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第六十ニ話 帝国軍の到着と王国軍の撤退<完結>

 エームスハーヴェンの城門から、ケニーとルナ、ティナが馬に乗ってジカイラ達の元へやってくる。

 ジカイラは、両腕で気を失ったヒナをお姫様抱っこしたまま、立っていた。

 ケニーは後ろにルナを乗せ、ティナは一人で騎乗していた。

 ケニーが口を開く。

「ジカさん! 大丈夫!?」

 ジカイラが笑顔で答える。

「大丈夫さ!!」

 ルナが尋ねる。

「ヒナちゃんは?」

 ジカイラは、自分の腕の中で気を失っているヒナの顔を覗き込み、穏やかな笑顔で答える。

「魔力の使い過ぎで気を失っているだけだ。・・・無茶し過ぎなんだよ」

 ジカイラ達が集まって話している側に、上空から人が落ちてくる。

 ルナが驚く。

「え!? 人??」

 ケニーも驚く。

「今、人が降ってきた!?」

 空から落ちてきた人は、地面にぶつかる。

 カスパニアの宮廷魔導師ナオ・レンジャーであった。

 ティナが馬から降りてナオ・レンジャーを覗き込むと、ナオ・レンジャーが呻き声を上げる。

「・・・ううっ」

 ナオ・レンジャーを見たティナが驚く。

「この女の人、まだ生きてる!?」

 飛行(フライ)の魔法の効果が残っていたため、地上に落ちた際に墜落死こそしなかったものの、全身に凍傷を負い、唇まで紫色に変色させたナオ・レンジャーは、瀕死の状態であった。

 ジカイラがティナに話し掛ける。

「ティナ。そいつの治療を頼む。死なれちゃ困るんだ」

「判ったわ。任せて」

 ティナは、ナオ・レンジャーに回復魔法を掛け、手当を行う。

 





 ティナがナオ・レンジャーの手当を行っていると、その上空に砲声と爆音が轟く。

 ジカイラ達は、砲声がした方角を見る。

 ヒマジンが率いる帝国機甲兵団の飛行戦艦の艦隊が雁行陣でエームスハーヴェンの上空に現れる。

 砲声と爆音は、飛行戦艦の艦隊による威嚇射撃であった。

 ジカイラが呟く。

「帝国軍が来たか!」

 ケニーも笑顔を見せる。

「これで、もう安心だね」

「ああ」

 エームスハーヴェンの上空に帝国軍の飛行戦艦の艦隊が出現し、威嚇射撃を行ったため、カスパニア軍は動揺し始める。

 





--中核都市エームスハーヴェン上空 帝国軍総旗艦 ニーベルンゲン 艦橋

 ヒマジンが口を開く。

「間に合ったか!?」

 副官のロックスが答える。

「そのようです」

 ヒマジンが指示を出す。

「全艦、単縦陣に陣形を組み替えろ! エームスハーヴェンとカスパニア軍の間に割って入るぞ!!」

 飛行戦艦の艦隊は単縦陣に陣形を変え、エームスハーヴェンとカスパニア軍の間に並び、カスパニア軍に砲門を向ける。

 再び、ヒマジンが指示を出す。

「威嚇射撃! 斉射三連!!」

 飛行戦艦艦隊は、カスパニア軍の上空に向けて、三回連続で一斉射撃による威嚇を行う。
 
 カスパニア軍の上空で威嚇射撃の砲弾が爆発し、轟音を轟かせる。

 指揮官の居ないカスパニア軍は恐慌状態になり、自国へ向けて逃げ出し始める。

 ヒマジンが自軍に通達を出す。

「逃げる者は追わなくていい」

 中核都市エームスハーヴェンを巡る戦いは、バレンシュテット帝国軍の到着と、カスパニア王国軍の撤退で決着を迎えた。

 






--数日後 エームスハーヴェン 領主の城

 応接室に皆が集まっていた。
 
 ジカイラ、ヒナ、ケニー、ルナ、ティナ、皇帝ラインハルト、皇妃ナナイ、エリシス、その副官リリー、そしてヒマジンであった。

 ジカイラが口を開く。

「ラインハルト。カスパニアをどうするつもりだ?」

 ラインハルトが答える。

「越境したカスパニア軍が引き上げた以上、戦争するつもりはない。王太子と護衛の騎士、将軍と宮廷魔導師の4人は、情報を引き出した上で身代金と引き換えに帰国させるさ」

 ジカイラが軽口を叩く。

「ま、死人は出なかった訳だし、それで十分だろ」

 ケニーが尋ねる。

「この街、エームスハーヴェンは?」

 ラインハルトが答える。

「領主のヨーカンは暗殺された。直轄都市にするよ」

 ナナイが口を開く。

「秘密警察とダークエルフの所在は、掴めていないわね」

 ルナが尋ねる。

「彼らは何処に?」

 ラインハルトが答える。

「恐らく他の国か、新大陸だろうな」

 ティナが呟く。

「・・・新大陸」

 ラインハルトが口を開く。

「ナナシが捕らえたジェファーソンから情報を集めている。カスパニアの王太子からもだ。・・・どうやら、以前、帝都ハーヴェルベルクにガレアスの艦隊を差し向けてきたのは、新大陸のダークエルフらしい。麻薬組織はハンガンの実を新大陸から手に入れていたようだ」

 新大陸には、バレンシュテット帝国の威光も完全には行き渡っていなかった。

 多くの未知の領域や未探索の地域が存在し、ダークエルフや食人鬼(オーガ)などの危険な種族が生息していた。

 ラインハルトが続ける。

「新大陸まで出向くには、相応の準備がいる。今すぐ遠征という訳にはいかないだろう」

 エリシスも口を開く。

「取り敢えずは此処までね」

 ヒマジンが軽口を叩く。

「やっと少し落ち着いたな」

 会議はここで終わり、解散する。

 



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 ジカイラとヒナは、領主の城のテラスからエームスハーヴェン街を眺めていた。

 紺碧の空が広がり、遠くに海から港に出入りする帆船が見え、心地良い潮風が二人の顔を撫でる。

 ヒナが口を開く。

「良い眺めね」

 ジカイラが答える。

「そうだな」

「ジカさん」

「んん?」

「落ち着いたら、()()()()()があるんだけど」

()()()()()? 何だ??」

 ヒナが恥じらいながらジカイラに告げる。

「・・・ジカさんの赤ちゃん」

 ヒナの言葉にジカイラも照れる。

「そ、そうだな! 作るか!!」

 ジカイラの言葉にヒナが笑顔で答える。

「うん!!」 

 照れ隠しにジカイラが冗談を口にする。

「ラインハルトのところに負けないくらい作らないとな!」

 ヒナも照れながらジカイラを小突いて答える。

「もぅ・・・。何人、産ませるつもり?」

「子供は沢山、居たほうが賑やかでいいだろ」 

「そうね!」

 ジカイラに肩を抱かれながら、ヒナは遠くの景色を見回し、その黒い瞳でジカイラの顔を見上げる。

 勅命を完遂し、自らの戦いを終えた戦士の『黒い剣士』の誇り高い横顔があった。

 ヒナは誇らしげにジカイラの横顔を見詰めていた。



< 完 >

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