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第十二話 騎士


 私は、アデヴィト帝国-近衛兵団-オリビア・ド・ラ・ミナルディ・ラインラント・アデヴィット付きの騎士だ。

 姫様が、何をお考えになっているのか解らなかった。
 しかし、姫様からの私に対する指示だと思える話を聞いた。

「いいか、明日。姫様がこちらに来られる」

「ヒルダ。いい加減に」「うるさい!姫様が、帝国の皇女である姫様が、帝国を裏切ることはない。絶対にない!今までの姫様は、擬態だ。神殿を攻撃して、帝国の物にするための策略に違いない。そうだ。そうでなければならない。姫様は皇女だ。私たちの主なのだ。私と、私たちと、帝国のために動かれている!」

 そうだ。
 姫様が、帝国を捨てるわけがない。

 だから、あのような文章が残されているのだ。

「でも、ヒルダ」「うるさい!うるさい!」

 ルルカとアイシャは、姫様が心変わりをされていると言っている。
 私が聞いてきた話も、都合がよすぎると言っている。

 それに、神殿の話を村民に聞いて、話している姿を何度も見ている。

 そうか、姫様は裏切り者が居るとお考えなのだ。

 私は、姫様のお心がしっかり、はっきり解っている。私だけが姫様の事を理解している。私だけが姫様のお味方なのだ。姫様もわかっておられる。だから、私にだけ解る方法でお知らせ下さったのだ。

 そうだ。そうだ。ルルカとアイシャが裏切り者だ。間違いない。

 姫様からのご指示は私が・・・。

 そうだ。私は、姫様に選ばれた騎士だ。実家や学院から押し付けられたルルカやアイシャとは違う。

 流石は、姫様だ。
 裏切り者まで把握されている。

 そのうえで、神殿の情報をまとめていらっしゃる。

 そうだ。
 姫様を救出して、情報を帝国に送る。私が姫様から託された作戦だ。姫様と私で神殿を手中に収める。そして、帝国に凱旋する。姫様が、初めての女帝となり、私が姫様を支える近衛兵団をまとめる。

 そうだ。そうだ。そうだ。
 私は間違っていない。私は正しい。私は・・・。私は・・・。

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「いいのか?」

「はい」

「帝国を裏切る行為だぞ?」

「もともと、帝国に忠誠を誓っておりません。私が忠誠を捧げるのは、オリビア殿下です」

「わかった。貴殿たちの協力に感謝を」

「アフネス殿。我らも、あのおんなの狂信には・・・」

「ルルカ!」

「何度も確認して悪いが、本当に良いのか?」

「構わない」

「帝国が滅ぶかもしれないのだぞ?」

「構わない。帝国が、姫様に何をした!報いを受けるには遅すぎる!」

---

 私は、ルルカ。
 オリビア・ド・ラ・ミナルディ・ラインラント・アデヴィット付きの騎士だった。

 同僚と呼べる者は、殆ど居ない。
 帝国では、”外れ姫”などと陰口を叩かれている姫だが、私たちには”良い姫”だ。

 オリビア様の口癖は、”私が間違えたら指摘して欲しい”だ。

 陛下ではなく、姫様の兄上である第二皇子が姫様を王国に送り出した。姫様が”民衆からの支持を受けているのが気に入らない”というあまりにも理不尽な理由だ。帝国は腐っている。
 王族は、宮廷闘争にしか興味がない。貴族も同じだ。一致団結して何かを成し遂げようとはしない。

 私は、帝国の子爵家の三女だった。上の二人の姉は、正妻の子で私は第二夫人の子供だった。
 貧乏貴族だが、見栄だけは立派な親に育てられた。親の借金を清算するために、皇都の豪商に嫁入りが決まっていた。私が10歳の時だ。相手は、46も上の男性だ。妻と呼べる者だけで19名。愛人の数は本人も把握が出来ているとは思えない。そんな相手だ。

 嫁入りの日。
 絶望を越えて、感情が死んだ私を救ってくれたのが、オリビア様だ。

 姫様は、泣きそうな私を従者に望んでくれた。

 子爵家の三女であった私は、あの時に死んだ。
 それからは、姫様に剣を捧げる騎士となることを夢見た。従者やメイドの道もあったのだが、私は姫様に救っていただいた心を、命を、姫様のために使いたい。メイドでは、姫様をお守りできない。姫様の代わりに死ぬことができない。

 姫様が、王国に使者として赴く時に自ら志願した。
 従者兼メイドが二人と騎士が三名。姫様が自ら選んだ者たちだ。他は、第二皇子が指名した者たちだ。

 騎士の中で、年齢が上のヒルダが騎士を仕切ろうとしていた。
 姫様に諫言を言っているが、私にはヒルダの言っていることの理解ができない。確かに、帝国は大事だ。しかし、私は、姫様が望んだことなら・・・。

 決定的になったのは、私たちが襲われたことだ。第二皇子の関与が疑われる状況だ。

 襲われた私たちを救ったのが、帝国と王国の間に出現した神殿の主だ。

 どんな恐ろしい者なのかと思ったが普通の人だ。
 一緒に居たエルフの少女の方が、恐ろしい魔力を感じさせる。

 ”ヤス”と呼ばれた神殿の主殿は、姫様を受け入れてくれた。

 姫様が、私を見ている。
 何かを心配している時の目だ。

 私を見てから、アイシャにも目を向けている。そして、ヒルダを見てから視線を逸らした。

 そうか、姫様は・・・。

 それから、姫様の懸念が当たってしまった。
 ヒルダが、神殿の主殿に・・・。

 ヤス殿が所有しているアーティファクトを見て、あれこそ帝国に相応しいと興奮している。

 私とアイシャは、姫様に忠誠を誓っている。近衛になりたかったヒルダとは根本の考え方が違う。

 姫様が、神殿への亡命を希望した。
 ヒルダからしたら、最悪の事態だ。しかし、姫様の気持ちは変わりそうにない。ヒルダが叫べば叫ぶほどに、姫様の気持ちが固まっていく。。

 私だけで話し合うと言っていたが、姫様が必死にヒルダを説得している状態が続いた。

 ヒルダも渋々だが、姫様の言葉に従うが、姫様が居なくなれば、私やアイシャに八つ当たりをする。
 私の両親だった人たちの様だ。自分の考えが正しいと思い込んで、自分の考えを他人に押し付ける。押し付けられる側の事など何も考えない。
 信じている正義なら、自分一人で満足していればいいのに、自分が信じる正義が唯一絶対の正義でなければ気が済まない。反対側に同等の正義があるとは考えない。自分の考え以外は悪で間違っている事だと本気で信じている。狂信者だ。

 姫様と従者兼メイドのメルリダとルカリダが神殿の領域に行くことになった。
 ヒルダは、ユーラットという港町に残る。私とアイシャもヒルダに表面的には従っているように見せた。アイシャと話し合って決めた。姫様が何を考えているのか解らないが、ヒルダを一人にしておく方が心配だ。ヒルダが自滅するだけならいい。姫様に”害”が向かないようにする必要がある。

 ユーラットの町では、ヒルダは問題行動を繰り返している。
 帝国の漁村で貴族の愚か者が行うような問題だ。帝国の近衛を名乗っているのも問題だ。私たちは、姫様の騎士で、近衛ではない。何度も注意したがきかない。

 神殿で、姫様の世話をしているルカリダから密書が届いた。帝国の暗号で書かれた書類だ。

 最初は、姫様に何かあったのかと思ったが、暗号の指定を変えるという密書だった。
 ヒルダに知られないように、新しい暗号の方法をアイシャと共有した。

 ルカリダから送られてくる密書は、神殿やユーラットの有力者の検閲を受けていると教えられた。
 神殿には、王国の辺境伯の娘や王女が居るという信じられない内容ばかりだ。それだけではなく、最初に会った”リーゼ”と名乗ったエルフは、エルフの里の巫女だと教えられた。実際には、巫女の家系だという事だが、伝説上の存在である”ハイ・エルフ”のハーフだ。そんな人に、ヒルダは暴言をぶつけている。それだけでも、ヒルダが殺されても帝国は文句を言わないだろう。
 そして、喜んで、ヒルダと姫様を生贄に捧げるだろう。
 ハイ・エルフは、世界樹と繋がっている。世界樹の素材を得られる可能性があるのなら、騎士の一人や二人や三人や四人くらいなら平気で差し出す。帝国は、そういう国だ。

 私は、帝国が滅ぼうとも構わない。
 滅んでしまえとも思えている。ヒルダのような人間が帝国の上層部には多い。奴らの為に、姫様が犠牲になるくらいなら、姫様が神殿に亡命して安心して笑って過ごせるのなら、亡命もありだと思える。
 そして、密書で書かれている姫様の日常は、姫様が望んでも手が届かなかった事なのかもしれない。

 姫様が笑って過ごせるのなら・・・。

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「本当?」

「本当です」

「あの子・・・。」

「明日は、注意した方がいいと思います」

「そうだね。どうする?保護する?話は通した?」

「はい。話はしました。できる限りのことはしてくれると・・・。しかし・・・」

「そうね・・・。特に、あの子は・・・」

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