第十二話 アデレード
私は、”アデレード=ベルティーニ・フォン・トリーア”、名前からわかっていただけると思うのですが、トリーア王家に連なる者です。
親しい者からは、アデレードではなく、”アデー”と呼ばれています。
大きく物事が動いたのは、今年のパシリカが終わった位です。
私も、パシリカを受けました。授かったスキルは”秘密”です。悪いスキルではなく、ステータスも良かったのですが、少しだけ問題が発生しました。ジョブが”癒し手”と言われる初代様と一緒に・・・。
もっと正確に言えば、初代の王妃様が持っていたジョブです。
王家や上位貴族の子息がパシリカを受ける時には、教会の者が立ち会う事はありません。教会の者に、ジョブが知られなくて良かったと心から思いました。パシリカには、お兄様が一緒に付き添ってくれています。お兄様は、秘密にされていますが、”鑑定”スキルをお持ちです。
お兄様は、”鑑定”は接触していなくても、”見る”ことが可能なのです。しかし、ジョブは見られません。家族しか知らない秘密なのです。
私は、お兄様に”ジョブ”を告げました。黙っていても、いずれ知られてしまいます。それなら、先にお兄様に知っていただいたほうが良いと判断をしました。
お兄様は、私のジョブを聞いて、頭を抱えていらっしゃいます。
「アデー」
「はい?」
「すぐに、戻ってくる。隣室で待っていてくれるか?」
「わかりました?」
「アデー。アデーは、女王になるつもりはあるか?それか、英雄と呼ばれる者と添い遂げるつもりは?”聖女”として教会のトップになることも可能だ」
「え?ありません。絶対に嫌です。出来れば・・・」
無理なのは解っています。
子供の時に、短い期間を過ごした辺境の村。そこで出会った・・・。考えないようにしてきた。素晴らしい思い出。そして、恐ろしい記憶。消し去りたい過去。
お兄様は、私を控えに使う隣室に置いて、部屋を出て行きました。
私に、お兄様以外には絶対に鍵を開けないように指示されました。外からも鍵を掛けると言っていました。この部屋には、簡易な物ですが生活ができる設備があります。数日なら閉じこもれます。そして、鑑定が行える石板が配置されています。
石板に触れれば、鑑定で表示される物と同じ結果が表示されます。
///真命:アデレード・エリフォス
///ジョブ:癒し手
・・・
///ユニークスキル:解呪
///エクストラスキル:蘇生
エクストラスキルが問題です。
スキル蘇生。鑑定が無いので、詳細は解らないのですが、王家に伝わる初代様の話では、後の王妃様になる”癒し手”様は、仲間たちを癒し、神々の元に旅立った仲間を蘇生させたとあります。眉唾な話だと、言われています。教会も、話としては伝えていますが、信じられていません。
しかし、”癒し手”のスキルに”蘇生”があります。眉唾だとは言っていられません。
問題はそれだけではありません。
真命も、問題です。アデレードが出たのは嬉しい事です。神々が、私の名前をお認めになってくれています。しかし、エリフォスは困ります。
神の一柱です。
真命に神の名前が現れるのは、王家では珍しくありません。お兄様も、名を頂いています。貴族家でも、多くはありませんが現れます。
問題は、エリフォス神です。
教会が確実に確保に走るでしょう。私は、教会に縛られて生活をしたくありません。対策ができるまで逃げる必要がありそうです。
そもそも、パシリカという儀式も、エリフォス神が身体の出来ていない子供のために用意した儀式と言われています。
初代の癒し手様が神託を受けて初代様と一緒に開発したと言われています。簡易的な儀式は、いろいろな国に伝わっていますが、完全な形は”トリーア王家”にだけ伝わっています。その為に、
歴史では、
なぜ、私なのでしょうか?
ため息も出てきません。
扉がノックされます。
緊張で身体が強張ります。外から聞こえる声は、お兄様です。
外鍵を開ける音がするので、お兄様です。内鍵をあけると、お兄様が周りを気にしながら部屋に入ってきます。護衛が居ますが、離れた場所で誰も来ない事を確認してくれているようです。
「お兄様?」
「アデー。教会の連中が何かを感じたようだ」
「え?」
「説明は、後で・・・。まずは、この腕輪をして欲しい」
「わかりました」
お兄様に殺されるのなら、しょうがない。
そう考えて、腕輪を受け取って左腕に付けます。マジックアイテムのようです。
「え?」
「大丈夫なようだね。今は、急いで外に出るよ。そのまま、陛下の所に行くからね」
「はい」
お兄様が先に歩きます。
私も、急ぎ足でお兄様の後に着いて行きます。何かが動き出したのでしょうか?少しだけ怖いです。
陛下・・・。お父様に、お兄様が事情を説明しています。
この腕輪は、王家に伝わる秘宝の様です。
初代様が使っていた物で、鑑定を完全に弾くようです。ただし、初代様が持っていた”万物鑑定”では鑑定されてしまうようです。しかし、”万物鑑定”は伝説のスキルで、初代様以外では、数年後に賢者様が得たという記述があるだけです。
「アデー。対策ができるまで・・・」
陛下・・・。お父様が、申し訳なさそうに、私を王宮で匿うと言ってくれています。
確かに、教会だけではなく、宰相派閥の貴族は、私との婚姻を望むでしょう。筆頭は、アゾレムでしょうか?あの豚だけは・・・。それでは、豚に失礼ですね。あのクズだけは、死んでも嫌です。男爵家の跡継ぎ程度で・・・。これもダメですね。
教会も、エリフォス様の名前がある限りは諦めてくれないでしょう。
もっとも怖いのは、お兄様が率いている派閥なのかも・・・。私のジョブが知られてしまうと、ダメージを受けるのは・・・。一部の人間が暴走する可能性があります。確実に大丈夫だと思えるのは、ミヤナック家くらいでしょう。
お父様の言いつけの通りに、王宮の奥で過ごすことにしました。
もう、私はこの王宮で・・・。
考えていたところで、状況が大きく動きました。
アゾレムのクズの”真命”が初代様と同じように、”読めない”状況だと解ったのです。
他にも、9名が”読めない”真命を持っているようです。貴族は、アゾレムだけのようですが、代官や豪商や教会の関係者など、多岐に渡っています。問題は、全てが、宰相派閥に属している者たちです。
お兄様とミヤナック家のハーコムレイ様が、組織を後援したと教えられました。
私と同じ、今年パシリカを受けた者たちが中心の様です。詳しくは教えられていないのですが、お兄様もハーコムレイ様も前のめりです。誰が、主導しているのか教えてくれませんが、噂レベルの話でルアリーナの名前が出ています。他にも、王都では有名なセトラス商会の娘さんが絡んでいるようです。あと、お兄様がよく使われる宿屋の娘さんとか、知っている人が聞くと、よくわからない中にも、対抗組織のように思えます。
そんな
お兄様とハーコムレイ様が後援を行う
理由は聞いていません。ルアリーナも王都のミヤナック邸から移るようです。私も、
お兄様だけではなく、お父様やお母様とも話し合いをしました。
ミヤナック家の現当主様とも話をしました。
私は、ミヤナック家の領地で、ルアリーナと一緒に療養することに決定しました。
一度、メルナの屋敷まで移動してから、そこからミヤナック領まで馬車で移動します。実際には、私とルアリーナに似せた者が移動するのですが、時間稼ぎには十分だと判断されました。
お兄様とハーコムレイ様が、他の貴族家や教会の目を欺く為に用意した方法です。
私が一緒に移動する名目が必要です。お兄様たちが用意した名目は、”
移動中に、ルアリーナ・・・。ルナから話を聞きました。神殿という施設が、マガラ渓谷にあると・・・。そこの主様が・・・。
お兄様は、私に内緒にしていたようです。セトラス商隊と一緒にメロナに移動した。
そこで・・・。