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第四十一話 移動


 光が収まって、バステトの姿を見た、おっさんとカリンは唖然としていた。

 白虎が、おっさんを見ていた。

「バステトさん?」

”にゃ”

 鳴き声が多少は低くなっているが、バステトと同じ鳴き方だ。

『ほぉ。バステト殿は、やはり”白虎(びゃっこ)”だったのか?』

”にゃにゃ”

『なに?違うのか?』

”にゃぁに、にゃ!”

 バステトの言葉に、おっさんとカリンが安堵の表情を浮かべる。

 ”白虎”になったのは、力の制御が出来ていないからであって、本来は”猫”の姿が本来の姿だと説明をしている。
 制御には、訓練が必要になるが、明日には姿が戻ると言っている。これからも、猫の姿で生活をすると説明をしている。

 特に、カリンは”猫”のバステトの姿が気に入っている。可愛がっていると言ってもいい。だから、虎サイズになってしまったバステトを見て、おっさんよりもカリンの方がダメージを受けていた。

『バステト殿。聖域を作るのなら、我らが治める場所にしてはどうだ?』

 ぎょっとしたのは、おっさんだ。
 黄龍たちが治めるのは、”何か”を封印している場所の近くだ。確かに聖域が作成されれば、黄龍たちの負担が減らせる。

「黄龍様。聖域の場所ですが、この場所ではダメなのでしょうか?」

『ダメではないが、我らが居る場所なら、敵対する者は存在しない』

「封印されている者が居ると伺いましたが?」

『そうじゃ』

 おっさんは、封印の状況次第では、黄龍だけではなく、龍族の庇護が受けられる可能性を考えている。

「封印が破られる心配は無いのでしょうか?」

『ない。我らの結界と聖域が合わされば、奴の力でも不可能だ』

「そうですか・・」

『しかし、奴を深くに封印されている為に、ダンジョン化してしまっている』

「え?」

『ダンジョンじゃ?知らないのか?』

「いえ、言葉通りのダンジョンなら知っています。魔物が湧いて出て来る場所で合っていますか?」

『その認識で合っている』

「魔物が足下に居るのは落ち着かないのですが?」

『大丈夫だ。奴らは、聖域と我らの結界には入って来られない』

「ダンジョンが魔物で溢れる事は無いのですか?」

『ない。それに、上層部分は弱い魔物しか居ない。まーさんやカリン殿ならば、中層でも余裕を持って戦える』

「え?上層?中層?ダンジョンは、どのくらいの深さがあるのですか?」

『我らも全てを把握しているわけではないが、100階層ほどだ。最下層に、奴が封印されている』

 おっさんは、黄龍との会話が成り立たないものと考えていた。
 しっかりと望む答えが返ってきていたので、質問を繰り返した。一定の答えが得られたうえに、これ以上の質問は”野暮”だと考えた。おっさんが、バステトを見ると、バステトも視線に気が付いて、鳴き声でフォローを入れた。

「黄龍様。ありがとうございます。また、何か聞きたい事が出来ましたら、バステトさんを通してお聞きしますが、よろしいでしょうか?」

『大丈夫だ。それに、我らは、貴殿たちに興味がある。聖獣の主であるまーさんには興味が強い』

 黄龍の”まーさんに興味がある”発言は、バステトさんが納得するように鳴いて、カリンが嬉しそうにする。そして、おっさんは少しだけ嫌そうな表情をするが、すぐに表情を作ったのは場数を重ねているからだろう。

「黄龍様」

『なんだ?カリン殿』

「さきほどのダンジョンですが、私やまーさんやバステトさんが入るのは大丈夫なのでしょうか?あと、近くの街に居る者たちを鍛えるために使う事はできますか?」

『魔物を倒すのか?』

「はい」

『是非、頼みたい。我らでは、結界を壊してしまう可能性がある』

「まーさん。決めちゃいましょう!」

「え?カリンは、街に住むと思っていた」

「えぇ酷い。保護者なら、最後まで面倒を見てくださいよ!」

「俺が・・・。まぁいいかぁ。成人するまでだからな」

「はい!あっ!そうだ。実は私・・・。黙っていましたが・・・。”きらきら星の高等生命体で、十九歳になったら逆に若返るのです。そして十五歳まで若返ったら、また十九歳までは年をとることになっています。このループを永遠に繰り返します”だから、成人はしません!」

「なぜ、カリンがそのネタを知っている!」

「パパが大好きで、LDとDVDとBDを持っていました。小説も、徳間の奴と創元社の奴と文庫を持っていました」

「そりゃぁ凄いな。きらきら星のお嬢さんの家の素材も準備してあるから、大丈夫だけど、最初は街に居た方がいいぞ?」

「あっ。でも、領都に、王都から視察が来るらしいですよ?」

「ん?ダストンは、何も言っていなかったぞ?イーリスからか?」

「いえ、ギルドで教えてもらった情報です」

「そうか・・・。それなら、さっさと、森に逃げ込むか?」

「はい!」

”にゃ!”

『話は決まったか?』

「はい。黄龍様のご提案に乗ろうと思います」

『今から移動するか?場所は、バステト殿が知っている』

「わかりました」

”にゃにゃにゃ!”

「バステトさん。お願いします」

『我は、皆に仔細を伝える』

「わかりました」

 黄龍は、空に舞い上がり、そのまま森の奥地に移動を開始した。

 おっさんとカリンは、バステトに場所の確認を行ってから、移動を開始した。

”にゃ”

「そうなのですか?」

”にゃにゃ”

「わかりました」

「まーさん?」

「さっきまで居た場所が、疑似的なセーフエリアになっているらしい」

「え?」

 おっさんは、バステトが説明した内容をかみ砕いて、カリンに伝える。

「それなら・・・」

「奥地は、住居として、人と会う時には、さっきの場所に作る拠点にした方がいいかもしれないな」

「はい!問題は、ダンジョンの入口ですね」

「それは、バステトさんと黄龍様に期待しよう」

「え?」

「入口の移動が出来れば、最良だけど、できなくても・・・。方法は、いろいろ考えられると思うぞ?」

 おっさんが提示した方法は、荒唐無稽と言われるような方法だけど、バステトが了承していることから、方法があるのだろう。
 転移は無理だと言っているので、地下を掘り進める方法が採用されるようだ。

 距離の問題もあるが、すぐに実施できることではないので、保留となった。

 広場から、おっさんたちの速足で移動をして5分くらいの距離で、バステトが後ろを振り向いた。黄龍が指示した場所に到着した。
 そこには、廃墟と呼んでも差し支えがないほどに壊れた建物が2-30ほど残された場所だ。

 黄龍の標準サイズでも狭く感じない程度の広さはある。

 中央にあるのが、石造りの神殿だ。
 この神殿だけは朽ち果てていない。

”にゃ”

 バステトが、石造りの神殿の前で、止まった。

「バステトさん。ここが、何かが封印されているダンジョンの入口ですか?」

”にゃ!”

「カリン。ここが目的地のようです。思っていた以上に広いですし、資材も周りに沢山あるようなので・・・」

「私は、まーさんと一緒でいいですよ?その方が、施設とか共有できていいですよ?」

「うーん。カリンが、いいのなら、そうしましょう」

「はい」

 おっさんは困った顔をしている。カリンが嬉しそうにしているから、カリンの望む形にしようと考えた。

 バステトは、神殿を中心にした聖域の作成を行い始める。

 おっさんとカリンは、廃墟となっている元村?を見て回って使えそうな物がないか確認を始める。
 修繕が出来そうな家があるのなら、仮住まいとして使おうと考えていた。

 広場に作る仮拠点は、領都で建築の依頼を出すつもりだ。
 神殿に作る家は、最初は自分たちで作ろうと考えた。

 おっさんはログハウスの知識はある。小さい物なら作ったことがあった。
 その為に、最初はログハウスから始めようとカリンと話し合って決めた。

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