第十三話 休養
ウーレンフートからの補給物資が届くまで、休養にあてる事にした。
「旦那様」
カルラが部屋に入ってきて、頭を下げる。
何か用事ができたのか?
休養にあてるようには伝えてあるはずだ。
「どうした?」
カルラは、書類を手に持っている。
報告書なのだろうか?
昨日の段階で、前回までの報告書と、クリスからの返答を貰った。問題になるような記述は無かった。近況報告のようになっていただけだ。皇太孫だけが、わがままを言っているようだが、そこはクリスに頑張ってもらおう。共和国に、皇太孫が身分を隠してでも来られるわけがない。”楽しそうだ”の一言で、来ようとしないで欲しい。それに、ダンジョンなら、ウーレンフートに潜ればいい。わざわざ、整備されていない、できたばかりのダンジョンを目指さないで欲しい。
「いくつかご質問と、ご許可を頂きたく思っております」
カルラの話は、今後の話か?
「質問?許可?」
「はい。4-5日の間。お側を離れる許可を頂きたい」
クリスへの新しい報告だろう。
アルトワ町を補給基地化する考えをカルラに伝えてある。何か、問題になりそうな事案なら、クリスからストップが掛かるだろう。
俺としても、方法は置いておくとして、補給基地は欲しい。アルトワ町が最高ではないが、最良の選択だと考えている。
「あぁいいよ。クリスへの報告?」
「はい。そこで、報告にあたって、いくつかご質問があります」
報告に付随する質問なのだろう。
確かに、報告を書いていたら、いろいろと疑問が湧いて出るだろう。後から、突っ込まれないように、カルラの質問にはしっかりと答えよう。カルラとクリスト俺の為に、しっかりと理解してもらったほうがいい。
「いいよ?何?」
「はい。まずは・・・」
カルラの質問は、今後の活動について聞きたいことがあるようだ。
目標は無いけど、いくつかのダンジョンの攻略を目標とした。わかりやすい方が、報告を読むクリスも納得するだろう。頻発している。小規模ダンジョンの攻略を視野に入れている。頻発している理由が解れば、最高だろうけど、そこまで行かなくても、行路の近くにあるダンジョンだけでも潰しておけば、物流が楽になるだろう。次いでに、山賊や盗賊たちの根城を潰しておきたい。”賊”たちは、俺たちが潰さなくても良いとは思うが、俺たちへの補給物資を運ぶ時に、安全に運べるようにしておきたい。
カルラの質問に、簡単に答えた。
「旦那様。最後に、一つだけ・・・」
「ん?どうした?気にしなくていいよ」
質問は、報告書を作成するために必要なのだから、遠慮しないで欲しい。
報告書が中途半端になって、クリスから再質問が来る方が面倒だ。もう一人は、再質問ではなく、これ幸いと共和国に来る可能性すらある。だから、カルラには悪いけど、疑問点はすべて潰してほしい。主に、俺の平穏のために・・・。
「はい。ありがとうございます」
「旦那様は、この村・・・。あっアルトワ町を補給基地にする。お考えのようですが、方法はあるのでしょうか?」
村って・・・。
まぁ俺も注意していないと、”村”と呼んでしまう。人口だけなら、町には違いないけど、生活様式や雰囲気が”村”だ。
「ん?ウーレンフートからその為の物資を運んできているよね?」
「はい。しかし、一時的には、物資の蓄積はできるとは思いますが、この村の生産能力では、持ってきた補給物資が救援物資に変わって、村に吸収されてしまいます。特に、あの村長では・・・」
カルラ。もう少しだけ繕うことをした方が・・・。村と呼んでいるし、村長と言っている。
区分では、”町”で町長だ。
「解っている。物資を食い潰して終わりの可能性があるな」
実際に、補給物資を持ってきたとしても、町長に懇願されたら提供するしかない。金銭での受け渡しになってしまう。補給物資が救援物資に変わるだけだが、補給基地にしようとしたら意味がない。
それに、補給基地にしようとしたら、この町で補給物資を生産しなければ意味がない。
ウーレンフートやライムバッハ領から輸送し続けるのでは、負担が大きすぎる。
カルラも解っているのだろう。
今の町長や町民では、自分たちが食べていくだけで精一杯だ。考えることを放棄している。効率化したり、作物を変えたり、他の町や都市と交渉したり、できることはまだあるはずなのに、緩やかな滅びを受け入れようとしている。
「それなら!」
カルラが言いたいことは解る。解っているつもりだ。この町を占拠してしまうか、自分たちで拠点を作ってしまったほうが早いと言いたいのだろう。俺も、そう思っている。思っているけど、今回はもっと緩やかにやろうと思っている。
最初は、村長。いや、町長に協力を求める。町長が形の上だけでも従ってくれるのなら、利益を分配してもいいと思っている。そのうえで、町長たちが協力してくれないのなら、無理矢理にでも協力してもらおうと考えている。
クリスから来た連絡の中に面白い話が書かれていた。
「なぁカルラ。俺も知らなかったけど、共和国には興味深い”法”があるのを知っているか?」
共和国は、簡単に言えば”多数決”で物事を決めてきた。
「え?興味深い?」
「あぁ形骸化されてしまっているけど、共和国の都市や街が村の長を決めるのは、”選挙”という方法を取る」
「??選挙?」
「そうだ。俺がこの町の長になることもできる。いろいろ条件は、あるが半年以上の居住実績と一回以上の納税を行えば、立候補できる」
俺には馴染みがあるが、カルラには馴染みが無い。
ウーレンフートのホームでは、合議制を取っているが、”選挙”で代表を決めるような方法ではない。貴族社会では、もっとも遠い所にある。合議制でも革新的だと思われているのに、選挙を理解しろと言われても無理だろう。
「しかし、それでは・・・。旦那様が長になるのは難しいのでは?町民は、現在の町長の味方ですよね?」
「そうだな。この方法は、比較的、民のことを考えているように見えるけど、落とし穴がある」
「落とし穴?」
「そうだ。数の暴力に対抗できない」
「え?」
「カルラ。この町の人口は?」
「おおよそ、80名です」
「子供を除けば、60名って所か?その中で、納税しているのは、50名って所かな?」
「しっかりと調べないと・・・」
「あぁいい。50名とする。全員が、町長の仲間だとして、俺が立候補したとしよう。50対1だ」
「はい」
「しかし、51名の仲間を連れて、この町に移住してきたらどうなる?」
「・・・」
「カルラ。51名を連れて来るのは無理だと思ったのだろう?」
「はい」
「忘れていないか?俺には、クォートとシャープがいる。納税さえすれば、それ以上は突っ込んでこない」
「あっ」
この方法は、日本に居た時に、合法的に”村”を乗っ取る方法を考えた時に、悪友たちと考えた。動員できる人間が200名を越えていた悪友がいた。行政区分で、丁度いい場所が見つからなかったから、実行には至らなかった。しかし、状況が許せば実行していた可能性があった。
カルラは、俺から聞いた内容をまとめて、報告書にするようだ。
報告は、好きにしていいと伝えている。クリスに伝われば、何かを考える可能性があるが、俺が気にしてもしょうがない。
カルラと入れ替わりに、アルバンが部屋に入ってきた。
「兄ちゃん。休みだよね?」
「あぁ」
「兄ちゃん。探索に行こう!」
「探索?」
「うん!待っているだけだから、訓練をしたい。でも、村の中では、カルラ姉ちゃんがダメだっていうから・・・」
お前もか・・・。
アルバンが”村”と言っているのは、しょうがないだろう。いい直しもしないし、悪いとも考えていないだろう。
「わかった。わかった」
「いいの!」
「俺も、見られても平気な魔法を作りたい。アルとの模擬戦もやろう。魔法の作成を手伝ってくれるか?」
「うん!もちろん!やったぁ!行こう!」