28 サライにて/ケント
ふとマナトは、回廊《かいろう》を一周、ぐるっと見回した。
中庭と回廊内部をつなぐ、アーチ状のエントランスが等間隔で設けられてはいるが、外の砂漠とは繋がっておらず、外の砂漠へと続く大きな門は、一カ所しかなかった。
……なるほど、外敵から身を守り、部外者は内部に入れないような構造になっているようだ。
確かに、砂漠をずっと歩いてきたときと、安心感がまるで違う。
建物って、偉大だと、初めてマナトは思った。
門から、ミトが入ってくるのが見えた。木製のバスケットのようなカゴを持っている。
どうやら、サライの外側にいたみたいだ。
「あっ!おいミト!お前サボってんじゃねえよ!」
ミトに気づいたラクトが怒鳴った。
「フフっ、違うよ、ラクト」
ミトは持っていたカゴの中身を見せた。アロエのような、葉にトゲがあって、中は多肉な植物を摘み取っていたようだ。
「これ、薬草。サライの裏側はそこそこに草が生えていて、ケント隊長が、僕に摘み取ってくるように言ってたんだ」
「あっ、そうだったのか。ごめん、ごめん」
ラクトはペコペコと謝った。
自分に非があると分かると、すぐに謝る。ラクトの特徴だ。とても正直で、まっすぐな性格をしている。マナトは嫌いじゃなかった。
あらかた、サライで宿泊するための準備は終えた。
「じゃあ、僕、ケント隊長に報告しておくよ」
マナトは2人に言った。
「オッケー!よろしくな、マナト。ミト!ちょっと、回廊探検しようぜ!回廊探検!」
「うん!いいよ!」
ミトとラクトは、キャッキャはしゃぎながら、回廊内部へと姿を消していった。まるで遠足に来ているかのようだ。
……マジですか、元気あるなぁ、2人とも。
マナトは、とてもじゃないが、これ以上激しく動く気にはなれなかった。やはり、村で少し訓練を受けたといっても、体力自体はまだまだだなと、しみじみ思った。
ケントは、中庭の隅のほうに設けられているテーブルで、他のキャラバン達に混じって会話していた。
「……いや、今は、その最短のキャラバンルートはダメだ」
テーブルを挟んでケントの向かいに座っていた、他の商隊の隊長と思われる男がしゃべっていた。
「盗賊が横行していて、今は危険なんだよ」
「う〜む」
ケントが、無精髭を手で触りながら、唸った。
「俺達はここまで来るのに、西のサライを経由する迂回ルートを利用した。遠回りにはなるが、お陰で盗賊には合わなかったぞ」
「なるほどねぇ。いやぁ、助かるよ」
「構わないさ。せめて、同業同士くらい、助け合うのが暗黙の了解」
「フフっ、違いねえ」
「……でも、ケント隊長。お前、強そうだな。出来れば、盗賊を追い払ってくれれば、俺達はすげえ助かるぜ」
「おいおい勘弁してくれよ!はっは!」
ケントと、話をしていた隊長の大きな笑い声が、中庭内に響いた。
どうやら、今回の目的地に行くまでの、それぞれの道筋の情報収集を行っているようだった。
「ケント隊長〜」
ケントの後ろから、マナトは声をかけた。
「お〜う、マナト。終わったか」
「はい」
「あざーす!んじゃ、宿泊スペースで携帯食料でも食って、先に休んでていいぜ」