プロローグ
食パンを加えた女子が、角でイケメンとぶつかる。あるわけない。
電車で喧嘩になった女子がまさかの転校生で同じクラス。あるわけない。
最後は両想いになった二人が付き合って、めでたし、めでたし。
そ、ん、な、わ、け、あ、る、か!
「つまんな・・・恋愛なんてよ!」
読み終わった恋愛漫画に文句を投げ捨てる。
しかし、本当につまらないー--と言っているわけではない。
ただ、漫画の主人公の順風満帆な恋愛人生に、イラついて投げた言葉だった。
そう。八つ当たりだ。
「彼女とか作る必要ねえよな」
ベッドに寝そべってぼそっと呟く。
当然、生まれてこの方、彼女なんているわけもなく、世間でいう所の
彼女いない歴=年齢に俺は当てはまるという事になる。
でも、それでいいのだ。人を愛さなきゃいけない、誰が考えた。結婚しなきゃいけない、誰が作った。俺には親友だっているし、勉強だってそこそこできる。
それだけで人生十分じゃないか。
「ん・・・・」
ポケットに入れていたスマホが震える。
俺はスマホを取り出して確認をする、綾人からのメッセージだった。
「綾人か・・・」
相木綾人。小、中、高、と共に同じ学校で生活を共にしてきた奴で、こいつこそが俺の親友であり、一番信頼している人でもある。
元気で素直で馬鹿でちょっと変な奴だが。
「なんだよ、あいつ・・・」
俺はLINEを開いて、綾人から来ているメッセージを確認した。
「えーと・・・・・・「ゆうちゃんに大報告!なんと俺に彼女が出来ました!」」
・・・らしい。え、あ、彼女?綾人に?
「・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ベッドから飛び起きる。綾人に彼女が出来たらしい。
良かったな
素っ気ないメッセージを送りつける。あくまでも、興味がないと思わせるためだ。
「あ、あいつに彼女が・・・」
彼女は誰?可愛い?そんなことはどうでも良かった。
綾人も俺と同様、生まれて一度も彼女がいない側だった。
中学校の頃なんか二人で「「彼女なんか絶対作らねえからな!」」なんて言っていたぐらいだった。
しかし、綾人は出来てしまったのだ。
「作るか・・・?俺も彼女・・・。」
綾人が先に行ってしまった。くよくよしている暇はない。
LINEの友達リストを開く。もしかしたらいい人が見つかるかもしれない。
「・・・違う・・・違う・・・違う・・・」
いない。というか、女子の連絡先が少なすぎる。まずそもそも、俺は学校で女子と話すなんてことは滅多にしない。ましてやLINEでの会話なんて、もってのほかだ。
少なくて当然なのだ。
「これで、全員か・・・」
一通り見終わったが、やはり、彼女にしたいと思う女子は見つからなかった。
「もういいか・・・やめよう、こんなこと。」
そうしてLINEを閉じようとした時、俺はふと「八重木朱音」という名前のアカウントが目に入る。
「八重木・・・朱音?誰だ?」
八重木朱音。どこかで聞いたことがあった気がする。
しかし、誰なのかがさっぱり分からない。
どこかで追加して忘れてしまったのだろうか。
「やえぎ、さん・・・」」
八重木朱音とのトーク画面を開く。当然トーク画面は真っ白だ。
「・・・・・・・」
好きです。付き合ってください。
無意識に指が動いて、入力欄に打ち込まれる。
気づいた時には、このメッセージを八重木朱音に送っていた。
「・・・・・・え、えーっと・・・俺は何してんだ?」
親友に彼女が出来たことで、おかしくなってしまったのだろうか。
顔も知らない、喋ったこともない女子に、俺は告白してしまった。
「ま、まあ、まだ、既読付いてないし、今消せば大丈夫だろ!」
そんな事を思いながら、ふとスマホを見る。
「・・・・・・付いてるな、既読。」
終わった。こうなれば、相手の返信を待つことしかできない。
何故こんなメッセージを送ってしまったのか。おかしくなっていた自分を悔やむ。
どうせ断られて、その噂が広まって、学校では笑い者にされるだろう。
いやされるに違いない。
3分くらい経っただろうか。スマホが震える。
八重木朱音からだろう。俺は絶望を感じながら、スマホを開く。
「・・・は、は、はぁぁぁぁぁ!?」
またもやベッドから飛び起きる
いいよ
そんなメッセージが俺の目にうつる。
あれ、これは、告白成功?という事なのだろうか。
いいや、見間違いかもしれない。きっとそうだ。
俺は何度もメッセージを確認する。
しかし、「いいよ」の文字が変わることはない。
どうやら本当らしい。
「まじかよ・・・なんでOKなんだよ・・・」
そんなことを思っていると、また手に持っていたスマホが震える。