13 キャラバン・ケントの帰還
ミトがキャラバンになるための、最後の試練を突破してから、数日が経ったお昼時。
――カン!カン!カン!
村の大広場の、高台に設置されている鐘が賑やかに鳴った。キャラバンの帰還を知らせる鐘である。
「ケント商隊が戻ったぞ~!!」
鐘を鳴らした者が、大声で言った。
ミトとラクトは、大広場へと駆けつけていた。
大きなフタコブラクダが十数頭が見え、そのラクダ達に取り付けられた様々な交易品をおろしている者達がいた。
「ケント隊長!」
その中の一人、ベージュのマントを羽織っている男に、ミトとラクトが声をかけた。
「よう!ミト、ラクト」
ケント隊長と呼ばれた男は、2人に気づくと名を呼び、手招きした。黒く無造作に飛び跳ねた髪の毛に、無精髭、マントの隙間から見える筋肉質で力強い肉体、茶色の瞳が、その人の男らしさを物語っていた。
「お帰りなさい、ケント隊長」
「おう。お前ら、キャラバン最終試験に合格したらしいな。先に市場のヤツらから聞いたぜ」
「はい!」
「これからが大変だぜ。死なないようにな」
「大丈夫だぜ、隊長。俺もミトも、強いからな」
ラクトが不敵な笑いを浮かべた。
「フッ、心強いねぇ」
ケントは、交易品をラクダからおろすと、すでにケントに依頼していたという村の者達がやって来て、品物を受け取っていた。
「待っていたよ、ケント」
前にミト達にグリズリー料理を振る舞った、恰幅のよい婦人もその中にいた。
「よう、おばちゃん。目的の品の、岩塩だ」
「ありがたいねぇ。これでまた料理がはかどるよ。助かった、ケント」
「いいってことよ!」
ひと通り、皆に交易品を渡し終わると、ケントは部下と共に、ラクダに水を飲ませた。
ミトとラクトもそれを手伝っていた。
「サンキューな。……ところで、長老は?」
「あっ、そういえば……」
ミトとケントは、顔を見合わせた。
キャラバンの帰還する時は、必ず長老が出迎えに大広場にいるのが常だったのだが、今日は長老の姿が見えない。
「おかしいな。最寄りのサライから、早馬をとばして、知らせていたんだがな」
ケントが首をかしげた。
「ちょっと、長老の家に行ってきますよ」
ミトが言った。ラクトも頷いた。
「おう、それじゃあ、よろしく頼むぜ。死んでいなけりゃ、別にすぐ知らせなくてもいいからな。この後、風呂入ってくっから、はっは!」
ケントが陽気に手を振った。
ミトとラクトは大広場を離れ、村のメインの通りを抜け、砂漠側の長老の家のあたりまでやって来た。
「そういえば、マナトは?」
「さぁ?そういえば見てないかな。長老が住居は手配したって、風の噂で聞いたけど」
「長老、マジで死んでないよな?」
「あはは。さすがにないでしょ」
2人で冗談を言いながら、長老の家の扉をコン、コンと叩いた。
「お〜い、長老〜」
「……あれ、反応ないな」
家は石造りだが、扉は木で出来ていて、少し隙間が空いており、ラクトはそこから覗き込んだ。
「おい、床……」
ラクトが気づいて言った。
砂漠から吹いてくる風が強い時は、頻繁に掃除をしないとすぐに床に砂が入り込んでしまう。
長老は綺麗好きで、いつも床は綺麗、なハズだった。
「おいこれヤバいんじゃないのか!?」
「長老!!」
――バキッ!
ミトとラクトは扉を蹴破って、中に入った。