隠しエピソード バッドエンドは終わらない
サクヤの愛剣ことエクスカリバーを片手に、オレは足早に掲示板を目指す。
まだいるようにと願いながら向かった結果、女はまだそこにいた。五歳くらいのガキと、祖父母らしきジジイとババアを連れた女。あの女で間違いないだろう。
エクスカリバーが軋む程に強く握り締め、オレは女に近付く。アミたんを侮辱するヤツは許さない。命を持って償うべきだ。
さっき、同じようにエクスカリバーを持つオタクがいた。ただオレと違うのは、その隣に可愛い女の子がいた事だ。何とも羨ましい。
嫉妬の目で彼を睨んでいたら、二人の会話が聞こえて来たんだ。そこで、オレは我が耳を疑った。
不機嫌そうに詰め寄る彼女にオタクが吐いた話では、どうやら子供と祖父母を連れた母親らしき女が、メモリーオブラビリンスの舞台をバカにしていたらしい。酷い話ではあるが、そこまではオレも我慢が出来た。
問題は、その後だ。
『アミたんの事もめっちゃバカにしていたんだよ。ブスだとか、演技だって素人並だとか。何も見てねぇくせによくそんな事が言えるよな。こんなのにお金払う人の気が知れないわ(爆)だってさ』
オタクからその話を聞いた瞬間、オレの中でプツリと何かが切れる音がした。
アミたんは、メモリーオブラビリンスの舞台で、ヒロインを演じる舞台女優だ。彼女がネットアイドルをやっていた頃から、オレは彼女の事を知っている。
確かに彼女は可愛い方ではないかもしれない。けど、彼女はいつも笑顔で、絶対に弱音を吐かない子だ。それは、ネットアイドルの頃から変わらない。
そしてネットアイドルを得て、芸能事務所に入った彼女は、沢山の経験を積んでから、ようやくこの大舞台のヒロイン役に抜擢された。大好きな作品に携われる事がすごく嬉しいと喜び、観に来た人をガッカリさせないようにと、一生懸命稽古に励んでいた事もオレは知っている。
それなのにアミたんのアの字も知らないヤツが、彼女の事をとやかく言う筋合いなどあるわけがない。一体何様のつもりなんだ? 許さない。オレがぶっ壊してやる!
(殺す……殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺……)
殺す事しか頭になかったオレは、その場を立ち去ろうとしていた女の頭蓋骨を一撃で砕く。
大きく飛び散る赤黒い血液。
それはオレ自身と、女の向こうにあった大きなポスターを真っ黒に染めた。