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私が次の日に学校に行くとリサが走り寄ってきた。
「パル。お父さんが良いって」
「良いって。張り紙のこと?」
「そうよ。カウンターでよければ貼って良いって。他のお店にも頼まれて貼ることがあるから構わないって。あっさり言ってくれたよ」
「そうなんだ。ありがたい。助かるし、嬉しい。なんか作ってみるね。どんなのがいいかな? 絵とかもあったほうが良いと思う? 作ったことがないからわからないけど、考えてみないと。大きさとかもあるかな?」
リサから許可が降りたと聞いた途端、私の頭の中はビラを作ることでいっぱいになっていた。どんなふうに作るか、言葉はどうするのか、そのことで頭はいっぱいだ。だが、こんなにあっさりと許可が降りるなんて思ってもなかった。カウンターにビラなんて貼ってあっただろうか? 前に見たときは気が付かなかった。観察不足を反省しつつ。おじさんにお礼を言うべく宿屋による約束をする。
「こんにちわ」
「ただいま」
わたしとリサは宿屋へ入っていく。カウンターには誰もいなかった。掃除やお湯の準備をしているのかもしれない。その間にカウンターの観察をする。カウンターはきれいなものだった。今は何もないとしても今まで貼ってあるのなら、カウンターの色が違ったり何かしらの形跡があるものだが、そんな様子は一つもなかった。逆に宿屋の顔、と言わんばかりにキレイに磨いてある感じだ。その場所に私の手作りの張り紙を貼って良いものなのだろうか? 手入れがしてあるだけにためらってしまう。これは予想だけど、今までここにチラシを貼ったことはないのだと思う。わたしが貼る場所を探していると聞いて、おじさんが許可を出してくれたみたいだ。これは、多分、あれだよね。わたしが納得して希望した報酬に対して、おじさんたちは申し訳ないと思っているのかも。だから、協力できる部分で協力してくれようとしているんだと思う。
ありがたいことだけと、いいのだろうか?
きれいなカウンターにためらいを覚える。こんなキレイにしてある場所に子供のわたしの手書きのチラシなんか貼っても大丈夫なのだろうか?
おじさんの好意は嬉しいけど、わたしは良識人のつもりだ。こんな厚かましい事をしてもいいのだろうか? ためらいを覚える。
わたしが考えているとおじさんが来てくれた。
「よく来たね、パルちゃん。宿屋のためにいろいろありがとう。お陰様でお客さんにも好評だよ。みんな手軽で助かるって言ってくれてる」
「おじさん。評判が良くて安心しました。わたしも初仕事がうまく言って嬉しいです」
「パルちゃんが良くしてくれたのに、ちゃんと報酬を支払ってないから気になってるぐらいだよ」
「おじさん。そのことなんですけど。リサにも言いましたけど、わたしは納得して報酬をもらっているので、そこのところは、気にしないでください。金銭をもらうだけが報酬じゃありません。わたしはそう思ってます」
「そこまではっきり言えるなんて、パルちゃんはちゃんとして商売人だね。感心するよ」
「ありがとうございます」
おじさんの褒め言葉に嬉しくなる。気を良くした所でおじさんに確認をする。
本当にここにチラシを貼ってもらって良いのだろうか?
「おじさん。リサに聞いたんですけど、本当にこのカウンターにチラシを貼ってもらってもいいんですか?」
「ああ。良いよ。たまに頼まれるんだよ。宣伝させてくれってね。パルちゃんさえ良ければ貼っていいよ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいます」
わたしは少し迷ってグダグダ考えていたが、おじさんが良いというのだ。ここは好意に甘えさせてもらおう。
わたしは許可が降りたチラシ作りに頭を悩ませる。できるなら絵も書いてわかりやすくしたいのだが、なにせ、わたしの絵は印象派だ。普通の人には理解できない絵を書く。素直に言えば下手、ということだ。それを自覚しているので、チラシに絵を書くという当たり障りのない方法は除外される。だが、字だけでは味気ない気もするし。どうしたものか。
悩みどころだ。だれかにお願いするか? お願いするとなると、わたしの活動に理解のある人でないといけない。となるとわたしの家族は無理。お兄ちゃんは絵が上手なんだけどお願いできないのは残念だ。ほかを考えるとリサの家族しかないけど、チラシを貼る許可をくれたのに、更に絵まで書けとは非常識な気がするし。
わたしはウンウンと悩んだ後、諦めて字だけのチラシを作ることにする。
「まあ、他には考えつかないし、当たり障りなく行こう」
わたしはそう決めるとチラシの文面を考える。
① 困りごとはありませんか?
② お手伝いします
③ 報酬は応相談(上限あり・無理な値段はご相談ください)
④ 期限内に完遂でいない場合は、キャンセル扱いでキャンセル料はなし
こんな感じだろうか。
考えを纏め書いてみる。絵と同様、字もあまり綺麗ではないが、頑張った。明日はこのチラシを張ってもらう予定を決めて、わたしはベッドに入った。