バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第7話『開花』

 世界樹は一樹に語り終えると、選択肢を提示した。
 まだ見ぬ知らないことを伝えようと……。
 
 一樹は、自身のコントロールパネルを空間に投影して見せられる。
 まるで、ゲーム画面そのものが表示されていると、錯覚するほどになっている。

 世界樹はいう。大事なところは二箇所だと。
 種族レベルを上げて作れる物の「範囲」を広げよと。
 JOBレベルを上げて作る物の「品質」を上げよと。

 範囲を広げればいずれ記憶にある物も作れる可能性があると。

 ――ようやくわかった。
 
 作れる物の種類をどうやって増やしていくのかやり方を知り、迷いや戸惑いより期待の方が遥かに大きい。

 ――銃がいけるのか! 熱いぜ!

 今の話が本当なら銃も作れるかもしれない。現代兵器としては銃は欠かせないし、銃で無双ができるかも知れなく、一樹の期待が高まる。
 
 期待は純粋に、生きる糧にもなる。他につくりたい動機は、認められたい気持ちもあるのかもしれない。
 
 偽物であっても、本物を超えられる証明がしたいという気持ち。
 偽物でも本物より良いものが作れると。良い物で見返してやりたいと。
 素晴らしく品質の良い偽物が作れること。
 後は成功した暁には、追放した冒険者ギルドと教会に『ざまあみろ』といいたい。
 
 ――銃無双というよりは、脳ミソ無双だなこりゃあ。
 
 他人の脳がうまいなんて考えた日には、どんだけイカれた奴かと。
 だとしても事実はもう、脳がうまい。
 
 これだけ良い環境にもかかわらず、重い課題がのしかかるのは当然かもしれない。種族レベルを上げるには、相当な経験値量が必要なところだ。
 そこで、今のレベルをすべて賭して、大博打を打てる方法が一つだけある。ギャンブルマスターだ。彼女に言えば試せるはずだ。十倍以上の経験値を得るのか、それともマイナスになるか……。

 ――俺ってこんなにギャンブラーだっけか。

 賞金首である以上、ゆっくり確実になんて言っていられない事情もある。だからこそ一樹は決断し、世界樹からの話を終えると、ギャンブルマスターと共に下界に戻ってきた。ギャンブルマスターからの賭け事に乗るためだ。
 
 今になってふと一樹は、疑問を抱く。わざわざギャンブルをさせるように誘導するため、今頃になって言い出しのではないだろうかと。
 
 疑い出したらキリがないので、一樹は少なくとも今までのことから、悪いようにはされないだろうと思うようにした。

 やり方は非常に簡単だ。この女の白い手袋をした手のひらに手を重ねると、体の中心から「何か」が引っこ抜かれる。

 あとはシャッフルしたカードの中から、一枚をめくり引き当てた数字ですべてが決まる。範囲は、マイナス十からプラス十まである。一枚だけゼロがありそれは、決まった範囲の中で自由な数値を言える。

「さあ、準備はいい?」

「おっ、おう」

 俺は固唾を飲んでしまう。チャンスは一度、合図してから三秒以内に、一枚のカードを決めなければならない。

 ――マイナス十なんて出たら、人生終わりだ……。

 なぜかというと、今のレベルとカードからのマイナスの数値で乗算されてしまう。

「さっ! 決めて! 3……」

「チッ、どれなんだ!」

「2……。1……」

「これだああ!」

「0……。決めたわね。そしたら、まだよ? ゆっくりと裏返して。急にやると死ぬわ」

「マジか……」

 そういうことは先に言ってくれと思いつつも、緊張しながらゆっくりと裏がえす。すると見えた数字は8だった。

 ――来た! マイナスではない! プラスの方だ!

「おめでとう! これであなたは、大成長ね!」

「やったあああー! モグー! とったどおー!」

「モキュッ! モキュッ! モキュッ!」

 俺とモグーは、思わず小躍りしてしまうほどだ。俺の今のJOBはレベル10で、種族レベルは20までだった。今回のことでJOBは80になって、種族レベルはなんと160だ。嬉しすぎておかしくなる。



「よかったわね。私も久しぶりに当たりを見たわ。コンパネでさっそく見て見たら?」

「そうだな! どれどれ……。おおー」

 俺は目の前に展開したコンパネを開き、ステータスを確認すると、たしかになっていた。JOBが80で種族レベルが160に。

「どうやら大丈夫そうね」
 
「ん? マジか……。これで種類が見えるぞ」

 種族レベルを押すと、作れる種類がツリー構造で展開される。一樹は興奮のあまり、声が次第に大きくなっていった。
 
「作れるのはこれとこれで、作れないのはグレーアウトか。おっ! やっぱ銃もあるのかよ。まだグレーかぁ〜。ん? まだモザイクがかかっているのもあるな……」

 興奮する一樹の様子を見て微笑ましく感じているのか、ギャンブルマスターの白い燕尾服の女は、楽しそうに一樹の疑問に答えていた。

「その見えないモザイク表記はね、まだレベルがまったく足りていないからよ。グレーアウトは作れるレベルではないけど、認識はできるところまできているの。だからあとすこしかもね?」

 ――なるほどな。いわゆる予告みたいな物か。

 俺は納得し、もう興奮冷めやらぬだ。モグーもコンパネが見えるのかどことなく、俺の操作を目で追っているように見える。
 
「え〜っと。ここを押していくと……。おぉぉおーすげぇ。こうやって品質レベルを上げるのか!」
 
 対象となる名前の上をタップするだけで、簡単に上がる。
 確認画面が出ないから気をつけないと、最優先にしたい物を間違ったら大変だ。
 
「モキュ?」
 
 一樹は、なんとなく視界にはいったモグーも自動的に鑑定してしまった。恐ろしく手軽なほどの便利スキルと感嘆するばかりだ。

 ――エクスチェンジって、なんだ?

 一樹は思わず手で拡張現実のパネルに触れると突然、同じタイミングでモグーが飛び跳ねる。あまりの突然の挙動に一樹は心配になり、慌ててモグーへ声をかける。

「おっ、おい。大丈夫……か?」

 まるで感電したかのようにすっ飛んでいくと、繭のような白い煙に巻かれてから数分。晴れてくると、一瞬のうちに事態が急変した。なぜなら、全裸の美少女が現れたためだ。
 見た目は、背中まであるロングの髪型でモグーだと思わせる真っ白くキラキラと艶がある髪の毛だ。まつ毛は長く少し眠たそうな目は、愛らしいあのモグーの面影を思わせる。

 可愛らしく透き通るような声で、驚きを露わにするモグーの声が耳に届く。
 
「え?」
 
 同じように一樹も驚き、同じ言葉を返してしまう。
 
「え?」

 一樹と目の前の美少女はお互いに驚きを表す。とりあえず一樹の衣類をまとってもらい、想像した通りなのかもう一度声をかけてみた。
 
「モグー? だよ……な?」
 
「……うん」
 
「俺の言葉、わかるのか?」
 
「わかる……よ」

 お互いに初対面かのように、どこか照れくさい感覚で話しかけていた。

「すごいな……。モグーが人になっちまった」
 
「あたしもびっくり」

 もう一度見ると、エクスチェンジがグレーアウトしていて押せない。
 
「あっ!」
 
「ん? どうしたの?」

 一樹は迂闊に、ボタンを触ってしまっただけでなく、戻せないことに罪悪感が出てしまう。モグー自身が望んでしてくれと言ったわけでもなく、事故で変身してしまったためだ。
 
 しかも戻せないとなれば尚更、申し訳ない気持ちになる。
 
「元に戻せない……。すまん」
 
「ん? このままが嬉しいーよー。だって、一樹とこうして話せるし」

 モグーの気遣いなのか本心なのか、今は両方あるだろうと思いつつも、伝えられた気持ちで一樹は少し救われる。
 
「そっか、ありがとう。こんなことってあるんだな」
 
「うん。なんか、慣れないけど人ってこんな感じなのね」

 今までと異なる体のせいか、自分自身に触れて確認をしていた。ただ華奢な美少女になってしまうと、今後危険なダンジョンに連れ回すのには、少し抵抗を一樹は感じていた。
 
「ダンジョンにいくときは、どうするかな……」
 
「あたし、なんとなくこの姿でも魔法は使えそうだよ?」

 モグーのいう通り今までと同様に魔法が使えるなら、攻撃手段はあるから良いとしてもどうにも気がかりだった。それは、今までと異なり体が大きくなることで、攻撃対象として相手からみられてしまうことだ。

 ――待てよ。魔導書が作れるよな。
 
 一樹は、今後作れることを思い出し、魔法担当として成長してもらうのもありだと考えがよぎる。
 
「それなら……。俺が(偽)魔導書を作るから、それを覚えるのもいいかもしれないな」

 すると、ギャンブルマスターの女は、一樹とモグーのやりとりが落着したところで申し訳なさそうに声をかけてきた。

「ごめんなさいね。私が細かな部分をまだ伝えきれていなくて」

 一樹は、自身の興味本位であれこれと触れてしまったことが原因なので、まったく悪くないことを伝えた。
 むしろ新しいことを教えてもらえて、非常にたすかっていることも合わせて伝えた。コンパネのことなんて、感謝以外の何ものでもない。

「いやそんなことないって。コンパネの件は、感謝こそすれ決して責めることはしないさ。俺が不用心でしたことなんだ。気にしないでくれ。むしろ俺はあんたには感謝しかないよ」

「そう言ってくれるなら、よかったわ」

 あらためて一樹は、ギャンブルマスターの仮面のスリットから見える、目の輝きを直視していた。
 なぜか、鼓動が早まる。どこか昔あったような、なぜか思い出せない。

 そういえばこうして今があるのも冷静になってみると、見ず知らずの誰かの犠牲から成り立つ。今回はたまたま賭けに勝ったからいい。得た経験値の元となるのは他人の分だ。
 
 明日は我が身かもしれない思いで、末恐ろしいと一樹は考えていた。ただもうやらないから関係ないとも思っていた。
 
 そして白い燕尾服の女、ギャンブルマスターは一樹にいう。
 
「本物と偽物の境目に存在する初めての人だね。境界線へようこそ、新たな真贋境界のニンベン師の誕生だね」

 一樹は思いの外、言葉の響きが良いので先の気持ちは和らぐ。

「その言い方だとかっこいいな。たしかに偽物に振り切っているけどな。今回の種族レベルの向上で本物? も作れるようになったからな……」
 
 一樹は、さっき見た製作ツリーを呼び出してみる。
 非常に楽しみなのは『ブリザードフォックス』だ。名前がグレーアウトしている大口径の大型拳銃だ。
 魔弾装填でカートリッジに入れる必要があり、装填カートリッジをマジックバッグ化すると千発が最大数だ。
 
 ワクワクしてきた一樹はそのまま何も考えずに、とりあえず浅瀬という感覚でダンジョンへ向かう。

 ――あれ? 待てよ。本物がない世界に作るなら、本物と偽物は区別がつかないか……。

 大型拳銃が偽物と表記されていない理由の説明がつき少しがっかりするも、偽物が本物を気取るより、振り切った方がいいに決まっていると、自身を励ました。

「一樹? どしたの?」

「なんでもない。偽物で尖っていくぜ!」

「おー!」
 
 ギャンブルマスターと別れて、一樹たちはダンジョンへ向かった。
 

しおり