15 マナト①/ミトの家にて
「もう、大丈夫なようだね、マナト君」
「ありがとう、ミトさん」
マナトはミトのベッドから起き上がると、外に出た。
「んん〜!」
背伸びした。空が晴れていて、青い。気持ちいい。
目の前には、日本でも見たことのあるような、果物や野菜を栽培している緑の畑と、点在する木造建築の家が目の前に広がっている。
ミトの家は密林寄りのエリアに属していて、このミトの家もそうだが、砂漠寄りのエリアと違い、木造建築の家屋が多かった。
「いい天気だな」
少し、気持ちがスッキリしている。まるで自分の背中にずっと乗っていた、重たい荷物が外れたような感覚。
ゆっくり休むことができたのと、おそらく、長老の前で、何もかも、全てを吐き出したからだろう。
グリズリー襲撃の日から、ずっと長老の家にいた。
長老は、自分の話す、全く見知らぬ世界に興味津々だった。
何を話しても、詳しく聞いてきた。
家族の話から発展して、ありとあらゆる人間関係、また教育水準がどのようなものかなども伝えた。
日本の話からは政治体制や現代の科学技術の話に発展するだけでなく、他国の話や世界情勢について、果ては歴史に至るまで話が飛びに飛んだ。
仕事の話は日本の経済状況や価値観、倫理的な議論にまで発展し、話が止むことがなかった。
そして、長老はずっと、その話の内容を、紙と筆で記し続けていた。
また、長老はただ聞く訳ではなかった。この世界についても様々、マナトに教えてくれた。
この世界、というか、この大地のことを、ヤスリブといい、11の区域に分かれていて、この周辺のことはクルール地方という。
そして、何より、マナという存在。
不思議なエネルギーのようなもので、このマナ、とにかく便利だった。
キャラバンの村では、マナは主にインフラとして、非常に役に立っている。
元の世界でいえば、いわゆる電気やガスなどの設備をもっと便利にしたようなもので、このヤスリブの世界全体でも、生活向上の上で重要視されているようだった。
長老の家にも、また、ミトの家の中にも赤いマナ石が置いていて、夜になると勝手に火が灯る。
また、ミトの家に来てビックリしたのが、家のリビングの隅に設置されている大きな木箱を気になって開けてみると、なんと、ひんやりとした冷気が箱の中に漂っていた。
いわゆる冷蔵庫だったのだ。これも、マナの力で冷やしているとのこと。
マナにはいくつか種類があり、そういった力が備わっているとのことだった。
詰まるところ、このヤスリブという世界、少なくてもキャラバンの村の生活水準は、高い訳ではないが、低い訳でもない。
必要とされるところに、マナというこの世界の不思議なエネルギーは利用されていた。