第七話 村と家族と少年。
その後、焼きそばクリームパンを頬張りながらテニオスに帰還した俺と勇者パーティーご一行。
帰還直後、一悶着あり数日滞在することになったが、俺は無事……
——ルディ・ド・オル——
Lv. ----
種族 人間
クラス 管理者
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HP ----/----
MP ----/----
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筋力 2123 精神 ----- 魅力 5520
敏捷 ----- 要領 2635 幸運 -----
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スキルポイント ----
ユニークスキル 管理する者 創る者 操る者 ----
スキル 剣術Lv.-- 武術Lv.-- 体術LV.-- ----
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称号 "勇者を導いた者" 魔王を屠し者 理から外れた者 ----
『勇者を導いた者』として『勇者の案内人』という役割から解放された。
俺の考えは正しかった。
遂に俺は——『自由』——を手に入れた……
そして時は戻り——現在。
ルリス宅での夕飯を終え、12年ぶりとなる自宅へと帰ってきた……
懐かしく思える木の匂い、埃被った家具達…と思ったが、案外綺麗である。
この一部屋と寝室で俺たち三家族は暮らしていた。
「さすがに、今日は疲れた……」
身体が疲れたわけじゃない。
数々の環境の変化。
認識と記憶の境目が混合しそうになる……
——改めて考える。
「……本当の俺は…」
どっちなんだろう——
認識の中に生きる10歳の少年……ルディ。
それとも、12年の記憶を持つ……俺。
ルディは少し埃臭いベッドの上で天井を見上げながら考える。
「なぁ、あんた達はどう思う?」
そう呟き、棚の上に飾られる両親の形見を見つめる……
——母親は父親にもらった髪飾りを大切にしていた。
——父親は母親からもらった小剣を大切にしていた。
——少年のルディが大切にしていたのは。
「この首飾りか……」
そう言ってルディは服の内に隠れた首飾りを触り想いに耽る。
俺は今後——どっちの"ルディ"として。
生きていけばいいのだろうか……
「まずは、この村のことを知らないとな……」
■■■
朝。目が覚めると。
「おはよ!!ルディ!!」
少女が目の前に……なぜ馬乗り?
目が覚めたと言うより、起こされたが正解だな……
「お、おはよう…ルリス」
馬乗りになったルリスは挨拶を返す俺の身体に倒れ込み、気持ち良さそうに目を細めている。
「ふにぃあ……」
猫か?
「……寝足りないのか?それならベッド貸してやるから俺から降り——」
「——ここがいいのっ」
そう言ってルリスはルディの起きあがろうとする身体を制止する。
寝心地悪くないのか?
そんな事を思う俺を置いて、ルリスは続ける。
「……むかし、よくこうして一緒に寝たでしょ?」
あ〜そんな認識が有ったような、無かったような……って、昔から俺は下敷きなのか?
「そうだね。でも、そろそろ顔を洗い——」
「——ダメっ……」
食い気味に『ダメ』と言われましても。
「…半年……」
「ん?」
ルリスが小さな声で呟いた。
そして、ルディはその声を聞き返す。
「……半年…すっごく。心配だったんだからね……?」
「………」
ルディの胸に顔を|埋(うず)める少女の瞳には、わずかな光の糸が見えたように思えた。
「じゃあ、あと少し……」
そう言ったルディは、彼女の頭を静かに撫でて目を閉じる。
■■■
「で、二人とも二度寝したのか?」
俺達を問い詰めるはルリスの母、アリシアさん。
「まったく、手伝いを呼んで来ると言って一時間。ナニを
「はぁ…だから。『ナニ』も致してませんって…アリシアさん」
幼い娘の前で何ちゅうこと言うかね。
アンタの方が『けしからん』よ……
「なんだ、その力のないツッコミは!!」
「寝起きでそのテンションはついてけねぇっす」
「大丈夫だ!!私は寝起きからこのテンションだ!!だっはっはっは!!」
俺は隣に座るルリスの目を見て伝える。
「大変だな……お前の母上」
「…ごめんね……」
返ってきたのは切実な謝罪だった…
■■■
「そういえば、手伝いってなにをすれば良いんですか?」
一旦落ち着きを取り戻したアリシアさんに改めて要件を聞き出す。
「いやなぁ、先日魔王が討伐されたと伝令があっただろ?」
「はい。六日ほど前に」
俺がキオナさん達と出会った日だ。
「その件で昨日の朝までこの村には王国の騎士様達がいたんだがな?」
討伐された伝令と同時に騎士団が動いたのか?
……遅くないか?
まぁ、軍と騎士団の働きは別か。
「その時に来た騎士団の奴らがたらふく食って行きやがってよ」
なるほど…村の食料備蓄が怪しいのか。
なら、狩りの協力に。
「まぁ私が村長権限で宴を開いたんだけどな!?だっはっは!!」
「……アンタのせいかよ」
そうして俺は村の男たち数人と共に狩りに向かうのだった。
■■■
「いやぁ、ルディ!!あの戦禍の中よく祠を護り抜いたな!!本当に立派だ!!」
俺の功績を讃え、その場をともにしたかのような口調で話す男。
この人はゼペさん、オル村で狩人をやっている。
確か俺の父親とは仲が良かったな。
「あの世でお前の親父も喜んでるにちげぇねぇ!!」
「はは。そうですね、ありがとうございます」
「さぁ、今日からお前も親父と代変わりだ!!期待してるぞ!?」
ゼペさん、その発言。
結構、配慮がないと言うか、気遣いに欠けると言うか……父親を亡くした10歳の少年に掛ける言葉かね。
俺の背中をバンバンと叩く外道……これは鼓舞してるつもりだろうか。
力強すぎて、普通の10歳児なら泣いてるぞ?
——この人は極力、ルリスに近づけてないようにしよう。
■■■
その後、十人ほどいる猟夫達は二人一組になり狩りを行う事に決まった。
俺は狩りが初めてということで(もちろん、初めてではないが)……ベテランのゼペさんと共に行動することが決定した。
露骨に嫌な顔をするルディにゼペは親指をピンと立て目配せを交わす。
『俺に任しとけ』的な?
人が良いのか、悪いのか分からない……
まぁ笑顔が素敵な分、憎めないこともない。
「オル村付近の森はウサギをはじめとする小動物から、農作物を食い荒らす鹿、猪なんかの大型害獣がいる。そんな中、今回俺たちが狙うのは『アントラーラビット』って魔獣だ。コイツらの方が|歩留(ぶど)まりと味が良い」
確か、五十センチくらいの体長に三十センチくらいの一角を持ったウサギだっけか。
「奴らの性格は獰猛で。他の生物を見つけ次第、猛突進。油断してっと、体に風穴を開けられるぞ?」
凄む表情でゼペはルディへと迫る。
なに、子どもに脅しかけてんだよ。
表面上、初狩猟だぞ?もっと気楽にやらせてやれよ。
「まぁ、俺は
そう言って俺の肩に腕を回して身体を揺らす。
「暑苦しい……」
ゼペの能天気さにルディは静かにぼやくのであった。
「よし……アレがアンラビだ」
何だその略称は。
木々の影より獲物を見つめる俺たち。
アントラーラビットは地面に転がる風穴付きの野うさぎを頬張っている。
「ルディが正面で注意を引きつける、その間に俺がヤツの側面から斬りかかる…いけるか?」
「はい」
ウサギは蛇行するように前方に移動する。
よって、背後から仕留めるよりも側面から追う方が狩りの方法としては有効である。
「じゃ、行くぞ!」
ゼペさんの合図で二手に分かれる。
俺はアンラビの前方へゼペさんはアンラビの側面茂みへ。
ゼペさんの合図、口笛が鳴る…
と同時に俺は茂みより現れ、注意を引くために"小石"をアントラーラビット目掛けて"全力投石"する……
「……あ。」
そう呟いた頃には時すでに遅し。
小石は風を切り、周囲の土、草を激しく踊らせ進んでいく。
獲物との距離20メートル、
それが、アントラーラビットの頭部へと命中する……
ゼペは何が起きたのか理解できずにただ唖然とする。
少年と二手になり合図を送った。
すると、ルディが茂みより現れた。
その瞬間『ヒュッ』という風切り音がなり…
——目の前のアントラーラビットの頭部が弾け飛んだ。
「まぁ、締める手間が省けたな」
ルディは前向きに捉えるのであった。
その後も続々とアントラーラビットを見つけるが、何故か俺と視線が合うと彼らは逃げ出してしまう。
「しっかし、今日出会う奴らは
投石はダメだと判断した俺は、何処からともなく出現させた弓で逃げるアンラビを仕留めていた。
能天気なおっさんにはどうやら"
「でも、矢でヤっちまうと血が回って味が落ちるんだよな」
そんな訳で、俺とゼペさんは囮役を交代することにしました。
「さぁ!こい!」
そんな合図でゼペさんは茂みから飛び出す。
俺は獲物の注意がゼペさんに向いたことを確認して、茂みから並走を開始する。
アントラーラビットは移動の際に蛇行する。
つまり並走していれば自ずと距離が近くなるタイミングがある。
その瞬間にこちらからも距離を詰めれば……
「ルディの奴、いい動きだなぁ……」
茂みから突然現れた一刀で楽に仕留められると言う訳である。
「ゼペさん、内臓抜きと皮引きは僕がやっときますんで次の
「おー任せとけ……って下処理のやり方教えたか……まぁ、いいか!!自分で成長できるってのは偉いもんだぜ!!だははは!!」
俺の下処理が終わるとゼペさんが村から預かった"
「こっちの方に魔獣の反応があったぞ!!」
そう言ってゼペさんは森の奥へと進む。
確かこっちって……
「ゼペさん、こっちの方は魔王領に近いから。魔獣の種類が変わってくるよ?」
「ああ?そうなのか?」
「狩猟前の会議でも村長が『あまり近づくな』って言ってたし。引き返した方が……」
それに、この二つの生体反応。
「でも、もう少しで魔獣が見えてくるぞ——」
ゼペさん、
「んーでも——」
俺が忠告をしようと、ゼペさんに言い聞かせるが、聞く耳持たず。
足取りを重くする俺を置いてどんどんと進んでいく。
「見ろ!あそこに……」
木々をくぐり俺たちが目にするのは。
「お、おい……マジか」
アントラーラビットに齧り付く——
"アンダーベア"の姿が。
「……やべーな。ルディ静かに下がれ」
なるほど。
アントラーラビットが仕留められる前に
アンダーベアは魔獣とは違い、歴とした魔物で。
ある程度の知能を持ち合わせており。
群れをなし、作為的に人里を襲うこともあるという。
「あ」
「…どうした?ルディ」
「あそこ。人がいる……」
俺はアンダーベアに影にぐったりとしている男性を指差す。
「なっ!?ありゃ、ホーンじゃねぇか……くそっ獲物に夢中になってアイツに殺られたのか——」
「——いや、生体反応は二つ……あの人まだ生きてるよ」
「なにっ!?だが、俺一人でアンダーベアには」
唇を噛み、悔しそうに拳を握るゼペ。
彼の心には一人の犠牲か、二人の無謀が天秤にかかる。
「……よし。ルディ、お前は村に帰ってこの事をみんなに知らせろ」
「ん?ゼペさんは?」
「俺はどうにかアンダーベアを引きつけてこの場から遠ざける」
無謀である。
アンダーベアの速度とただの狩人の足の速度。
比べるまでもなく圧倒される。
更に奴らの嗅覚や聴覚などの五感は人間の感覚を遥かに凌駕している。
「キツくない?」
少年は澄ました顔で大人に問う。
その問いにゼペは答える。
「キツイな」
そして、笑顔のゼペはこう続ける。
「でも——"家族の命"は何よりも重いんだぜ?」
暑苦しいな。
「じゃ、頼んだ!!キェエエエエヤァア!!」
そう言い放ったゼペさんは奇声を上げて。
俺から奪った弓をアンダーベアの顔に目掛けて放つ——
仕方ないか……
「——よい…しょっと」
背後から聞こえた少年の小さな声と共に、ゼペの放った矢は
——その瞬間。
アンダーベアの頭部が無くなった——
「あ、目玉…案外|美味《うま》いのに……」