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第二十一話 反響


 初めてのオークションが終わった。商品の引き渡しも終わった。

「ユウキ。時間を貰えるか?」

「大丈夫です」

 森田が、拠点にあるユウキの部屋にやってきて、ユウキに資料を渡した。

「これは?」

「ユウキが望んでいた情報だ」

「え?もう?」

「・・・。あぁ」

「愚かですね」

「俺もそう思う。でも、暫くは無視するのだろう?」

「もちろん、焦らすだけ、焦らします。俺たちの唯一と言ってもよかった弱点・・・。母も父も、こちらに来てくれています。弟や妹に関しても、安全の確保が出来ています」

「そっちは、安心してくれ、先生が全力で守ると約束している」

「はい。それ以外にも、いろいろ仕込んでいます。抑止力では、馬込さんに力をお借りできてよかったです。俺たちでは、抑止力を持つのは難しかった」

「そうだな。そう思うことにしておくよ」

 森田は、気がついている。ユウキたちが、抑止力を持とうと思ったら、国を相手にしても大丈夫な”戦闘力”を持っていると。実際、ユウキたちが本気で魔法を発動すれば、核兵器よりも環境に優しく、人だけを殺せるだろう。狙った人だけを殺すことも可能だろう。そして、ユウキたちが使っている武器で弱い物でも、車を切断することは容易だ。

 だが、世間に公表しているのは、ポーションなどの”薬”になるような物だ。魔法ではっきりと”使える”と明言している技術は存在しない。
 身体能力が向上しているのは、生活の場を共有していると実感できるのだが、マスコミが報じる情報や、意図して流している情報から読み取るのは難しい。世間には、伊豆に引っ込んだ理由は、マスコミの接触を嫌って、”静かに生活を営みたい”という建前を伝えている。また、異世界の環境に近い場所での”リハビリを行っている”という噂もしっかりと流している。

「森田さん。次のオークションを開始したいのですが?」

「ん?準備は出来ている。アイテムは?」

「はい。リストを作っているので、後で送ります」

「わかった。それで、いつから始める?」

「そうですね。次の月曜日から、10日間で、どうでしょう」

 ユウキは、森田から渡された資料をパラパラ見ながら、考え込んでいた。

「わかった。先生にも伝えておく、佐川さんたちの資料は間に合うのか?」

「最初は、なしで考えています」

「ん?最初は?」

「はい。すぐに、同じアイテムで三回目の実行を考えています。違うのは三回目には、成分表を合わせて資料をつけることです

「・・・。わかった」

 森田は、ユウキが資料に目を落としているのに気がついている。
 そして、資料の一部に、とある政治家に関わる団体が、ユウキの身元を調べて、アクションを起こしていることが書かれていた。

「お願いします」

「本丸の前に、三の丸を落とすのか?」

「いえ、三の丸ではないでしょう。いいところ、櫓ですよ」

「そうだな」

 森田は、軽く手を振ってから、部屋から出た。
 ユウキは、資料に目を落としながら、自分の考えをまとめ始める。

 単純に命を奪うだけの復讐なら、明日にでも実現は可能だ。ユウキには、誰にも知られないで殺す方法がある。しかし、それでは、ユウキの気持ちがおさまらない。

「まだだ。まずは、手足を奪ってから、母さんや父さんが受けた行為の百万分の一でも・・・。殺すだけでは、ダメだ。意味がない。絶望を味あわせてやる」

 第二回目のオークションは、静かには始まらなかった。
 予告されていたこともあり、発表の当日には想定していた10倍のアクセスが有った。

 ポーションには、前回を上回る入札が殺到している。日本国内だけではなく、アメリカや欧州からの入札も増えている。中級のポーションが人気のようだ。森田の分析からユウキは中級のポーションを多めに出すことにした。
 そして、ステータスアップのポーションを、解りやすいだろうということで、力が10%アップするポーションと速度が10%アップするポーションを二本ずつオークションに出すことにしている。説明は、”一定時間、力が10%アップする”と”一定時間、速度が10%アップする”とだけ書いてある。

 第二回目のオークションは、中級のポーションは欧州から入札してきた者が競り落とした。すぐに、振り込みが行われて、ポーションを受け取りに来るのだと連絡が来た。そして、できることなら、その場でポーションを使って、”傷を治したい”と願い出てきた。

「今川さん。どういうことですか?」

 今川が入札相手とのやり取りをしていた。言葉の問題から、森田ではなく今川が手伝いを申し出ていた。

「あぁ相手は、フランスの金持ちだ」

「フランス?」

「そうだ。顔の怪我を治したい・・・。らしい」

「顔?中級だと、一度、怪我を抉る必要がありますよ?」

「説明はしたけど、それでも・・・。それで、問題は・・・」

「問題があるのですか?」

「問題は、治したい人物が、12歳の女の子だ」

「え?」

「火事で、顔に火傷を・・・。それで、ポーションの話を聞きつけて、是が非でも落札して、娘に使用したい。と、いう話だ」

「うーん。止めないけど、今の話だと、火傷は顔だけに聞こえますが?」

「首筋にかけてだ。それにも左側で目も見えないらしい。他にも、左半身に火傷の痕があるようだ」

「中級だと目は治りませんよ?」

「それは伝えた。それでも、顔の火傷が治るだけでも・・・。と、考えているようだ」

「うーん。顔だと、動画の撮影はなしですよね?」

「あぁ」

「前後の比較程度は、考えているのですか?」

「そうだ。主治医が一緒に来日するようだ」

「その方々は、秘密厳守ができる人ですか?」

「秘密?」

「はい」

「どうだろう。火傷が治れば、社交界に連れて行くだろう。俺も、軽く調べたら、社交界では有名な話みたいだぞ」

 その金持ちは、移民の子孫だという。行き過ぎた正義の暴走で、テロ行為の犠牲になった。移民に反対するグループの一部が過激な行動に出た。移民で成功して、富を得たものに対するやっかみも含まれていただろう。
 少女が、10歳の時に乗っていた車が、過激派に襲われた。少女は左半身に火傷をおった。少女は、火傷だけで済んだが、両親と7歳になる弟は命を落とした。同時に、運転手の命も奪われた。生き残ったのは、少女だけだった。

「犯人は捕まったの?」

「あぁ捕まったが、何の意味もない」

「・・・。わかった。受け入れよう。それで、”ここでのことは他言しない”という約束を守ってもらえるのなら、心の傷は無理だけど、身体の傷はなんとかするよ。先方にそう伝えて、主治医が居るのなら、主治医の目の前で対応してもいい」

「助かるよ。ユウキが何をしようとしているのか、わからないが、先方には、ユウキの言葉として伝える」

「お願いします」

 今川が使っている部屋から、ユウキが出ると、廊下で森田とすれ違った。

「ユウキ。丁度、よかった」

「どうしました?」

「低級のポーションの余剰はあるか?」

「ありますよ?何本、必要ですか?」

「2-3本もあれば、十分だが、5本ほど貰えると助かる」

 森田は、二回目のオークションからシステム周りだけを見ていて、落札者との連絡を含めてノータッチになっている。今川と森下が担当を変わった。法律の問題や情報収集が必要な場面が多くなると予測されての変更だ。

「わかりました。準備します」

「後で取りに行く」

「今回は?」

「同じだよ」

「そうですか・・・」

 森田の顧客は---馬込からの紹介も含まれているが---著名人や政治に携わる者まで顧客として存在している。依存症にも効果があることが判明してからは、裏からの反響が大きくなった。知られたくない状況になっている者が多いということだろう。
 もちろん全部に対応しているわけではない。顧客の選択は、馬込に一任されている。

「お!そうだ、ユウキ。偽物が出たぞ。今、足跡を追っている」

「早くはないですね。それで?」

「もともと、絞っている奴らなら、すぐに判明する。別物だと、時間がかかる可能性が高いな」

「わかりました。すぐに解ることを期待しています」

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