第十四話 人材
皆が作業と確認を行うために、部屋から出ていく.残ったのは、
「リン君。お願いが」「何?」
イリメリの発言を遮るように、ミトナルが俺の前に現れる。
「ミトナル。そうね」
「うん」
何か、二人で納得している。
「リン。皆に、護衛を付ける」
「あぁ・・・。そんな事を言っていたな」
「それなら、僕が案内する」
ミトナルとマヤが、皆に眷属を紹介しながら、護衛になりそうな者を探すようだ
状況から、アデレード殿下には複数の護衛を付けた方がいいだろう。
「ミル。マヤ。頼めるか?あと、眷属になってもいいと言った者には、”許可を出す”と言ってくれ」
「わかった」「うん!許可なら、僕でも出せるよ?」
これも、最近になってわかった事だが、第一世代と呼んでいるが、ヒューマやアウレイアやアイルやリデルやジャッロやヴェルデやビアンコやラトギやブロッホは、俺との繋がりが強い。
眷属の契約が流れた者たちは、系譜としての契約を行っている者で、俺が”名付け”を行っていない者は、マヤが契約を奪う事が出来た。両者の合意なら眷属にできる。俺の代わりに、マヤでも眷属の契約の譲渡ができる。
「そうか、マヤ。頼めるか?」
「うん」
マヤがミトナルの肩の上で器用に一回転する。
スカートではやらないほうがいいとは思うが、本人が気にしていないので、指摘はしない。
「イリメリ。リンをお願い」
「はい」
うーん。よく解らない力関係があるのか?
イリメリが、一歩下がって、ミトナルに軽く頭を下げる。
ミトナルは、マヤを連れて部屋から出て行った。
入れ替わるようにして、ロルフが部屋に入ってきた。
『マスター』
俺の呼び名がぶれるのは、一緒に居る人物に依存するとか、ロルフが言い訳をしていた。今回は、”マスター”呼びのようだ。
ロルフがいろいろ呼び名を変えても”念話”での会話は俺とミトナルとマヤと眷属にしかできない。今、この部屋に居るのは、俺だけだ。
「どうした?」
『指示された森の神殿への組み込みが終了しました』
ロルフには、領域の拡張を行ってもらっていた。
森の全域が組み込めるとは思っていなかったが・・・。全域が組み込めたのなら、廃墟の教会を作る場所の選定も行える。
「はやいな」
イリメリは、ロルフが入ってきた段階で、離れた位置に移動している。
『次のご指示を』
「朽ち果てた教会・・・。建物を用意して、ゲートを繋げたい。中央を考えている」
『マスター。森は、山の方角に進めば、魔物が強くなります』
「知っている」
『森の奥まった場所に、山脈の雪解け水が湧き出す泉があり、その先に水を貯めた湖があります』
「え?」
『その湖から、森に川が出来て、他の湧き水の川と合流して、マガラ渓谷に注がれます』
「ふぅーん。それで?」
『朽ち果てた建物にゲートを設置するのでしたら、奥地がいいのではないでしょうか?』
「距離は?」
『アウレイアが通常の速度で1時間ほどの場所ですので、人族が使う馬車でしたら、14-5時間です』
「うーん。そこまでに、一泊が必要か?安全にはできるのか?」
『可能です』
「任せる。それから、街道の始点は、メルナの屋敷からにしてくれ」
「リン君。ゴメン。横から・・・」
「何?」
「今の話は、森の中に作るゲートの位置?」
「そうだよ」
「メルナの屋敷からだと、見つけてから、街道を作ったことにするのに、少しだけ無理があるように思えるの・・・。だから・・・」
イリメリの指摘はもっともだ。
時系列が狂ってしまう。
「どうしたらいいと思う?」
「メルナに入る前に、山脈に向かう道があるよね?」
思い出してみる。
確かに、道があった。街道と言えば、街道だ。
「あるね」
「旧アゾレム領に向かう道じゃないほうの街道を入った所に、休憩ができる場所があるのよ」
「へぇ」
確か、イリメリの出身は旧アゾレム領の近くだと聞いている。あのあたりに、土地勘があるのか?
「あの辺りは、魔物もあまり出ない・・・から、その休憩場から、1-2時間程度入った場所から街道を作るのはどうかな?」
「休憩場に繋げないのは、アリバイ?」
「それもあるけど、リン君が発見したことにするのに、休憩場に繋がっていると・・・。いきなり、街道が出来るのは、無理があるよね?」
「そうだな。ロルフ!」
『調査します』
「頼む。イリメリ。ありがとう。ロルフが調査を始めてくれる」
イリメリが嬉しそうな表情で、頭を下げる。
ロルフが部屋から出ていくときに、イリメリが扉を開けた。ロルフなら、自分で開けられる。ロルフが、扉の近くまで移動したのを見て、イリメリが移動して扉を開けた。
「それで、イリメリは何かあるのだろう?」
「うん。人材は、私やアルマールが居た元村民ではダメ?」
「ん?元村民?」
「そう・・・」
イリメリの説明では、領から逃げ出した者たちが、森に集落を作って潜んでいるらしい。イリメリが知っている段階で、20名程度。宰相派閥の貴族領から逃げ出してきた領民が固まっているようだ。
「なぜ?森に?」
「マガラ渓谷は、アゾレムの領地のような物で、このメルナが直轄領。何とかなると大人たちが考えた結果です」
うーん。
浅はかだけど、村に居れば、殺される可能性もある。
税が払えなくて、殺されるか、女は連れていかれる。それで、イリメリやアルマールは、パシリカの後で帰らなかった。
「わかった。潜んでいる場所は解るのか?」
森の中なら、ロルフに指示を出せば探せるとは思う。
正確な位置が解っても、俺が行って説得ができるとは思えない。
「私の居た村は解る。けど、アルマールの方は解らない」
「まずは、イリメリの集落だけでも移住をしてもらおう。どうする?」
今は、数名でも人は欲しい。
人材でなくてもいい。最悪は、アロイの村に住む住民でも十分だ。
「どうする?」
「ほら、神殿の中でもいいし、新しく作る廃墟の村でもいい。アロイ側に作る村でもいい。安全なのは、神殿の中だね」
安全に住むのなら、神殿がベストだろう。
廃墟は、最悪は、オイゲンたちに渡して、好きに開発させるのもいいと思っている。
「それは、各自に判断して貰おうかと思う。安全まで、リン君が担保する必要はない。リン君に、安全までお願いするのは違う気がする」
「そうか?」
招いたのなら、俺に責任が発生すると思うのだが?
イリメリは違うと感じているのだろう。説得は、イリメリが自分で行うつもりのようだが。説得の方法で、対応が変わるのか?
神殿は、商店や宿が中心になると思う。
ゲートを守る感じになる集落は、集落としての意味以上は持たなくていい。
ゲートに入る待ち時間が発生した時の対応くらいだろう。
イリメリの予想では、同じような隠れ集落が、いろいろな所にあるだろうと言っている。
それらを探し出して、連れて来て、作った村に住まわせる。
「そもそも、このマガラ渓谷の神殿とアロイ手前の村と森の徴税権はどうなっているの?」
「知らない。もしかしたら、ルナかアデーなら知っているかもしれないけど、土地を”くれる”というから貰っただけだ」
「リン君?」
「ごめん。でも、俺もよくわからない」
「はぁ・・・。ルナとアデーに聞きましょう」
この感じは、学級委員長だったイリメリの対応に似ている。
「イリメリは、先に人の確保を頼む」
「うん。わかった」
「俺も、奴隷商やハーコムレイやローザスに聞いてみる。あと、タシアナやナッセなら他の都市にある施設とかに繋がりがあるのでは?」
子供になってしまうが、神殿の中で働かせるのなら、子供でも大丈夫だろう。
貴族の相手が難しいのは、当然で、貴族が使い始めるころには、人材が揃っているだろう。
有意義に使わせてもらおう。
人材の確保の為に、一度王都に戻るか?