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第十八話 神殿の拡張


 ミルは、生き残れていないと判定されてしまうのではないかと考えているようだ。アドラの気持ち次第かもしれないが、多分ミルはまだ排除されていないように思える。アドラなら、負けが確定した時点で、無条件で白い部屋に戻すだろう。

「俺は、ミルはまだ大丈夫だと思っている。でも、たしかに、可能性は広げたほうがいいな」

「うん。僕もそう思う」

「マヤは?」

「うーん。まだダメ」

「そうか、マヤが活動出来るようになったら、話をしよう」

「うん。でも、瞳たちと協力体制は必須だと思うよ?」

「そうか?」

「うん。生き残るだけなら、この神殿に引きこもっていれば大丈夫だと思うけど・・・」

「そうだな。影響なんて、わからないよな」

「うん。ねぇリン」

「なんだ?」

「立花たちを殺してしまえば、あとは瞳たちだから、話し合いで終わると思う」

 考えなかった・・・。と、言えば、嘘だな。
 最初にルールを聞いた時に、思ったのが、女子と男子で争わせて、立花たちが負けるように誘導することだった。でも、難しいと思えて、方針を変えた。偶然ではないが、ミルが味方になってくれた。イリメリたちも、協力できる状況にはなっている。
 イリメリたちの安全を確保しながら影響力がある権力者たちと繋がる。うまく行っているように思えるが、ローザス派閥に敵対している者たちのことを俺はよく知らない。ミヤナック家が何かしらの情報を握っているだろうけど、敵対派閥を牽制しながら、立花たちを始末することが出来るのか?

「・・・。俺も、それは考えたが・・・」

「ねぇリン。リンは、パシリカ直後のリンとは違うよ?」

「え?」

「あの時には、僕とマヤしか居なかった。僕もすぐには合流が出来なかった」

「・・・」

「でも、今は、ロルフが居る。ヒューマやアウレイアやアイルやリデルやジャッロやヴェルデやビアンコやラトギが居る。それに、ブロッホまでも、リンを主として慕っている」

「ミル」

「それだけじゃないよ。眷属の眷属も、みんな・・・。リンのためになら・・・。僕やマヤと同じ」

 ミルが話している内容は、理解が出来る。
 でも、俺のために、皆が傷つくのは・・・。

「リン。勘違いしないで!」

「え?」

「僕たちが、リンの為に、傷つくと思っているのでしょ?」

「・・・」

「リン。リンは、リンのやりたいことをやって。僕たちも、僕たちがやりたいことをするよ」

「え?」

「僕たちは、リンの為に存在している。だから、リンは気にしなくていい。僕たちは、リンと一緒に居て、リンのやりたいことが実現できるのが嬉しい」

「・・・。わかった。まずは、マヤが起きてきたら、神殿の拡張を行おう」

「拡張?」

「うん。イリメリたちを、神殿に誘うにしても、今の状態では問題が有るだろう?」

「え?そう?問題?」

 ブロッホは大丈夫だろう。アウレイアやアイルも大丈夫かもしれない。しかし、ジャッロやヴェルデやビアンコたちは、攻撃はされないだろうけど、萎縮させてしまう。イリメリたちが大事じゃないとは、考えていないが、比べるのも馬鹿らしいくらいに、眷属のほうが大事だ。

「あぁイリメリたちだけなら大丈夫だとは思うけど、ハーコムレイや・・・。商人や教会の関係者が出入りする可能性を考慮すると、出入り口だけではなく、階層を分けたい」

 ほぼ決定しているかのように告げてみたが、ミルとマヤから神殿を公開するのに反対されたら、階層を分ける必要はない。今と同じように、眷属だけで使えばいい。

「リン。マヤが・・・。ね」

「マヤが起きたのか?」

「うん。起きたけど、”リンと僕に任せる”だって」

「・・・。わかった。マガラ渓谷の全体を、神殿に組み込んでくれただから、疲れているのだろう」

「うーん。え・・・。あっ。そう。疲れている」

 違う理由なのだろうけど、突っ込んでも誰も幸せにならないことだし、”マヤが疲れている”と、俺が思っていればいいだけだ。

「そうか、ミルは、イリメリたちが、神殿を使うのに、賛成なのか?」

「うん。拠点は、王都。神殿は、通行路の代わりに使わせればいい」

「通路?」

「そう、マガラ渓谷を通過するときに、税を取られる。その税は、アゾレム・・・。立花の家に入る」

「資金源を潰せるな」

「うん。神殿には、ジャッロたちやヴェルデたちが、採掘できる場所もある。資源を、神殿で売ってもいいと思う」

「資源?」

「うん。ロルフが言っていた。鉄鉱石や銀鉱石や他の鉱石など、採掘が可能。一部、ミスリルもある」

「そりゃいいな。売っても大丈夫なのか?」

「僕は知らない。でも、千明に確認してみればいい。ダメなら、沙菜に売ればいい」

「そうだな。ルナに確認して、王国内で売れなければ、商隊を持つサリーカに預ければ捌いてくれるよね」

「うん」

 どのみち、王都に戻って話をしなければならない。王都で、他にもいろいろと聞かなければならないことが増えている。

 王都での話し合い自体だが、収支に問題はなければ、神殿の拡張をしておいたほうがいいだろう。

「なぁマガラ渓谷を転移門で超えるとして、どこに設置すればいいか解るか?」

「うーん。それも、千明を通して、聞いた方がいいと思う。メロナに設置するのなら、貴族の口利きが必要」

 よし、コンセプトはサービスエリアだ。
 イリメリたちが使わないと決めたら、そのときに考えればいい。

『・・・。リン様』

「ん?ミル。何か、言ったか?」

「・・・」

「そうか、気のせいだな。怒られるのが嫌で逃げ出すような管理者は居ないよな!」

 足元に居る。黒猫を見つめながら、避難の口調で呟いてみる。
 ロルフは、身体を震わせながら、俺を見つめる。

『リン様。ごめんなさい・・・。あっ。にゃ』

「いいよ。ロルフ。それで、収支はどうなった?」

『え?』

「収支の改善を目標にしたのだろう?神殿を拡張すれば、多少は良くなるのだろう?」

『はっはい。にゃ。リン様から預かった魔石を使わなくても維持できるようになった。にゃ』

「わかった。拡張すると、また維持費が上がるのか?」

「どういった拡張ですか?」

 ミルに承諾はされていないが、俺が考えたサービスエリア構想をロルフに聞かせた。

『階層を増やして、外部との接続を増やすのですか?にゃ?』

「その予定だ。それから、眷属たちが使っているダンジョン?にも、繋げたい」

『その位だったら、大丈夫。にゃ』

「それはよかった。サービスエリア区画には、宿屋を作って、商人やギルドのメンバーに寝泊まりしてもらおうと思っている」

『リン様の眷属なのか?にゃ?』

「いや、俺の眷属ではない」

『それなら、収入が増えるので、是非、作って欲しい。にゃ』

「わかった。それなら商店も出せるようにして、イリメリたちに開放しよう。好きに使って良いことにしよう」

『はい!にゃ』

 収入が増えるのは、ロルフとしても嬉しいようだ。
 維持管理するだけでも、必要な物がある。

「ねぇリン。さっき”ダンジョン”を瞳たちに開放するみたいなことを言っていたけど、”ダンジョン”って”訓練所”のこと?」

「そうか、”訓練所”と呼んでいるのだね」

「え・・・。あっ。うん。それで、訓練所を公開するのなら、瞳たちだけにしたほうがいい」

「ん?あっそうか、眷属たちも訓練所を使うのだったな」

「うん」

「それは、それで面倒だな。ロルフ。今の訓練所と同じような物を別に作っても大丈夫か?」

『規模によります。にゃ』

「そりゃぁそうだな。イリメリたちが使うと決めて、食堂や宿屋や商店に人を派遣してくれると決まってから、”訓練所(ダンジョン)”を新たに収支に合うように作ればいいよな」

「うん。僕も、それなら賛成。収支に合わせて、規模を考えればいい。マヤも作ってみたいと言っている」

「わかった。ロルフ。サービスエリアを作ったら、俺とミルで王都に向かう」

『わかりました。リン様。転移門を発動させる場所を決めておいてください。あとは、マヤ様と作っておきます。にゃ』

「わかった。まずは、草案を俺とミルとロルフで作ろう」

 まだ、不確定要素はあるが、神殿の方向性は決まった。
 神殿の拡張は、ロルフとマヤにまかせて、俺とミルは地上に出て、王都に向かうことにした。

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