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第十六話 準備


 アルバンの武器を作った。
 結局、投げナイフは諦めた。作成は可能だったが、単価があまりにも高くなってしまう。同じ単価なら、違う武器を作ったほうがいい。

 アルバンに、戯れで作った多節棍を見せた所、何が気に入ったのか解らないが。多節棍を主武器に変更すると言い出した。
 武器として考えると取り扱いは難しいが、難しい部分は、プログラム(魔法)の補助を組み込むことで対処を行った。複雑な動きは、アルバンの訓練が必要になってしまったが、プログラム(魔法)の補助を得て、アルバンの思い通りに動かすことができた。

 単価で考えると、投げナイフで10本くらいのコストが必要になってしまったが、右手と左手で二つの多節棍を使うことで、アルバンの戦闘力は飛躍的に上がった。見た目はナイフのように作成した。釣り竿のように、ナイフの形状から多節棍に変わっていくような作りだ。

 プログラム(魔法)もアルバン用に少しだけ工夫した。
 俺が使うのなら、複雑な仕組みだとしても、都度パラメータの入力を行ってもよかったのだが、試しに使わせたところ、考えてしまって、戦闘では使えないと判断した。起動に時間が掛かってしまうのだ。
 パラメータは、”強い”・”普通”・”弱い”の三パターンに絞って、属性は一つの多節棍で二つに絞った。これ以上は、アルバンの対応が難しいと判断した。相性が良い属性を付与するプログラム(魔法)を作成して、スイッチを触りながら、パラメータで強さを渡すと、多節棍が属性を纏う。

 多節棍の動きは、プログラム(魔法)は複雑になったが、アルバンの負担を減らす方向にした。
 元々が、多節棍は動きが不規則になるのが、相手を惑わす形になる。なので、プログラム(魔法)してしまうと、規則性がある動きになってしまうのだが、アルバンが操るのは、先端の部分のみにした。それ以外は、アルバンが操っている先端部分を補助するようなプログラム(魔法)にした。これが面倒だった。形にはなったが、まだ実践に本格投入できる状況ではない。

「アル。一応、形にはなってきたが、最終調整がまだできていない」

「えぇ兄ちゃん。これで十分だよ。戦えるよ?」

「ダメだ」

 アルバンから、多節棍を取り上げて、最終調整を行う方法を考える。
 実際に、俺が使っても意味がない。俺では、プログラムの中身を理解して、無難な動きをしてしまう。動作確認にはなるが、問題点の洗い出しには向かない。

「そうだ!アル。近くに、発生したばかりのダンジョンがあると言ったよな?」

「え?あっうん。どのくらい前に産まれたのかわからないけど、若いと思うよ?」

 若い?
 ダンジョンの表現方法か?

「俺とアルだけで、潜っても大丈夫か?」

「うん。余裕だと思う。おいらだけだと、状態異常になってしまうと、大変だけど、兄ちゃんが一緒なら、状態異常も怖くない」

「そうか、罠の可能性もあるよな?エイダを連れていくか?」

「うん!それなら、制覇もできると思う!」

「そうか、朝早く出れば、夜明け前にはダンジョンにアタックできるか?」

「うん!」

「それなら、昼くらいまで探索をして、帰ってくる感じで考えてくれ」

「わかった。食事は?」

「一応、持っていこう。武器は、多節棍を主に使ってくれ、予備の短剣も忘れるなよ」

「うん!ありがとう!」

 アルバンと明日の予定を決めて、クォートに伝える。
 予定では、明日にはカルラが戻ってくるのだが、1-2日程度は遅れる可能性が示唆されている。

 ウーレンフートからは先ぶれも来ていないから、急に明日に到着はない。

”エイダ。アルから聞いているだろうけど、明日は俺たちに付き合ってくれ、プログラムの解析とログの確認を頼む”

 エイダからは了承の返事がある。アルバンが、エイダに状況を説明している最中だ。

 ダンジョンの位置を地図上に表示している。
 正しい位置は、現地に到着してから微調整する必要はあるが、方向さえわかっていれば、あとはエイダが探せるだろう。

 俺も、サーチを使えば探し出せるだろう。
 慢心は禁物だが、今回に関していえば問題はないだろう。

 翌朝というか、闇夜が少しだけ明るくなりかけた時間に、シャープに起こされた。

「旦那様」

「ん?あぁそんな時間か?まだ、朝にもなっていないよな?」

「はい。アルバン様がすでに準備を完了されています」

「ふぅ・・・。わかった。シャープ。悪いけど、何か暖かい飲み物を頼む」

「かしこまりました。アルバン様の分も用意いたしますか?」

「そうだな。軽く食べられる物も頼む」

「はい」

 ベッドから起き上がって、身支度をして、会議を行う部屋に移動すると、アルバンとエイダが待っていた。

「兄ちゃん。おはよう!」

「アル。まだ、朝じゃなくて、夜だぞ?」

「えぇもう明るくなってきたから、朝だよ!それに、兄ちゃんも起きたから、行こう!」

「わかった。わかった。シャープが朝食を持ってきてくれるから、食べたら行こう」

「・・・。わかった」

「アル。食事は大事だぞ。それに、朝になっていないと、森の中は暗くて危険だぞ?」

「うぅぅ・・・。わかった」

 アルバンの説得には成功したようだ。
 エイダも心なしかほっとした表情をしている。もしかしたら、寝ていないのか?

 遠足前の小学生のように、今日が楽しみで寝られなかったのかもしれない。エイダは寝なくても大丈夫だけど、付き合わされるのは、辛かったのだろう。食事の最中くらいはリフレッシュをさせてあげたい。具体的に何ができるのか解らないけど、アルバンからエイダを引き放つ理由にはなるだろう。

「アル。エイダをメンテナンスする」

「え?あっうん。そうだよね。ダンジョンに入るから、いつものエイダとは、魔法を変えないと危ないね」

「あぁ」

 エイダはパラメータ処理を複雑にしても、プログラムでプログラムを起動するので、混乱して起動が遅くはならない。人とプログラムで比べるときの優位点だ。あと、パラメータを間違えないので、指示をショートカットのように設置ができる。

 普段の御者台に座っている時よりも攻撃性が強いショートカットに編成を変えておく、防御の数を減らす代わりに、回復系のプログラムをショートカットに加える。そのあとで、情報整理のために、リスタートを行う。
 ショートカットの確認を行う。省略できるパラメートのデフォルト値を攻撃よりに設定を変更する。

「エイダ!」

『マイマスター。設定の確認を行います』

「始めてくれ」

 初期値やショートカットやプログラムに矛盾がないか自動チェックを行う。
 バグだしではなく、明らかに実行が不可能な設定を見つけ出すことができる。

 エイダの自動チェックが始まったと同時くらいに、シャープが朝食を持ってきた。

「兄ちゃん?」

「ん?」

「エイダは何を?」

「簡単にいうと、人で考えると・・・。そうだな、寝ている状態と思えばいい」

「え?寝るの?」

「寝る必要はないけど、エイダの中に貯めこまれている情報は、そのままにしておくと古い物から消されてしまう」

「へぇ・・・」

「それで、データの整理をしなければならない。人も同じで、寝るときに記憶が定着する。らしい」

「そうなの?」

「あぁ」

「ふぅーん。それで、エイダは、寝ることで、記憶を整理しているの?」

「そうだな。エイダの場合には、全部の記憶を、コピーしていると思ったほうがいいかな」

「へぇ・・・。どのくらいは、覚えていられるの?」

「そうだな。平常時だと、4-50日は平気だけど、戦闘とか人が多い場所・・・。王都とかだと、30日が限界かな?まぁ10日に一度、寝れば十分だと覚えておけばいい」

「わかった!安全を見るなら、7日に一度、おいらと一緒に寝ればいいよね?」

「そうだな。安全の確保が最優先だから、多少のオーバーなら大丈夫だからな」

「わかった!」

 アルバンが納得したのなら、これ以上の説明は混乱を招くだけだな。
 シャープを見ると、シャープも頷いているから大丈夫だろう。

 食事が終わって、飲み物のお代わりを飲んでいたら、エイダの処理が自動チェックとバックアップが終了した。

「さて、アル。行くか!」

「うん!行こう!ダンジョン。ダンジョン。ダンジョン!」

 なぜか、テンションが爆上がりのアルバンの頭を撫でてから、エイダをアルバンに渡す。
 武器と荷物の確認をして、村から見えない場所をつたって、村の外に出る。

 今日も、俺とアルバンは宿の中に居てもらう。
 そのために、クォートとシャープが残ることになっている。だからでもないが、俺とアルバンが宿の中に居るのだから、馬車も動かさない。俺たちは、徒歩でダンジョンに向かった。

しおり