第二十六話 密談開始
停泊しているクルーザーに近づく、甲板を見ると見知った顔が手を振っている。
「孔明!」
「円香。俺の名前は、
「おっしっかりと、
円香は、俺の話しをスルーして、上村を見つけて、にこやかに話しかける。円香が載っているクルーザーは俺たちが載ってきたクルーザーよりも、1.5倍ほど大きな船だ。上村が横付けして、円香たちのクルーザーに乗り込む。
「円香。こんな面倒なことをしなくても・・・」
「悪いな。でも、問題が多すぎて、孔明のところでは話せないだろう?私のところでも無理だ。それに、新たな問題も出ただろう?」
円香が言っているのは、今朝の報道番組で取り上げられたスライムの話だ。
上村が乗り移ってきたところで、円香と握手をして、船内に移動する。
船内には、広めの会議室が用意されている。
「蒼も久しぶりだな」
「そうだな。それで?」
「ん?孔明。蒼には、どこまで話してある?」
「何も・・・。奴が、スキルホルダーの可能性が高いとだけ説明した」
「そうか・・・。わかった。蒼も座ってくれ」
俺と上村は、円香に誘導されて、腰掛けた。机には、プロジェクターが置かれている資料を投影するつもりなのだろう。大型のスクリーンも用意されている。
「まずは、ファントムの事からでいいな?」
「あぁ」「待ってくれ、円香も孔明も、ファントムとは誰だ?簡単でいいから説明してくれ」
確かに、上村への説明はしていない。
円香は、資料を持ち出して、上村と俺に渡してきた。資料は、後で回収すると付け加えられた。
資料をパラパラと眺める。よくまとまった資料で読みやすい。
上村への説明は、円香が行ってくれる。
「ファントムと名付けたが、納得したか?」
「・・・。円香。その名前の是非は置いておくが、俺を騙していないか?」
上村が”騙されている”と、考えるのは、俺も理解ができる。
”全部が小説の話”だと言われたほうが、面白い話として聞くことが出来る。
「騙す?私が、蒼を騙しても得る物はないぞ?」
「そうだな。質問を変えよう。その分析を、お前は正しいと考えるのか?」
俺も、分析の可否は気になるが、それを論じても意味がない。
ギルドが、円香が”ファントム”の存在を信じているのだ。”存在している”と考えて、話をしなければ意味がない。
「正直に言えば、わからない。わからないから、お前たちに、特に、前線で活躍していた、蒼に聞きたい」
「俺に?」
「そうだ。オークの進化種と思われる魔物が、市内をふらつく可能性があると思うか?」
”ない”と、断言できない。
スライムの進化種が居たとして、市内をふらつくかと言われても、”ない”と考えるが、絶対に”ない”のか?と言われて、断言が出来るとは・・・。思えない。
「ないとは・・・。いや、ほぼ無いな。魔物の進化には、魔物が必要だ。進化となると、同種か同種以上の力を持つ魔物が必要だ」
「オークの同種を倒して進化したとして、市内には居たら・・・」
オークが進化する条件がわからないが、進化の為には同種か多くの魔物を倒さなければならない。
市内で、進化できるとは、考えにくい。それなら、進化した魔物が市内まで移動したのか?それも、無理がある。
自衛隊の防衛ラインやギルドの情報網を知らなければ、意味がわからない言い方だが、上村の言っていることは理解ができる。
「オークが町中に居たら目立つだろうな」
オークと名付けた魔物は、2メートルに到達する魔物だ。ゴブリンやスライムと違って目立つ。
「進化種は、知性も兼ね備えると聞いたが?」
パラメータがあると言っている者も存在するが、スキル鑑定が出た時に、期待されたが、パラメータの存在は否定された。
ギルドでも、魔物やスキルや能力の数値化が行われていると聞いたが、実際にどうなっているのかは、円香に聞いたほうが早いだろう。
「わからない。俺は、進化種に会ったことがない。円香、ファントムは本当に単独なのか?」
「どういう意味だ?」
俺も、最初にそれを考えた。
ファントムが国家機関なら、まだ納得が出来る。ただ、国家機関だと考えれば、今度は”ギルドのサイト”を使っている意味がわからない。自衛隊にしろ、他国の機関にしろ、ギルドへのアクセスは別にアクセスラインがあり、わざわざ”サイトの検索”を使う必要はない。そして、自衛隊で、上村たちを上回るチームがあるとは聞いていない。
「円香の話では、ファントムはスキルを3-4個。もしかしたら、それ以上のスキルを持っている。そして、オークの進化種を単独で撃破している。国宝級の魔石を持っている可能性すらある。俺は、自衛官だ。そして最前線で戦っていた。だからこそ、ファントムが異常な存在だと思える。全部、誰かの妄想だと言ってくれたほうが納得できる。もし、ファントムが実在するとしたら・・・」
「するとしたら?」
「米軍や南米の最前線で戦っているチームだ」
「蒼の考えは、すごく正しいと思う。しかし、ファントムは”ギルド日本支部”の検索を使っている。偽装を施されているが、日本人だ」
「ん?円香。なぜ、ファントムが日本人だと断言できる?」
「まず、見てもらいたい物がある」
円香が操作して表示された、情報は、何かのログだろう。
「円香?」
「これは、ファントムと思われるアクセスと行動ログだ」
「え?」
「円香。本当か?」
「あぁ。孔明。蒼。何かあるか?」
ダメだ。
円香は、完全に自衛隊を疑っている。清水教授がやっている実験に関係しそうな事柄まで存在している。確かに、海外の情報にもアクセスをしているが、日本語で表示させている。和訳と英訳を両方の参照を行っている。日本語がメインで、他の言語もある程度は理解ができるのだろう。
「円香。ファントムは、自衛官ではない。確かに、魔物の近くには居るが、魔石を溜め込むのは不可能だ。スキルもチェックされる体制になっている」
「ハハハ。孔明。解っている。自衛隊なら、得たスキルを、わざわざギルドのサイトで検索しなくても、ギルド本部から提供されるデータで照合すればいい。表に出ている情報よりも詳しい内容が表示される」
「ふぅ・・・。円香は、何を知りたい?」
「二人の感想を聞きたい。ファントムが、魔石を使って、スライムの進化を試している。動物を魔物にしようとしている。スキル結界を持っているのは、ほぼ間違いはないだろう。魔石も100個とかふざけた数を所有している。人が、魔石を吸収する方法を探しているようにも見える」
「それは・・・」
「孔明。”
「ギルドが作成したAIだろう?」
「そうだ。そして、その”
「ちょっと待て、円香!ファントムが、どっかの部隊だと仮定できなくなる。”こぶし大の魔石”だと!そんな物が・・・」
「孔明。”
「何がなんだか・・・。まぁ孔明。俺、帰っていいか?お前は、円香に送ってもらえよ」
「ダメだ。蒼。ファントムの話は、情報共有としては意味があるが、今日の本命は別だ」
「本命?」
「お前さんのところの困った奴と、ギルドの困った役員と、東京に居る状況が読めない人たちの話だ」
「・・・」
流石に、円香からそう言われてしまうと、先に帰るとは言えない。
そもそも、上村にも関係してくる話だ。
「なぁ円香。興味本位で聞くけど、”こぶし大の魔石”が実在したとして、ギルドで買い取る時には、いくらになる?」
「使い途が限られた、今の状態で、1,400億。属性が付いていたら、6,500億でも安いだろう。エネルギーの取り出しに成功したら、値段はそれこそ、天井知らずになる」
「・・・。そうだよな。爪の先ほどの魔石でも、数万から数十万になる。上位種の魔石だと、跳ね上がる」
聞かなければよかった。
これからの話は、間違いなく重い話になる。その前の余興と考えれば、上出来だろう。上村が聞いた時に、円香が躊躇しないで答えたのも、この後の話が胸糞悪い物になるのが解っていて、気分を変えたかったのだろう。