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第九話 【奴隷】


 村が人族に襲われた。大人たちは、殺された。お父さんもお母さんも隣のおじちゃんも・・・。

 私たちは、そのまま人族が治める国に、移動させられた。
 妹と私は、奴隷にさせられた。国に治めるお金を誤魔化したとか言われて、殴られて、首輪を付けられた。。

 奴隷にされて、首輪を付けられて、そして、違う国に・・・・。

 そこで、私たち姉妹と同じように連れてこられた、子どもたちと、粗末な建物に押し込まれた。
 一日一回、固くなったパンが与えられるだけの生活。

 何人も死んでいく・・・。私たちが何をした!勝手に攻めてきて、捕らえて、住まわせて、奴隷にした。

 今日も、一人が死んだ。
 皆の目が死んでいく、生きる希望をなくしていく、妹も泣かなくなった。泣くと、殴られるからだ。

 誰も喋らなくなった。部屋の隅で丸くなっている。動くとお腹がへる。しゃべると殴られる。殴られて、切られて、殺される。

 何日、過ごしたのかわからない。寝るのが怖い。妹と離れるのが怖い。死にたくない。死にたい。こんなに辛いのなら・・・。でも死ねない。お父さんとお母さんが、最後に私に言った。『生きて』と・・・。
 だから、私は死なない。

 帝国という場所に移動させられた。

 魔王の討伐に向かうのだと教えられた。
 栄誉?なにそれ?

 それから、歩き続けて、白い壁の前までたどり着いた。

 白い壁がなくなったら、壁に向ってゆっくりと歩けと命令された、従わないと首輪が絞まる。

 逆らったら首輪が絞まって、死んでしまう。逆らわなくても、少しでも遅いと首が痛くなる。

 白い壁が消えたら、また壁が現れた。白い壁が消えたら、前に歩き出せと言われていたので、歩こうとしたら、止められた。何か、問題があったのだろうか?私たちは、皆が身体を強張らせる。首輪が絞まらなかった。

 最初は、私たちだけでしたが、私と同じか、私よりも小さい子どもたちが、連れて行かれた。妹も、違う場所に・・・。もう会えないかも・・・。

 それから、どのくらい立っていたかわからないけど、前に進めと言われた。

 前に進んだ。いきなり、地面が光った。隣に居た男の子が”罠だ”と叫んだのは聞こえた。

 え?ここは?どこ?

 檻?なの?私たちは捕まったの?魔王に?

「お姉ちゃん!」

 え?妹が私に飛びついてきた。

「あのね!首輪が」「どうしたの?痛いの?」

「ううん。首輪がゆるくなったの!」

「え?」

 妹に言われて、確認したら首輪が取れそうなくらいに緩くなっている。
 でも、奴隷の首輪は外すと、死んでしまう。皆もわかっているのだろう、緩くなったのを喜んでいるけど、外そうとはしない。

「あのね」

 妹が言うには、村で友達だった子も、ここに捕まっているようだ。

 本当に、ここはどこだろう?
 正直な話・・・。どこだろうと、関係がない。妹と一緒に居られるのなら、ここが、魔王城の中でも構わない。妹と一緒に生きていられるのなら、魔王にだって従う。

 年長者が集まって話をすることにした。
 狐人族では、私が年長だった。私は、まだ成人前で名前を持っていない。他の種族の年長者も同じだ。皆が、成人前の年齢だ。

 ここに居るのは、獣人と人族だけのようだ。
 そして、誰もこの状況を理解していない。皆が、不可解な状況だということだけがわかっている状況だ。

 獣人族と人族なので代表は二人ですが、獣人族は、種別が複数存在している。種別で、まとまったほうが、最初はいいだろうという意見になり、種別で代表を出して、代表で話し合いをすることになった。

 話の中で、獣人族の半数以上が、集落を襲われた、子供だけが残されて・・・。私たち姉妹と同じ境遇になっていた。人族や半数の獣人族は、そもそもが、街のスラムや孤児院で生活をしていた者たちだ。スラムや孤児院の人たちは、私たちよりもひどい状況のようだ。

 ここに捕らえられているのは、丁度300人。
 全員に話を聞いて、この中に身内は居るけど、他には居ない者ばかりだと解った。

 話し合いは続けましたが、何もわからない。
 大人たちの話を聞いて、ここが”産まれたばかりの魔王城”だと知ったが、現状の解決には、何も寄与しない。

 ただ、皆の意見は同じで・・・。生きたい。戻りたくない。

 人族は仮の名前を持っていただ、奴隷になったときに、名前はなくなったと言っている。獣人族は、成人の時に名前を貰うので、名前を持っている者はいなかった。

「え?」

 何か、罠が発動した。
 慌てて、年長者たちは、罠を感じた場所に移動すると、大量のパンと樽と綺麗な貴族が使うような布とやはり綺麗な毛布が大量に現れた。

 聞いたことがある。パンに毒を仕込んで、奴隷を始末する方法を・・・。

 妹や子供たちは、今にもパンに群がりそうになっている。
 私たちも、何日もまともに食べていない。パンからは、すごくいい匂いがしている。

「おい!誰か、文字が読めないか!」

「簡単な文字なら、読める」

 人族の年長者が、手を挙げる。
 パンと樽の近くに、綺麗な紙に文字が書かれていた。

「魔王様からの・・・」

 人族の年長者が、文章を読み上げる。
 信じられないような内容が書かれていた。

 私たちへの食事だと書かれていた。
 それも、パンと干し肉だ。水も沢山ある。タオルを使って、身体を綺麗にしろとも書かれていた。こんな綺麗なタオルは使えない。

 年長者で集まって、話をした。
 先に私たち年長者の半数が確認する。毒が入っていて、死ぬのだとしても、半数だけだ。

 私は、水を飲むことになった。

「おっ・・・」「お姉ちゃん!」

「あっ・・・」

 私は、泣いている。
 お水が、村で飲んでいた、美味しいお水だ。腐ったような匂いも、変な匂いもしない。おいしい水だ。

 パンを食べた者も、干し肉を食べた者も、涙を流している。

 確認した、年長者が集まって、年少者から、パンと干し肉を配ることにした。お水は、飲みたくなったら、飲んでいいとなった。魔王様が、身体を拭くように沢山のお水を用意してくださったのだけど、タオルは恐れ多くて使えない。毛布も二人で1枚を使うことにした。それでも、ふかふかの毛布は暖かかった。妹と一緒に毛布に包まって目を閉じた。

 これが夢でないといいな。

---

「おい!まだ門が開かないのか!」

「殿下。もう暫く、もう暫く、お待ち下さい。門の場所は把握しております」

「壊せないのか!」

「はっ。しかし・・・」

「なんだ?言ってみろ」

「はっ。あの場所では、攻城兵器は使えません」

「なに?」

「足場は、我らが作った簡易的な橋です。門の前では近すぎて、使えません」

「それなら、罠の手前から攻撃は出来ないのか?」

「それですと、遠くて精度が落ちます。近くに居る。ど」「構わぬ。奴隷が死んでも、騎士が居れば問題はない」

「しかし・・」

「実行しろ。生まれたての魔王にバカにされて、何もしないで帰られるか!」

 殿下の命令が実行されるが、攻城兵器が攻撃を開始する。
 しかし、門は門のまま存在し続けた。攻城兵器と言っても、産まれたばかりの魔王への対応だったために、岩を飛ばす兵器しか持ってきていない。本格的な攻城戦になるとは誰も考えていなかった。

 第十五番隊から提案された、奴隷で罠を食いつぶす作成が失敗した時点で、討伐部隊は撤退すべきだったのだ。

 殿下の状況を観察しない攻略命令を場当たり的に実行するだけで、攻略が出来るほど、495代目の当主は優しくなかった。

 門が破壊されないのは、門が”罠”で構成されていて、物理的な破壊が不可能な状態になっている。もし、帝国の討伐部隊が、門の破壊が不可能な状況を不審に思って、門以外の壁を攻撃していれば、状況が変わった可能性はあるが、門以外は、壁の間際まで落とし穴が存在していて近づくことが出来ない。必然的に中に入るルートは、門に絞られる。絞られるわけではないが、絞るように誘導されている。

 討伐部隊と魔王の前哨戦は、魔王が優勢にすすめている。

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