第十五話 予感
ふぅ・・・。
落ち着いて考えよう。
アルバンが言うように、ダンジョンの中には”魔物”しか存在しない。
言葉を使わないからだ。理解はできるが納得は難しい。言葉という曖昧な理由ではなく、もっと違う理由があるはずだ。
「なぁアル」
「何?」
「ダンジョンで、魔物を倒す時には、魔核を得るよな?」
「うん」
「動物や魔族では、魔核は得られるのか?」
「え?考えたことがなかった。動物は、多分、ないと思う。解体する時に、魔核を見たことがない。魔族は解らない。そういえば、燃やしてしまうよね?」
「そうだな」
魔核を取り出して眺めてみる。
魔核は、プログラムを実行するのに便利な物だ。”魔物の核”と位置づけられているから、魔核と呼んでいる。
産出は、ダンジョンが主な場所だと言われている。
そうなると、ダンジョンの外で・・・。
どこかで実験をしてみるか?エイダに連絡して、ウーレンフートで実験を・・・。だめだ、皇太孫と婚約者様が黙っていない。間違いなく、面倒なことになる。黙って、実験を行うか?それも、面倒だ。物資の手配で、確実にクリスには知られてしまう。それに、カルラが報告をするだろう。最初から巻き込む方が、問題が露呈した時に、対処が可能になる。
「兄ちゃん?魔核がどうしたの?」
「ん。あぁ。魔物には、魔核はあるけど、動物にはない。魔族には、どうだろう?アル。何か、知らないか?」
「難しいことは解らないけど、魔族の中にも、魔核を持った・・・。あっ!そういえば、魔核は、魔物だけで、魔族は魔核がないって聞いたよ」
「本当か?誰に?だれだっけ?覚えていないけど・・・。おっちゃんの所で、丁稚をしていた時だから、兄ちゃんがウーレンフートに来る前だよ」
「どんな奴だ?」
「うーん。うーん。うーん。あっ!アイツ・・・。ランドル?だっけ?奴らの取り巻きみたいな奴。何度か、宿屋に来た。あれ?そういえば、兄ちゃんがランドルを倒してから、居なくなった」
居なくなった?
セバスたちが調べた名簿には、それらしい奴は居なかった。もう一度、洗いなおしたほうがいいかもしれない。あの頃の資料が残されていないけど、ランク付けをしていたから、アルバンが覚えている程度には、目立った奴なら、何かしらの情報が残されている可能性がある。
俺がホームを掌握したら姿を隠す?
帝国に繋がっていなければ・・・。帝国の・・・。やつらの関係者だとしたら、ウーレンフートで何を?俺を調べに?違うな。俺が来る前から、ウーレンフートに潜り込んでいた。ダンジョンを調べていた?
仮定の上に想像を重ねても意味はないな。今、はっきりしているのは、アルバンに”魔核”の情報を渡した人物が、俺がホームを掌握したら姿を消したことだけだ。実際に、ダンジョンの中で死んだ可能性もあるが・・・。
「そうか、たしかに、ダンジョンの魔物は魔核がある」
「うん」
「外で、同じ種族を倒しても魔核はない」
「うーん。経験が少ないから、絶対にないのか解らないけど、ない」
「だよな・・・。なぁアル。魔族って魔物が、魔核を吸収したか、進化した個体なのかな?」
「え?」
「魔族・・・。まぁ種となった時に、世代が重ねられないとダメだろう?」
「ん?兄ちゃん?」
アルバンの困惑した表情を無視して、思考を進める。
魔物から魔族になる方法が、世代を越えることにあるのだとしたら、繁殖が一つのトリガーになるのかもしれない。魔核は、そのために必要で、進化や繁殖で必要になってくる?そのうえで、繁殖や進化が終了したら、魔核が無くなって、種族として成立する?
仮定の話だが、自分では納得ができる。あとは、実験だけど、実験は無理だろう。最悪の自体を考えると、軽々と試せない。
帝国は、もしかしたら・・・。
帝国というよりも、あの方とか言われている奴の狙いは、魔物の進化か?
「兄ちゃん?」
「悪い。そろそろ、模擬戦をやるか?」
「うん!」
村・・・。町からも、ある程度の距離が離れた。
最初、俺たちを監視していた者たちも、諦めてくれたようだ。別に、模擬戦だから見られても問題ではない。
「アル。徐々に速度を上げていくぞ」
「わかった。兄ちゃんが攻撃?」
「最初は、俺が攻撃で、途中で攻守を入れ替えよう。そのあとで、縛りをつけた模擬戦だ」
「わかった」
アルバンが嬉しそうに頷く、模擬戦が嬉しいのだろう。
それから、みっちり3時間ほど身体を動かした。
全力の50%くらいの速度まで、上げたがアルバンはしっかりと対応ができている。不意打ちでも対応が可能だろう。攻撃は、威力が弱いから手数に頼る必要がある。武器を調整する必要がありそうだ。
模擬戦の時に、アルバンの速度に武器が付いてこられていないのが解った。
俺の武器は特別だから貸せないけど、ドロップ品で何かいいのがないか探して、渡す約束をする。
帰りに違う経路で帰ったら、出来立てのダンジョンを発見した。
階層も少なそうだし、明日にでもアタックしてみることにした。
宿に変えると、クォートが今日の報告をしてくれる。
どうやら、帝国から来たという触れ込みの商人が、俺に会いたいと言ってきたらしいが、低調が悪いという事で断ったらしい。クォートの印象では、帝国から来たというのは嘘ではない。しかし、商人と言うのには疑問があるようだ。村長夫妻と買い取りの話をして、売買を行ってから旅立つようだ。それまでに、俺が復調をしたら情報の交換をしたいらしい。
無視することにした。
今、帝国との接点を作るのは嬉しくない。力を付ければ、自然とできる接点のほうが望ましい。欲張って、相手から情報を引き出そうする必要もないと、クォートに告げる。大丈夫だと思って、相手は帝国の商人を名乗っている。どこで、奴らに繋がるか解らない。
だったら、接点を持たないほうがいいだろう。
翌日は、俺もアルバンも部屋で過ごす。
エイダと馬車から持ってきた端末で、魔法の開発を行う。
アルバンに約束している武器を渡す必要もあった。
エイダと相談して、ウーレンフートのダンジョンにある武器を、アルバン用にカスタマイズを行う。幸いなことに、馬車に積んでいた武器で、アルバンに丁度いいサイズの物が存在していた。魔核を埋め込むことができるので、魔法の付与ができそうだ。
戦い方もカスタマイズされて、短剣の二刀流が動きを阻害せずに、最大限のダメージを与えられるようなので、二本の短剣と投げナイフをアルバンに渡す。もちろん、魔法はまだインストールしていない。
今から、アルバンの話を聞きながら組み込んでいく、
「本当に、炎と氷でいいのか?雷でもいいぞ?」
「うーん。炎と氷で!あと、投げナイフは、風でお願い」
「わかった。投げナイフは、複雑な事が無理だぞ?」
「え?そう?」
「ナイフの周辺に風の膜を作るとか、風の刃を付与するくらいかな」
「それなら、投げたら、風の刃が発動するようにしたい。投げナイフを交わしたら、風の刃で切られたら、驚くと思う」
「わかった。そのくらいなら大丈夫だ。今のアルの言い方だと、風の刃は、不可視のほうがよさそうだな」
「できる?」
「作ってみる。あと、アルだけが使えるように設定するな」
「え?」
「投げナイフだろう?投げたら、必ず手元に戻ってくるとは限らないだろう?相手に渡ってしまったら、困るだろう?」
「あっ!それなら、兄ちゃん!おいら以外が持ったら、手が焼けるとかできる?」
「焼けるほどの熱量が出せるのか解らないけど、作ってみる。ダメなら、雷で痺れるとかかな」
「うん!」
結局、一日使って、アルバンの武器を作成した。
クォートが訪ねてきて、帝国から来た商人が今日も訪ねてきたようだ。商品の売買を希望されたから、クォートの判断で、売ってもよさそうな物を売ることにした。何を買っていくのかで、商人の狙いが読めるかもしれない。読めなかったら、それはそれで、しょうがないと思える。