第二十五話 報告(6)
「茜。いろいろ聞いたが、そろそろ、この部屋の説明をお願いできるか?」
解っています。
そんなに睨まないで欲しいです。
あぁ・・・。
”ユグド。クシナとスサノを連れて部屋に来て、すぐに終わるから、15分くらい時間を頂戴”
”うん。わかった!”
「少しだけ待ってください。あっ」
ユグドがドアを開けて部屋に入ってきました。
「ユグド。本体を、見せて大丈夫?」
「うん。平気!もう、僕が本体の役割を持っているよ?」
それなら良かった。
かき分けたら、女の子が寝ていたらショックだ。
「先に、クシナとスサノの説明をしますね」
クシナとスサノが、テーブルの上に降り立つ。
主殿から聞いた話を、説明として皆に伝える。
「そうなると、この二匹も茜嬢の眷属なのか?」
「そうなります」
「そうか、これが言っていた可能性か・・・」
孔明さんは、真子さんにスキルを取らせる方法が解ったようです。
主殿が仲介をしてくれたので、名前を考えて、名前を付けることで、眷属になったのですが、最初から絆が存在していれば、簡単なはずです。ペットが魔物になってくれたら、スキルの共有が出来ます。
でも、主殿の様子からもっと違う方法を考えているようです。
「それで、茜。この二体は何ができる?」
「うーん。難しいです。いろいろ出来ますよ」
持っているスキルは秘密です。
言葉を濁したので、円香さんに睨まれます。
「そうか・・・。まぁいい。それで?そちらのお嬢さんは?」
「ユグドです」
「それは、話から解っている」
それは、そうですよね。
睨まないで欲しい。蒼さんは何故か楽しそうにしています。不思議です。
「まず、ユグドは、聖樹と言われる木の魔物です。エントの上位種の変異種らしいです」
「は?」
「部屋の環境を整えているのがユグドです」
「何を・・・?」
「椅子やテーブルも、ユグドの一部です。それで、私の眷属です」
ユグドが、私の横に来て頭を下げる。
「可愛いでしょ?本体は、そこのプランターに横になっている”聖樹の一部”です」
「違うよ。お姉ちゃん。僕は、僕で、全部が僕だよ」
「そうだったね」
ユグドが可愛く怒って訂正します。
可愛いので、頭を撫でます。ユグドが、嬉しそうにします。
「茜嬢。この部屋には、空調があるのか?それと、明りはどうしている?」
「この部屋は、ユグドが調整して、眷属たちが住みやすい状態にしています。そうだ、千明。スマホを持ってきているよね?」
「うん」
千明がスマホを取り出します。
「ユグド。遮断はできる?」
「うん!実行するね」
「え?」
「どうした?」
「スマホの電波が切れた。どうして?なんで?」
「ユグドの能力です。最初は、外からの電波や音を遮断して、内側の音が外に漏れないようにしていました。円香さんが聞いてきた、廊下の音が聞こえない理由です」
「電波も・・・」
「はい。盗聴も不可能です。あと、電子機器を持ち込めば、ユグドがわかります」
「うん!わかるよ!」
ユグドが可愛く胸を張ります。
「茜。ユグド殿は拡張が可能なのか?具体的には、この建物とか・・・」
「どう?」
「できるよ。でも、建物を
「そうか・・・。見た目の問題があるのか・・・」
円香さんは、葛藤していますが、辞めましょう。
それなら、主殿にお願いして、聖樹を株分けしてもらった方がいいと思います。
「ねぇユグド。株分けをしたら、新しいユグドが産まれるの?」
「ううん。僕だよ」
「え?でも、主殿からは株分けだよね?」
「ううん。違うよ?」
何か、違う方法があるようです。
聞いても解らないので、無視します。
私が貰ったアイテムボックスには、まだ魔石が残っています。
「ユグドが株分けして、もう一か所に同じようにしたら、その部屋だけ、ユグドが覆る?」
「部屋だけなら、僕の分体を作るよ?維持には魔石が必要になるよ」
「魔石は、極小?小?」
「うーん。この部屋と同じくらいだと、小だと300日くらい?お姉ちゃんが貰って来た魔石なら、もっと持つかな?」
その位なら、分体の方がいいかな?
「円香さん。分体に、ギルドを覆ってもらう感じでいいですか?」
「頼む」
ギルドの内装変更は、私と円香さんが担当することになりました。
あとで、ユグドを連れて、ギルドに行きます。
面白くなってきました。
絶対に、この情報は外に漏らせません。
ユグドとクシナとスサノが、部屋から出ます。
あと二つ。
「あっ聖樹から、ポーションが作れます。まだ検証をしていませんし、人にも試していないので、効果は不明です。落ち着いたら、ユグドと一緒に作ってみます。あっ主殿は作って、眷属に使ってみたそうです。欠損が治った程度には効くようです。過去の傷にも効くようですが、検証が出来ていないので、解らないようです。主殿がいうには、定着してしまった怪我には効かないようです。ここでいう定着が元動物だと、足を切られても、足があると思い込んでいるので、定着していないと言っています。定着は、1-2年だと思っていいようです。あと、病気に効くポーションや、毒を消し去るポーションもあるようですが、効果は不明だと言っています」
ふぅ・・・。
言い切った。読み切ったが正しい。主殿から渡されたメモに書かれていた内容を、私がまとめた物です。
もちろん、世の中に出せない物です。ノートに書いただけです。
さて、あと一つです。
やっと報告の終わりが見えてきました。
「さて、最後は、報告した私を殴りたくなる報告です」
「まて、まて、茜。ポーションだと?どういうことだ?」
蒼さんが慌てて先に進もうとする私を止めます。
「言葉通りです。元魔物の動物には効くようですが人間には効果は不明です」
円香さんが、蒼さんを座らせます。
ポーションの存在は前から言われていました。作る方法が見つかるかもしれない状況ですので、蒼さんの反応は正しいです。
でも、私もこれ以上は解らないので、無理なのです。説明を行うのがそもそも無理なのです。何も解っていません。可能性の話で、欠陥が治るかもしれない。病気が治るかもしれない。毒が治るかもしれない。”かもしれない”のオンパレードなのです。
蒼さんも、私の言った意味が解ってくれたのでしょう。
椅子に座りなおしました。そして、ポーションを作る時には協力すると言ってくれました。
「それじゃ、最後の報告を」「茜。私も聞かなきゃダメ?」
「ダメ。それに、これは、本当に聞いておいた方がいいと思うよ。誰かが何かをしなければならないような報告ではないから安心して」
「え?どういうこと?」
「うーん。簡単に言えば、”私たちには何も出来ない”。だから、皆に聞いて欲しい」
皆が黙ってしまいます。
今までの報告は、誰かが何かをする必要があった内容です。ギルドとしては情報共有を行った上で、アクションが必要になる報告です。
「主殿の所について、私が見たままを報告します。紙には残していません。私の記憶です。夢だったり、間違いだったり、勘違いだったり、その方が嬉しいのですが・・・」
主殿の所で、紹介された眷属たち。主殿は、嬉しそうに”家族”と呼んでいました。
紹介された順に・・・。記憶を辿りながら、名前を挙げます。
「そして、キメラ・スライムのライ。総数は解りません。見たところ、鳥類だけで200羽。外に出ているとも言っていたので、倍はいると思います。魚類は、家の敷地内に流れている川にもいると言っていたので、総数は不明です。最低で500くらいでしょうか?ギブソンやノックやラスカルやパロットは一体ですがそれ以外は、無数に存在していました」
「茜」
「もちろん、全員がスキルを持っています。慰めにもなりませんが、全個体が魔力の操作ができるので、魔力を糸状にして放出するのは当たり前のようにできます。もっと使い勝手がいいスキルがあるので使わないと教えられました」
「茜嬢?」
「あぁ聖樹を忘れていました。ユグドは、種族としては、ドリュアスです。頭に、キメラが付くので、正確には、キメラ・ハイ・ドリュアスです。持っているスキルは秘密です。あと、名前は教えてもらえませんでしたが、主殿の家の周りに生えている木はエントになっているそうです。果樹園の管理は、ドリュアスとエントが行っているそうです」
円香さんが、私からの報告を手で遮って、蒼さんに話しかけます。
「蒼。スキル持ちの魔物と対峙したことは?」
「ある」
「どうなった?」
「3小隊で当たったが、二人の犠牲と、装備の殆どを消耗して倒せた」
「茜。何か、いう事は?」
「おつかれさまです?」
「違うだろう!さすがに、オークやオーガのスキル持ちと比較したらダメだろうけど、なんだ、その戦力は!」
「あっ。円香さん。まだ報告は終わっていません。これは、主殿の家族の紹介です」