火の賢者
父さんの古い友人が住んでいるであろう小屋に近づいてみて、俺は、一つ疑問に思った。
「本当にこの小屋に人が住んでるのか……?」
「確かに、ちょっと人が住むには小さすぎるね」
シルも同じ考えだったようで、2人して顔を見合わせてしまう。
小屋は木で出来ていて、大きさ的には大人1人がどうにか住むことができるくらいに見える。
「とりあえずノックしてみようよ!」
「そうだな」
シルにそう言われた俺は、扉にノックをする。
コンコンと音を立てると、扉が開かれ、中から腰ぐらいまでの金髪で碧眼の美少女が出てきた。
父さんから古い友人だと聞かされていたので、てっきりもう少し歳のとった人だと思っていた。
そのせいで、その美少女が出てきたときに思わず目を見開いてしまう。
出てきた彼女をよく見てみると、俺たちの丸みを帯びた耳とは違い、先がとんがっている。
噂では聞いたことがあったけど、多分エルフだと思う。
この子が父さんの言っていた人なのか……?
「もうっ!ジーク!そんなにまじまじと見ちゃだめだよ!失礼でしょ」
「いててっ!分かったから!そんなにひっぱることはないだろう!」
「むぅ〜、よかったですね〜、出てきたのが綺麗な人で〜!」
「な、何を言ってるんだ!俺は別にそんなつもりは………!」
「ふ〜〜ん」
俺がエルフなのかと思いながら考えていると、横でシルがジト目で見てきた。
なにやら俺が彼女の顔をじろじろ見ているのが気に入らなかったらしい。
拗ねてそっぽ向いてるシルを横目に俺は、彼女の方にもう一度視線を合わせる。
「あなた達、だれ?ここに何の用?」
エルフ?の女の人があからさまに警戒して、用件を聞いてくる。
「あ、あの俺たちフリードって言う人の紹介で来たんです」
「フリード……?確か、前にマー爺からそんな名前を聞いた事あるような、ないような……」
「マー爺………?」
「ああ、マー爺は私の師匠よ。ここで一緒に生活してるの」
「師匠?という事は、その人がもしかして………!」
「多分、あなたたちの目的の人よ。私の名前はセレナ。知っての通りエルフよ」
セレナさんの言葉を聞いて、思わず嬉しくなってしまう。
それに、やはりエルフで合っていたらしい。
やたらと耳ばかり見てしまっていたので、彼女も気づいていたらしく、向こうの方から自己紹介してくれた。
「まぁ、いいわ。上がってどうぞ」
「え………?」
「さすがにこの人数は入りきらないんじゃ……?」
「??ああ、そういうこと。大丈夫よ。この中は思ってるより広いから」
セレナさん曰く、この小屋は外から見るより中の広さが違うらしい。
そう言われてもなかなか信じられずに足踏みしていたが、意を決してシルと一緒に中に入る。
「「お邪魔します」」
「おお………!」
「わぁ!すごい……!」
小屋の中は、外から見るよりもはるかに広く、綺麗に整理整頓されている。しかも、一部屋だけでなく、他にもいくつか部屋がある。
俺たちが入った部屋の中で椅子に座っている老人にセレナさんが声をかける。
「マー爺、お客さんよ」
「客?こんな所にか?珍しいのお…」
マー爺と呼ばれた老人は、白い服を着て仙人のような格好をし、長髪の白髪を後ろで赤い布で一本にまとめている。
肩には、赤い鳥型の魔物が乗っている。
「お主らかの?」
「は、はい。初めまして、俺はフリードの息子のジークと言います」
「私は、ジークの幼馴染のシルヴィです!よろしくね、お爺ちゃん!」
「ほっほっほ、元気があってよいのお。儂は、マーリンじゃよろしくな。こいつは儂の相棒のイーグレッドのファイじゃ。
それにしてもフリードとは懐かしい名じゃのう。あの若僧にこんな歳の子供がいるとは、時の流れは早いもんじゃな」
「ガァ!ガァ!」
俺たちは互いに自己紹介をした。肩になってるあの魔物は、ファイという名前らしい。
父さんとは、本当に昔からの付き合いらしく、子供がいたことに驚いている。
「して、そのフリードの息子が儂に何の用じゃ?」
「……実は……」
俺は、マーリンさんにここに来た経緯を説明する。
魔力が歴史上最低だったこと。
それでも冒険者になることを諦めきれなかったこと。
それらを全ての事情を話した。
「なるほどのぉ。歴史上最低の魔力値か………。それは、残念じゃったのう。それで、それでも戦う力が欲しいから儂に教えを請いに来たと?」
「はい……」
しばらくの間、マーリンさんが僕をじっと見つめてくる。やがて、にっこりと笑って、口を開いた。
「いいじゃろう。火の賢者マーリンが直々に鍛えてやろう!」
良かったぁ………!ん?今なんて……?
「え………?火の賢者………?」
「マーリン…………」
「「ああ!ええええええ!?」」
「お、おじいちゃん、本当にあの七賢者の1人、火の賢者様なの!?」
「そうじゃよ」
「す、すごいよ!ジーク!賢者様に鍛えてもらえるなんて!」
「あ、ああ!そうだな!」
「ほっほっほ、そんなたいそうなものでもないわい」
「ガァ!」
なんと、マーリンさんはあの有名な七賢者のうちの1人、火の賢者だったらしい。
なぜかファイが自慢げにしているように見える。
まさかそんな人だったとは、夢にも思ってなかったので、シルと一緒に興奮してしまう。
「マーリンさん、それで俺は何をすればいいのでしょうか?」
「そうじゃな、まずは、鑑定で二人のステータスを見せてもらおうかの。最初は、シルヴィちゃんの方からじゃ」
「はーい!」
「ほぅ………!なんと!?魔力値30000!随分と多いのう。スキルも充実しているし、鍛えれば、すごい魔道士になるかもしれんのう」
「ふふ〜ん!」
シルの魔力値を見たマーリンさんは、案の定驚き、シルは自慢げな顔をしている。
「次は、ジークじゃのう」
「よ、よろしくお願いします!」
「うーん……。魔力値100か、確かにこれでは、戦えんわな」
「魔力値100!?そんなの無い物同然じゃない!」
セレナさんが俺の魔力値を聞いてそんな事を言ってきた。
………少し傷ついた。少しだけ。
「スキルは、優秀じゃのう。ん?こ、これは!?魔力回復魔法!?なんと………どういう偶然か………」
マーリンさんが俺のスキルを見て、一人でぶつぶつ言っている。
「俺のスキルがどうかしましたか……?」
「ジーク!これは、ジークも戦うことができるかもしれんぞい!」
「え!?本当ですか!?」
「儂の推測が正しければじゃが……」
正直ここに来るまで、諦めかけていた俺にとっては、その情報だけでもありがたかった。
「良かったね!ジーク!」
「ああ!それでマーリンさん、俺はどうすればいいですか?」
「そうじゃな、まず服を脱ごうかの」
「「え?」」