第四十八話 おっさん困惑?
イーリスが、辺境伯領の独立を考えている頃、おっさんはカリンと
聖獣を連れたカリンが帰ってきたのだ。そして、おっさんに”聖獣を眷属にした”と告げたのだ。
「糸野さん。聖獣を眷属にした弊害は理解していますよね?」
おっさんは、カリンを日本で使っていた苗字で呼んだ。驚いたのは、おっさんだ。自分で思っていた以上に感情が外に出てしまっている。理由にも心当たりがある。そして、”いつか”が近づいて来ているように思える。
そして、その”いつか”を・・・。待っているのか?受け入れているのか?感情が制御できなくて、困惑している。
「はい。聖獣の祝福は解っています。私が望んだことです」
カリンは、”祝福”と呼んだ。
おっさんは、”祝福”だとは思っていない。”契約”であり、”呪い”だと考えていた。しかし、カリンにとっては”祝福”なのだ。
既に契約を済ませている。
おっさんが、大川大地と結んだ契約と同じ物だ。おっさんの場合は、転移時に結ばれた縁である。既に結ばれた契りを解除することは出来ない。
カリンの肩には、小鳥が留まっている。
次世代の朱雀がカリンと共に居る事になった。聖獣は、1柱だけの存在だ。しかし、朱雀だけは次世代を育むことができる。
「そうか、糸野さんが決めたことなら、俺が何かをいうのは無粋でしょう。それにしても、朱雀ですか?」
青龍・白虎・朱雀・玄武
実際には、青龍は黄龍と龍族の相称だと言っていた。そして、青龍は聖獣ではない。
「はい。あと、玄武もいるらしいのですが、寝ている時期らしく、契約は無理だと言われました」
白虎は、バステトだ。そして、朱雀がカリンと契約をした。残るのは、玄武だが、玄武は起きて来る気配がない。
「ん?誰に?」
おっさんは、カリンの言葉に違和感を覚えた。
朱雀とのコミュニケーションがとれているのはわかるが、朱雀が知っているのか?
バステトも朱雀と玄武がいるように感じていたようだが、どんな状態なのかは知らなかった。
「朱雀に」
「え?」
「この子の親なのだと・・・。多分、親です。あぁそういえば、まーさんには、説明していませんでした」
カリンは、簡単に説明をした。説明ができていると思ったのだが、バステトが補足をしたので、なんとか伝わった。
「わかった。朱雀であって、現状では、聖獣の朱雀ではないのだな?」
「うんうん。そんな感じ!」
「でも、カリンは朱雀を眷属にしたのだよな?」
「そうだよ。契約は、この子にも引き継がれる。らしい」
”にゃにゃ”
バステトの補足が入って、おっさんは納得した。おっさんの契約も、”白虎”との契約なので、次世代の白虎が現れた場合に契約が移譲されるらしい。おっさんは、バステトだから契約したのだと、隣に座っているバステトの頭を撫でる。
嬉しそうに喉を鳴らして、おっさんにバステトが甘える。
「それで?」
「何?」
バステトを撫でるおっさんから、同じく朱雀を可愛がっているカリンに質問の形ではるが、何を聞いているのか解らない問いかけをする。
「朱雀の名前は?」
おっさんは、カリンに違うことを聞こうとしたが、聞けなかった。
そして、お茶を濁すように、朱雀の名前を聞いた。
「
「そうだな」
おっさんは、どう反応をしていいのか迷ったが、無難な言葉を口にした。
カリンが嬉しいそうにしているので、問題はないという結論を導き出した。
「まーさん」
「なに?」
カリンは、おっさんから聞いて欲しいことがある。
おっさんも、カリンに聞かなければならないとは思っているが、躊躇してしまっている。バステトとの契約で若返っているが、中身は40を過ぎているおっさんだ。そのために、カリンが聞いて欲しいと思っているのは解っている。解っているつもりになっている。
「・・・」
カリンも、おっさんが何を考えているのか、大凡は解るようになってきた。
自分に向っている感情も解って嬉しく思っている。
「どうした?」
「ううん。なんでもない。シュリと訓練をしてくる」
カリンは、朱雀を眷属にしたことを報告した時に、おっさんが憤ったことを思い出して、今は”これ”で”いい”と考えた。
「わかった」
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”にゃにゃ”
「わかっていますよ」
”にゃぁ”
「そう・・・。いじめないでください」
”にゃぁにゃ!にゃ!”
「そうですね。えぇもう・・・。でも、もう少しだけ、本当に・・・」
おっさんは、もう通信が繋がらないスマホを取り出して、日付を確認する。
”にゃ?”
「けじめ・・・。ですかね。それが・・・。いいわけですね」
”に、にゃ?”
「大丈夫ですよ。俺は、俺です」
おっさんは、スマホをポケットに仕舞った。
ソファーに足を投げ出して、肘掛に頭を乗せて目を瞑った
”にゃぁぁ”
バステトの鳴き声に合わせて、おっさんが光に包まれる。
5秒後には、おっさんから安定した呼吸音が聞こえてきた。
”にゃ!”
おっさんが完全に寝たのを確認してから、バステトは足下で丸くなって寝る事にした。
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部屋がノックされた。
2回ほどノックされたが、中からは返事がない。ドアが開けられて、シュリを肩に乗せたカリンが部屋に入ってきた。
「本当だ。シュリ。ありがとう!」
カリンからのお礼を受けて、シュリは身体をカリンにこする様にした。親愛を伝えるためだ。
「まーさん!まーさん!」
普段なら、ドアが開いただけで起きる人物がしっかりと寝ている。
カリンは、おっさんの珍しい寝顔を見ていた気持ちが芽生えたが、用事があるので、しょうがないので、肩を揺らして起こすことにした。
おっさんは、身体を揺すられて、目を開けた。
「あぁ・・・。カリンですか、すみません。落ちてしまいました」
おっさんは、目を開けると、すぐに覚醒した。
寝起きの機嫌が悪い人には無理な話だが、おっさんはおきてすぐに、通常運転が可能な人物で、日本に居た時から変わらない。特技だと言っても差支えが無い。
「・・・。それは、いいけど、イーリスが訪ねてきたよ。話がしたいと言ってきているけど?どうする?」
カリンは、何を謝っているのかわからないけど、自分の方が”ごめんなさい”と言いそうになって、口を噤んだ。
そして、シュリが自分の頬を啄んだことで、部屋に来た用事を思い出した。
「通して、そうだ。カリンも一緒に話を聞いて欲しい」
おっさんには、イーリスが訪ねて来るのは早かったと思った。そして、早いという事は、自分の意図が伝わったのだろうと考えた。
そして、イーリスが辿り着いた結論を、伝えに来たのだと考えたのだ。
この場所は、確かに青龍たちが大切にしている場所だが、おっさんにも重要な場所になる。
そして、おっさんは、これからの話なので、カリンにも影響することを思い出して、カリンにも一緒に話を聞いて欲しいと思った。
自分の判断だけではなく、カリンが判断をしなければならない場面が出る可能性もある。
「え?私も?」
カリンは、自分がイーリスとおっさんの話に加われるとは思っていない。
加わりたいとは思っている。おっさんとイーリスが二人で話をするのは、”嫌”だと、はっきりと思えるのだが、一緒に話を聞く権利が自分にあるとは思っていない。
「そうだよ」
「でも、まーさん。私、政治とかよくわからないよ?イーリスとの話なら、政治の話でしょ?」
カリンは、自分が一緒に話を聞いてもいいのか?
おっさんの横に居ていいのか?
いろいろな感情が混じったままで聞いてしまった。
「どうだろう?」
「・・・。うーん。よくわからないけど、わかった。まーさんの隣に座って、話を聞けばいいよね?」
「そうだね。あっ!出来たら、議事録は、難しいだろうけど、スマホでもいいから、話した内容の大事な所を、まとめてくれる?」
「うん!」
カリンは、入って来た時とは違う感情を伴って、イーリスを呼びに戻った。