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【四十】山縣が即座に解決できない難事件の発生


「朝倉」

 山縣がリビングにいた僕に声をかけたのは、僕の誕生日の三日前の事だった。

「なに?」
「探偵機構に、助手を連れてくるように言われた事件がある。来い」
「う、うん!」

 久しぶりの事件に、僕は目を瞠った。

 事件の発生を喜ぶべきではないのだが、僕は助手として、きちんと山縣の隣にいたいから、どうしても気持ちが盛り上がってしまう。

「行くぞ」

 僕達は外に出た。すると青波警視が、車で迎えに来てくれていた。
 なんでも青波警視は、主に山縣専門の警察官なのだという。

 警察には、依頼する探偵への担当者がいることが多いそうだ。

 本来は、その相手とやり取りをするのは助手なのだと聞いたことがあるが、僕は青波警視の連絡先すら知らないし、青波警視から聞かれたこともない。疎外感がないといえば嘘になる。

「で? 事件の内容は?」

 山縣が尋ねると、運転しながら青波警視が語り始めた。

 ――連続失踪事件なのだという。既に、三十人以上が行方不明だそうだ。必ず現場に、髑髏が描かれたシールが落ちているため、連続事件だと判断しているらしい。

「……」

 すると山縣が、難しい顔をして沈黙した。

 僕は驚いた。

 大抵の場合山縣は、こういった情報を聞いた次の瞬間には、犯人を導出している事が多いからだ。戸惑っている様子を、僕は初めて目にした。

「恐らくは、複数犯だ。被害者は生きていない」
「珍しく曖昧だな」

 青波警視がそういうと、山縣が苦い顔をした。

「ああ。これは難事件かもしれん」
「Sランク探偵がそういうのなら、そうなんだろうな」

 二人のやり取りを聞きながら、僕はちっとも役に立たない己を振り返り、ぼんやりとしてしまった。力になりたいと確かに思うのに、何もできない。落ち込みそうになる。

「あ、あの、山縣? 複数犯って何人?」
「――分からん。黙ってろ、朝倉。気が散る。足手まといだ」

 きっぱりとそう言われ、僕は口を閉じる事にした。
 その後現場へ向かったが、僕は立っていることしかできなかった。

 結局犯人はわからないまま帰宅し、山縣はお風呂に行った。
 なにも手伝えなかった僕は、胸の辺りがどんよりとしてしまった。

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