第十八話 報告
円香さんにお願いされたミッションはクリアでいいのかな?
「千明!」
「あっ円香さん。舞に情報を渡してきました」
「そうか、解った」
「よかったのですか?」
「なにが?」
「舞は、直接報道はしませんが、制作ですよ?」
「構わない。どうせ、どこかに流す情報だ。それに、調べればわかることだ」
確かに、新しい情報もあるけど、調べればわかる事だ。
実際に、ギルドのメンバーになってみて解ったけど、隠すべき情報は、ほとんど存在しない。秘匿コードで呼んでいる、”ファントム”の情報くらいだ。ファントムを秘匿しているのも、マスコミに知られると、ファントムを探そうとする可能性があるためだ。私も、マスコミで過ごしていたからよくわかる。
円香さんも、茜も、孔明さんも、蒼さんも、ファントムの存在は疑っていない。でも、ファントムの人柄は、解らないようだ。顕示欲があるような人物では無いようだが、それ以外は何も解っていない。だからなのか、下手に接触をして、スキルが接触した者に向かうことを危惧している。
「千明。おかえり。何か食べる?」
「え?」
茜がキャンピングカーから顔を出す。
打ち合わせが終わったようだ。
円香さんは、茜と入れ替わるように、キャンピングカーに入っていった。中には、孔明さんと蒼さんかな?まだ、何か話さなければならないことがあるのだろう。
「茜?」
茜が、私を見ているが、私から茜に話しておいたほうがいいことはない。はずだ。
「うん。打ち合わせは、終わったよ」
「そう・・・。何か、ある?」
円香さんとの打ち合わせだろう。情報の精査をしていたので、その関係だろう。
「何も・・・。透明な壁がある限りは、何もできないよね。壁が無くなっても、キャンピングカーを盾にするしかないよね?」
「うん。絶望的な状況には変わりがないのね」
舞にも説明した内容だけど、ギルドの中では規定路線だ。
最良を考えても、最悪な結果にしかならない。どれだけ、希望的観測で流れを考えても、絶望しか出てこない。
「うん。でも、誰が、なんの為に、透明な壁・・・。蒼さんは、”結界”じゃないかって言っているけど・・・」
「結界?あの?結界?」
「どの”あの”なのか、解らないけど、多分、千明が考えている通りの”結界”だと思うよ」
結界・・・。そんなスキルがあるの?
たしか、ファントムが調べていたと言っていたけど、ラノベ界隈で定番になっている”結界”なら、私でも知っている。調べても不思議ではない。
「茜。でも、不思議じゃない?」
「何が?」
「うーん。うまく言えないけど、誰かが、結界を発動したとして・・・」
「うん」
「透明な壁の距離がおかしくない?」
「え?どういう事?」
説明が難しい。
透明な壁が結界だとして、誰が作ったのかは、解らない。結界だったとしても、意図が解らないから気持ちが悪い。なぜ、隔離するような結界を作成する?なぜ、距離を空ける?
「うーん。なんで、魔物と人の間が、あんなに不自然なの?」
「え?」
ドローンで撮影した様子を、茜に見せる。
茜が、私が持っていたドローンのデータを、地図上に展開してくれる。私が持っているドローンのデータは、透明な壁が作成される前の物だ。そのうえに、解っている透明な壁のデータが上書きされる。
これで、透明な壁の状況がわかりやすくなった。
全部ではないが、私が貰ってきたデータだけでも表示される。透明な壁と魔物の位置関係が、今まで漠然としていたが、はっきりと認識できた。
魔物の配置までは解らないが、おおよその場所は解っている。
茜と話ながら、魔物の位置を記入する。
茜は、途中からタブレットではなく、パソコンを引っ張り出してきて、データを処理している。パソコンで処理をして、結果をタブレットで表示している。二人で、見るには少々手狭だが、表示させる方法が他にはない。パソコンのモニターを覗き込むわけには、表示させるデータが多すぎる。
「お!丁度良かった」
後ろから、声がかけられた。蒼さんだ。
「丁度よかった?」
「あぁ地図で検証をしているよな?」
「うん。この辺りの地図に・・・。何か、新しい情報ですか?」
「茜。USBに入ったレイヤーを重ねて欲しい。3Dのデータになっているから、平面にしてくれると助かる」
「はい」
茜が、USBを受け取って、パソコンに挿入する。
表示していた地図が消えて、新しい地図のデータ上に、蒼さんが持ってきた情報が表示される。
ドローンのデータだろうけど、もっと詳細なデータになっている。
「これは?」
「ん?自衛隊と警察と消防の奴らが飛ばしたドローンのデータ。かなり精密だろう?」
「そうですね。魔物の位置も表示しますか?」
茜がデータを調べながら、地図にデータを書き加えていく。
「頼む。これで、魔物の数が把握できるだろう?」
魔物と透明な壁が表示される。立体図ではないので、高さまでは把握できないが、茜の言葉から、ドローンは壁沿いにデータを収集しているようだ。高さの情報も入っている。
「え?」
「千明。どうした?」
「茜。面倒なことを・・・」「いいよ。今は、少しでも情報が欲しい」
茜が了承してくれたので、私が思ったことを率直に伝えた。
「確かに面倒だけど・・・。おおよそでいいよね?」
「うん!」
地図上に情報が表示される。
「茜。プロジェクターが、キャンピングカーにあっただろう。皆で見るには、タブレットでは狭い」
「わかった。千明。プロジェクターを持ってきて!蒼さんは、スクリーンの用意をお願いします」
茜の指示で、私はキャンピングカーに向かう。途中で、円香さんと孔明さんが居たので、事情を説明した。
二人も、後で合流するから、検証作業を進めて欲しいと言われた。
プロジェクターは、150インチのモニターとして表示される。そこそこ、高級なモデルだ。
茜がセッティングを行って、蒼さんが持ってきたスクリーンに投影される。地図が表示されて、そこから透明な壁が表示されて、魔物が表示される。
「千明の想像が当たったみたいね」
「”だからどうした”と思える情報だけどね」
「それでも、一歩前進だ」
蒼さんが言ってくれたが、”だから何”と思われてもしょうがない。
透明な壁がいくつかの円で構成されている。だから、茜には円の中心を求めてもらった。
全部で、12の円が確認できた。
「ねぇ茜。円の中心に、魔物が居ないのは偶然?」
「蒼さんの見解は?」
「中心?本当だな。別の言い方をすると、結界の中心には、魔物が居ない。中心から離れた位置には存在している」
「偶然?」「どうだろう、偶然にしては、全部の中心というのは・・・」
「あっ!!」
「千明!」「何か、気が付いたのか?」
「蒼さん。魔物の行動範囲は把握できているの?」
「え?」
「移動距離と言ったらいい?」
「・・・。無理だな。俺たちは、魔物を把握したら、殺していた」
「そうか・・・」
「千明は、どうして、行動範囲が気になったの?」
「うん。さっきの違和感に繋がるのだけど、魔物と透明な壁・・・。もう、結界でいいよね?」
茜と蒼さんが頷いてくれる。
「結界と魔物の距離が、不自然なくらいに似ていない?」
茜が、大まかに魔物との距離を表示してくれる。
似たような数字ではないが、そこはまだ情報が不足している。
「茜。他の、ドローンのデータから魔物の位置を追加して、移動している魔物が居ると思う。個体識別は不可能だから、大体の位置で!」
「わかった」
沢山のデータから抽出しての表示になるから、時間が必要になってしまう。
茜の”終わった”という声と同時に表示されるデータは、私が思っていた通りの結果になった。
「これは・・・」「そうか・・・。結界を張った者は、魔物の動きを把握しているのだな」
結界の中に居る魔物が移動した場所を表示していったら、私が持っていた結界が張られる前のデータを突き合わせても、警察や消防のデータにも、打刻されているデータから、結界が張られる前のデータが存在していた。
しかし、すべてのデータにある魔物の位置を表示させても、結界からはみ出すことはなかった。
すべての魔物が結界の中から出ていないことになる。
結界が張られたあとなら、結界のおかげだと考えられるが、結界が張られる前のデータでも魔物が結界の外に出ていない。
このデータが正しいのか判断が難しい。でも、魔物に対する新しいアプローチになるのも確かだ。安全に倒せる距離が解れば・・・。