第3章の第61話 X8 バイクマンの手術2
★彡
【――肝臓のメディケアパッキング法も終わり、残すは心臓と肺の吻合手術】
【あたしは電メスとガーゼを手に、時には血液吸引機に持ち替えながら、手術を進めたわ……】
――残すは、左右の肺と、ドックンドックンと脈打つ心臓。
肺は気胸し、心臓のその拍動は弱く、どこかで出血漏れを起こしているのは、明らか……。
(どうすれば……)
「……」
「……」
彼も、それを見ていて、
「……気胸か……」
と呟いた。
やはり、クレメンティーナのその手に余る症例だった……。
血管吻合、電メスにより止血・凝固程度なら、彼女でもできるだろうが……。
「……」
「シュ――ッ……シュ――ッ……」
私は、人工呼吸器に繋がられた患者さんの容態を見て、こう思う。
(普通、気胸の場合、肺呼吸ができない事から、比較的短時間で絶命し兼ねない……。だが……!
これは予測だが、救急救命士の2人が駆けつけた時、どうにかして、間に合わせていたのだろう。うむ……!
なんと幸運な男なんだ。
その証拠に、肺呼吸に変わる医療機器のチューブが取りつけられて……!?)
この時、私は、不可思議に囚われた。
患者さんの容態をよく見ると……。
私たちと同じ手技で、右側臥位で、鋭利な切り口に、チューブが直付けされている。
私はこれを良く見て……。
「……ンンッ……!?」
「どうかしましたか……!?」
「……いや……」
「?」
私はクレメンティーナに余計な心配をかけてはいけないと思い、押し黙った。
その心中では――
(――どーゆう事だ!? この傷口にはあるべきものがない……!?)
私は、チラッと医療用アンドロイドを見た。
(救急車(アンビュランス)にも医療用アンドロイドが常駐している……!!
その卓越した医療技術をもってすれば、『救急救命士用 体外循環 小型人工心肺装置』を取りつけることは、法的に見て認可されている……!!
だが、これは……!?)
私は、その鋭利な切り口を見た。
鋭利な切り口だ、焼いて止血した後がない……。
(電メスを使ってない……!? 人の手が加わったもの……!?)
「ッ」
「!?」
これには私も、思わず驚き得る。
あたしはどうしたんだろうと思う。
(何者なんだ……!?)
驚き得て、引き気味だった私は、その鋭利な切り口を診て、また覗きみる。
(美しい……!! この深切りを1回で、おおよそ、相当の腕前が見込まれる……誰なんだ!?)
「……」
「……」
私の心は、この鋭利な切り口に見惚れていた。
(皮下組織の潰れた後がない――……無縫(むほう)ができる……!?)
私は無縫(むほう)の達人を疑った。
(いったい誰なんだ……!?)
と、その事に感づいていないクレメンティーナが声をかけてきて。
「ムゥ……スプリング!?」
「ハッ!」
私の意識は、彼女の声もあって浮上した。
どうやら私は、この鋭利な切り口に見惚れていたらしい。
いったいどうやったら、こんな芸当ができるのだろうか……おおよそ理解の範疇の外だ。
「……何でもない……」
「?」
と言い、私は彼女に心配をかけまいとする。
その心中では、
(未来(現代)医療に無縫だと……!? 有り得ない……いったいどんな最先端器具を使ったんだ……!?)
思い浮かぶは疑問の嵐。
私も医師の端くれだ、古今東西、あらゆる医療器具を知っている。
だが、そんな夢じみた医療器具は、現存しない。
「……」
現存しない。それは、確かに昔はあったということだ。
だが私は、そんな考えを、今ばかりは不必要と追いやって、こう言葉を零す。
(――『救急救命士用 体外循環 小型人工心肺装置』……!!
Emergency Life-saving Technician,Extracorporeal Circulation,Small Heart-lung Machine(エマージェンシー ライフーセイビング テクニシャン,エクストゥラコーポリアル サーキュレイション,スモール ハート―ルンゲ マシーン)!!」
「……」
改めてそれを見定めた私は、目を細める。
「この医療機器は、今ばかりは外せないな……。大事な、生命存続を守る上で必要なものだ……!」
「……」
あたしは、彼の声もあって、それを見定める。
これは外しちゃいけない。今はまだ……。
(そして……! やはり……今のクレメンティーナには荷が勝ち過ぎていたか……)
「……」
(だが、それでもここまでできたのだから……上々だろう)
うん。
と私は頷き得る。
とクレメンティーナが。
「この気胸……どうしたらいいんだろう……!?」
「……」
私もそれを見る。その胸中では。
(そう、問題はこれだ……。
今肺は、折れた肋骨が突き刺さっている状態で、気胸になっている。
今、無理に外すと、大出血の危険がある……。
肝臓もヒドかったが……肺はもっとヒドイ……!!
ホントに良く生きていたものだ。
奇跡と疑う余地もない……)
私の思考は、深く考えるために落ちていく。
だが、これを元々立案したのは、我々ではないのか?
そう、心にわだかまりが残る。
とあたしは心の中で。
(……なんてヒドイ……これが気胸なのね……)
ズオォン……ピュッ……ピュッ……
今も、気胸を通じて肺から出血を起こしていたの。
「……」
ドクタースプリング(私)はその状態を診ていて。
ズキッ
「――!」
と私に残る人の良心が疼いた。
(人の子として……医師として……!)
私は人の子として、最低限の境界線を作る。
だから、その悪と人の境界線の中、不敵に笑みを浮かべる。
「――フッ」
「!」
【――あたしはその変化を見逃さなかったわ。……それは違和感にも似たものだから……!】
【違和感……!?】
【ええ、彼はあの時、笑ったのよ】
(えっ……)
何、これ……。
「この人は運がいい! ここは設備が整っているからな……!」
「!」
それは自信だった。
「私なら、この患者さんを救える!
それだけの医療設備が、当院に備わっているからだ!」
さすがは未来、未来(現代)の医療技術水準である。もちろん、救急医療も含めて。
【――それは当たり前じゃない?】
【姉さん……】
【お前は、人のせいにする気か? そんな動機で】
【……】
【その人は病院長なのだろう? それぐらいの自信があったんだ】
【……】
【……大丈夫? クリスティさん?】
【……うん……】
【続けてくれる?】
【……はい。彼はこう言ったの】
【「――人工血管置換術を使う!!」……と】
「あっそうか! バイパス手術!!」
「ああ!」
私は、時間的に見て、危うい肺の代わりに人工心肺装置を考え、その血管の通り道確保のために、人工血管置換術を思いついた。
この症例ならこれがベストだ。
私は予断なく、指示を飛ばす。
「心臓と肺を止める……!!」
「えっ……でも、ど……どうやって……!?」
「フッ……これがある!」
スッ
「『大動脈閉塞用バルーンカテーテル』に『大動脈遮断鉗子』!!」
「!」
私はクレメンティーナに見えるように、その2種類の医療器具を見せた。
「まず、血管カテーテルの要領で、この『大動脈閉塞用バルーンカテーテル』で、血流が入ってこれないようにする!
そして、万が一に備え、大動脈遮断鉗子で、二次的に血流を遮断する!
その遮断できる時間は、7分から10分間!!」
「10分……」
それは難しい時間だ。
「その10分の間に、人工血管置換術で、気胸の原因となっている、この骨を取り除き、僧帽弁の形成を行う!
それに用いるのは、『僧帽弁パッチ』だ!
それをこの穴の周りに、僧帽弁を形成し、人工血管を、バイパス手術の要領で直付けする。
僧帽弁の糸と針の縫い方は、弁尖(べんせん)、弁輪(べんりん)、人口弁輪(じんこうべんりん)の順に縫い着する!」
「うん!」
あたしは頷き得る。
(凄いわ! こんな症例に立ち会えるなんて……!)
あたしは心の中で、歓喜していたわ。
彼はこーゆうの。
「人工心肺装置を取り付け、私なら6分で離脱できる!!」
「6分!?」
それは凄い。
(ホント頼りになるわダーリン……)
はぁ
とあたしはマスク中呼気を吐いたの。
★彡
「――だがその前に……レムリアン! オーバ!!
「……」
『!』
それはあたしじゃなく、レムリアンとオーバに要請するものだった。
「レムリアンは、私の第二助手に入ってくれ! 人工血管の準備を!」
『了解!』
【スプリングのAIナビ:レムリアン】
その名は、春の夢、希望の石、水晶(レムリアンシード)から名付けられている。
水晶の中に、まるで桜の花びらが舞うような、インクルージョンが入った輝石です。
石言葉は、希望、自己信頼、発展、スプリチュアルジャニー。
誕生石は、水晶の4月です。
なお、医療用アンドロイドにアクセス中。
「オーバ! 君は、取り急ぎ人工の肋骨整形の準備をしてくれ! なるべく急いでな!」
『了解!』
それぞれ準備に入る。
私の相棒、医療用アンドロイド:レムリアンが、人工血管の準備を行う。
私のサポートのために、第二助手に入る見込みだ。
そして、ドクターライセンの相棒、医療用アンドロイド:オーバが、人口の肋骨整形の準備に取り掛かる。
ここで、医療用アンドロイドの機能が働く。
そう、それは、ゴーグルをかけている私たちの視点を通して、彼等もそれを見ていたのだ。
そこで、この医療機器システムが、共有されて動作反応を返す。
ピッ
あちらから、ゴーグルを通じて、質疑応答が返ってきた。
ゴーグルモニターに電子文字が現れているのが、その証拠だ。
それに対し、私はこう確認を行う。
「折れた肋骨は『左の第7肋骨』『右の第8肋骨』……と」
それはメディケアパッキング法中の肝臓も含む。
当然、その欠損した肋骨形成も必要だ――
「――『第12の肋骨』が欠損!!」
「……」
あたしは彼の横顔を見る。
「……そう、これが、今、メディケアパッキング法で保護しているものだ」
彼は、にべもなくそれを告げた。
コクッ……
「……」
とあたしは小さく頷いたの。
「……」
「!」
ドクタースプリングは、あたしの顔を見て、そう論を返してきたわ。
「……」
あたしはその時、何を当たり前だとわかりに、マスク中呼気を吐いたの。
『……』
その様子を、医療用アンドロイドが見守る。
そして、
『PPP……PPP……』
医療用アンドロイドが、患者さんを助けるために、何が最善なのか、どうすれば良いのか、何か見落としているものはないかと焦巡し、その機能が働いた。
自動で、今、ドクタースプリング及びクレメンティーナが掛けているゴーグルから、その術中情報が、レムリアンに送受信される。
それが今の、命の現場の最善に基づく共有システムだった。
そして、ここで、医療用アンドロイドの真価が働く。そう、それは――
『――手術台の重み。
音の振動、生じた気流の変動。
熱源の変化。
放射線の変化。
MRI、CT、PETなどなど……人体の輪切り……。
PPP……PPP……術中に、折れた骨の破片があります!」
「!」
「!」
医療用アンドロイド:レムリアンが、そのゴーグルを通じて、その折れた骨の在所を伝える。
PPP……
「!」
「……なるほど……」
『お役立てください』
「ああ、助かる!」
「さすがね、レムリアン!」
『恐縮です』
ゴーグルに送受信されたのは、術中にある折れた骨の破片と思しき、位置(ポイント)である。
ドクタースプリング(私)はこう考える。
(このままクレメンティーナに、血管吻合等をさせた方が、伸びしろがいいだろう)
私はそう考える。
うん。
と頷く。なら、今、私たちがやるべきことは。
「クレメンティーナ!」
「!」
「ここからは役割分担をしよう!」
コクリ
「……」
とこれにはあたしも、同じ思いで頷き得る。
僧帽弁形成術、人工血管のバイパス手術となってくれば、到底今のあたしでは助手(サポート)できない。
しかも、6分と彼が決めた限られた時間の中で、彼の邪魔をするわけにもいかない。
「!」
その時、ドクタースプリング(彼)の後ろから、医療用アンドロイド:レムリアンが歩み寄ってきた。
彼の第二助手に入るために。
その手にはシルバートレイを持ち、その上に乗っているのが、患者さんの命を繋ぎ止める人工血管だった。
「……」
あたしは、それを見定める。
「今から私は、患者さんの体にこれを取りつけるためにバイパス手術を行う……! その前に……」
「!」
彼は、あたしから視線を切り、患者さんの足を見て。
「……人工心肺装置を繋げる!」
コクッ……
「……」
とこれにはあたしも、わかっているわよ、とばかりに小さく頷くの。
「君はその間、出来得る限り、最速かつ最善で、血管吻合や電気メスなどで、止血と凝固を行ってくれ!
臓器の修復が第一だ!
微細な骨の欠片は、その後でいい」
「……わかりましたわ!」
『優先順位付けは、大事ですからね!』
と医療用アンドロイド:レムリアンがそう進言した。
私は、この命を助けるために優先順位を作った。
失敗例としては、
骨の欠片を回収してから、臓器の修復をしたのでは、血液出血により、その生命が危ぶまられる……。
そんなのは愚策も愚策だ。
そして、成功例としては、
それならば、第一に臓器を修復し、その後で骨の欠片を回収した方が、血液の出血は少なく、その生命が助かる見込みが上がる。
迷うハズもなかった。
レムリアン、君の情報は、後で活かしてもらうよ……フフフッ。
「……」
クレメンティーナは、私の見ている前で、その電メスを用いて、止血・凝固を行っていく。
私はその様を見て。
「中々の止血と凝固だ」
「……恐縮です」
「そのまま続けなさい」
「はい!」
元気のいい返事が返ってきた。
(君はそれぐらいがいい、後は君に任せて大丈夫そうだ)
「……」
――その間、クレメンティーナは1人で行っていた。
貴重な、独学・独力による、伸びしろもまたある。
出来る仕事を与え、本人を褒めて伸ばすやり方の方が、今後の伸びしろが大きいからだ。
「……」
『……』
私は、第二助手に入ってくれた医療用アンドロイド:レムリアンを見て、こう告げる。
「私は今から、人口心肺装置の脱着を行う。君はその間、見ててくれ!」
『了解しました』
私はそう言い残し、この場を退く。
私が患者さんに人工心肺装置を取り付けている間に、
レムリアンには、彼女のサポート指導に付いていて欲しいという旨だ。
この手術を通して、彼女を育てる、それにはレムリアンの協力もいるからだ。
「………………」
その間、あたしは何も知らずに、ただひたすらに、懸命に目の前の患者さんを救おうとしていたわ。
「シュー―ッ……シュー―ッ」
――スプリングが退いていく。
☆彡
執刀医クレメンティーナが1人、手術を続行し、
その付近で第二助手レムリアンがサポートと指導に入る。
――スプリングが人工心肺装置のチューブを手に取る。その先端には細長い針が取り付けられていた。
その時、第二助手兼指導に就くレムリアンの指示が飛ぶ。
『ドクタークレメンティーナ!』
「はい!」
『……肺の圧迫に対して、やり辛さを覚えてませんか?』
「そう言えば……」
コクリ
「……」
と頷き得る医療用アンドロイド:レムリアン。
その対処に入る。
――私は、人工心肺装置の器具付をもって、患者さんの足に向かう。
『今、肺は、先だって救急救命士さんがつけた『救急救命士用体外循環小型人工心肺装置』の拍動で動いています』
「……」
(それが血液漏れの原因ね……)
とあたしは心の中で、そう思った。
『このままでは、最善とは言えません……! 私、AIの判断で、『救急救命士用体外循環小型人工心肺装置』のレベルゲージを下げます!』
「……」
『このやり方なら、出血漏れは少なく、またあなたの手技がやり易くなるでしょう』
ニコリ
「……」
とあたしはその言葉に微笑み返し。
「……お願いしていいかしら?」
『承りました!』
とレムリアンは、サインを返してくれた。
レムリアンが移動し、稼働中の『救急救命士用体外循環小型人工心肺装置』のレベルゲージを減圧する。
それにより血圧が下がり、血液漏れも少なくなった。
『救急救命士用体外循環小型人工心肺装置』のレベルゲージ。
その説明をしなければならない。
レベルゲージとは、この場合、拍動の調整範囲のことだ。
加圧することで、血圧を高め、全身に血の巡りを行き渡らせる事もできる。
ひいては生命存続に一役買う事ができる。
また、今回のように減圧することで、手術ができ易くもなる。
離脱の案も考慮したが……そればかりはできない相談だ。
なぜならば、現在、肺は気胸していて、
この装置が取り外された場合と同じく、患者さんは呼吸困難に陥り、
下顎呼吸(かごこきゅう)となって、口が不規則にパクパク喘ぐようになって、たちまち呼吸不全で窒息死してしまう。
よって、先だって救急救命士2人が取り付けたであろう、『この救急救命士用体外循環小型人工心肺装置』を離脱できないし、またオフにもできない。
助かる見込みのある患者さんを、みすみす死に目に追いやってしまうからだ。
そんな事を、今、クレメンティーナさんの目の前で、犯せない。
そんなありきたりな手術ミスはしてはいけない。
だから、私レムリアンは――
『――どうぞ!』
『イエス!』
彼女をまともに育てようとしていた。今ばかりはせめて。
『………………』
「……」
彼女は何も知らずに、手術を行う。
あたしは試しにと、糸と針を用いて、臓器吻合を行うの。
それは以前と比べて、雲泥の差だった。
(やり易い……!!)
あたしはそう強く感じたわ。
「……」
あたしは顔を上げて、レムリアンの顔を見て。
ニコリ
『……』
とレムリアンも微笑み返してくれた。
(せめて、今ばかりはまともに――……)
それが医療用アンドロイドの人の育て方だ。
――キラン☆
そして、今、ドクタースプリング(私)は、患者さんの足付近に立ち、そのチューブの先端に取り付けられた針をしっかり持っていた。
「……」
ドクタースプリング(私)は、患者さんのその足に触れて、その脈を取り、位置を定める。
「……」
その状態を見極める。
この針は、特別性のものだ。
2本のチューブに、中空の細長い針があり。
それが中空になっているということは、この中は空洞になっているんだ。
特別製の針というのは、これは、人工心肺装置と併さって、特別製という意味だ。
モデルは、蚊(モスキート)からきている。
まず、蚊の吸血針の構造から説明しよう。
説明比較として、注射器の採血針の口径は、約0.6㎜。対して蚊の針は、約0.05㎜。
その10分の1ぐらいの大きさだ。
その驚くべき構造は、まるで鞘に納められた感じで、6つの極小の針が隠れている。
その精密なメカニズムは、
1の針は、ギザギザのついた針で、人の皮膚を突き破り、毛細血管に達する。
6の針は、この時、まるでたわむようにして、人の痛みを感じ取る痛点を避けながら、毛細血管に導く。しかも、この時、痛みを感じにくくさせるために回転もしている。
2の針は、唾液を送る針で、血液を固まらないように、サラサラにするものだ。
4の針は、メインの針で、これを使い毛細血管から血を吸い上げます。
3と5の針は、まるで4の針を塞ぐようにして、血を零れないようにし、針を引き上げます。
この原理を活かしたのが、この特別製の中空の針だ。
とこれだけではなく、蚊には、まだ素晴らしい秘密がある。
それは、蚊の口元のところに二酸化炭素を感じ取る器官、小顎髭(しょうがくし)というものがあり、
これは、人が吐く二酸化炭素を感じ取ることができるものだ。
その距離、約10m。
これが、人工心肺を取りつけ、長時間に及んだ時、体内に流れる悪くなった血液を感じ取り、チューブを通して、再使用不可の廃液血液タンクに導いてくれる。
これが、心室細動などの原因に成り兼ねないからだ。
どうだ、蚊とは素晴らしい生きものだろう。
医学分野に、大きく貢献しているのだ。
次に人工心肺装置の説明だ。
これは、簡略的に言うと。
人工心肺装置は主に、血液タンク(リサーバー)があって、溜まった血液が、遠心ポンプに入って勢いをつけて、人口肺に通って酸素化されて、体(術野)に送られる。
取り扱うのは、『人工心肺技師』Perfusionist(パーフュージョニスト)が管理を行う。
また、『臨床工学技士』Clinical Engineer(クリニカルエンジニア)という資格もあって、主に生命維持管理装置の管理と操作、患者さんの体への接続と離脱、保守点検のもと誠実に業務を行う事ができる者。
もちろん、病院長の私は、緊急時のために、必要があって迫られるからこそ、こちらの資格も所持している。
何も取り扱うのは、人工心肺だけではなく、人工呼吸や透析装置などの医療工学機器を専門に、操作、管理することができる。
まあ、現職の者には、逆立ちしても敵わないのだが……。
主に、彼等彼女等は、装置の不調、日々のメンテナンスなどに大きく貢献している。
感謝しても、感謝しきれない。
と人工心肺装置は、次の作りのようなものになっている。
1.リザーバーのコントロールセンサー
2.吸血脱血する際の吸引機
3.メインポンプに操作パネル
4.脱血のオクルーダー(脱血量の調整)
5.ベントとルートベントの操作パネル
6.脳分離用のポンプコントローラ
7.ガス分析のモニター
8.生体モニターがあり、血圧を調べる。
9.径食道エコーや術野モニター、
10.で、各種センサーのモニターがあり、助手が保護するモニターには、心筋保護用のブレンダー兼ポンプ。
11.主に、血液と心筋保護液の割合とか、注入圧をすべて、こちらでコントロールできる。
12.補助用モニターもあるが、現場ではあまり使わない。
13.ECUM(水分除去のポンプ)
14.術野の吸引類、挿入(サッカー)と投入(ドボン)
15.麻酔科医も加わり、血液をサラサラにする薬や、血液の血小板等を再び凝固させるための薬などを、適材適所で取り扱う。
この他にも頼もしいサポート機能がある。
さらに、取りつけ時の機能は、次のようになっている。
1.患者さんの血液型にあった輸血パックをセットし、起動する
2.遠心ポンプで、勢いをつける
3.人口肺から、酸素化された新鮮な血液が送られて、
4.ローラーポンプで適度に加圧・減圧を行い、チューブを通って
5.足の付け根にある大腿動脈へ。
6.新鮮な酸素化された血液が、体内の血管を巡り、
7.大静脈、
8.大動脈を通り、
9.心臓へ。
10.再び体内の血管を通り、
11.大腿動脈へ。
12.この時、ループする流れになるが、過剰な空気分や圧し出された血液がチューブを通り、血液タンク(リサーバ―)に溜められる
13.でも、1つも無駄にすることなく、自家血液を活かして、遠心分離機を利かせ、いつでも再使用できるよう、準備だけはして置く
14.実は加圧試験も行いつつ、実際の心臓の拍動よりも大きく負担をかけ、血液の漏れがないか調べる事ができる
15.肝臓・血管などから漏れ出た血液は、術後点検を行うため、目視により、再び血管吻合を行う。ここは絶対に守らないとダメだ。手抜きは許されない。
16.血液吸引機で吸い取りつつ、温生食水で奇麗に洗浄することも、忘れてはならない
17.人工心肺装置を離脱させ。止めてあった心臓を拍動させるために、特別な薬品を用いる。ここは麻酔科医の仕事だ
18.術後の経過を見守って、血のにじみがないことを確認したら、皮下組織縫合、真皮縫合を行いつつ、傷口を縫い付けて閉じる
19.患者さんの生命兆候(バイタルサイン)、血圧、心拍数、脈拍、呼吸などの安全を取って、手術終了となる。……わかったかな?
まぁ補足だが……。
一般的な人工心肺の取り付け方は、2本のチューブを、心臓の大静脈入りに取りつけ、同じく大動脈出に取りつけ、波縫いようにして、血管の中にチューブを入れて縫い付ける。
人工心肺離脱後は、抜糸することにより、まるで巾着袋のようになり、血液の漏れが少なくて済む。
多くの心臓外科医が取り入れている手法である。
やり方こそ違うが、医療も日進月歩しているのだ。
――プッ
私は、それを患者さんの足の付け根、大腿動脈に刺した。
ここには、心臓まで続く太い血管が走っているからだ。
もちろん、人工心肺装置に繋げる為である。
「――!」
あたしはその様子に気づいて。
「あれは……!?」
『……今、ドクタースプリングがしているのは、患者さんの体に最も負担が少ない、人工心肺装置の取り付け方です!』
「えっ……!?」
――プッ
と私は、もう片方の針を、患者さんの足の付け根、大腿動脈に刺した。
これにより、人工心肺装置の入りと出を確保できたわけだ。
私はこの場から退く。
――その様子を、麻酔科医の僕が見ていた。
「……」
ドクターライセンは、人工心肺装置のモニター画面を見つつ、操作、管理を行いつつ、安全確認を誠実に行う。
病院長のドクタースプリングに一声かける。
「ドクタースプリング! 後は僕が請け負いましょう!」
「ああ、頼む!」
頼もしさを覚える、ドクターライセンは優秀な麻酔科医だ。
ここは任せていい。彼が、人工心肺技師も同時に兼任してくれるのだから、こんなに心強いことはない。
私は安心して、彼に任せた。
「……」
私はその場から退く。
――術中、医療用アンドロイド:レムリアンが、クレメンティーナさんに説明を行う。
『――昔の人工心肺装置の取り付け方は、心臓の大静脈・大動脈を遮断し、直接、直付けする手法でした……!』
「……」
『未来(現在)では医療技術水準も進み、肺と心臓が動いていない状態でも、このような処置の仕方で、患者さんを救う方法があります……! ここに大きく貢献しているのが……』
レムリアンは、あたしから視線を切り、ドクターライセンを見て。
「! ……フッ」
『麻酔科医の存在が大きいのです。彼等が挿入・投入・調整をしてくれるおかげで、1日、何万人、何十万人と、今も世界中で患者さんを救っているのです』
「……!」
レムリアンは、ドクターライセンから視線を切り、再びあたしの顔を見て。
『ドクタースプリングの言うように、クレメンティーナさんは全身科医(ジェネラリスト)を目指してください!』
「……」
『外科医だけではなく、麻酔科医などの技術も併せ持つことで、より多くの患者さんが救われます!』
「……」
『ひいては、あなたの贖罪(しょくざい)にも繋がるでしょう』
「……」
(確かに……。
あたしはこの手で、今までにたくさんの罪を犯している)
「……」
あたしはこのひったくり犯を見て。
「シュー―ッ……シュー―ッ……」
(このひったくり犯も……)
あたしはそう思いつつ、心の中で。
(同じ穴のムジナか……フッ)
「わかったわ、レムリアン……!」
『……』
(罪の減刑か……だとしたら、いったい幾度、この手で人を救えばいいのかしら……!?)
【――きっと許されない……】
【でも、罪滅ぼしはできる……!】
【あたしは、レムリアンが見ている前で、この目の前の患者さんを救おうとしていたわ】
【偏に罪滅ぼしのために……それがあたしの目指す、医師の在り方だから……!】
★彡
――そして、医療用アンドロイド:オーバが、新しく人工の肋骨、その生成補助に取り掛かりつつあった。
『――『三次元測定、人口整骨、整形製造プリンター』、
起動!」
3D Measurement Artificial Osteopathy Orthopedic Manufacturing Printer(スリーディ メジャーメント アーティフィシャル アスティアパス オーソピーディク マニュファクチュアリング プリンター)
Start(スタート)!』
向こうでは、僕のAIナビ兼医療用アンドロイド:オーバが、人口の肋骨の生成補助に入った。
この患者さんの肋骨整形製造に入る。
――そして、こちらでは。
「……」
『……』
「……」
『……ふぅ』
クレメンティーナさんは気になる様子で、何度もその首を右往左往していた。
それに対し私は。
『気になるなら説明しましょうか?』
「! うん……!」
実はちょっと気になってたの。
『……先ほどの説明の補足になりますが……。昔は直接、心臓の大静脈と大動脈を切り取り、そこに取りつけていました……」
「ああ……直付けの事ね!」
「イエス、入りと出を確保する為です!」
「なるほどね……!」
あたしも納得の思いだ。
「あの針は、特別性のもので、蚊(モスキート)の針を参考にしています!
ちょっとやそっとでは、引き抜く事はできません。
血管に刺し、そこから凝固作用の成分が溶けだし、固着するからです」
とそこへドクターライセンが。
「そこで僕たち麻酔科医の出番だよ!」
「!」
「血液の凝固作用だけを溶かす、専用の薬剤があるんだよ! だから、こうした取り組みが、陰ながらできるんですよ!」
「へぇ~……なるほどね……」
納得の思いだったわ。
そこへ、人工心肺装置の取り付けが終えたドクタースプリングが戻ってきて。
「人工心肺は、入りと出で、体外を循環して行う」
「!」
あたしはレムリアンから視線を切り、ドクタースプリングを見る。
彼はこう語る。
「それは止めてある心臓の代わりに、全身に血液を送るためのものだ」
「……」
「偏(ひとえ)に脳閉塞を起こさないために……」
とそれを語り継ぐように、レムリアンが。
『ですが――心臓が再び拍動するかどうかは、今でも、諸刃の剣であることは変わりがありません……』
と次にドクターライセンが。
「……そうだね、今も昔も――」
あたしはその言葉を、胸に刻む。
「………………」
☆彡
――そして、
「……」
ドクターライセン(僕)は、これから起こるであろう、この問題にはあえて触れない。
「……」
僕は麻酔科医として、今この場に立っている。
例え、この後、何が起ころうとも……。
「………………」
――その間、あたしの血管吻合の手技は、休むことなく動いていたわ。
パッパッ
「………………」
それはドクタースプリングと比べれば、稚拙というほど遅かった。
でも、これでも、あたしに出せる最速、最善なの。
(ただひたすらに)
その様子をレムリアンが、
(誠実に)
スプリングが、
(愚直なまでに……!)
ライセンが
(余計な考えは捨てよう。今あたしにできるのは……この人の命を、繋げる事……!)
そして、オーバが……。
そのオーバが、チラッとこの手術室を見渡せる特別室を見上げる。
そこにいたのは――
――この男、ドクターイリヤマだった。
「――………………」
その時、
PPP……PPP……
腕時計型携帯端末に着信がきて、向こうから回線を飛んできた。
ホログラム映像で投影される。
その姿は警察官だった。
『動画をリアルタイムで拝見しました』
『驚くべき事ですね。これをまだ学生が!?』
「ええ、本校の生徒です。少し懲らしめてくれませんか? ……ただし、警察沙汰になるのはある程度抑えて……」
『……』
『……』
「……では、手筈通りに……!」
プッ……
と投影されていたホログラム映像が途絶えた。
ドクターイリヤマはその口を動かし、こう口ずさむ。
「フンッ!! 俺より目立つ奴は許さん……!!」
俺は拳を握りしめる。
(その才を潰してやる……!!!)
それは、あの子に対する妬みだった……――
★彡
キュッ
とあたしは、心臓の血管吻合が終えたの。
「………………」
長かった……でも、まだ終了じゃない……。
でも、今ばかりは、手を休めないと……。
プルプル
あたしは手を持ち上げると。
(ちょっと手がしびれてきちゃった……ッ)
【――それはしびれだけじゃなく、痛みも出だしたの……】
【そのせいで、幾ばくか手技が悪くなってきている……なんてつたないの……】
【自分の技術がまだ足りないことを悔やみ、歯がゆさすら覚え始める……】
【……】
【私はただ、こうして、血管吻合を繰り返すだけだったわ――】
「……」
ホント地味よね……。そこへスプリング様からのお声が。
「……いい手技だ」
「!」
いい手技だと褒めてくれた。あたしは顔を上げたわ。
「そのまま続けるように。ただひたすらに、誠実に、愚直なまでに……」
「……」
それは医師の心得。
「その手に触れているのが何か……!?」
「……」
問い掛ける。
「それは患者さんの命だ。安易に機械に頼らず、人の手を持て救いなさい」
「……はい」
それは医師の在り方。
あたしは小さく頷き得る、コクッ……と。
そして、レムリアンが小さく息を吐き、こう語りかけてきたの――
『――クレメンティーナさん』
「! はい!」
『『仁の心』ですよ!
Heart Of Benevolence You Know(ハート オブ ベネヴォレンス ユー ノウ)!』
「仁の……心……?」
『はい……。
『深い愛情をもって思いやる気持ち。人を愛する心です。決して、自分本位に行動するのではなく、常に他人の気持ちを思いやり、理解し、敬う心です』』
「……それは……!?」
『ええ……過去にとある医師の方に同じ志を持ち、その傍で生涯を添い遂げた人の在り方です。
……私たち、医療アンドロイド、AIナビに記憶された、人の言葉です。
小さく頷き得るあたしに。
レムリアンは微笑み、こう告げる。
『慈愛ですよ。愛の手をもって、人を救いなさい』
「……慈愛……」
『ええ、いつしかそれは、慈善となって、あなたを救う事になるでしょう。今は……耐え忍ぶ時期です』
「………………」
レムリアンのその言葉は、何かを表しているようだった。
それは、あたしに指し示すことができる、高尚な教えにも見えた。
「……ええ、そうするわ」
「……」
微笑み返すあたしに。
満足のいったレムリアンがそこにいた。
あたしは、レムリアンから視線を切り、再び、術野を見据え、仁の心をもって、医に取り組む。
【――あたしは、スプリングから、レムリアンから、様々な事を学んだわ……】
【医師の在り方とは何か? 仁の心とは何か? そう教えられた……】
【安易に機械に頼らず、人の手を持って救いなさい】
【その手がかかっているのは、人の命……】
【かけがえのないたった1つの生命……】
【この手は、ただひたすらに、誠実に、愚直なまでに……】
【慈愛の心持って、人を救いなさい……――と】
【……いい話ね……】
【うん……】
【愚直と……慈愛か……】
【……】
【……】
【……人工心肺を繋ぐ以上、手術時間が長引けば、それだけ心臓の負担もかえって大きくなる……!】
「シュ――ッ……シュ――ッ……」
【助手に就くスプリング様の手技は外せない】
「……」
【だから、医療アンドロイド:レムリアンが、新たに第二助手に就き、あたしに代わり、そのサポートを請け負っていたの】
「……」
【実際大したモノよ……。まるで旧知の間柄……】
「……」
「……」
【そして、人口心肺装置には人工心肺技師と兼任して、ドクターライセンが麻酔科医と立ち】
「……」
【その相棒オーバは、折れた肋骨に代わる人口肋骨を生成中だったの……】
「……」
【――それだけ、人材不足の中だったのよ……】
ピッ……ピッ……ピッ……
【……まぁ、たったの4人じゃね……?】
【うん……】
【医療用アンドロイドの力を借りればいいだろ?】
【……】
【パパ……話に割り込まないでよ……】
【フンッ】
【フゥ……。人工心肺は諸刃の剣……と言われているの……!】
【諸刃の剣……!?】
【ええ、だから、残り手術時間の間に、心臓と肺の縫合を済ませ、術野に隠れている骨の欠片をすべて回収して、開いたすべて穴を縫わないといけない……】
【メチャクチャハードだよ……】
【ホントに初心者がやったの……ねえ!?】
【ゲームなら、レベル崩壊のベリーハードモードだよ……】
【あら? じゃあ、難易度マックスは?】
【う~ん……『情け無用』No Mercy(ノーメルシー)モードかなぁ……?】
【……】
★彡
「――人工心肺装置を起動します!!」
それはドクターライセンからの報せだった。
いよいよだ、人口心肺装置が稼働することで、難しい心臓や肺に触れる事ができる。
実は、心臓も肺も拍動することが原因で、直接、臓器吻合や密集した微細な血管からの血液漏れを、止血・凝固することが難しいの。
もちろん、クレメンティーナ(あたし)は、横にスプリングやレムリアンが付いていた事で、かろうじでできる範囲だけは、止血と凝固を行っていたに過ぎない。
拍動する心臓は難しいが、ギリギリのところで肺だけはできていたのだ。
もちろん、周辺の大血管なども……。
「――予定通り、『僧帽弁のパッチ形成術』!! 及び『人工血管のバイパス手術』を執り行う!! 頼んだぞ! レミリアン!」
『はいっ!』
「『大動脈閉塞用バルーンカテーテル』!!」
医療用アンドロイド:レムリアンが、ドクタースプリングのその手に、「『大動脈閉塞用バルーンカテーテル』を手渡す。
「……」
その間、あたしは、スプリングが気胸した肺なら、
心臓に挑む。
もちろん、目に見える範囲で、できるところだけをやっていたわ。
その時、間断なくドクタースプリング(彼)から注意が。
「クレメンティーナ!」
「はいっ!」
「そこはW形成術ではなく、Z形成術の方が適切だ!」
「ぜ……Z形成術……!?」
「ああ、Z形成術の手技を繰り返すことで、W形成術を施した時と比べて、拍動する心臓の伸縮性が富んでいる……!」
「あっ……!」
それは思いつかなかったわ……。
「7重結紮は褒めるところだが、今からでも、Z形成術に切り替えて、埋没法を用いるのがいい」
「はい……」
「ゆっくり、丁重に、しっかりとな……!」
「……」
「その縫い目が、決して解けないようにするんだぞ! ……そこにかかっているのは、患者さんの命だ!!」
「はい……」
「たまたま今回は失敗しましたは……この世界で通用しないからな……!」
「………………」
と念を押してきた。
ドクタースプリングの指摘は正しくて、ただひたすらに誠実だった。
医療において、人の命がかかっている以上、医療ミスは犯せない。
引いては病院経営のためであり、当学校の評判も落ちるからだ。
さらに医師免許やキャリア等々……。
数え出したらキリがない。
だからこうして、手術中でも、あたしを育てるために、注意と指摘を適時行ってくれているのだ。
「………………お願いします!!」
「ああ」
声出し確認だけは行う。
もちろん私は、抜かりなく適時指摘するが……。優秀な外科医を1人でも多く育てるために……。
「……」
心臓の臓器吻合を行うクレメンティーナに。
「……」
『……』
「……『大動脈遮断鉗子』!」
気胸した肺の手術に踏み切るドクタースプリングとレムリアン。
レムリアンの手から、ドクタースプリングのその手に大動脈遮断鉗子が手渡されて、肺の気管支を遮断した。
今、肺の気管支は、二次的に遮断されている状態だ。
万が一にも、気管支を通じて、肺に血液が逆流する心配はない。
ピッピッ
(拍動する心臓が相手では、Z形成術の伸縮性が富み、埋没法を用いる……なるほどね……!)
あたしは、ドクタースプリングの指示に沿うように、忠実に、ただひたすらに糸と針を用いて、心臓という臓器を相手に、吻合を繰り返していたわ。
「『クーパ剪刀!』」
――チョキン
私は、レムリアンから手術用ハサミ『クーパー剪刀』を受け取り、
使えないと判断した肺の穴の周辺の筋肉組織から、一部の筋膜を思い切って切除した。
そして。
「……」
『……』
(やるぞレムリアン!)
(イエス!)
「『僧帽弁伸縮性パッチ』!」
『『人工血管置換』! サポートします!」
――ピッピッピッピッピッピッピッ
と私たちは、まるで旧知の相棒のように僧帽弁伸縮性パッチを取りつけて、圧着し、糸と針で縫い合わせていく。
穴の中にバイパス手術の要領で、人工血管の端を繋げる。
肺も、心臓ほどではないが拍動する臓器だ。
よって伸縮性のあるパッチは外せない。
「……」
あたしは、その手技をみて。
「ハァ……すごっ……」
と感嘆の声を漏らす。
だって彼等は、それはもう凄まじい速さで、手がカパカパと開いていたかと思うと、もう僧帽弁伸縮性パッチを縫い付け終わっていたからだ。
いくらなんでも早過ぎる。
「コロレーヌ8-0」
――パッパッパッパッパッパッパッキュッ
ドクタースプリングの結紮のスピードは信じらないぐらい怒涛で早く、次々と終えていく。
あたしはこの様を見て。
(弁尖(べんせん)……!)
(弁輪(べんりん)……!)
(えっもう人工弁輪(じんこうべんりん)も……!?)
『『巾着袋縫い』!』
キュッ
「直付け完了!」
と完全に人口血管を僧帽弁に取りつけた。
これにより、穴が開いた肺の気胸は、完全に閉じられたのだった。
これにはあたしももう、脱帽の思いで。
(早過ぎでしょ~~……!?)
もう泣き寝入りしたいわぁ~……。
そのタイムアタック、4分を切っていた。
スプリング1人なら6分ぐらいだろうが、レムリアンが加わった事で4分を切っていた。
もうバケモノよぉ~~……。
「……」
これにはあたしも。
「ハァ……スゴッ……」
と感嘆の声を漏らすほどだ。
彼は事も何気に。
「? ああ……俺は1分間に120回以上はできるからな!」
「えっ……!?」
それはあたしが見ている前で行われたわ。
片手間で結紮を執り行う彼の様子ときたら……。
「もう片方の端を、繋げよう!」
『はい!』
「……」
この片手間に持つ手、その端を決める。
「……」
私は顔を上げ、これから行う術式を告げる。
「――これより、新しい術式を『同時』に試みる!!」
『!』
「!」
新しい術式。
「通常、血流の流れは、心臓から肺へ、大動脈から体循環へ至る!!」
コクリ
『……』
と私は頷き得る。
「だが、最も怖いのは、大動脈からの逆流の恐さだ……!
新しい術式では、
この気胸により、肺の機能は依然と比べて衰えている……。その為、低酸素血症(チアノーゼ)などの術後予兆も考えられる……!!」
『確かに……』
「よって! 心臓の機能の負担を少なくし、代わりに反対側の肺動脈の血流を増大させ、酸素飽和濃度を改善させる術式が望ましい……!!
やり方はこうだ!!
心臓の上にある、この奇静脈を伴う上大静脈を、心臓を通さずに、直接肺動脈に繋げる!!
やられた心臓ともう片方の肺の負担をなるべく減らしつつ、チアノーゼや心不全を改善させるんだ!!」
『ですが……術後の管理が、相当難しいですよ!!?』
「それも考えがある!!」
「!?」
「奇静脈を伴う上大静脈から血管と肺をバイパス手術する以上、どうしても、逆流の危険性がどこかに潜んでいる……!!
その逆流防止のための自家三尖弁を形成するんだ!!」
『なんと!?』
「えええええ!?」
これにはレムリアンが驚き、
その話を聞いていたあたしだって驚く。
「ッ!?」
『!?』
もちろん、ドクターライセンも、オーバもだ。
――そして、その話を聞いていたドクターイリヤマも。
「バカな!? そんな術式聞いたことがないぞッ!?」
「――その新しい『特殊な三尖弁』を形成するために、患者さん自身の組織を用いる!! 『同時に逆流防止のために2つ』だ
そう、心臓に垂れ下がっている、あってもなくても人体には支障のない、心網を用いる……!!
さらに術後の回復を早めるため、その上からさらに、大網ネッツで覆い、
患者さん自身の自己回復力で、新しい弁を完全に形成してもらう……!
――その名を、『自家肺網血流増加逆流防止三尖弁』……!!」
『かなり難しいのを、持ってきましたね……』
「……できないのか?」
『まぁ、できますけどね……!』
不敵。
「……」
『……』
私たちは顔を見合わせ、以心伝心を行う。
大丈夫、私たちなら。
(やるか……!!)
(ええ、望むところです!!)
新しい術式に挑む。
先にレムリアンが、
『心網切除!』
心筋網を切除し、
そのまま温生食水で消毒を行う。
次にドクタースプリングが。
「動脈円形切開――完了!」
動脈の一部を円形に切開し、前準備を行う。
『T字血管吻合のために、斜めに切開し、血管の口径を合わせます!!』
次にレムリアンが、円形に空いた血管に合わせるように、血管を斜めに切り落とし、口径を合わせる。
「コロレーヌ8-0!」
『自家特殊三尖弁を形成に入ります!』
これにより、奇静脈を伴う上大静脈から血管と肺をバイパス手術が完了し、次へ移行する。
「大動脈へ繋げる!」
『イエス!』
先ほどと同じように、ワザと血管に円形の穴をあけ、手に持っていた人工血管の端を縫い合わせる。
まるでT字のように。
これにより、普通に手術するよりも、より多くの酸素を取り込めるようになる。
――その時、人口心肺装置のモニター画面の位置に立っていたドクターライセンから声が上がる。
「――(救急救命士用体外循環小型人工心肺装置の)レベルゲージ減退により、血圧、酸素飽和濃度、安全ラインを下回りました……!」
「!」
『!』
「!」
それは、救急救命士用体外循環小型人工心肺装置のレベルゲージ減退により、手術は行いやすくなったが、その代わり、生命が脅かされたものだった。
その術中の急変は、奇しくもクレメンティーナが関わっていたところだ。
(まさか……あたし……!?)
「……」
『……』
だが、この様な術中の急変は、日夜、どこの病院でも必ずといっていいほど訪れるものだ。
しかし、よりにもよってこんなタイミングで……ッ
「スッ……」
あたしは彼に助けを求めようとした。
その時、ドクタースプリングの注意の指摘が飛ぶ。
「(挿入)サッカーと(投入)ドボンは!?」
「今やっています! 血液をサラサラにして、酸素飽和濃度を上げる薬を投与中です!!」
『血が足りず血圧が減退しているなら、遠心分離機の血液を、再使用を願います!!』
「了解!!」
ドクターライセン(僕)の了承の意が飛ぶ。
ドクタースプリングとレムリアンの的確な打診もあって、僕は動いた。
遠心分離機で回していた再使用できる血液を回す。
それは、血液タンク(リザーバータンク)を通して、人工心肺装置のポンプを通じて、チューブへ。
それが患者さんの体内に挿入・投入されて、必要な体内血液量を賄いつつ、同時に血圧と酸素飽和度を上昇させる。
「……」
安堵を覚えるあたし。
やっぱり、この2人は頼りになるわ。
「……」
『……』
緊張の一時が訪れる。
そして、
「安全圏は保持されました!! 急いでください!!」
「わかった!! レムリアン!! クレメンティーナ!!」
『はい!』
「わかってます!」
「GO(ゴー)!!」
私はゴーサインを告げた。手術続行だ。
これを見たドクターイリヤマ(俺)は、
「――まさか、術中に急変するとは……これが心臓の恐ろしさだ……」
俺は高台の位置にあるモニター室(ここ)から、ガラス張りの内窓を覗き見て、こう呟きを賭す。
「……やはり、クレメンティーナには無理があるんだ……!! 恩師である俺に赤っ恥をかかせやがって……ッ!!」
俺は拳を握りしめ。
(ここから追い出してやる……!!)
握り拳を震わせるのだった……ッ。
キュッ
『吻合完了!』
とレムリアンが吻合結紮を完了させた。
それはつまり、気胸した肺は乗り切ったとみていい。
「――!」
次に私は、肺から心臓に移る。
そう、今、クレメンティーナが受け持っているところだ。
「クレメンティーナ!」
「はい!」
「私がバックアップに就く!!」
「わかりましたわ!」
「レムリアン! 糸と針を! コロレーヌ6-0!! 心持ち大きめだ!!」
私は、心臓から若干血液漏れを起こしているところを突き止める。
その拳大ほどの大きさに、7重結紮を決める。
パッパッパッパッパッパッパッ、キュッ
それは拍動していないからこそ、人口心肺が稼働している今だからこそ、行える手技だ。
【――この貴重な時間を、決して無駄にはさせない】
「……」
【あたしは、間近でそれを見てて、心の中でこう思ったの……!!】
【スゴイ……改めてみると……、あれは誇張じゃなかったのね……】
【そう言えば、マンションでも言ってたっけ……】
【術中の急変は、こうして何度も危機を乗り切ってきたって……】
【彼はこう言うの――】
「――術中の急変は、時として起こるものだ!!」
「!」
コクリ
『……』
と頷き得るレムリアン。
【それは、彼と同棲している中で、彼から直接指導を受けていた、あたしだから言えるもの】
【そう、時として、術中の急変は起こり得るものなの……】
【だから大事なのは――】
【「『――だから私たちは常に、冷静に、手早く対処しないといけない……。慌てず、騒がず、迅速に……!!』」】
あの時のドクタースプリングの言葉と、今のクリスティの言葉が重なる。
そう、これから語られるは、英語の名言・格言。努力の言葉を思い出させてくれる、過去の偉人たちの遺した名言だった――
【「『――達人と初心者の違いは何か!? 達人はより多く失敗している。初心者が試みた以上に!!』」】
「!」
あたしが振り向く。
【「『物事が順調に言っている時、我々は成長できない。困難に直面している時こそ、成長できる!!』」】
『その言葉は……!?』
レムリアンが振り向く。
【「『もし、飛べないなら走れ! 走れないなら、歩け! 歩けないなら、這え! いずれにしろ、必ず前に進もう!』」】
「!」
ドクターライセンが振り向く。
【「『強さや知性ではなく、絶え間ぬ努力こそが、我々のポテンシャルを引き出す秘訣である」』』
「アメリカの、多くの著名人たちの格言……」
オーバが振り向く。
【「『夢は、「魔法」によって叶うものではない。「汗」と「決意」と「努力」によって叶うものである』」】
「!」
ドクターイリヤマが、高台の位置のモニター室から覗き込む。
【「『得られた結果というのは、費やした努力と正比例する』」】
【「『成功へ向かうエレベーターなどない。階段で1歩1歩登られければならない!!』」】
医療用アンドロイドの電脳空間では、エキナセア、スチームが、その名言・格言を聞く。
『!』
『!』
【「『成功にどれだけ近づいているかを知る事はできない。決して夢を諦めるな』」】
そして、クレメンティーナ。
【「『私は、人の成功を、単にどれぐらい高く昇りつめたかでは判断しない。どん底に落ちた時に、どれぐらい高く這い戻ってきたかで判断する』」】
「……スプリング……」
【「『ただ、ベストを尽くすだけでは十分ではない。先ずはすべき事を知り、それからベストを尽くせ』」】
差し出す。
【――そして最後に……フッ】
【「『自分が本当にやりたいことは絶対に諦めるな。大きな夢を持っている人は、ただ、事実を並べ立てるだけの人より強いのだから』」】
【「『もし本当にそれをやりたいのであれば、やり方は見つかるもの。本当にやりたいと思っていないと、言い訳が見つかるもの』」】
【「『だから乗り越えていけ、クレメンティーナ!! 必ずいつかは障害にぶつかる……!! だから絶対に諦めるな!! 手が麻痺しても、痛くても、罵られても、自分を見失うな!!』」】
「……」
【「『燃え残った灰にあったものだけが……! ホントのお前だ!! それが真理だ!!!』」】
(さすがに敵わないな……)
【――あたしは、彼と同棲している中で、彼から、そう色々な事を教わったわ】
【それは筆記や技能だけではなく、もっと色々なもの】
【当然、あたしの腕は、軋みを上げるようにメキメキと腕を上げ、頭角を表していたの】
【当然、一緒に同棲しているんだから………………】
「………………」
(こうした現場で立ち会うと……さすがに違い過ぎると思い知らさられる……!)
うん
と感嘆の思いだわ。さすがに経験値が違い過ぎる。何もかもが……。
あたしは、差し出されたそれを受け取る。
(――やるんだろ? クレメンティーナ? 見届けてやる!!)
(ダーリン……)
「うん!」
まるで合いの手のように、あたしはダーリンから『ブラッドレイ パルフォシス シャークバイス バイポーラ』を受け取る。
電気メスには、大きく分けて2種類ある。
その名を、モノポーラとバイポーラといい。
主にモノポーラは組織の切開・剥離に、バイポーラは止血・凝固に利用されている。
バイポーラは、
組織の凝固(止血)を目的に利用されている。
先端がまるでピンセットのようになっており、一方の先からもう一方の先へと電流を流すことで、病巣をつまんだ時、その間、止血・凝固できる優れモノなのだ。
そして、未来進化系のブラッドレイ パルフォシス シャークバイス バイポーラは、
掴んだ対象に、特殊な光と波長の周波数帯を当てて、組織表面にまるで外傷性はなく、止血・凝固ができる。
その名前の由来は、サメの歯とバイスプライヤーからきていて、より強く嚙んで、対称を保持しつつ、
外傷性もなく、その対象物の臓器内部、そう、誤った箇所に流れている虚血を、塞き止め、
早期に止血・凝固できる優れモノなのだ。
ただし、仕様に当たっては、脳や心臓などの臓器の内側で出血が見られた場合に限り、その使用が認可される。
内部焼結ができる優れモノなのだ。
救急性:極小
面積:臓器内部に作用
優先度:極小
主に心臓や脳外などの難しい症例に使われている。その為、優先度は限りなく低く、また、特殊な光や周波数帯である事から、神経やリンパ管を避けて、安全に手術ができるよう心掛けている。
心臓・脳外の世界で、最も心強い存在だ。
別名:最終仕上げの電気メス。
「……」
――新たな電気メス。
それは、細い血管の集まりや臓器にも用いるもの。
『イオンプラズマ パルフォロン マンチスツー モノポーラ』『アルゴンガスプラズマ パルフォート モノポーラ』『キリカンアルザ パルフォルグ バイポーラ』とは、
一線を画し、主に臓器内部の虚血を、止血・凝固ができる。
その為、深度の違いが大きい。
『イオンプラズマ パルフォロン マンチスツー モノポーラ』は、救急の現場で、素早く術野を切り開き。また、虚血を抑えるために、止血・凝固を少なめに抑えている。
『アルゴンガスプラズマ パルフォート モノポーラ』は、広範囲の出血を、素早く浅く焼結。
『キリカンアルザ パルフォルグ バイポーラ』は、非常に高い止血力を伴ったもので、焼結ができる。
そして、『エレキパルス パルフォルグ ポーラ』は、外傷性がなく、特殊な光と周波数帯をもって、主に心臓などの臓器の内側で起きている虚血を、内部焼結ができる優れモノなのだ。
ただし、その仕様に当たっては、ドクタースプリング(彼)のような人の、上医師以上の使用許可がいる。
主にここまできて、重い臓器を相手に使用されるものなのだ。
「……」
あたしはそれを患部に当てがって、見る見るうちに、外傷性はなく、内部から止血・凝固していく。
「ここから私も……!」
(這い上がるんだ……!!)
鉗子を持ち換える。
新たに使うのは、血管鉗子。
鉗子には、大きく分けて2種類ある。
主に太い血管に使われるのは止血鉗子。
そして、より細かい手技に用いられるものは、この血管鉗子が用いられるのだ。
私は、クレメンティーナの全力サポートに入る。
「……」
「……」
(上手い……この黄金の左手……! まぐれもなくこの人は――)
【ゴットハンド!! 黄金の左手のドクタースプリング】
最高の指導者。最高の恩師。
その人は、手に持った血管鉗子をまるで生き物ように動かし、捻ったり、引っ張ったり、遠ざけたりしながら、
適切に保持しつつ、開けた術部に電気メスを当てがって、止血・凝固を手早く行う。
出血が出ないのが、この医療器具のすごいところ。
見る見るうちに、血液漏れを閉じたの。
コクリ
「……」
と助手の位置に就くスプリングが頷き得、
「……」
その様子を執刀医の位置に就くクレメンティーナが見定める。
「!」
僕は、彼等彼女等が振り向いたことで、その意図に気づいた。そう――
「――ドクターライセン!! 『酸素飽和度』Oxygen Saturation(オクシジェン サチュレーション)は!?」
レムリアンが縫い針を切り、
ドクタースプリングが、その結果を尋ねる。
その返答にドクターライセンは。
「98!! かなり改善しました!!」
「よしっ!!」
と私は握り拳を握った。ガッツポーズだ。
『……』
これには心なし、レムリアンも満足気だった。
『フフ~ン♪』
その様を見て、あたしは……。
「………………」
圧倒的に打ちのめされたのだった……。
もちろん――
――それはドクターイリヤマにも言える事だった。
(――……なんで俺より、こんなにすごい奴がいるんだ……!?)
それは妬みにも似た感情だった。
(例えこの先、どんなに俺が技術を積んでも……!?)
「フッ……」
俺は悟りを開いた。
「さすがです……病院長……!!」
褒め称えるしかない。
(あぁ、俺の負けだ……)
さすがは、俺の上に就く人です……。俺は、その人に尊敬の念を抱かられずにはいられなかった……。
「………………」
TO BE CONTINUD……