第十九話 ナナ
久しぶりに見るアロイの町並みには懐かしさは感じない。それどこか、寂れた感じがする。
「リン。どうするの?」
「ナナの店に急ごう」
街に人影はないが、マヤを誰かに見られたら面倒なことになる。
俺の考えが解るのか、マヤがミトナルの肩に乗って、何かを唱えると、マヤの身体がミトナルに入っていった。
「ミル?」
「ナナの店まで、僕の中で起きている」
「わかった」
俺とミトナルだけなら、注目を浴びる可能性はあるけど、問題はないだろう。視線は感じるが無視できる。
不気味な感じはしたが、すんなりと、
店に入ると、奥からナナが出てきた。
「ミトナルちゃん。合えたのね」
ナナが、俺に駆け寄ってきて、抱きしめてくれる。なぜか、安心できる。
俺の勘違いだったのか?
「ナナ?」
「マヤちゃんは?」
当然の質問だ。
しかし、周りを見ると、宿に泊っている商人風の人が居る。マヤが姿を表すには、ナナだけに話をした方がいい。
それに、ナナが俺の名前を呼ばない。
「マヤの事を含めて、ミルとの事をいろいろ話したい」
俺の言い方が気になったのか、ナナは奥に居る人を・・・。え?
「ガルドバ!」
「なんだ・・・。おっ!お前は!」
「ナナ!俺にも、いろいろ説明をしてくれるよな?」
「もちろん。ガルドバ。表を任せていい?ミトナルちゃんの話を聞かなきゃならない」
「わかった。お前たち、今日は、泊っていくのか?」
不思議に思うが、不自然な感じがしない。
俺の名前を呼ばない理由があるのか?
「あぁ・・・」
ミトナルを見ると、どちらでもいいような感じがしている。
「ナナ。ガルドバ。先に、話を聞いて欲しい。それから、泊まるか決めたい。ダメか?」
ナナとガルドバは、お互いを見てから、笑って居る。
問題はないようだけど、何か気になる笑いだ。
「なんだ?何か、変か?」
「ううん。君たちを笑ったわけじゃない。ある男と雰囲気が似ていたから・・・。いろいろ思い出して・・・」
「ある男?ニノサ?」
「その嫌そうな表情もそっくりだ。アスタ。店番をしている。二人から話を聞くのだろう?」
「何度も言っているけど、アスタは捨てたの!今は、ナナ!いい、ナナ!」「わかった。わかった。ナナ。店は任せろ」
「わかったわ。ミトナルちゃん。二人の話を聞かせて」
了承を伝えると、前にマヤと一緒に話を聞いた部屋に案内された。
魔道具を起動させて、盗聴対策を行って、俺たちの話が長くなると思ったのか、先にガルドバの話をしてくれた。
それほど複雑な話ではなく、ガルドバはアゾレム領主に報告に言ったが、リンたちから奪った物から、アゾレムが望んでいた物が見つからなかった。死んだとは報告をしていない。マガラ渓谷に落ちたと報告を行っている。その為に、生きている可能性があると伝えて、アロイの街での監視を続けることになった。ナナとの関係をアゾレムに指摘されて、ナナの店で俺とマヤが生きていた場合には、戻ってくると思われていた。
俺とマヤが戻ってきたら、アゾレムや宰相派閥の人間たちが行っている不正な取引を記載した書類の奪取を命令されていた。
しかし、ガルドバが書類を奪う前に、書類に書かれていると思われる情報が、ミヤナック辺境伯の派閥から王家に提出された。その為に、書類を奪われたアゾレムの立場は失墜したが、マガラ渓谷を越えるための街を有するアゾレムは宰相や派閥に金銭をばらまいて、矛先がアゾレムに向かないように立ち回った。
ガルドバに責任を押し付ける形になった。
契約を切られて、奴隷に落とされる寸前で逃げ出した。アロイに来たのは、アゾレムの動向を調べて、逃げる方向を決める為だ。
「ナナ。ガルドバと一緒に逃げるのか?」
「そうね。リン君とミトナルちゃんの無事も確認・・・。マヤちゃんの無事も知りたいけど・・・。潮時だと・・・」
ナナが、外で働いているガルドバと逃げるのは、なんとなくわかった。
タイミングが良かった。
「ナナ。俺とマヤとミトナルの話を聞いてほしい。それで、俺の手伝いをして欲しい」
「え?マヤちゃん?」
「マヤ!」
ミトナルの身体が光った。
演出的な物なのだろう。前は、光らなかった。
ミトナルの肩に、妖精の姿になったマヤが座っている。
「ナナ!久しぶり!」
「え?え?えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!マヤちゃん?リン君。どういう事?なんで?妖精?え?え?え?」
「ナナ。混乱している所・・・。悪いけど、まずは、俺たちの話を聞いてくれ・・・。マヤの姿に関する説明もする。まずは、全部の話を聞いてくれ」
「・・・。わかったわ」
俺とミトナルの視点から、二度目にナナの店に訪れた後からの話を行った。
最初は、ニコニコ聞いていたが、俺とマヤが渓谷に落された辺りから怒りの波動が強くなってきた。
そして、村長に復讐を行った事や、俺のジョブに関しての話を話した辺りで、ため息が漏れている。呆れているような雰囲気まで出始めている。
マヤが神殿の権能で生き返った話をした時には、涙を流してくれた。
俺とミトナルが、異世界の知識があることも話をした。
ナナを味方に引き込むためには絶対に必要な事だ。そして、ミトナルとマヤ以外で、俺がこの状況で味方に引き込みたい人物だ。裏切られる可能性が一番といってもいいくらいに低い。
そして、ガルドバと逃げるつもりなら、逃げる先が神殿の領域でもいいと思えるように誘導したい。
「マヤちゃん?マヤちゃんは、ニンフなの?」
「うーん。ロルフはそう言っているけど、正直に言えば、解らない。僕は僕だよ?」
「そうね。マヤちゃんは、マヤちゃんだね。変な事を聞いてゴメンね」
「いいよ」
マヤは、マヤだ。
俺も、ミトナルも、それでいいと思っている。
マヤは、ミトナルの肩からナナの肩に移動した。
「リン君。マヤちゃんとミトナルちゃんは入れ替わるの?」
「そうだな。本人たちの意思で、入れ替われるようだ」
それから、ナナがミトナルとマヤに質問をする感じになっている。
どうやら、妖精というか、ニンフは神の使いという意味が強いらしい。
「それで、ナナに頼みがある」
「頼み?」
「あぁ今までの話から、どうやら俺たちは、宰相派閥・・・。特に、アゾレムと敵対する立場になっている。相手は気が付いていないと思うが、アゾレムは”敵”だ」
「そうね」
「神殿の話は、軽く流したが、俺たちは、王都からメルナに入って、ナナに会いに来た」
「・・・」
「アゾレムが管理するマガラ渓谷を越えたわけではない」
「・・・。そうね。マガラ渓谷を越えたら、リン君は捕まっているでしょうね」
ん?捕まっている?
そんな情報は・・・。
「捕まっている?」
「えぇ手配書が回って来たわよ」
「王都から?」
「いえ、アゾレム領主からね」
これで、いろいろ腑に落ちた。
ナナとガルドバが、俺とマヤの名前を出さなくて、”ミトナル”という名前を強調していた。
ナナが部屋から出て、手配書を持ってきてくれた。
俺やマヤとは似ていない絵が書かれていた。内容は、どうやら”村長”を殺した罪を被せるつもりのようだ。実際に、俺が殺したような感じだから、別に問題だとは思わないけど、アゾレムと敵対することが決定している現状では、出頭してあるつもりはない。
どうやって、俺とマヤだと判断するつもりかと言えば、アロイの検閲所で、パシリカを受けたばかりの男女や兄妹を捕まえては、尋問しているようだ。荷物は全部没収されているという話だ。身元が判明しなければ、そのまま牢獄に入れられるようだ。最悪は殺されて、良くても奴隷送りになっているようだ。無茶をしているとは思う。アゾレムは、それだけ追い詰められているのか?
「そうか・・・。ナナ。俺たちは、メルナに貰った屋敷から、マガラ神殿を経由して、アロイから伸びる街道沿いに作った村から出てきた」
「え?それは・・・」
「村と言っても住民は居ない。建物や壁を作っただけだ。ナナ。ガルドバと逃げるのなら、村長をやってくれないか?」