第二十六話 平穏
連合国側に作った砦の機能は大丈夫だ。
最初はモニタリングをしていたが、セバスたちに任せてしまっている。最初に俺が設定したハウスは不評だった。やりすぎだと酷評だった。
連合国側に作った
新しく作った砦の鍵となる家は、連合国にあるギルドから、”ギミックハウス”とか呼ばれ始めているらしい。
攻略者への対応が、リポップする魔物で対処が十分だとは思わなかった。メルヒオールとか名乗った、神聖ギルドに寝返った奴が言っていたけど、最初は信じられなかった。
実際に、奴らが名付けたギミックハウスで試してみた。
モミジが担当したギミックハウスで、リポップする魔物だけで罠を設置した。確かに、魔物はそれほど強くない。メアやヒアでも十分に討伐できる程度で、知恵もないから連携もしない。ようするに、ただ暴れるだけの力や速度がある生き物だ。生きるために、食べる必要がないから、本当にただ暴れるだけだ。ゲームでよくある。一定の法則で動いて、攻撃をしてくる。離れたら、スキルを使う魔物は存在するが、単純なスキルで単体なので、攻撃というにはお粗末だ。
最初は戸惑うかもしれないが、対処がわかってしまえば、簡単な作業になってしまう。
メアやヒアたちにも、観察して情報を共有するように教えたら、カンウやバチョウが格上と認定したリポップする魔物でも、倒せるようになった。死ななければ、情報を持ち帰る。持ち帰った情報を共有して、対応方法を研究する。そして、戦う。この繰り返しで、格上でも倒せるようになる。
絶対的な力の差があるような場合には難しいが、それでも情報が大切で、情報の積み重ねは共有しなければ、意味がないと考えてくれる。
ギミックハウスは、連合国側にだけ作った。しかし、要望があり、内部にも訓練用の施設として、構築した。
内部に作った施設は、俺かセバスかモミジが罠を設置する。俺とセバスとモミジが設置するのは、攻略者に褒美が出るからだ。
今では、元奴隷だけでなく、セバスとモミジ以外の者たちも、従者となる元奴隷たちを連れてアタックを行っている。
ポイントは、城塞村だけではなく、最近では連合国側に作った村からも獲得している。砦の外側に作ったギミックハウスからもポイントが回収できている。収支は完全に黒字状態で、ポイントが溜まっていく状況だ。貯めておけばいいのだが、皆が利用したいと懇願した施設なので、ポイントを大量に使って基礎を作った。
”致死に至る攻撃を受けた場合に、入り口に戻される”罠を作成した。
”ギミックハウス内で受けた傷は治る”罠を作成した。
これらで、数百万のポイントが必要だったが後悔はない。維持費が高くないのが嬉しい誤算だ。
それでも、メアやヒアたちが怪我をしたり、欠損したり、それこそ死んでしまうような状況になるのを回避できるのなら安いものだ。
今日も誰かが挑戦をしている。
バチョウが、元奴隷たちとパーティを組んで挑戦を始めた。
内部のギミックハウスは、5階建てになっている。
簡単な謎解きも作られている。全部の謎を解いて、ギミックハウスの中に隠されている鍵を持ち帰れば、侵入者の勝利となる。もちろん、鍵を探し出すだけでは駄目で、しっかりとギミックハウスから脱出しなければならない。
脳筋だけの挑戦だな。
これは、攻略は難しいかな?
罠の発見は、なんとかなりそうだけど、謎解きが無理そうだな。最初は、簡単な足し算と引き算だけだけど、列強の情報を選択するクイズでは10問連続で正解しないと駄目な謎解きが設置されている。確か、作ったのはモミジだけど、バチョウやカンウの配下が、周辺国を軽く見て、情報を覚えようとしないという理由で設置していた。
リポップする魔物は、試験的にいくつかのモーションができるようにしてみた。
リポップした魔物同士で、連携が行えるようにしてみたが、まだ情報が得られていないのか、通常のホブゴブリンだと思ったのか、攻撃を仕掛けたら連携して攻撃を回避されて、奥からアーチャホブゴブリンからの攻撃を受けて、驚愕している。
簡単な連携だが、戦いが急激に難しくなる。
リポップする魔物に命令を与えるのは難しい。不可能ではないが、リポップしたときに、命令を植え付ける必要がある。
俺とセバスで研究した。
リポップした魔物に、命令を与える罠の作成に成功した。内部に作ったギミックハウスは、新しい罠の実験にも使われる場所になった。
バチョウたちは、4階まで上がって、1階に降りた。
やっと半分だな。内部のギミックハウスは、いくつかの形状が用意されている。バチョウたちが挑戦しているのは、距離は長くなっているが、戦闘がメインのギミックハウスだ。訓練にもなるので、人気は高い。実際に、何度かメアとヒアに攻略されている。
表のギミックハウスは、攻略したら鍵が入手できるだけだが、内部のギミックハウスは、攻略した場合には、スキルが付与される。最初は、ランダムにスキルを付与していたが、それではスキルがダブってしまう場合もあったために、攻略時にポイントが与えられて、そのポイントでスキルが取得できるように変更された。
ポイントは、俺が持っているポイントと同じなのだが、その場で使わなければ、貯めておいて高価な物と交換してもよい。問題は、渡すスキルの選択だが、考えるのが面倒なので、セバスに”丸投げ”した。
ギミックハウスでの戦闘を見ていると、扉がノックされた。
セバスが訪ねてきたようだ。
今日は、予定にはなかったが、なにか新たな情報が入ったのかもしれない。
「どうした?」
「はい。これが、ギルド経由で届きました」
宛名は、”魔王ルブラン”となっているが、セバスが中身を確認して、俺宛だと判断をしたようだ。
中身を確認する。
簡単に言えば、神聖国からの注文だ。
回復や解毒などの”癒やしの御業”は、神聖国が管理しているから、スクロールの配布を止め、情報を公開しろと言ってきている。それも、丁寧に教皇のサイン入りだ。
「バカなのか?」
「どうでしょう。身代わりの可能性もありますが・・・」
「それでも、神聖国は、魔王が教皇だと言っているのだぞ?」
「そうですが、どういたしますか?」
「ん?どうする?とは?」
「神聖国への対応ですが・・・」
「そうだな・・・。そうだ、セバス!」
近くにあった最高級な紙をとって、ボールペンで・・・。
”それがどうした!悔しかったら、攻めて来い”
魔王ルブランの印章を貼り付ける。
これで、魔王ルブランからの返答になる。
「セバス。これは、返事として突き返せ、使者が来ているのなら、丁重にもてなして、ドッペルで作った首と一緒に送り返せ」
「はい」
「それから、帝国だけではなく、周辺国に神聖国から魔王ルブランに、”こんな”脅しが来たと知らせてやれ、カプレカ島や城塞村に来ている商人にも教えてやれ」
「はい」
各国の上層部は知っているだろうけど・・・。商人にまで情報が回っているとは思えない。
だから、神聖国の教皇が”魔王”である可能性が語られれば、状況が動く可能性がある。必死に否定をすれば、怪しく見えるだろう。肯定すれば、魔王ルブランを悪の手先だと一方的な糾弾をすることが難しくなる。どっちに転んでも、俺としては痛くも痒くもない。これで、神聖国の魔王が俺を”敵”認定したとしても、とっくに”敵”になっているのだ。今更、感情に憎しみが追加されても、俺としては困る状況にはならない。
そもそも、困った状況になったとしても、構わない。
奴隷たちは、名前で縛っているつもりはないが、実際には名前で縛られている状況だ。裏切られるとは思っていないけど、洗脳されたり、騙されたり、脅されて、裏切ってしまう場合でも、対処が可能な状況になっている。
魔王ルブランが、魔王ではなく、裏に別の魔王がいると知られても、別に困らない。
さて、他の魔王を煽っているけど、俺たちは平穏・・・。平穏、そのものだ。