第3話 三人
––––– 放課後
「海斗帰ろうぜー」と、慎二に声をかけられた。
「おう。そうだな」と、言い終えたところで、慎二の後ろに佳奈が立っていることに気づく。
「私...」と、何かを言いかけて、舌を強く噛み締めて、そのまま教室を出て行った。
「...ちゃんと話さなくていいのか?」
「...いいよ。もう話すことなんて何もないんだから」
「海斗がいいならいいけどさ。俺に出来ることがあったらなんでも言えよ。親友なんだからさ」
「...ありがとう」
––––– 翌日
佳奈は学校に来なかった。
正確にはこれ以降学校に来ることはなかった。
それから2週間後に佳奈は転校した。
もう関わらなくていいんだと思うと、安心した。
けど、少しだけ心残りがあったのは言うまでもなかった。
––––– 放課後
「お邪魔してます」と、当たり前のように俺のベットの上で足をパタパタさせながら漫画を読んでいるアリス。
「なんで俺より先にいるんだよ」
「鍵の場所ぐらい知ってるし」と、うちの家の鍵をクルクルさせている。
うちの母さんはおっちょこちょいだから、すぐに鍵を無くすと言うこともあり、家の前の小さな花瓶の中に鍵を入れているのだ。
この間もそれで入ってきたのか...。
てか、よく覚えてたな。
「てか...パンツ見えてるぞ」
「見せてんの。男子はこういうの好きなんでしょ?絶対領域ってやつ?ほらほらー」と、寝転んだままスカートをひらひらとさせる。
「...絶対領域は見えないことに意味があるんだぞ」
「何それ。キモ」
「はいはい」
「てか、こんなのを見てる人にそういうの言われたくないし」と、俺の秘蔵AVを放り投げる。
「おまっ!なんでお前が持ってんだよ!」
「この前来た時、なんかベットの下にあるなーと思って、一応持って帰った」
「俺がどれだけ探したと思ってんだよ!」
「...海斗ってもしかしてかなりMだったりする感じ?女の子にああいうことされたいんだ...無理やりとか...」
「う、うっせ!別にいいだろ!」
あんなことがあったというのに相変わらずのこの態度である。
そのまま押し入れにAVを置きつつ、話しを続ける。
「アリスは学校の友達と遊んだりしないのかよ」
「うん。つまらないし。男はオタクばっかでキモいし、女は面倒臭いし」
俺もそこそこオタクなんだが...。
まぁ、法言みんな頭いいしそういう人たちが集まりやすいんだろうな。
「...なるほど。相変わらず友達できてないんだな」
「別に友達いらないし。一人も慣れっこだから」
「努力はしたのか?ほら、こうやって笑顔をだな」と、口の両端を上げて笑顔を作る。
「無理。面白くもないのに笑うとか、楽しくないのに楽しいって言ったりとか、そういうの面倒だし。別に支障をきたしてないんだし、いいでしょ」
「学生のうちはそうかも知れねーけどな...。苦労するぞ、社会に出たら」
「かもね。ま、その時は笑顔を見せるよ」と、両手で口の端を押さえて無理な笑みを浮かべる。
「ったく...。あ、そうだ。久々に慎二と3人で遊ぶ?最近3人で遊ぶってことなかったでしょ」
「お、いーね。誘おうー」
佳奈と付き合ってからはアリスがうちに来る頻度が減った。
付き合う前は今日みたいに勝手に家に入ったりとかもあったが、最近はめっきりなかった。
俺はてっきり学校の友達と遊んでいたのかと思ったが、どうやらそういうことではなく、俺に気を遣って家に遊びに来たりするのを控えていたらしい。
アリスにも慎二にも世話になったし、二人一緒に何か奢ってあげようかと思っていたので、ひとまず慎二に連絡をしてみる。
「慎二、今日暇?」
『わり!今日用事があって行けねーんだ!すまん!』
「そっか。ううん。んじゃまた今度お礼するよ。...はーい。んじゃね」
「慎二ダメだったの?」
「うん。なんか用事あるんだって」
すると、ピーンポーンとインターホンが鳴る。
「あっ、母さんが言ってたやつかな?」
「私、飲み物取ってくるから。ついでに出とくよ」
「おっ、サンキュ」
–––– 5分経過
なかなか戻ってこないアリス。
トイレでもしてるのかな?と思いながら、一応部屋の扉を開けて声をかける。
「おーい。アリスー」
返答はない。
しかし、代わりに何やら下から声がしていることに気づく。
本人限定受け取りとかだった?などと思いながら階段を降りると、そこには紗南が立っていた。
「え?...紗南?」
「あ、海斗くん。ね、この人誰?」と、アリスを指差す。
すると、今度はアリスが紗南を指差す。
「海斗。誰この女」
うわっ、何この修羅場的な展開。
「えっと、同じクラスの友達の紗南...と、幼馴染のアリス...」
「同じクラス?ふーん?」と、やや勝ち誇ったような顔をするアリス。
何だそのドヤ顔はやめろ。と、心の中でつぶやく。
反対に顔を引き攣らせながら、「幼馴染がいるとか聞いてないし...」と、つぶやく紗南。
「それで同じクラスの《《ただのお友達》》の紗南さんは何しに来ちゃったわけ?」
「...別に。ただ近くを通ったから遊びたいなって思っただけ...」
「へー?たまたま近くを通った?へー?たまたまねー?」
「何?」
「そう。別にいいけど。んじゃ、遊ぶ?3人で」と、相変わらずの余裕な表情でアリスは言う。
「おっけ。いいよ。あんたに吠え面かかせてやる」と、何故か紗南もやる気モードになっていた。
むしろ、俺だけが置いてかれてしまっていた。