エピソード10 十一回目の世界
深い緑色の瞳に、柔らかな茶色の髪。高身長である彼のイケメンフェイスは、今や血でべっとりと濡れている。
光の届かぬ薄暗い世界。そして目の前で転がっているのは、モンスターと呼ばれる人成らざぬ者達の死体、死体、死体。
どうやら今回も、『サクヤ・オッヅコール』として、無事に巻き戻る事が出来たようだ。
(また戻って来たな。魔王軍に占拠された村、バルトを解放したところ)
いつの間にか握られていた愛剣、エクスカリバーを振るう事でモンスターの血を払うと、サクヤはその剣を鞘に片した。
「それにしても、段々強くなっているよな。やっぱり魔王城が近いせいか?」
いつもの呟き声に振り返れば、そこにあったのは、うーんと大きく伸びをしているカグラの姿。
思いっ切り体を伸ばし終えた彼女は、これまたいつも通り、その紫紺の瞳をサクヤへと向けた。
「それはそうと、さっすがサクヤだよな。バルトのモンスター達、僕は結構いっぱいいっぱいだったのに、サクヤは余裕で倒しちゃうんだもんな。おかげで助かったよ。ありがとうな」
「あ、ああ……」
「サクヤがいれば、エリーの力がなくても魔王なんて簡単に倒せちゃうかもしれないな」
「それは楽観視し過ぎですよ、カグラさん」
ニコニコと笑うカグラに、ヒナタが呆れた視線を向けるのもいつもと同じ。きっとこれから続く会話も、いつもと同じなのだろう。
「魔王を倒すには、エリーさんの光の力が必要なんです。その力がなければ、例えサクヤさんが千人集まろうとも勝てはしません。各国の騎士団が束になっても敵わなかったのが、その証拠です」
「それはそうなんだろうけどさあ……」
「本当に分かっているんですか? 大体あなたはいつも考えが足りないというか、詰めが甘いというか……」
「ごめん、ヒナタ。私の力が覚醒していないばかりにみんなに迷惑を掛けて……」
「っ!」
ガミガミと続くヒナタの小言を、しゅんとしたエリーが遮る。
その赤と青のオッドアイを、これでもかというくらい申し訳なさそうに歪めているのも、いつもの見慣れた光景であった。
「私の光の力が覚醒していれば、ここにいたモンスター達だって一瞬で消せたのに。それなのにその力が覚醒していないばっかりに、みんなを危険な目に遭わせてしまっている。本当にごめん」
「え、あ、違います、違います! 私はエリーさんを責めているわけではなくて……っ!」
「あーあ、ヒナタがまた余計な事言ったー」
「ちょっと、何ですか、またって!」
「気にする事ないよ、エリー。この辺りにいるモンスターだったら、まだ僕達の力で討伐出来るんだし。僕達の力が及ばないのなんて、魔王だけだろ? だったら魔王に会うまでに覚醒すれば良いんだ。大丈夫、焦らず落ち着いてやれば、きっとその内覚醒するよ。なあ、サクヤ。お前もそう思うだろ?」
いつものやり取りの後、カグラは同意を求めるように、その視線をサクヤへと向ける。
「……」
いつもなら、サクヤはここでエリーを冷たく突き放す。「魔王を倒す気のないヤツが、光の力に目覚めるわけがない」と言い捨て、この場から立ち去るのだ。
だけど……、
(今回の目的は、エリーを排除して世界を救う事じゃない。例え世界が滅びようとも、創造主の言う『アイテム』を探し出し、次の世界に繋げる事)
だからエリーに冷たく当たっても意味はない。エリーはエリーで、魔王と好きなだけイチャつけばいい。
「さあな。でも今回だってどうせダメなんだ。好きなだけアバンチュればいいさ」
「は?」
「今回も?」
「あ、アバン……え、何?」
「オレは、捕えられている村の人達の救出に行って来る。じゃあな」
「えっ? ちょ、ちょっと、サクヤっ?」
意味不明な言葉を残し、サクヤはその場から立ち去って行く。
村の人達が捕えられている地下牢。そこに創造主の言う『アイテム』は落ちていないだろうか。
「え、何? どういう事?」
「さあ。頭が疲れているのではないですか?」
「そうね。そっとしておきましょう」
その場に残された三人が生暖かい目を向けていた事など、サクヤにとっては知る由もない。