 後で覚えてろよ!?』
ビクッ
『! ……』
『フンッ!』
ショックを受ける俺(わたし)。
そう、ミシマさんに言われたことで、後で何かくるというのは、薄々はわかっていた。
わかってる。今回、1番悪いのは自分だ。

【――確実に悪かったのは、そのヨーシキワーカである事は間違いないわ】
【でも、それ1回きりよ?】
【?】
クリスティさんがそう言い。
僕は疑問符を覚える。
次いでサファイアリーさん、エメラルティさんが。
【……そうね。どう考えても、そのどうしようもない問題をけしかけてきた人たちの方が、誰の目から見ても、悪いわ!!】
【うん! その1回を帳消しにするぐらいの数だったらしいからね!!】
【いったい何回やらかしたのかしら!?】
【さあ!? とんでもないぐらいじゃない!?】
2人の美人姉妹がそう言い。
次いで僕が。
【そ、そんなに!?】
【そうよ!!】

『ちょっとお前も、ここに座れ! ミシマ!』
『……』
その席に座るミシマさん。
3人が、この場に納まる。
『!』
偶然にも、そのミシマさんの眼に入ったのは、電気の教科書だった。
俺はその電気の教科書を見て、こいつの顔を見た。
『ん……? お前、もしかして……わざわざ、この人に教わりにきてたのか?』
『ん~~……何て言いますか。その……済みません……』
『フンッ!』

【ここでヨーシキワーカは、そのミシマさんに対して、一度は謝っていたそうよ?】
【でもね、その受け取り方は、人それぞれで……】

『――で、何があったんだお前達の間に……!?』
ワシは、お前さん達2人の間で、いったい何があったのか気になっておった。
『あれから数日しか経っておらんしな……。いくらなんでも、ちっと早過ぎやせんか?』
フルスさんが、大いに疑問に覚えるのも無理はなかったそうよ。
でね、その疑問に思えたのは、ミシマさんもに置いても、変わりはなかったの。
『!? まだこいつの口から、何も聞いていないのか!?』
『……』
当然ながら、ワシは、まだ何も聞いていない。
事の詳細が、この時はまだ、よくわからなかったからじゃ。
フルスさんは、こう語る。
『ワシはな、お前が来てから聞こうと思っていたのじゃよ?』
ポカ~ン……
『……』
『……』
【――呆ける感じのミシマさんに】
【ただジッと黙っている感じのヨーシキワーカさんが、そこにいたそうよ?】
【言いはしたし、書きはしたようだけど……1枚のコピー用紙(紙切れ)に……】
【あたしから見れば、何か電気的なものと、注意の報せを告げるようなものだったらしいわ】
【そこで、ミシマさんが迷惑を被る事は、まだ何も言っていないそうよ?】
【……どゆ事?】
これには僕も気になってしまう。

『――自分とミシマさんの2人で、どこかの会社の屋上に上がった時の話なんですが……。
そこで見たものが、どうしても気になって……。
いつか壊れるんじゃないかって』
『……壊れる?』
コクッ
俺(わたし)は、1枚の紙に書き起こしたものを見せる。
『……この場所なんですけど……。
こう屋上では、強風が吹いていて、こう鉄板がその風に煽られて、バンバンと音を立てていたんです。
下には、高圧ケーブルがあって、危険じゃないのかと思いました。
……何で、それを知っていても、修理できないのかと……ちょっと疑問で……。
いつか、電気火災事故が起こるんじゃないかって……?』
『……』
『……』
その話を聞く2人。
ヨーシキワーカさんにとっても、心に迷いがあるらしく、言葉がたどたどしかったそうだわ。
フルスさんは、その様子を見て。
『――なるほどな!』
納得の理解を示したの。
ヨーシキワーカさんは、ミシマさんの仕事場に行ったとき、見たものを、思い起こし、
それを1枚の紙の上で書き起こす事で、フルスさんにわかりやすく伝えていたの。
それはミシマさんに取っては、いい気がしてならなかった……。
むしろ、義憤と呆れ顔が、その顔に同居していたぐらいだから。
『それはな……ヨーシキワーカ(君)が悪い……!!』
『え?』
コクリ
とその横で頷き得るミシマさん。
フルスさんの話は、こう続く。
『ワシ等電気屋はな! その会社に行き、その会社から受注を受けたものしか、『触ることができない』のじゃよ!!』
『えっ? でも、あそこは壊れてて……いつ、何が起こるか……!?』

【――ヨーシキワーカさんは、いつ、電気火災事故が起こるんじゃないかって、心配していたの】
【実際安全なやり方は、いくつかあったのよ?】
【例えばね。電気配線のケーブルを持ってきて、それを鉄箱の周りに、何回か縛れば】
【例え強風が吹こうが、バンバンとあんなに大きく音を立てる事はないそうだから……】
【電気火災事故が起こっても、それを先延ばしにできる期間が伸ばせるから】
【その間に何かしらの対応策も、その会社の方で考えられたんだけどね】
【えーと……その事は?】
【誰にも何も伝えていないわね……。ヨーシキワーカさんなりに考えて、ずっと秘め事で黙っていたらしいから……!】

『――ハァ……。会社の代表としての立場になってみるのじゃ!』
『立場に……?!』
『そうじゃよ……。君はいいことをしようとした!
その代わり、君が労災事故に会い、その命を落として見よ?
その責任を取るのは、誰じゃ?』
『あっ……』
『そう、ミシマ(こやつ)じゃよ……』
『フンッ!』
(俺は、何もわかってなかったのか……)
俺は、自分の至らなさを思い知る。
フルスさんの話は、こう続く。
『君はいい事をしようとした。それは修理の方の話じゃな?』
『……はい……』
『それは、電気屋が請け負う仕事ではない……!
その会社に勤める技術者たちが、請け負う専門的なところじゃ!
人により、受け持っている仕事場がある!
仮にもし? 君がその仕事場に行き、その問題を1人で解決してみよ?
その人達は、いい顔をするかね?』
『……いいえ……』
『そうじゃのう。きっとその会社側の人は、君のそうした行動を見て、怪しい不審者だと思い。
何かよからぬ部外者の動きとでしか、見ないはず……。
そこで、こいつと一緒にきたことがある君を見て、その事を知っている人達が、こいつに電話をするじゃろうな?
困るのは、こいつになる訳じゃ!』
『フンッ、わかったか?』
『はい、ミシマさん、済みませんでした……』
俺(わたし)は、ミシマさんにこの時、キチンと謝った。
『フンッ、謝ればいいという問題じゃない!!
こいつは俺のところを、たったの3日で辞めたんだからな!! 飛んだ腰抜けが入ったものだ!!
周りからはいい笑いものだぞ!?』
『……』
これには俺も、何も言えなかった……。


【――実は、この頃から、ミシマさんからドクターイリヤマやドクターライセンたちに取次ぎ、周りでちょっとした騒ぎが起こっていたの】
【少なくとも、まだこの時は、ヨーシキワーカさんも、フルスさんも、その一件には関わっていないから、事の詳細を知らなかったらしいわ】
【間違った情報のやり取りも、実はあったそうよ?】

『――ということは、君はわざわざ、修理の話について、聞きにきたのか?』
『……はい……』
『『『………………
………………
………………』』』
この場に沈黙の間が流れて、そして。
ハハハハハッ
バカ大笑が起こるのだった。
『ハハッ! 何だそーゆう事か!? 心配して損したぜ!?』
『!?』
ヨーシキワーカ(俺)はその時、ミシマさんは杞憂だったんじゃないかと思い、
何かを拾う、そんな感じだった。
来る道の途中、社用車の中での様子は、わからないから。
『何じゃミシマ、思っていたよりいい子じゃないか!? あの時のお前さんの話より、マシじゃないのか……!?』
『ウッ……!! あれを持ち出さないでくださいよ……ったく……! フルスさんには勝てませんね……』
『フッ、周りにも良く伝えておこう。いい笑い話じゃよ! ハハハッ!』

――この時、フルスさんの中で、2人の事は笑い話で済むのだった。……だが……――
『――………………』
チラッ
ここでミシマさんは、広げていた電気の教科書に目を落とすのだった。
ついでに、ヨーシキワーカがフルスさんのところにきて、1枚だけ描いた画図に目を落とす。

(――こいつは……使えそうだな……!)

ニヤリ
と悪い笑みを浮かべるミシマさん。
【――それは、たった1枚のどうでもいい紙切れだったそうよ】
【表面と裏面があって、電気の絵図と、その会社の屋上の問題となっている絵図……】
【この時ミシマさんは、これが使えるんじゃないのかと思い】
【とんでもない大きな墓穴を掘ることになっていくの……】
【――その後、どうなったの?】
【その後は、電気はこんなにも素晴らしい世界なんだぞという話が続いたそうよ!?」
【へぇ~……】
【そのヨーシキワーカも、電気の免許に加え、危険物、ボイラーと持っているからね!】
【しかも、ほとんど誰の手にも付けられていないから、ホワイトに近い、無垢の逸材だったのよ!】
【だから、どんな色にも染まりやすい……】
【へぇ~……」
【技術屋が雇いたいのは、経験者がいいでしょうけど……】
【変に前の会社でかじっているから、こちらの都合に合わせるのに、それ相応の時間がかかるものよ?】
【また、変にかじってる分、余計な衝突の原因にも成り兼ねないしね……】
【近く、工業系の学校を卒業したまだ若い人材や、職業訓練校を修了したいい人材がいれば、どこもが欲しいでしょうね!】
【まぁ、そのヨーシキワーカさんは、その職業訓練校を修了して、短期で修めているから】
【いいか悪いかは、現場の人達の判断に委ねるのが、一番らしいけどね!】


『そう言えば……お前さんは何しに来たんじゃ?』
『実は前の会社で、修理の問題があって、……あれが壊れて……ッッ』
『『!?』』

【――その後、件のヨーシキワーカは、まるでパニックを起こしたように、言葉足らずと陥ったそうよ!】
【……何で?】
【怨みかしらね……】
【え……?】
【どうしようもない怨み……】
【過去に色々な事があり、自分が受け持っている仕事量が、他の人達と比較して、極端に多過ぎた……】
【誰もがその人に頼って、その人に圧しつけ過ぎた……】
【何でもできる、一種の、便利な人だったから……】
【何も言わないからか……】
【寡黙だったからか……】
【何も言えないところに置かれていたからか……】
【誰にも知られる事なく、そっと自分の胸の内に秘めていた……】
【溜まっていたそれが溢れ出した……】
【……】
【決壊した】
【それは感情の爆発、その濁流……】
【それを抑える事ができなかった……】
【その悔し涙は、後悔だからか……】
【もっと自分の力を試したかった……】
【でも、それが叶わない現場だった……】
【技術もなく、経験もない】
【無情にも、月日は流れていくばかり……】
【気がつけば、脳の電気信号を繋ぐ、大事な骨盤と化していた】
【白血病になれば、血液の生成がもう間に合わない……】
【それはつまり、上と下とを繋ぐ大事な役目、報告・連絡・相談、そのすべてを請け負っていたに等しい……】
【奇しくも、その人、たった1人だけだったの……】
【1人ィ!?】
【そうよ……】
【周りの人があれこれ言っていたけど、他に替えの利かない大事な部品になっていたそうよ】
【会社は、正社員扱いだって職業安定所の方に言ってたらしいけど……。取り調べてみれば、その実、実際はパート扱いだった――……】

『――自分が前にいた会社の、あの機械も、ヒドイ騒音を立てて、いつ壊れるかわからなかったんだ!!!
何で治さなかったんだあのボイラーマン!!』
『……』
『……』
その話を聞くミシマさんにフルスさん。
感情の決壊したヨーシキワーカさんの悔し言葉は、こう続く。
『電気と蒸気は繋がっていて、何度もこっちが言っていたのに、何でだ……ッ!?
そのせいで俺の耳が……ッ!!
あの赤テープを剥がして、あの人を呼んでやれば、以前にも同じようにやった事があるんだから、
あそこから黒いヘドロ(あれ)がでてくるってゆーのに!!
3年間、掃除を起こったモータもあって、それの掃除もすれば、治るってゆーのに!!
何で誰もやらないんだよ!! 俺1人にばかりに任せて……ッ!!』
『……』
『……』
『しかも! 周りのラインの人達が働いている中で、正社員の奴等、2階でゲームばかりやって、全然働かいないし!!
もう、あんな会社やってられないから、こっちから辞めてやったわ!!
他の辞めていった人達と同じように!!』

【――完全に感情が爆発し、泣きっ面の声を上げながら、正常な判断ができなかったそうよ?】

『……』
『……』

【当然、それを見聞きした2人は、その時、それを聞いて、どう思ったんでしょうね?】
【そうした問題は、ここに持ち込む必要性がなかったのよ?】
【ヨーシキワーカさんが、明らかに悪いわ……】
【ボイラーマンとか、職業安定所の人の高嶺の花とか、要はその人の、ただの言葉足らずだったそうだからね……】

『……どうだったんだミシマ?』
『……』
『お前はあの子とその3日間だけ、一緒にいたんだろ?』
『いや……今の話は、俺もさっき聞いたばかりで……こんな奴とは思わなかった……!?』
ちょっと恐れ気味のミシマさん。
それだけ俺は、感情が決壊が大きく揺らいでいた。
2人がそんな話をしている中で、俺は、お茶を嗜みつつ。
どうにか決壊した感情を抑え込もうとしていたんだ。
『これは、調査の必要があるんじゃないのか?』
『……』
『少し前にも、そうした話題が上がっていたんだし……。……ちょっとお前、あの子のいた昔の会社に行ってみろ? 何かわかるかもしれないぞ?』
『……』

【――この一件の飛び交っていた人の噂を聞く限り……】
【ハーバード大学姉妹校の職業訓練校に通っている時期、いいえ、実は、それ以前から上がっていたそうよ】
【それは、昔の会社を辞める前、去年の9月からだと言われているわ】
【く……9月……!?】
【ええ、その9月ぐらいの時期に、突然、モーターが壊れたかの如く、騒音をなびかせ、凄まじい振動のまま、中の部品を欠落していくの】
【白煙を上げ、異臭も漂わせてね……】
【その時か……】
【ええ、人のせいにする動きは、だいたいその時期ぐらいね】
【……】
【……その事は、ヨーシキワーカさんから、その会社の工務の人達へ、報告したらしいわ】
【でもね。その工務の方は、その中の部品を見るなり、いらないといったそうよ】
【それを、ヨーシキワーカさんの手で棄てちゃったらしいけどね】
【……それマズイんじゃない?】
【大丈夫よ。ワッシャーやボルトやナット程度だから】
【……な、なるほど……】
【でもね。事のホントの経緯は、さらに遡って、そのモーターが取り付けられた時期にあるの】
【それは、取りつけられてから、まだ2週間も経たない時期をめどに、ワッシャーやら、ネジの部品の欠落を確認したそうだわ】
【な、何でそんな事に!?】
【品質管理の女性のせいらしいわよ】
【え?】
【総務課の方にご主人の方がいてね】
【その偉い人の顔を立てて、着てくれた業者の方に、もっとモーターの値段を下げろと交渉したそうよ】
【当然そうなればどうなるか!?】
【業者側の人は、その値段に抑えないといけないから、中の部品の点数を減らすか、ネジの種類を変えるしかない】
【例えば、逆ネジをしようするところに、普通のネジを使用したりね】
【そして、意に嫌った事になった以上、ワザと中の部品のネジを、緩めたりするケースだってあり得るのよ】
【な、なるほど……】
【……当然、周りの人達は、その事を知っているの?】
【いいえ……】
【あぁ……】
一同、嘆いてしまう。

【人の悪い噂。ヨーシキワーカさんの悪いイメージが……】
【それはもう飛び火するように、飛び交い、それが歯止めが効かず、エスカレートしていく形になっていくわ……】
【ここに大きく絡んでくるのは、仕掛け人・闇子・かけ子・呼子と呼ばれる裏の協力者たちで】
【以前から、そー言った悪事を働いていたの】
【自分たちにも、お金を恵んでほしいから、その為に、誤った取次ぎがあったとされているわ】
【で、間違った人の噂は、その時には既に、火の海の状態だったから、後は油を垂らすだけでね……】
【……】
【何も知らず、そのミシマさんが、火に油を注いだ結果になるの】
ミシマファイアー
【で、ミシマさんも、この一件に関わるようになり、仕掛け人と化していくのよ】
【それに通ずる形で、ミシマさんから、ドクターイリヤマ、ドクターライセン、ヨシュディアエ、多くの知り合いの伝手を頼り、各々の会社の方へ】
【そして弟さんも関わってきて】
【その人の人生が大きく狂っていくことになるのよ】

ゴクゴク
とTeavana(ティーバナ)を飲み込んでいくヨーシキワーカ。

【――その人は、出された『お茶』Teavana(ティーバナ)を飲み込んでいくことで】
【決壊しかかっていた感情の濁流を、どうにか抑え込もうとしていたの】
【脳裏に過るは、その昔の会社にいた半生だったそうよ?】


★彡
『会社の嘘つき』

【――それは入った当初の求人情報紙の誤りで】
【会社からは、まだ職業安定所の方へ、新しい求人情報誌の更新を、まだ進めていなかったそうよ】
【お母さんもその時在籍していて、取り繕った言い訳の話になり、それは言葉巧みな氷山の一角だったそうだから……】
【それで会社側は、ヨーシキワーカさんを安い給料で、肉体労働員として、雇う事ができたの】

『しばらくは、ここに根を下ろすしかない』

【――石の上にも3年という言葉もあり、いつの日かは、正社員として雇ってもらえるように、誠心誠意働いたそうだから】
【でもね……】
【気づけば、一生パートで、10年間働いても、正社員に昇格した人は中々いないそうよ?】
【100人に1人の割合だからね……】
【また、ヨーシキワーカさんが務める科では、誰1人、正社員に上がった人はいないそうだから……】
【だから、その人が、気づいた頃には、長い年月がとうに経過していたそうよ……――】
【……】
【……】
僕たち、あたし達も、その事実を聞いて、可哀そうに思えてくる。
【その昔の会社の上の人たちは、陰口でこう言ったそうだからね】
『あいつバカか!? 学校を出ているなら、そっちの方へ行けばいいだろうが!?』
『あんなところにいるぐらいなら、それぐらいで充分!!』
『あいつは、それぐらいしか、役に立たないからな!』
【――ってね。泣く泣く、その人は、そこで従事するしかなかったの……】

『認めさせてやる……見返してやる……』

【――そう、胸に決心し、自身の力を振るったそうよ】
【だから在籍している間だけ、奇妙なぐらいにそこが高速化・効率化していったの】
【それを物語るように、その人が休みの日は、せいぜい作業量が、3分の1程度しか進んでいなかったそうだからね……】
【単純に能力が、あるなしじゃないの】
【それは、その人だけが持つ、基礎を修め、応用を利かし、奥義と秘奥義へと昇華していったものだから……!!】
【詳細は誰もが知っていても、灯台下暗しだから……】
【誰もが見向きもしなかったそうよ……?】
【その必要がなかったからね……】

『ダメだ……こんなところにいても……!』

【その間に、その人は何もしなかったと言えば、ウソになる】
【そのチャンスを探った……待ったの】
【資格・免許の事を知り、独学でそれを学んだ】
【元々、人並みに頭がいいから……。1人でもそれを学習して、学べるだけの基礎ができていたからね】
【そして、ある日――】
【仕事量だけかさましし、自分に責任を圧しつけるような、そんな話が、どこかで上がっていたそうよ】

『まるで悪循環じゃないか……!! 上はちゃんと機能しているのか!?』

【全然ダメダメだったそうよ……】
【上で、2階でゲームをして、遊び呆けている正社員の方々がいたからね……】
【反対に下の1階では、パート社員の方々が、キチンと働いていたのにね……】
【いったい何がどうなっているんだか……。フゥ……】
【その職場で、キチンとした指導方針もなく】
【入所初日から、ロクな説明もせず、こんな機械も取り扱えないのか!? とバカにする人もいたらしいから】
【だから、ふとした拍子に、労災事故が起きても仕方がなかったそうよ?】
【見て覚えろ……だからね】
【だから、あるピアノ好きの女の子が、ふとした拍子に、手をスライサーの中に入れて、指を切断した案件もあるぐらいだからね】
【誰かが電気配線の器具から、差込型電極プラグを引き抜いて】
【その娘をそこに誘導し、その子がその手を入れた瞬間を見計らって】
【それを指し直したのよ!】
【単純に、その娘が気に入らなかったから……!!】
【実際こうした問題は、以前から度々あって、それに安易に取り外せないようにするために、カバーコンセントを設けるか!?』
【彼女の近くにおいておけば、そうした問題は起こらず、事故は未然に防げていたそうだからね】
【また、そのスライサーの機械そのものに、容易に取り外しができる機構の網目状なものを仕込んでおけば、そうした労働安全過失傷害にはならずに済んだのよ?』
アユミ(あたし)は、その娘(こ)の事が気になって。
【……その娘(こ)は……!?】
【……】
【……】
首を振るうクリスティさんに。
ショックを隠せない感じのアユミちゃん。
【切断された指が、戻ることはなかったそうよ……】
【……ッ】
【大好きなピアノも引けなくなったからか、もうその娘(こ)は泣き悲しむだけ】
【しかも問題は、それだけで収まらず】
【彼女のお父さんの勤めている会社でも、何らかの騒ぎがあったそうだから?】
【多分、腕時計型携帯端末(フューチャーウォッチ)などで取り次いで回った、証拠を揉み消そうとする動き、どうしようもない問題かしら?】
【だから、会社側は、彼女の不注意という事で済ませ】
【今度はこっちから、会社の方へ謝りに行く形で、逆にお金を支払うことになったそうよ】
【マジッ!?】
【ええ……ヨーシキワーカさんも、その話を聞いたそうだから】
【その娘さんのご家族の方の帰り際、偶然にも立ち聞きしていて……ね】
【……】
とんでもない会社だった……。
それで問題で済ませようとしてくる。


★彡
【30年以上前、200年以上前からあったどうしようもない問題】
【――実は、こうした問題行為は、以前から仕組まれていたりするの!】
【?】
【それは機械や電気配線や、設備上の問題に留まらず、責任と負い目を感じるように、お金絡みに結びつけるもの】
【お金絡み?】
【ええ、それが『犯人当てゲーム』『どうしようもない問題』『とんでもない問題』等々言われているもので、
【これは、そうした問題に、責任と借金の話を、結び付けてくるの】
【えっ……!?】
【でも、ヨーシキワーカさんが助かったのは、あくまで不幸中の幸いで、どう考えても不条理だったからよ!】
【……だって! 明らかに雪だるま式に、借金がかさんでいったから……】
【その会社を辞めた年の時点では、1千万円(75757米ドル)で】
【その翌年の時点では、2000千万円(151515米ドル)から4000千万円(303030米ドル)】
【その翌々年の時点では、6000千万円(454545米ドル)から8000千万円(606061米ドル)で】
【3年目の時点では、1億以上(757576米ドル)と信じられないぐらいに、雪だるま式に借金がかさんでいったからね。
【だから、その負債金の中に、キッチリ利子が付いていたと捉えるべきね!】
【だから、当初はまったくわからず……変な話が結びついてきて、酷く困惑して】
【就職できなかった数年間よーく考えて、その名推理で、その場所と真犯人を突き止めていくことになるわ】


★彡
【届出……だが、少々疑問が残る問題の仕込み】
作業中のヨーシキワーカ。
その人に声を掛けてきたのは、上の部署にある総務課の男性だった。
その人の特徴は、ここにいる一般的な作業員たちの服装ではなく、
衛生管理区分に準拠したような白い服装だった。頭巾も被り、マスクもしていて、その顔立ちはよく顔は見えない。

『――ヨーシキワーカ君!』
『!』
『ちょっと手を止めてもらっていいかな?』
『……』
その人に声を掛けられた事で、俺は作業中の手を止めた。
『少し前に聞いた話だけど……。
ちょっと向こうの運転手さんが、少し前に、パン箱の中に領収書をちょっと置いて、
出かけ先のところの人に呼ばれたらしいから、その人と話している間に、忘れちゃったらしいんだよねぇ!
その後は、トラックの運転をしていて、気づいた頃には、もう遅かったらしい』
『……!?』
『困るんだよなぁ、キチンとこっちの方に届け出してくれないと……!』

【――実は、この頃から、ヨーシキワーカさんが『領収書』を届け出するようになって】
【以前の人達は、そもそもそんな事はしてなかったらしいわ】
【それは、先輩に当たる人たちに】
【労働基準監督署の職員さんや、警察官、探偵、弁護士の方々が、直接訪ねて回れば、真実味が明るみになると思うから】
【あたしとしても、なんだか怪しさを感じるしね……】
【……そんな事があったんだ……】
(御兄さん)
【ええ……】
心配するスバル君に。
その子の優しさを思いやるあたし。

『――もし、君のところで、こう紙みたいなもの……。
そう、領収書と書かれたものを見かけたら、総務課まで届けてくれないかな?
こっちも会計を預かる身として、それがないとどうしても困るんだよ!
会計の不備になるからね! 引いては会社の問題になるし……!
こっちでも会計の計算をして、上の方に申告する上で、どうしても必要なものなんだよね!』
『……わかった』
『じゃあ頼んだぞ! ……あっそうそう、この事は、他の人達にも伝えておくんだぞ! わかったな!?』
『はい』
『……よし、キチンと伝えたからな!』

【――ヨーシキワーカさんは、その後キチンと他の従業員の方にも、説明したそうよ】
【まぁ、ただ、届け出するという話だったみたいだけど……】
【簡単な事だったみたいだしね……】
【それは後からやってくる、パートの人達に対してもそうで、キチンとヨーシキワーカさん自身が、総務課まで届け出してたぐらいだからね!】
【へぇ~……】
【で、その頃から、頻繁に総務課の人達の所へ、届け出するようになっていくのよ?】
【『以前まではなかった』のにね!】
【そして、いくつもの伏線が、妙に重なって、ヨーシキワーカさんなりに、『真実の真相』に辿り着いていくの――】

『――……』
その人は、ヨーシキワーカさんの元から離れていく。
『……』
その時、ヨーシキワーカは、仕事に戻ろうとしていた。
その時だったんだ。その人が俺の元を離れた後、こう聴こえてきたのは。
『なるほど……こうやって、事前に問題を仕込むのか……。これはどう考えても中々気づかないな……。
あっちの方の会社でも、責任を負わせて、誰かをその安い給料で雇ったらしいからな……。
これはいい問題だ。こっちの方も少し給料アップするし。
……とこれは黙っていないといけないな』
『!?』

【――その人の特徴は!?】
その声は、エメラルティのものだったわ。
それに対して、クリスティ(あたし)はこう話すの。
【奇しくも、そのヨーシキワーカさんご本人に、その届け出をするように言ってきた『総務課の男性』の人よ!】
【ホントは、そのヨーシキワーカさんも、もう辞めた後の会社の事だから、言いたくはないそうなんだけどね……】
【確か、奥さんが、品質管理に務めてらっしゃる方で、その名前が、『オオ……』なんとか……?】
【!?】
これには驚き得るエメラルティにサファイアリー。
思わずサファイアリーさんが。
【大事じゃない!? 何で今まで黙っていたのよッ!?】
【……】
【こっちの方でも、そうした話題が上がっていて】
【『運転手さんがパン箱の中に、その領収書を捨てて、それを箱洗いの中にいる2人が、棄てた』……とする噂が立ってたのよッ!?】
【どうしてその人は、今まで黙っていたのよォ!?】
これにはサファイアリーさんも、怒りながら、苦悩し、言い悩んでしまう。
それに対して、あたしがこう答える。
【会社が潰れるから】
【ッ】
それだけだった。
だから、あたしは、こう語り継ぐの。
【実際こうした問題は、その総務課の人達だけに留まらず】
【その昔の会社に勤めてらっしゃる各課の正社員たちが、その問題のすばらしさを知り、昔の人から受け継がられているらしいから……】
【そうした出来事を問題事で済ませるために、各科に何かしらの形で、仕掛けていたのよ】
【で、何も知らないそのパートの人達は、やがてはその身を堕としていき、借金漬けになる訳】
【実際に、そうした被害者の方も、過去にいるかもしれない……!!】
【で代わりに、自分たちの懐に裏口入金を通して、ベースアップ賃金として上がり】
【各々の会社の方へ、電話などで取り次いでまわり、いい話にこぎつけて、役員会議を通して、その人が人事部で、役員昇格しているって訳!】
【取得免許なんかのし易さも、これに当たるわね!】
【……】
これを聞いた僕たち、あたし達は、その言葉を無くしてしまう。
そして、思わずエメラルティさんから、こんな呟きが漏れる。
【ホントに、『集団催眠』と『共犯意識』と『飴』だわ】
と。
次いでサファイアリーさんが。
【それって、どこかに間違った情報を教えた人が、いるって事よね?】
【ええ、それも力を持った人に誤って伝えて、バカとハサミだから……?!】
【【【【【!?】】】】】
一同、これには酷く困惑してしまい。
もはや、何らかの事件性を感じさせるものだった。
【恐い話ね……】
【うん……】
【……】
アヤネさんがそう呟き。アユミちゃんがそう問い返し、僕も考えさせられるほどだった。
そして、それは突然だった。
【――あっ! そう言えば……!?】
【!?】
【うんうん、あり得るかも……】
【そのヨーシキワーカさんを通しての話しぶりでは、運転手さんからちょっと妙な話を聞いていた事があったらしいんだけど……】

『――自分たちは、この工場から出荷したパンを、ス―パやデパートなどに届ける時』
『そこで領収書を切り、それをファイルケースに入れて』
『運転する際、隣の席に置いていたんだけど……』
『ここの上の人が、妙な事を突然言ってきて……』
『……』
『……あれはいったい何でだろうな……!? ……さっぱり意図がわからん』
『……』


☆彡
過去から現在に戻り。
スバル君が、クリスティさんにこう訪ねる。
「――そ、その人は?」
「ええ、偶然にも、そのトラックの運転手さんから、ちょっと奇妙な事を聞いていたからね」
「!」

【――それはもう当たりかもしれなかった……!】

そのクリスティさんの語り部は、こう続く。
「簡単に言うとね……。
事前に問題を仕込むことで、その人が退社した後、その人の責任にすることができるのよ?
あれは中々、気づきそうにないわよ……。
だって、一般的な見解で考えると、普通は、
運転手の方から総務課の人達の所へ、その領収書を届け出するというのが、一般的な法的手続きを踏むものだからね!
何であんなところに、それがあったのかしら……!?
以前は、そんなものはそもそもなかったのに……申告するタイミングも、妙におかしいしね……。
……これはあたしの想像に過ぎないけど……。
会計を預かる部署、営業部でも総務課でも言える事だけど、
会計上の不備があった場合、その人たちの責任問題になっていく……!!
そうなるのが嫌だからか、そうした責任問題を、どこかの科の方に回すことで、その責任逃れをしているわけよ!!
だけど、反対にその人達が、何も知らないから、追い立てられていく訳……!」
「……」
それが責任問題に繋がるという事だ。
僕たちは、あたし達は、それをクリスティさんから聞いていく。
「しかもよ! その会社側の一部の上の人達は、それを知っていて。
その人は、何も悪さをしていない事を知っていたのよ!
人の噂が立っていたのも、だいたいその時期ぐらい……!」
「……」
人の噂が立っていたらしい。
「だけどね……。
どんな会社にも、必ずと言っていいほど内部犯がいて、
その手柄を欲しいがために、責任と借金の話を結び付けて、間違った情報のやり取りで、
力のある人たちに、電話などで取り次いでまわったの。
それが協力者と呼ばれる人達で、仕掛け人・闇子・かけ子・呼子たちの人の噂が飛び交い、
その噂話に尾ひれはひれがついて、やがては歯止めが効かず、エスカレートしていったのよ!
だから、どうしようもない問題に見立て、問題で済ませる必要があった……!
警察沙汰になるのは、その人たちにとっても、良し、としないからね!
だから、どうしようもない問題に見立てて、その人の責任に何が何でもそう仕立て、借金を負わせて、
誤りにきたタイミングで、再雇用契約書を交わし、低賃金労働者兼多重債務者として、
会社側は、合理的にその人を雇う事ができるって訳!!
で、その内部犯の人達にも、裏口入金を通して、手柄を立てた事で、給与が上がるという寸法よ!
もちろん、各々の会社の人たちや協力してくれたその人たちにもね!
だから、これを、『集団催眠』『共犯意識』『飴』と説き、実は多くの人達が、騙されていたわけね……!」
あれは犯罪だわ」
「……」
「……あれはね。何も知らない一般人だったら、少なくとも、10年はかかるわね……。
100%中99.9%の確率で、絶対に負けるってことよ!!
今まで多くの人達が、それに気づかない事を、いい事にね……!】
「ッ」
「犯罪じゃない!!」
「そう犯罪なのよ……!!」
「……ッ」
お怒りの一同。
クリスティ(あたし)はみんなをなだめるように、どうどうと制すのだった。
「……」
「……」
みんなが静まったのを見計らって、なだめた上で、あたしの語り部はこう続く。
「――実は、そのどうしようもない問題を考えた人は、犯罪者で、訳ありだったらしいわよ。
で、雇っている会社の人から、尋ねられた、相談の受けた事がキッカケで、そーゆう悪知恵が働いたの。
どうしようもない問題とは、そもそも、何かしらの責任を負わせて、その借金を肩に、雇用契約書を交わし、
その人を低賃金で雇う事ができる悪どい手法よ!
昔の会社を出て行った人がいて、何かしらの得意分野があり、優秀そうな能力を持っていたから、
再雇用したいという、話が出た事がキッカケね!
その事は、当時の昔の会社から始まり、月日、年数を経るごとに、アメリカや、日本中に広く知れ渡っていくの。
それは、会社の上の人だけが知っている情報で。
下の人達は、何も知らない……。
その事をいい事に、その事がキッカケで、事前に問題を仕込んでいた……とするケースバイケースね!」
「悪じゃないの!!!」
「犯罪よ犯罪!!!」
エメラルティさんが、サファイアリーさんが、大激怒す。
だけど、至ってシャルロットさん辺りは落ち着きを払っていて。
「で?」
「! ……『会社が倒産する理由』って……知ってる!?」
「まだあるの!?」
「ウソ―!?」
これには、エメラルティさんも、サファイアリーさんも、ビックリだった。
シャルロットさんを推しても、嘆息す。
「……」
クリスティさんの話は、こう続く。
「――それが『謎会議』と呼ばれるもので、
その事を知った人達が、事前に各課で打ち合わせをして、問題を仕込んでいたとするケースバイケースね。
その事は、誰もが知らない事だから、気づきそうにないところだから、
100%中99.9%の確率で、そこを出て行った人達が、何かしらの責任を負わせられて、借金漬けになって、
最悪……死亡している事例があるの」
「……」
「……」
ショックを受けるエメラルティ(あたし)たち。
「下手に周りから騒ぎ過ぎたことが原因で、主犯格の人達ですら、そうした外部の人達の動きは、すべては把握し切れていないからね。
だから、責任逃れしてる訳!
死亡事故が起きても、そんな事はそもそもなかったとして、揉み消している人達がいる……!
ちなみに! 交通事故なら、先んじて、TV局に取り次いで回るなどして、賄賂を渡し、会社名を伏せるなどして、真偽を誤魔化している説!
それが誤った情報の取次ぎ! 『理想の虚実』になるわけ……!
で・も! 被害はそれだけに留まらず、
領収書などのお金絡みだから、『なんで我が社が倒産したのかわからない』そうよ……。
あのアウトレット店も、その典型的な例で、
悪意ある社員が、事前に仕掛けていた問題が、そもそも原因・発端で、
一度やってしまった以上、『1千万単位』ten million Units(テン ミリオン ユニット)、『億単位』Billion Unit(ビリオン ユニット)の借金漬けになった以上、
責任逃れをするように、知っていても見向きもせず、
いざ、バレたら……。気づかなかったといい、そんなところにあるとはそもそも知らなかったと言い繕うもの。
で会社側の体裁を取って、被害者側が悪い……ってするような流れになる訳。
人を見下し、下に下げるか、そもそもなかった話にするか……してね!
本人を一切介さずにね……」
「つまり……」
「そうよ……。会社側が悪いわけじゃなくて、ただの器だからね……。
問題は、その内部犯の犯行で、問題を仕掛けて、責任を負わせて、借金漬けにし、
その手柄で、自分たちが上の役職に取りつけるよう、取り継いで回り、給料アップしているというのが、『真実の真相』って訳!」
「ヨーシキワーカさんは、その事は……?」
「気づいたのは、あくまで後……! 『ド忘れしていたらしくて』、当時の記憶を振り返っていくと、そうでしかない、そうとしか考えられない……って事よ!?」
「言ったの? その事!?」
「大事じゃない!? 何で言わなかったのよ!!」

「『――会社が潰れるから』」!!」
それはヨーシキワーカさんの言葉を借りた、クリスティさんの言葉だった。
「!」「!」
サファイアリーがエメラルティが。
「『すべての問題は、当時のことが発端で、それがアメリカ全土の会社に伝わり、自分が昔務めていた会社まで、伝わってしまったから』
「……」「……」「……」
アンドロメダ王女様が、デネボラが、レグルスが。
「『アヤの友人も、そうした経緯がキッカケで、自分から命を堕としたらしい……。その詳細はわからないが、なんとなくそうとしか考えられない』」
「……!」「……」「……」
クコンが、インカローズが、スピネルが。
「『自分にできる事は何か……!? と考えた時、辿り着いた答えが抑止力だから、それを見聞きした誰かが、自分の死後、次の抑止力の担い手となってほしい』」
「……」「……」
ミノルさんが、アヤネさんが。
「『そうすれば、あなた達の子供世代、孫世代において、こんな不幸に目に会う人の数が、激減すると思うから』」
「……」
シャルロットさんが。
「『だから、後は、これを見てくれた誰かに、その判断を委ねる。……自分1人にできることは、たかだか知れてるから……!』
アユミちゃんが。
そして――
「――それがヨーシキワーカさんなりの苦言であり、自分の死後にも活きる遺言でもあるのよ? ……だから、あたし達に託したって訳!」
「……」
スバルが、それを聞き届ける。


☆彡
「………………」
場には沈黙が流れて、そして――
「――なるほどね……」
「抑止力か……」
うん、うん
とこれにはサファイアリーさんも、エメラルティさんも、思わず納得の理解を得られるのだった。
「でもさ!」
「!」
その声は、アユミちゃんからのものだったわ。
「その領収書1つで、そんなに大事になるの!? いくらなんでも倒産はしないかと……?」
「いいえ」
「!?」
「!?」
振り向くあたし達。
その声の主は、恵アヤネさんからのモノだったわ。
元ホテル経営者の妻であるその人が、こう告げるの。
「実は、その領収書の紛失が原因で、『税務調査のメス』が入り、払いきれないなら、罰則が付くの」
「罰則……」
「ええ」
「簡単に言うとね……。その罰則を受けてもいいなら、会社側は、10年間に5回は潰れては、立て直しをしてもいい……という話よ」
「2年に1回作り直すの!?」
これにはアユミちゃんもビックリだ。
そんな事で、倒産まで追い込まれるだなんて。
そんなの誰に聞いても、知らないし、また教えてくれない……ッッ。
「ええ、そんな例もあるという話……! 現実的にそんな事になったら、雪だるま式に借金がかさんで、倒産を余儀なくされるわね……!」
「……」
ポカ~ン……
これにはアユミちゃんを推しても、鳩が豆鉄砲を食ったような面持ちだった。
思わず、「マジ……?!」そんな呟きが漏れるほどだった……。

う~ん……
――だが、そんな時、サファイアリーさんから疑問符が上がっていた。
「どうしたの? サファイアリー?」
「いやね……あたしが見聞きした情報に、誤りがあるんじゃないかと」
「……どんな?」
「『運転手の方がパン箱の中に、その領収書を入れて、それが、箱洗いにいた2人が棄てた』という……人の噂なんだけど……」
「あぁ……そんな風に伝わっていたのね……? 伝言ゲームと時間の経過を追うごとに……」
「ええ……えっ!?」
「困ったものね……フゥ……」
これにはあたしとしても呆れちゃう。
「さっきも話した通り、
大衆の一般見解から見れば、その2人が棄てた事は事実でも、有罪か無罪かで問われれば、無罪よ!」
「む……無罪!?」
「ええ……。だって、一般的な多くの企業は、その運転手の方から、その営業部の方へ届け出するのが『お決まり』だから……!
法的に見ても、そう、順守して当たり前!
そこに変に噛ませてくるのが、問題の仕込み……という訳!
いったい誰の仕込み……なのかしらね? クスッ」
乙女的な仕草を取り、笑うあたし。
「……」
これには僕たち、あたし達、そんな事があったらと思うと、戦々恐々す。
自分たちで立ち上げた会社、企業が、たったそんな紙切れ1つで、倒産され兼ねないからだ……ッ。
働く人たちの常識範囲に、押し上げたい……ッ
まぁ、そんな事は法的措置を見る限り、不必要措置に成り兼ねないけど……ね。
「その会社の働いているところに、キチンとした責任者・正社員の方を置いていない事が、最大の不備で!
常に動きぱなしの職場環境だからか。
部下を育てるような、後進の育成をするような、説明もしていない。
上の方から、定期的な説明会がないから、そうした不始末に辿るとなった……と見ていい。
以上のことを踏まえて、その2人は無罪!!
お金を支払え……という周りからの声が上がるでしょうが、
民事裁判の場で、最高裁までまでもつれ込めば、その審議上、どう考えても、支払い義務が生じないって訳!!
誰かが、これを見聞きして、これ以上の被害拡大を防ぎたい……というのがヨーシキワーカさんなりの苦言だしね……!
法的措置、その順守を、手続きをキチンと取れ!! って話よ」
「法律家? その人?」
「いえね……その当時は、無職だったらしいわよ?」
「頭良くない? さすがに……」
ハハハッ……
これにはさすがに、クリスティさんを推しても、苦笑いだ。


★彡
【――だから、以前までは、その運転手さんは、隣の席にファイルケースを置いていたぐらい】
【その中に、領収書を入れてね】
【だから、ヨーシキワーカさんが、犯人だとする問題がスッキリしたところで、話に戻りましょうか?】

『無能な奴等め、冗談じゃない……!!』
(まだ自分の可能性を試していない!! 成果も出していない!! ……こんな会社辞めてやる……!!)

【――また、その年、時季的なものが特に悪く……、誰もが、そのヨーシキワーカさんに寄る辺を頼ろうとしていたの……】
【熟練者(ベテラン)だから……】
【にも関わらず、自己の判断で、最悪の事態を回避するために、あの会社を辞めた】
【それは悪循環を、他の科の人達(自分たち)の目で、よく見ろ……というお察しだったから】
【そして、逃げるように辞めていったの……】
【逃げたんだ……】
【ええ……】
【……その人、1人だけ……?】
【! ……何が?】
【そこにはパートだけ?】
【そうよ……】
【その年、その科から辞めたのは、ヨーシキワーカさんただ1人だけ】
【その科に残った人達は、全員パートで】
【会社側は、労働基準法を順守していないからね……】
【どんなところにも、責任を負える立場の人を置くのが筋でしょ? それが正社員制度……!】
【……】
【……まさか!?】
【ええ、そうよ……! 元々、人事左遷降格処分を受けた人が、堕ちていくところが、そのヨーシキワーカさんがいたところの科だからね!】
【だから、以前までの給料と比べて、雀の涙ほどに落ち込み、かつ肉体労働だからか】
【精神的にも肉体的にもきつくなり、やがては、やっていられないから】
【人が辞めていくところを、会社側は作ってしまったの……】
【そして暗の情、人が辞めていく流れになってしまう……】
【当然、不自然なほど、人が辞めていくから、ついに会社は、首が回らなくなったそうよ!?】
【しかも、1年間に5人も人が辞めた年もあったり】
【入社初日1日目でたった1時間だけ働いて、ロッカーの中に作業着を置いて帰っていった人もいるぐらいだからね】
【……それは火を見るよりも明らかだったでしょうね……】
【完全にそれは……その会社側の落ち度って訳……】
【……】


★彡
【『電気保安管理事務所』Electrical Safety Management Office(エレクトリカル セーフティー マネジメント オフィス)】
ヨーシキワーカさんは、フルスさんの事務所を出ていた。
ミシマさんは、ご自身の社用車に乗り込み、その窓から顔を出し、こう告げる。
『――まさか、お前がこんな事をするなんてな……! 後で覚えてろよ!?』
『……』
そうして、その人は、その場を後にしたのだった……――


TO BE CONTINUD……

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