第二十話 風雲急を告げる
魔王カミドネが配下になったが、支配領域が増えたくらいで何も変わらない。
俺の生活は何も変わっていない。
魔王カミドネ領域の状況も見る事ができる。
そのうえで、ポイントは魔王カミドネに還元するように設定を行っている。
魔王カミドネの領域は、俺の領域とは違った方向性で成長を始めた。ポイントも、魔王カミドネの領域だけで黒字経営が出来ている。
大きくは、森林を残した状態で、防衛を主とした戦略だ。
戦略レベルでは俺も口を出したが、防衛を実際に行う場合の戦術レベルでは、魔王カミドネと眷属が行っている。
戦略は至ってシンプルだ。
魔王カミドネの支配領域になっている森には、神聖国や連合国や王国から逃れてきた獣人族が集落を作っている。
その集落に魔王カミドネの眷属を配置して、防御と連絡を行う。攻められた集落は、近くの集落に逃げる。逃げた先の集落で、待ち構えていた戦力で撃退する。数の優位性が確保できるまで、逃げ続ける。
集落同士は、森の中に道を作って繋いでいる。
敵に使われることも考慮した作りにしている。獣人族にもいろいろな種族がいる。そのために、種族に合った道を繋げることで、逃げやすく攻めにくい状況を作ることが出来ている。交易にも使うが、魔王カミドネの眷属がサポートを行うので、楽に物資の搬送が出来ている。
魔王カミドネの眷属には、森狼が居る。その森狼と新しく眷属に加わったトレスマリアスは意思の疎通ができる。
そのために、魔王カミドネの支配領域に点在する獣人の村には、森狼を配置する。俺の支配領域の様に、全体を城壁で囲って守ってしまう方法も考えたようだが、人員の確保が難しい事や、魔王カミドネの眷属には向いていない事が判明した。
他にも、森の中に集落を構築した獣人族には、一定期間で集落を移動する者たちも居ることから、全体を守るための方法を考える必要が出てきた。ポイントや状況を考えれば、森の全域を支配領域に入れることも可能なのだが、支配領域の広さに比べて、魔王カミドネの眷属が育っていないことから、獣人族の集落間での連絡を密にする方法を採用した。
戦術レベルでは、アンデッドを主体とした戦力で対応することが決まった。
アンデッドなら指揮官の育成を行えば、消耗を気にする必要がない。魔王カミドネの眷属には、アンデッドを支配できるスキルを付与した。
森の中で生活をしている獣人族には、敵襲が確認されたら防衛に徹するように伝えてあり、近隣の獣人族の集落に避難する手順となっている。
魔王カミドネと眷属たちによる”避難訓練”も行われている。
支配領域も順調に人口が増えている。
俺の領域は、基本的にカプレカ島と城塞村だけだ。城壁の中は、最初の獣人の子供たちと関係者。奴隷から解放した者たちだけになっている。広大な領域だが、人は入れていない。
ルブランや眷属たちから反対されたからだ。
日々のポイントは”ギミックハウス”で稼げている。
連合国との国境に作ったギミックハウスだけではなく、城塞村にあるギルドからの要望で、帝国との国境にもギミックハウスを設置した。
帝国との国境に設置したのは、帝国の国境に設置した物よりも、4倍の大きさにした。
殺傷するような罠を少なくして、その代わりに、魔物がポップするような場所を増やした。部屋を多く配置して、入室できる人数を制限するような罠を設置した。出現する魔物を明確にしたことで、城塞村に居る者たちの訓練に使えるようにした。
帝国との関係を崩したくないので、帝国との国境に作ったギミックハウスは俺が管理をしている。セバスが監視をしていることがあるが、基本は俺の役割だ。自分の部屋には、帝国向けに設置したギミックハウスを監視するための部屋を作った。
暇な時には、ギミックハウスの状況を見ているだけで楽しい。
右往左往している者たちや、訓練をしている者たちや、ドロップ品に一喜一憂する者たちを眺めるのも楽しい。
時々、俺が操作をする魔物と出現させて、侵入者に対応することがある。1対多になることが多いが、戦闘訓練ではないがゲームをしている感覚になるので楽しい。勝てないが、練習にもなる。実践は、協定を結ばない者たちで行えばいい。
さて、今日は・・・。
端末でスケジュールを確認する。
俺のスケジュールは、基本的には空白だ。
打ち合わせの予定だけが入っている。
打ち合わせも、俺が居なくても進められることが多い。俺の席は、常に用意されている。俺が必要だと思った場合にだけ出席をすればいい形が作られている。俺の代理として、セバスが全てを取り仕切ることに決まっているからだ。
(そうか、今日は謁見の日か?)
謁見の日と名付けられた日だけは、俺のスケジュールが決まっている。
セバスと四天王だけではなく、初期に仲間になった獣人たちからも懇願された日だ。
主要なメンバーの全員が揃う日だ。
その打ち合わせには俺が出席する。打ち合わせが終了した後に、顕著な活躍を見せて、皆が認めた場合に、俺との謁見が叶う運びとなる。別に、言ってくれれば”いつでも会う”と言ったのだが、皆から反対された。
軽々しく会うべきではないというのが理由だ。
俺も、別に誰かに会いたいわけでも、虚栄心があるわけでもないので、皆の意見に従うことで、自室に引きこもることを選択した。
『魔王様』
部屋の外から呼びかけられた。
セバスか?
モニターで確認をすると、セバスと四天王が揃っている。
それだけではなく、
『ルブランか?どうした?今日は、謁見の日だな。何か、問題でも発生したか?』
『もうしわけありません』
『どうした?ルブラン。謁見は中止か?それとも、打ち合わせを行うのか?』
『お時間を頂きたい』
『わかった。謁見は中止、執務室では難しそうだな。いつもの部屋で話を聞く』
『はっ』
皆が一斉に頭を下げるのがわかる。
後ろに控えていた者たちが、立ち上がって、部屋の準備に動き始める。
セバスとミアが扉の前に残った。
扉を開けると、セバスとミアが部屋に入ってきた
「それでルブラン。何があった?」
残った二人は、いつもと大きく変わらない。
ミアを見る。
資料を持っていないので、会場に資料が置かれているのだろう。
セバスとミアで簡単に説明をするつもりなのだろう?
ひとまず、ソファーに座らせる。
この二人だと、俺が言うまで跪いたままで説明を始める。
ソファーに座らせると、ミアが億の部屋から、人数分の飲み物を持ってくる。
準備をしていたわけではないが、飲み物はすぐに準備ができる。
飲み物が揃うまで、セバスは黙って座っている。
一刻を争うような状況ではないのだろう。
「魔王様。正確な情報ではありません」
「構わない。状況を知りたい」
「はい」
セバスがミアを見る。
ミアが、ソファーから立ち上がろうとするのを、手で制する。
ミアが、ソファーに座りなおした。
浅く腰掛けて、背筋を伸ばして、まっすぐに俺を見つめている。
「神聖国と連合国と王国が、紛争の準備を行っております」
「ターゲットは解るか?」
「情報の入手が出来ていませんが・・・」
「いい。今、解っている情報と、今の時点でミアが考えるターゲットを教えてくれ」
「はい!私が、主導しているのは、神聖国です。帝国がターゲットになっていると思います」
「なぜ、そう考えた?」
ミアの説明は、理論的に考えれば、可能性としては高そうだ。
しかし・・・。
「皇国は動かないのか?」
「動きはありません」
「皇国と連合国の動きに注意してくれ、あとは、皆の意見を聞いてからにしよう。今、結論を出す必要はない」
「「はっ」」
休暇の終わりかな?
セバス、ミアと違う意見がありそうだ。
神聖国が、帝国を攻めるメリットは?魔王カミドネの台頭で、各国のバランスが崩れたのか?
王国と皇国か?今まで、静かに静観していただけに不気味だ。