第15話 妖祓い
授業が終わるとすぐにソラネが俺のところへ来て「分かってるわよね?」と、まるで警察にでも連行されるかのような気分にされつつ、俺はソラネに教室から連れ出されてしまった。
それを呆然としおんが見つめていたが、きっとあとで理由を聞かれることは間違いないだろう。
教室横にある階段の踊り場まで来た。周りには誰もいない。
何故か俺は隅っこの方へ押しやられ、雰囲気はイジメを受けているひ弱な生徒である。
「え、えと……どうしたんだソラネ? 何か怖いぞ?」
「いいからアタシの質問に答えて」
「あ、ああ」
何やらいつもと違い剣呑とした様子なので、ここはお茶らけるのは止めておく。
「じゃあ聞くわよ。ねえヒロ、アンタって――――幽霊や妖怪って見たことある?」
「ぶほぉっ!?」
「きゃっ!? ちょ、きったないわね! いきなり何するのよ!」
「い、いや悪い悪い! あまりにもその……アレだ! 突拍子もない質問だったからつい!」
実はつい最近吸血鬼に遭ったので、反射的に身体が反応してしまったのだ。
「……ま、まあそうね。普通はいきなりこんなこと聞かれたらビックリもするか」
「ま、まあな。てか、何だよ? もしかしてお前、そんなことを聞くためにわざわざここまで連れてきたのか? だったら教室でも良かったんじゃ」
いや、よく考えればしおんがいるし、それはマズイか。あーでも、しおんなら上手く受け流してくれるかもしれないが。
「いいから質問に答えて。アンタは幽霊や妖怪って信じる? それとも見たことはある?」
「……マジで言ってる?」
「マジよ」
ああ、確かに目がマジですね。怖いくらいに。
少し前の俺なら、笑って誤魔化だろうけど、実際に異世界にも言ってるし、昨日はソレに遭ってるし。
「あーまあ信じる方だな」
「! じゃ、じゃあ見たことある? 戦ったことは!?」
あ、あれぇ。何か野蛮な選択肢が増えたんですけどぉ?
「ちょ、ちょっと待て! 戦うって何だ戦うって!」
実際に異世界では戦ってるけどな。あ、いや、昨日もか。
「質問を変えるわ」
うん、なるほどね。俺の話はまるで聞いてねえなぁ。
「幽霊や妖怪と戦う人のことをどう思う?」
「どうって……普通?」
「へ? ふ、普通なの? 変とか思わない? だってそれを仕事にしてる人たちだっているのよ!」
え? そんな人いるの? いわゆる陰陽師的な? そんな馬鹿な。いるわけが……って、そうだった。この世界は俺の知ってる常識が通じねえんだった。
「あー別に変じゃねえだろ? その……迷惑をかけるような幽霊とか妖怪とか退治するのって立派じゃねえか? よく知らんけど」
「!? そ、そうなのよ! 立派なの! 決してお金だけが目的じゃないの! 中にはね、退治するんじゃなくて、対話をして和解をする人たちだっているのよ! アタシもいつかそんな優れた霊能力者になるわ!」
「へ、へえ……霊能力者……って、は? 霊能力……者? 誰が?」
「ん? 何言ってんのよヒロ、アタシのことに決まってるでしょ?」
「…………はい?」
「それでね! アンタには是非お願いがあるのよ!」
「お、お願いだって?」
「そう! ヒロ――――――アタシの相棒になりなさい!」
「え? 何だって?」
思わず難聴系主人公みたいな返しをしてしまったが、決して俺は悪くないはず。
「だから相棒よ、相棒!」
「ちょ、ちょっと待て! そんな常識よ、みたいな感じで言われもな」
「何よ! アタシの相棒じゃ不服なの?」
「そういうことじゃなくて、どういうことなのかサッパリ分かんねえんだよ。そもそも何の相棒だ?」
「だから『妖祓い』のよ」
「あ、あやかし……ばらい?」
「え? 知らないの? ……まあそれもしょうがないか。多分アンタは突然変異型の霊能力者だろうし」
「そのさも当然のように霊能力者って言ってるが、イマイチ分からんぞ」
「あーそっから説明が必要なわけね。まあ狭い世界でもあるし、知らなくても普通っちゃ普通なのかも」
すると「こほん」と可愛らしく咳払いをすると、ソラネが、
「いい? 霊能力者っていうのは――」
説明をし始めるが、そこでチャイムが鳴ってしまう。
「ああもう! 少しは空気を読みなさいよね!」
いや、チャイムに言っても仕方ないでしょうが。
「ヒロ、今日の放課後、アタシと一緒に帰るわよ!」
「は? 部活はどうすんだよ。今日は普通にあるぞ?」
「当然休むわ! すでに虎先輩には報告済よ!」
「い、いつの間に……」
どうやらさっきの授業の合間に、すでに許可を取っていたようだ。俺の分も。
放課後に俺を拘束する気満々だったみたいである。
「いいヒロ、このことはしおんには秘密だからね! 一応関係無い人に公言しちゃいけないってことになってるから!」
「あ、ああ……分かったよ」
こうして俺は、また訳の分からないことに巻き込まれそうになっていくのであった。
ちなみに次の休み時間に、連行された理由をしおんに聞かれたが、ソラネが機転を利かせ、「もうすぐ誕生日の弟のプレゼントに関して、同じ男の俺に意見を聞いていた」と答えたのである。
俺もさすがにしおんに嘘を吐くのは心苦しいものがあったが、さすがに妖怪を討伐する霊能力者の話なんか、吸血鬼であるしおんにできないと思い、涙を飲んでソラネの肩を持った。