52 料亭でのひと時
「は〜い!お待たせ〜!召し上がれ〜!」
亭主と料理人達が、大皿を持ってマナト達のテーブルにやって来た。
湯気が立つスープ、色鮮やかな野菜と肉の炒め物、コクのあるタレがかかった魚の蒸し焼き、ツヤツヤの炒めご飯等、様々な料理がテーブルに並ぶ。
「おっほほ〜!もう、うまい!」
「いやまだ食べてないでしょ!」
ウテナがラクトがはしゃいでいる。
「いただきま〜す!」
皆、食べ始めた。
「ん〜!おいしい!」
「肉、味染みてる〜」
「ん〜?」
皆おいしく食べていると、ラクトが大皿に盛られている肉野菜の炒め物を取って、首をかしげていた。
「これ、何の肉だろう?食べたことねえな」
「あっ、その肉はね……」
嬉しそうに眺めていた亭主が気づいて、ラクトに言った。
「その肉は最近、料理に使うようになった、この王国の外の秘境に住む、カメの肉なんだけどね。クルール地方ではあまり習慣がないんだけど、私のいた国ではカメを食べる習慣があってね。試しに出してみたところ、意外と評判がよくてねぇ」
「へぇ〜。カメなんだ」
そう言い、ウテナが肉を口に運ぶ。
「ただ、この食用のカメはアクス王国からちょっと離れた秘境にいてね。そこに行くのが大変で、その上なかなかそのカメが希少なので、全然手に入らなくて、困ってるんですよ〜」
「珍しいもの、食べさせてもらってるんだ」
「そう!今日は特別だよぉ〜!」
その後、ご機嫌な亭主は厨房へと戻りつつ、他の客の注文に答えていた。
「マナトさん、落ち着きました?」
スープをすするマナトに、ルナが言った。
「あっ、その、はい。なんか、すみません、取り乱しちゃって」
「いえいえ。みんな、そんなに気にしてませんから」
「……ちょっと、トイレ」
食事中だったが、マナトはトイレを探しに、席を立った。
……人前で、泣いちゃった。
間違いなく、これまでの人生の中で、一番幸せな瞬間だったが、さすがにちょっと、マナトは恥ずかしかった。
……トイレ、どこだろ?
料亭内は満席になっていて、わいわいと賑やかだったが、それぞれ仕切りがあって、ちょっと他の人に聞ける雰囲気でなく、マナトはウロウロしたが、それっぽいところは見当たらなかった。
……ちょっと、亭主に聞いてみようかな。
厨房のほうを、少し、覗き込んだ。
――トントントントン。
見ると、亭主も調理に加わっていて、ニコニコ笑顔で、手際よく包丁で野菜を切っていた。
「亭主〜!もう、カメの肉、今日分、なくなりました〜!」
「しょうがないね〜!今日はなくなったって、お客に言ってくれる〜?」
「分かりました〜!……んっ、どうしました?」
料理人の一人が厨房から出てきて、マナトに気づいて声をかけた。
「あっ、すみません。トイレを探してまして」
「あ〜、外なんだよね。扉出てすぐ右側にあるよ」
マナトは扉のほうへと向かった。