第4話 スキルを奪った後にすること
「さて、宝の持ち腐れこと、アイクよ」
「ずいぶんなあだ名だな、おい」
俺は決闘でギースに勝利し、ルーナと主にその戦利品の整理をしていた。整理といっても大したものではない。金になる物とそうでない物を分けるだけの作業だ。
場所はギルドから最も離れた宿屋。ギースの息のかかったようなギルドの近くではゆっくりすることもできないと思ったので、一番遠くにあった安い宿屋を借りることになった。
「なぁ、これって整理する意味あるのか?」
「あるに決まっているだろうが。いらない物は処分しなくてはならん」
「いや、収納魔法使えるんだったら、全部その中に収納してしまえばいいんじゃないかなと」
そう、ルーナは収納魔法という物を収納できる魔法が使えたのだ。あれって、確か時空を行き来するような魔法だから、かなり高難易度の魔法だったはず。
それを当たり前のように使うルーナって、本当に何者なんだろうな。
「ガラクタを収納しておく場所などないわ! これもいらん!」
「いや、それギースが大事に使ってた剣だろ」
そういうと、ルーナはギースが使っていた剣をいらない部類のスペースに移動させた。後日、いらない物を買い取ってもらいにいくらしい。
この村でそんなことをしたら、絶対にギース達の耳に入ることになるだろう。完璧に喧嘩を売る行動だ。
まぁ、もうあのギルドに戻ることはないしいいか。
「して、アイクこと、宝の持ち腐れよ」
「逆な。逆になっちゃってるから」
「アイクは自分のスキルをどう捉える?」
「どうって言われても、まぁ結構使えるスキルなんじゃないかと」
無能だと蔑まれていた俺の『スティール』。それは、物を盗むのではなくて、人のスキルを奪うものだった。
このスキルがあれば色んなスキルを奪って、自分のものにすることができる。少なくとも、使えないスキルではないだろう。
「浅い! 浅すぎるぞ、アイク!」
ルーナはそんな俺の考えを強く否定した。いや、ルーナの顔を見る限り、その逆とみた方がいいか。
「おまえのスキルはチート級の強さだ! だが、あるものが欠けている!」
「あるもの?」
「自分が奪ったスキルを把握できないことだ」
確かに、俺の『スティール』は特別なものかもしれない。それでも、その奪ったスキルがなんであるか分からない限り、奪ったスキルを使うことはできない。ただスキルを奪うだけで、使うことができないのだ。
以前のように、どのようなスキルを奪ったのか、奪った人から教えてもらわなければスキルを使うことができない。
戦闘中に奪った相手から、そのスキルについて教えてもらうことなんてできるはずがない。だから、あまり一対一の勝負には向いていないスキルなのかもしれない。
相手のスキルを奪って無力化するとかなら、使い道もあるのだろう。
「そこでだ! 私はとっておきの方法を考えた!」
「とっておきの方法?」
「ふむ! 『鑑定』のスキルを持ってる商人を襲って、スキルを強奪してしまおう!」
「できるかそんなこと!」
何を言い出すかと思ったら、ルーナの奴が笑顔でとんでもないこと言いやがった。
ボケなら幾分可愛げもあるが、目が本気だから質がわるい。俺に反対されると思わなかったのか、ルーナはぽかんとした顔で驚いていた
「は? え、な、なぜ?」
「なぜって、商人の『鑑定』を奪ったら、その人が困るだろ? そんな簡単にまともな人のスキルを奪ってたまるか」
「だって、人間は自分のためなら何でも略奪する醜い生き物なんじゃ……」
なんでそんな人間に狩られる側の考えなんだと思ったが、よく考えてみるとこのロリっ子は少し前までドラゴンをしていたのだった。
ドラゴンの住処を狙う人間。そんなの近くで見続ければ、当然そんなふうに考えもするか。
「ん? まともな人間じゃなければいいってことか?」
「まぁ、そうなるのかな?」
「それなら、もう一つ良い方法を思いついたぞ!」
話の流れ的にも、明らかに良い方法な訳がない。そう思っていても、ルーナはそんな俺の考えなど知らないといった様子で、言葉を続けた。
「地下の闇闘技場の人間からスキルを奪ってしまおう!」
そんな恐ろしいことを、ルーナは笑顔で口にしたのだった。
場面は変わり、ギースパーティメンバーのいるギルド。
「くそっ!! アイクのクソ野郎が!!!」
ギースはギルドの机を激しく叩き、怒りをぶつけていた。その衝撃でグラスが机から落ちて、大きな音を立てた。
「ちょっと! グラスの中身はねたんだけど!!」
「そのくらいで騒ぐんじゃねぇ! くそ! くそっ!!」
「ギースよ、これからどうする。俺達は武器もアイテムもなくなったんだぞ」
「そうよ、誰かさんがアイクなんて雑魚に負けるから」
ギースを責めるような二人の口調。それは自分達は全く悪くないといったような物言いで、それがさらにギースの怒りに火をつけた。
「俺は負けてない! そもそも、武器とかアイテムを賭けに出したのはお前だろ、リン!!」
「まさか、アイクに負ける奴がこのギルドにいるなんて思わなかったのよ。はぁ、私の魔晶石が」
「ふざけんな! 負けてねーって言ってんだろ!」
ギースは負けてないの一点張りだった。ギースは自分が負けた事実を認めず、わがままを通そうとする子供のように暴れていた。
「ギース。良い情報を得た」
「ゾフィー、なんだ?」
「アイク達はまだこの村にいるらしい。負けてないと言うなら、取り返してこいよ」
普段は物静かなゾフィーもさすがに装備品を含めた身ぐるみを取られて、心穏やかではない様子だった。
それでも、ギースが二回も負けることはない。自分達の分の装備品を取り返してくれるだろうといった考えもあるらしい。他の二人に比べると、まだ口調は大人しいものだった。
しかし、そんなゾフィーの期待と裏腹に、ギルドはギースをからかうような陰口が飛び交っていた。
「また負けるんじゃねーのか」「アイクに全部取られたんだってよ」「無能に負けるとか、最弱すぎんだろ」
「おい! 誰だ! ふざけたこと言った奴でてこい!!」
そんなギースの大声に対しても、ギルドではくすくすとした笑い声が静かに響いていた。
あのアイクに負けた。その事実がギースの信頼を落とし、彼の肩身を狭くしていた。
ギースはそんな周囲の反応に対し、ぷるぷると肩を震わせ、怒りの感情を抑えることができないでいた。
「まだこの村にいるとは言い度胸だ、アイク。ぶち殺してやる!」
復讐に燃えるギースは、どんな無様な方法で負かしてやろうかといった考えで頭がいっぱいになっていた。
そんなギースを見て、ギルドでは再びギースを馬鹿にするような、小さな笑い声が響いていた。