25 マナの洞窟/マナト、能力者へ②
「よしよし」
長老は満足そうに頷いた。
「それじゃ、次は両手を湖へ」
「えっ、あっ、ハイ」
……深く考えるのは、とりあえず、やめよう。
再度、両手を水へ突っ込んだ。右手につかまれていた水は、手を離れると同時に周りの水と溶け込んだ。
「手のひらを開いて、湖面で渦を巻きながら、水が勢い良く、間欠泉のように吹き上がるのを想像し、手に力を込めるんじゃ。間欠泉、分かるか?」
「はい、分かります」
長老に言われた通り、神経を集中させ、イメージした。
――ザァァァ〜。
湖面に少しずつ、段々と波が発生し、やがて激しく白波立つ。その波はやがて渦を巻き始め、その渦はどんどん回転を増していく。
そして、渦の中心がせり上がり、
「やれ!マナト!」
長老が叫んだ。
――ブシュシュシュシュシャァァァアアッ!!!!
渦巻く巨大な一本の水柱《みずばしら》が、地底湖の遥か天井に突き刺さるかと思われるほどに吹き上がった。
地底湖の青く光る天井にあたった渦巻きは飛び散り、雨となって、長老に、人魚の主に、自分でやっていながら唖然とするマナトに降り注いだ。
※ ※ ※
長老とマナトは、洞窟から出た。
「えっ、意外と早かったですね」
ミトが驚いた様子で、あたふたして何かを岩の裏に隠した。
「マジか。もうちょっとかかると思ってたんだけどな……」
「どうした?ミト」
長老が言った。
「あっ、いや、何でも。それで、どうでした?」
「うむ。マナトは無事、十の生命の扉を開き、マナを取り込んで、能力者となった」
「ホントに!おめでとう!」
……あっ、そっか。そういうことになるのか。
マナト自身は、果たして自分が『十の生命の扉を開いて』いたのかどうか、あまりピンときていなかった。
「……じゃあ、これ」
ミトは岩陰に隠していたものを取り出して、マナトにかけた。
密林の所々で摘み取ったであろう、白やピンク、赤い花で編んだレイだった。花の心地よい香りが漂う。
「ありがとう、ミト」
マナトは笑顔で礼を言った。
ミトも、ニコっと微笑んだ。
「よし、村に戻るか」
3人は、村へと引き返した。
「……という訳で」
歩きながら、長老が言った。
「マナトも、特別枠で、キャラバン試験合格ということで」
「ホントですか!長老!」
ミトが驚いて、マナトを見た。
……えっ?
「家を売る仕事をしていたのであろう?」
「えっと、はい。成果ゼロでしたけど」
「この村のヤツらは、一人を除いて商売が下手なヤツばかりなんじゃ」
……長老、僕の日本での話、聞いてましたよね?
「いや、僕もダメというか……」
「大丈夫じゃ。キャラバンは家を売る訳ではない。頑張れ、マナト」
……うそん。
長老が、楽しそうな顔をマナトに向けた。
「キャラバンになって、各地で行商、頼んだぞ」
「一緒に頑張ろう!マナト!」
……結局、こっちの世界でも、似たようなことはやるんすね……。
自分のことのように喜ぶミトに、マナトはぎこちなく笑い返していた。
(マナト、転移編 終わり)