第2話
「お二人も食べるんですか?」
二人の笑顔に何か怖いものを感じながら、そう問いかける。
「ええ、私たちも是非ともいただきたいわ」
「そうね、とても気になるもの」
「そ、そうですか。では、少々お待ちください」
俺の答えに満足したのか、イザベラ嬢とクララ嬢は両肩から手を離し、鬼気迫るような雰囲気から柔らかい雰囲気に変わる。
そんな二人を見て、内心でホッと一息吐きながら、手際よく焼き鳥を並べてセットする。
焼きの部分で拘ったのは、魔道具の簡易コンロが生み出す火だ。
この火は、炭火に近くなるように調整してもらっているため、前世の焼き鳥に近い焼き上がりになる。ここまでの仕上がりに至るまで色々と試行錯誤をし、失敗を繰り返したのちに完成した、汗と涙の結晶だ。
簡易コンロにセットした焼き鳥を、焼き加減にムラが出ないように遠火でじっくりと、強めの火力で焼いていく。
後は、火の通りや焼き過ぎに注意しながら、焼き上がるのを待つだけだ。
(あの二人が肩を掴んでいた時の笑顔、すげぇ怖かったな)
顔は微笑んでいるのにも関わらず、威圧感がもの凄かった。焼き鳥の何が、あの二人の琴線に触れたのだろう?
そんな事を思いながら、良い匂いを漂わせ、じっくりと焼き上がっていく焼き鳥を眺めながら、焼き加減をチェックしていく。
ここで、焼き鳥の美味しさをもう一段階引き上げるために、もう一工夫する。
バックパックの中から新たに取り出したのは、この世界で見つけた醤油を使って作り上げた、醤油味のタレだ。
「そ、そいつはまさか⁉あの伝説の、――‟タレ”か⁉」
「そう、そのまさかのタレだ。こいつを焼き鳥に付けて、さらに焼き上げる‼」
焼き色が付いた焼き鳥に醤油タレを付け、味付けをしていく。焼き上がる匂いに醤油の匂いが混じり、さらに空腹を刺激してくる。
ポタリ、ポタリと油や肉汁が簡易コンロの中に落ち、ジュ~という音を立てる。そんな音と良い匂いに、同じ部隊の者たちはソワソワしだし、簡易コンロの周りに集まってくる。
「ウォルター、まだなのか?」
我慢できないといった様子で、マークが聞いてくる。
「まだだ、マーク。肉はしっかりと焼いておかないと腹を壊す。野営中に腹を壊した状態で、まともに動けるか?」
「うっ……それは無理だ。だけどよ、こんなに良い匂いしてんだ。我慢し続けるのは難しいぞ」
「それでも我慢しろ。空腹は最高の調味料だ。我慢した分、より美味しく感じるはずだ」
マークを含めた騎士学院の者たちは、俺の言葉に素直に従って静かに完成を待つ。
魔法学院の者たちはなにか言ってくるかと思ったが、公爵家の令嬢であるイザベラ嬢がなにも言わずに素直に待っている事から、なにか言う事は控えたようだ。
次第に周囲の者たちのお腹から、グーグーと音が鳴り始めていく。
それはイザベラ嬢やクララ嬢も同様で、少し恥ずかしそうにしている。だが、そんな二人も焼き鳥から視線を外す事はない。二人ももう我慢の限界といった様子だ。
(よし、焼き上がった‼)
そんな中、遂に焼き鳥が完成する。
香ばしい醤油の匂いを放つ焼き鳥を、サササッと素早く皿に移していき、土属性魔法で作られた即席の机の上に並べていく。
部隊の皆は、焼き鳥の盛られた皿に吸い寄せられるように、机に向かってフラフラと歩いていく。
「待たせて申し訳ない。では、召し上がってくれ」
俺がそう言うと、待ってましたと皆が皿に手を伸ばし、焼き鳥をパクリと一口食べる。
そこからは皆無言となり、一本、また一本と焼き鳥を食べていく。
黙々と食べ続けている皆を見ていると、俺の腹も空腹を主張し始めたので、皿に手を伸ばして焼き鳥を
「……この味を知っているという事は、そう言う事よね」
「もしかして、ウォルターさんも?」
「確かめてみる必要があるわ」
そんな中、焼き鳥を片手にイザベラ嬢とクララ嬢は顔を近づけ、ウォルターについての疑惑を深めていた。