第二十九話 処理
ウーレンフートに居たメンバーが、俺の前で跪いている。
見たことがある顔が半分くらいで、残りは知らない(覚えていない)者も居る。前の方に居るのは、よく知るメンバーだ。ニヤニヤしている所を見ると、こいつらの仕込みだと考えるのが妥当だな。
無視するのがいいだろう。
後ろから襲ってきた奴らをしっかりと捕縛している。
「兄ちゃん。遅かった?」
「いや、丁度良かった」
尋問をしているクォートとカルラの方から、悲鳴が聞こえる。
結界を解除したようだ。連れてこられた者たちの顔色が変わっていくのがいい感じだ。
アルトワ町の町長が反抗的な態度を取ったのだろうか?
腕を切り飛ばして居る。そのままくっつけて、また飛ばしている。あれ、拷問としては最低だよな。腕を切り飛ばす時に、血が流れるから、どんどん思考が鈍くなるけど、痛みがあるから、覚醒する。そのうえで、くっ付けられて、また切られる。恐怖しかない。
もう一人の町長?も顔色が青を通り越して、白になっている。
アルバンたちが確保した者たちも、ガクガクと震えている。
恐怖だろう。お前たちは、俺たちを殺そうとした。今更、命乞いをしても遅い。
「大将」
マスター。旦那様。兄ちゃん。今度は、”大将”か・・・。
「ん?」
スラムの顔役だった、ベルメルトまで来たのか?
よく見ると、子供たちも多い。
「大将。ここで、何をやるのか知らないが、俺に、俺たちにも・・・」
ベルメルトが、地面に頭をつける位に下げる。
よく見ると、ベルメルトの両隣の顔も名前は忘れたけど、知っている。スラムに居た者たちだ。立派になって・・・。と、いうのもおかしいけど、ホームで仕事を始めてから、変わったとは聞いていたけど、こんなに変われるのだな。前は、良くても”チンピラ”だったけど、今では”代官”と言っても通ってしまいそうだ。
「そうだな。ベルメルトたちなら、任せられる」
後ろまで、声を上げて喜んでいる。
アルトワ町は、共和国の”町”だ。ここを拠点にするのもいいけど、ダンジョンの周辺を実行支配してもいいのかもしれない。ベルメルトたちが来ているのなら、アルトワ町にこだわる必要がなくなる。
「大将。俺たちに任せてくれ!それで、何をやったらいい?こいつらを殺すのなら・・・」
盗賊の親分にも見える。ベルメルトが凄む。捕えられている者たちが震えるのがわかる。
「いや、こいつらには使い道がある」
「使い道?」
「アル!」
「何?」
「ベルメルトたちを連れて、アルトワ町には立ち寄らないようにしてダンジョンまで移動してくれ」
「うん。いいけど・・・」
「どうした?」
「道が・・・」
「あぁそうか、エイダを連れて行ってくれ、エイダなら、迷わないだろう」
「うん!」
アルバンが、馬車に走るのを見送ってから、ベルメルトが立ち上がった。
「大将。それで、本当に俺たちにやらせたいのは?」
「あぁ簡単に言えば、ダンジョンの実効支配だ」
「ん?実効支配?攻略は終わっているのか?」
「あぁ最下層まで、俺とアルの二人で攻略できた。難易度は、それほどでは無かったが、今は難易度が上がっている」
「ハハハ。わかった。持ってきた物資を使って、実効支配をすればいいのか?」
「そうだ。少しだけ試したいことがある」
「試したいこと?」
「そうだ。ベルメルトたちは、ダンジョンについてどこまで知っている?」
ベルメルトだけではなく、ウーレンフートから来ていた者が首をひねる。
話を聞くと、通り一遍の内容だけが伝わっている。最下層に関しての話や、ウーレンフートにあるようなサーバルームは伝わっていない。当然だけど、噂話でも出ているのかと思ったが、出ていないようだ。
アルトワのダンジョンを攻略して、新しく気が付いたのは、ダンジョンは地上部にも伸ばせることだ。地上に、ダンジョンを作る。内容は、よくわからないが、地上にダンジョンの機能を使った建物が設置できる。
ウーレンフートでは限定的だったので、あまり意味は無かったが、アルトワのダンジョンでは意味が出て来る。
実効支配を行う時に、ホームの設置が楽にできるのだ。この場所で説明をしても、理解ができないだろうし、アルトワ町の者たちに余計な情報を与えるつもりはない。
「わかった。そこで捕まえた者たちは、ダンジョンの攻略を行わせる」
「え?あっ・・・」
ベルメルトは解ったようだが、捕えられている者たちは理解が出来ていない。
正直、この場で殺されても文句が言えない奴らだけど、ここで殺しても、なんのメリットにもならない。ダンジョンの中なら、多少のメリットにもなるし、ドロップアイテムを拾ってきたら、ラッキーくらいには使えるだろう。ベルメルトも、俺のいいたいことが解ったのだろう。少しだけ顔を引き攣らせている。
戻ってきた、アルバンを先頭に、ダンジョンに向かってもらう。
俺は、馬車に戻って、端末を取り出す。
尋問はまだ続いている。野盗の生き残りや、町長たちと一緒にいた生き残りも、ベルメルトに預ける。うまく利用してくれるだろう。
到着まで、一日くらいだろう。
町は無理でも、砦くらいなら構築できそうだ。
ウーレンフートから必要な物を融通すればいい。
宿屋になりそうな建物と、ダンジョンの入口を覆うようにホームの建物を作成する。
砦は、少しだけ形にこだわって、六芒星にしよう。六芒星の三角形の頂点同士を塀で繋いで、水堀を作成する。水は、ダンジョンから供給して、ダンジョンに返すようにすればいい。
入口を作り忘れた。六芒星だと入口が難しい。適当でいいかな。攻められても困らないようにしておけばいい。塀の上には、バリスタを配置しよう。全部で、50門も用意すれば防御は大丈夫かな?
塔も立てておこう。
楽しくなってきた。砦の中には、畑になるような場所を作ろう。あとは、家にしておけばいい。店として使えそうな建物だけを集めた場所と、鍛冶仕事ができるような場所を分けて設置する。1,000人くらいが生活できる場所にすれば十分だな。
街道は、ベルメルトたちが考えればいい。
本当は、アルバンをダンジョン町においていきたいけど・・・。説得は、無理だろう。
カルラとクォートの尋問を聞いていると、共和国が”腐っている”と思える。
よそから来た商隊を襲うのは当然なことだと思っているようだ。他でもやっているから、当然自分たちにも権利があると言い出している。その権利を行使するのは勝手だが、その結果、捕えられているのだから、それでもあれだけ喚き散らせる感覚がわからない。
もしかして、王国のほうが、意識という一点では”まし”とさえ思えてしまう。同じ、選民意識だけど、共和国の選民意識は自らが”選ばれた”存在だと強固に考えている。王国の貴族たちも似たような感覚だとは思うが、”貴族とは”こういう物だという刷り込みがあるだけ”まし”に思えて来る。
選ばれた人間は、何をしても大丈夫だとすり替えている。王国の腐った貴族と同じか、それ以上の意識だ。
まぁいい。
必要な情報は抜き取れたようだ。
「マスター」
「余罪は?」
「・・・」
解らない。ではなくて、多すぎるようだ。
「カルラ。王国で裁けるか?」
「可能ですが、その場合には、旦那様の身分を・・・」
ライムバッハの名前を出せば可能だということだな。
そこまでする意味もない。
「アルトワ町の町長には、俺たちを優遇するのなら、生かしておこう。町に連れて行って、全部の罪を暴露しろ。クォートとシャープ。頼む」
二人が、恭しく頭を下げる。
アルトワ町の町長は、生かしておくことで、使い道がある。
隣町の町長は、生かしておく意味が一切ない。
「カルラ」
「はっ」
カルラも、解っていたのだろう。
アルトワ町の町長の目の前で、隣町の町長の首を切る。血が噴き出してくる。そのまま、前に倒れ込んで、数回、身体を弛緩させてから、動かなくなった。死んだのは、誰の目にも明らかだ。
「カルラ。ウーレンフートから来た者たちと一緒に、この遺体と野盗どもを一緒に隣町に届けろ。移動中に襲ってきた、野盗の集団だと言えばいい。この町長は、野盗として処理する。共和国が、どうするのか見てみよう」
「かしこまりました。町長が指揮をしていたことにしますか?」
「必要ない。一緒に襲ってきたから、倒したと言えばいい」
「わかりました」
さて、俺は、ユニコーンとバイコーンと一緒に隣町に移動だな。