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第五十五話

/*** カズト・ツクモ Side ***/

 物見遊山で来たのだけど・・・おおごとになっている。
 確かに、エリンはやりすぎたと思う。それは反省した。反省したので、通常プロトコルでの入街を主張した。

 俺とリーリアとオリヴィエと、エリンが、身分証を作成するのを見て、ウミが自分も作成したいと欲しがった。

 門で審査をしている人に聞いたが、できないことがないという事だ。
 実際に、馬などをいれる時に、持ち主札代わりとして作る人が居るという事なので、カイとウミの身分証を作ってもらう事にした。

 何やら不穏な雰囲気があるなら、馬車で移動を開始した。
 揺れるな。やはり、馬車の改造は必須だな。

 ここまでのようだ。
 こっちに、チップの文化があるかわからないが少し多めに払うくらいなら問題ないだろう。

『ご主人様』
『どうした?』
『ゴミ掃除していいですか?』
『あぁ俺が出たほうがいいか?』
『いえ大丈夫です。オリヴィエとエリンは、ご主人様を守って下さい』
『わかった。リーリア姉』
『頼まれましたわ。リーリアお姉さま』
『カイお兄様とウミお姉さまは、法衣を着たゴミの掃除をお願いします。私は首魁ともうひとりをやりますわ』
『了解。リーリア。手加減の必要なないですよね?』『殺しちゃってもいいの?』
『カイお兄様。ウミお姉さま。できましたら、生きたままでお願いします』
『わかった』『了解』

 うーん。頼もしい。
 でも、リーリアは、スキルとしては、後方支援になっているからな。後方支援が、指示を出すよりは、前衛にもなれる者の方が俺の好みなんだよな。俺がやればいいのだろうけど、ダンジョンに入っている時の感じから、俺が前面に出るのを嫌がるからな。この前の竜族の様に、力を示す必要がある時には、いいのだけどな。

 あっ終わった。

 殺して・・・るな。ソーニャさんが相手していた人だな。

 さて、これからは俺の仕事だな。

「ソーニャさん。それから、リーリア。どれが、1番のクズになる?」

 二人が同じ男を指さします。

「こいつは?」
「クリスティーネ様のお父上で、現領主の息子になります」
「そうか、責任が親に及ぶという年齢でもなさそうだけど、処分は領主様に一任するか?リーリア。その・・・いいや、全員、俺たちを襲撃した奴らとして捕縛しろ、連れていけるか?」
「ご主人様。私1人でも難しいので、ソーニャさんに手伝ってもらっていいですか?」

 あぁそうだな。
 俺たちだけで捕縛したというよりも、その方がいいだろうな。

「そうだな。ソーニャさん手伝って頂けますか?」
「え?あっもちろんです」

 ゴミを引きずるようにして、移動を開始した。

 あぁそういう事かぁ・・・俺たちが領主の屋敷に到着しちゃうと・・・ん?関係ないよな。俺、今まで何の約束もしていないからな。

「ソーニャさん。コイツら、俺たちを襲ってどうしたかったの?」
「え?あっ別の者を尋問した時に得た話ですが・・・・」

 そういう事か、クリスティーネ嬢の前で、ナーシャが収納ポーチから何度もお菓子を取り出している事から、回数無制限の収納ポーチだと思った。そして、リーリアが持っている袋も同じ物だと思って襲ったという事か?
 それから、俺がイサークたちに持たせたスキルカードや魔核が欲しくなってしまったという事だな。

 簡単に言えば、”バカ”って事になってくるだろう。

「ソーニャさん。俺が、イサークさんたちに渡したスキルカードは、良くてレベル5です。この街では、レベル5だとどのくらいの価値があるのですか?」
「え?あっそういう事だと、高級な宿屋がそのくらいだと思います」
「そうですよね。よかった、一般の人の少し贅沢しようとした食事はレベル4が1枚か2枚程度で、4人くらいで飲みに行くと、レベル5が1枚とレベル4が数枚というところですか?」
「そうですね。もう少し安いかも知れませんが概ねその通りです」
「はぁ・・・カイ。俺が、イサークさんたちに渡したレベル5は何枚くらいだ?」

『全部で、50枚にも満たないと思います』

「やっぱりな」
「え?」
「あっ俺が渡したスキルカードは、レベル5換算で50枚程度です。街として考えれば微々たる物で、食料を買いに行く時の足しにすればいいと思った程度です。魔核に関しては、少し事情が異なるのは解るのですが、交換する時に、便利だと聞いたのでお渡しした物です」
「はぁ」
「何がいいたいかというと・・・コイツらは、ナーシャさんの収納ポーチは別にして、リーリアが持っている”普通の袋”とレベル7相当で一枚にも満たない程度の物で人生を終わらせる選択をしたという事です」
「あっえ?リーリアさんの袋は、収納袋ではないのですか?こいつら、先に捕らえた者たちも、収納袋だと言っていましたし、メイドもリーリアさんが袋から物を取り出すのを見ていますよ」

「あぁ・・・そうですね。リーリア。ソーニャさんに、袋を渡して確認してもらって」
「はい」

「え?今、袋をどこから取り出したのですか?え?収納袋の中に収納袋を入れていたのですか?え?え???・・・これって、普通の袋ですよね?」
「そうですよ」
「え?なんで?え?」

「魔力の流れを見たり、鑑定すれば解ると思うのですけどね、袋は普通の袋ですが、リーリアが収納スキルを持っているのですよ」
「それなら、なんで袋から出すふりをしていたのですか?」
「そういうバカが、俺の大事な眷属を傷つけないためですよ。別の人間が、収納ポーチを使っているのを見れば、リーリアが使っている袋も収納袋だと勘違いして、それを奪えば大丈夫と思いこんでくれますからね」
「え?それなら・・・この人たちのしたことって・・・」
「えぇ無駄ですね。そもそも、リーリアを捕らえられると思っていた時点で間違いなのですけどね」

 あぁ見た目に騙されたって所だろうな
 そういう意味だと、エリンが1番ギャップが酷いのだろうな。この幼女は、竜族だからな。

「着きました」

 そんなに遠くなかったな。
 こんな場所で襲撃して何がしたかったのだろう。さっさと逃げておけばよかったのにな。

 うるさかったから口を塞いでいるけど、まぁこのままでいいか、俺たちが襲撃されたのは、ソーニャが説明してくれるだろうからな

 領主は、執務室に居るという事だ。
 そのまま、俺たちは、ゴミを引きずったまま執務室に向かった。

 何度か、メイドや執事とすれ違うが、リーリアを見て頭を下げる。

『ご主人様。執務室に、クリスが居るようです』
『まずいか・・・?』
『いえ、クリスから、一緒に話を聞きたいという事です』
『わかった』

 執務室のドアをノックする。

 執務室のドアが開けられる。今の俺よりも1~2歳下くらいの女の子が1人、クリスティーネなのだろう。対峙するような形で居るのが、領主なのだろう。確かに、白狼族だな。
 どことなくナーシャに面影がある。それに、ヨーンにも似ているな。
 それとも、白狼族は全員が似ているのか?

「領主様、不躾で申し訳ない。先に、この者の処分を頼みたい。貴殿らで対処ができないのなら、我らの常識で処分する事になるが良いか?」

 こちらで処分して欲しいと言われても困るけどな。
 ダンジョンに送って、何階層まで大丈夫か・・・とかやらせるか、ダンジョンの農園で働かせるくらいしか思いつかない。

 リーリアが言葉を繋げます。
 クリスティーネに先に告げていた事だが、告知します。このエンリコと呼ばれている男に少しだけ希望をもたせた後で処分したい。

 リーリアが、クリスティーネの意思確認をした時の返事だという事だ。
 なかなかの壊れっぷりで好きになりそうだな。

「クリス。申し訳ない。貴方のお父様をこんな状態にしてしまった」

/*** クリスティーネ=アラリコ・ミュルダ・マッテオ Side ***/

 リーリアお姉ちゃんから念話が届きました。
 僕の居場所を確認したかったようです。お祖父様と一緒に居ると告げると、リーリアお姉ちゃんと、ご主人様が来られていると言う話です。

 それだけではなく、お父様に襲撃されて、捕らえたと教えてくれました。
 リーリアお姉ちゃんが怒っています。僕は怒りを通り越し呆れてしまいます。そして、かわいそうに思えてきました。

 今まで、僕を化け物と言ってきた人のやる事が”これ”ですか?
 それなら、僕は化け物のままでいいです。僕を助けてくれようとした人います。僕を可愛いと言ってくれる人がいます。僕が必要だと言ってくれる人も居ると思います。
 僕は、お父様に何も期待しない事にします。そして、お父様が何をなさろうと、何を言おうと、僕には関係ない事と考えるようにします。

 しかし、それだけでは、僕の気持ちが晴れません。
 お父様には、僕にした事は別にして、やった事の報いを受けていただきましょう。その時に、少しだけ意地悪をしましょう。僕が、お祖父様やリーリアお姉ちゃんにお父様の助命を祈ったら、どういう反応をしてくれるのでしょうか?

 化物と罵った娘に助けられる気持ちを聞きたいです。
 お父様。もうすぐです。貴方が、化物と嫌った、娘と別れられます。嬉しいでしょう。もう二度と合うことはなくなるでしょう。最後に、”今まで有難うございます”と、言ってあげます。

 楽しみですね。
 壊れてしまっているママは治せないかも知れないけど、リーリアお姉ちゃんのご主人様に見てもらいましょう。それがいい。

 ドアがノックされます。
 確認しなくても解ります。リーリアお姉ちゃんたちです。すごいです。

 これが力なのでしょうか?
 ドア越しでも解ります。水色や赤色やいろんな色が見えます。今までこんな事はありませんでした。

 ドアを開けます。
 え?うそ?

 リーリアお姉ちゃんが笑っています。リーリアお姉ちゃんの隣に居るのが、ご主人様なのでしょうか?僕とそんなに・・・変わらないけど、すごい・・・お祖父様から感じられない光が、身体中が光って見えます。
 足元のフォレスト・・・違う。

『クリス。お願いします』

 あっそうでした。

「お父様!」

 我ながら会心の演技です。
 でも、リーリアお姉ちゃんは笑っています。ご主人様の隣の女の子も笑いそうになるのを我慢しています。

「エンリコ?!何があった!」

 お祖父様だけ慌てています。
 とうぜんですよね。教えていないのですから。

 今まで、僕の事を教えてくれなかったのですから、このくらいの事はしてもいいですよね?

 リーリアお姉ちゃんを先頭にして、次にご主人様。次に10歳くらいの女の子。12歳くらいの男の子が続く。
 ソーニャお姉ちゃんが、1人の男を引き連れている。

 連れてこられたのは、法衣を着ている、多分アトフィア教の信者だろう。法衣に詳しくないからわからない。街領隊の制服を着た男が1人。それから、お父様だ。

 お父様は、お祖父様と僕を交互に見ている。助かると思っているのでしょう。

 お祖父様次第だとは思いますが、お祖父様としては、お父様の首1つで、ミュルダの街が救われるのなら躊躇しないでしょう。それだけの事をしたのです。それが解っていないのは、目の間で縛られている人たちだけなのです。

『リーリアお姉ちゃん。ご主人様の事はなんてお呼びしたらいいのですか?』
『旦那さまでもいいですよ?』
『え?だって・・・』
『それなら、カズトさんではどうですか?』
『よろしいのでしょうか?』
『私と、カイお兄様と、ウミお姉さまと、ここには、いませんが、ライお兄様と、オリヴィエとエリンは、歓迎しますよ。でも、私たちと一緒になる道よりも、クリスには違う道を選んでほしいのですけどね。これは、スーン様の意見ですけどね』
『違う道?』
『えぇ眷属になるという事は、魔物として能力を開花させる事に繋がります。人族でも眷属化できるとは思いますが、違いますよね?』
『・・・よくわからないけど、そうだよね』
『えぇそうなると、クリスに残された道は1つです』
『え?そうなの?』
『はい。ご主人様の伴侶になっていただく事です』
「えぇぇぇぇぇぇ」

 あっ!

「ごめんなさい。少し考え事をしていました」
「クリス。辛いのなら、部屋で休んでいても・・・」
「いえ、お話を聞かせて下さい」

『リーリアお姉ちゃん酷いよ。伴侶って、僕が、カズトさんのお嫁さんになるって事?』
『酷いですか?そうですよ。ご主人様の奥さんになって欲しいと言っているのですよ?』
『えぇぇぇなんで僕なの?僕よりも綺麗で強い人沢山居るよ?』

しおり