第四十四話 そのころ(2)
おっさんが、拠点の建築をドワーフの代表であるゲラルトと行っている。
ダミー拠点は、自分たちの屋敷と宿に使える建物と商店に使える建物とギルドに使える建物を建築した所で、適度な広さを持つ様に城壁を建築した。
街道側に二重の門を設置した。
城壁は、おっさんの趣味で星形になっている。三角形部分は独立した防衛のための施設になっている。内部の五角形部分に施設がまとまっている。防衛の為の塔は作っていないが土台だけは準備している。
住民が増えたら塔の建築を行えばよいと思っている。
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おっさんが、ダミー拠点の出来にご満悦になっている頃・・・。
カリンは、バステトと黄龍から紹介された白蛇を連れている。
黄龍の眷属は居ないが、黄龍を崇めている白蛇族が存在していた。その中から、カリンと相性がよく探索と護衛に適したスキルを持つ者が、探索に付き合っている。
「バステトさん」
カリンが声をかけると前を歩いていたバステトが振り返る。
バステトの上には、白蛇が乗っている。
バステトが聖獣としての訓練の為に、魔物の駆除を最低限にしている為に、白蛇が護衛役を担っている。
”にゃ!”
大丈夫とだけ伝えて、前を向いて歩き始める。
今回は、野営を行って山の麓をしっかりと探索を行う予定にしている。
機関は、5日ほどの予定にしている。
過保護なおっさんは、食料などを
バステトだけでも過剰戦力な感じもするが、バステトが常にカリンに張り付いているわけではない。
おっさんは、カリンの戦闘力もスキルも信頼をしているが、護衛は絶対に二人以上が好ましいと考えている。複数の人を護衛として一緒に行かせようと考えていたが、黄龍にあまり大人数で動くと、それだけで魔物の歓心を買って襲われるリスクが上がると言われて、バステトと白蛇だけで送り出した。
山の麓の開けた場所を、ベースにして探索を行っている。
3日目に、ベースに作ったテントでカリンが目覚める。
違和感を覚えて目が覚めた。
「あれ?バステトさん?白蛇くんも・・・。居ない?」
両者が、カリンの側から離れることはない。
護衛の役割がある為に、どちらかは必ず近くに居る。テントの中で寝る時には、必ず側に居る。
『起きたか?』
そこには、緋色の目を持ち、漆黒と言えるような身体から緋色の翼が生えている。素晴らしく美しい一羽の鳥が居た。
白蛇は、テントの入口で警戒に当たっている。
バステトは、テントの入口から少しだけ離れた位置に座っている。
カリンは、バステトの様子から、危険がないと判断した。白蛇が警戒しているのは、生き物としての格が違うために、警戒をしても意味がないが、黄龍やおっさんから、カリンを守れと命令されているために、精一杯の抵抗として、テントの前で威嚇している。
カリンは、鳥からの問いかけが、自分にしか聞こえていないのだろうと判断して、まずは、白蛇を落ち着かせる。
白蛇の頭を撫でながら、大丈夫だと伝える。
『起きたのか?』
「はい。お待たせしてしまったようで、もうしわけありません」
『構わぬ。承知している。面白いことを考える者だ』
「え?バステトさんが説明したの?」
『バステト?』
”にゃ”
『読めない文字だが、我もバステトと呼んでいいのか?』
”にゃにゃ”
『そうか、承諾した』
”にゃぁにゃにゃにゃぁ”
『そうだな。5000年くらい経ったか?白虎の先代は?』
”にゃ”
『そうか、今代の白虎は異世界から来たのだな』
”にゃにゃ”
『娘。近くに来て欲しい』
「え?あっはい」
『娘。我に、名を・・・』
「いいのですか?」
『我ら朱雀は、次代も育っている。守りは問題ではない』
「そうなのですか?」
『それに、貴殿たちは、封印されている者を倒すのだろう?我ら、聖獣の力が必要になるだろう』
「ありがとうございます」
『娘よ。我と契約してよいのか?もう、人としての
「構いません。私の
『そうか・・・。人は強いな。バステトよ』
”にゃ!”
「朱雀。貴方には、性別はあるの?」
『人が考える性別では、”女”になる』
「わかった。貴方の名前は、”
『和が名は、シュリ。
「シュリ。カリンと呼んで欲しい」
『わかった。カリン』
朱雀は、シュリという名を与えられて、カリンと契約を結んだ。
残りの二日をかけて、カリンはシュリとの戦闘訓練をして、連携して魔物を倒す訓練を行った。
バステトと白蛇は自分たちの役割が変わったと考えて、テントの周りでまったり過ごしていた。
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カリンがシュリを眷属して、寿命の概念が外れた存在になった頃・・・。
王都に残っている勇者たちにも変化が訪れていた。
変化の前に、現状が酷い物だ。
勇者たちは、傲慢に、そして、傲慢に振舞っていた。
他の勇者たちも同じように、奴隷をいたぶって何も感じない精神状態になってしまっている。
そして、
白銀に輝いている聖剣は、徐々に濁り始めて、最近では浅黒く鈍く光を放つようになっていた。
勇者同士は、既に連携を考えられないほどに拗れてしまっている。
会話らしい会話もない。挨拶をしない事も多い。
元々は、おっさんが仕組んだ毒が回り始めているのだが、自業自得の側面が強い。
おっさんが特許として登録した物は、辺境伯の派閥や中立派閥の者たちに権利として譲渡していた。
辺境伯の派閥や中立派の貴族たちが持つ権利は、当初は誰でも使えるように思えていた。しかし、商品が氾濫してきた時に、権利の行使が行われた。それも示し合わせたかのように一斉に・・・。
困ったのは、宰相派閥や皇帝派閥の者たちだ。特に、勇者を抱え込んで、勇者が求める物を与えていた者たちは、莫大なイエーンを請求されることになる。これは、商人からの要求なら、踏み倒したり、商人に罪を着せて投獄したり、無茶を言って揉み消すのだが、相手は同格かそれ以上の者たちだ。後ろには、敵対派閥が存在している。
そこに、奴隷条例が加わった。
ダメージは、貴族家が潰されるほどの事ではないが、確実に派閥のパワーバランスが崩れた。
勇者を確保した宰相派閥と皇帝派閥の者たちは、我が世の春から一気に叩き落された。
イエーンがなくなることはないが、予算が組めなくなる自体になってしまった。
我儘な勇者にも当然の様に皺寄せは行われる。
元々は、勇者の我儘から始まった自体だ。勇者が貴族家を盥回しにされる事態になった。
勇者たちも、盥回しにされる現状になって、自分たちの立場が以前と変わって来た事を、肌で感じ始めていた。
しかし、一度知ってしまった甘い蜜の味を忘れる事が出来ない。
それなら、どうしたらいいのか?
自分たちで、おっさんと同じように開発が出来ればいいのだが、人生経験の違いなのか、知識としては持っているが、詳細は解らない。詳細が解らない曖昧な情報を伝えて、開発を貴族家に託す。
開発費だけが積み上がっていく、実際に出来た物は、勇者たちが考える物から劣っていた。そして、それらの特許は既におっさんが申請を行っている状況だ。
簡単に言えば、勇者たちは追い詰められていた。