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第三十一話 荒んだ目

 ジカイラが煙幕が晴れた、商店街の路地裏を見回して口を開く。

「・・・消えた?」

 ルナが獣耳(けもみみ)を動かして、周囲を探る。

 ルナは、ハッと気がついたように建物の屋根を見上げる。

「ケニーたん! 屋根の上!!」

 ルナの言葉にジカイラ達は、一斉に屋根の上を見上げる。

 建物の屋根の上に登ったキラーコマンド達は、屋根伝いに走って逃走中であった。

「行くよ! ルナちゃん!!」

「ええ!」

 ケニーとルナは、素早く雨樋を伝って建物の屋根の上に登ると、キラーコマンド達を追う。

 路地裏から屋根の上に登った二人を見上げるジカイラが叫ぶ。

「ケニー! ルナ! 深追いするなよ!」 

 ジカイラの元にティナとヒナが歩み寄る。

 ヒナが口を開く。

「キラーコマンドって、子供の盗賊団なの!?」
 
 ティナは、哀れんだ表情で呟く。

「・・・そんな」

 ジカイラは、歪んだ笑みを浮かべて呟く。

「ガキ共が、粋がりやがって。・・・麻薬組織をナメ過ぎだぞ」







 ミランダ率いるキラーコマンド達は、商店街の屋根伝いに走ってジカイラ達から逃げていた。

 途中で別れた、路地裏を荷車を押しているヒロ、マギー、クリスの三人と合流するためでもあった。

 キラーコマンドの一人が口を開く。

「ミランダ! 二人、追って来る!!」

 ミランダは振り返り、ケニーとルナの二人が、屋根伝いに自分たちを追って来る事を確認する。

「クッ!! みんな、先にヒロ達と合流しな!!」

 そう言うとミランダは、ショートソードを抜いて、追って来るケニーに斬り掛かる。

 ケニーは、両手で二本のショートソードを抜いて、屋根の上でミランダを斬り結ぶ。





 下弦の月夜の元、商店街の屋根の上で甲高い金属音を上げながら、ケニーとミランダは剣戟を繰り返す。

 基本職であるスカウト初心者のミランダと、上級職である忍者(ニンジャ)のケニーとでは、圧倒的に力量差がある。

 ケニーが本気を出そうと剣の構えを変えたとき、ルナがケニーの近くまで駆け寄って叫ぶ。

「ダメ!! ケニーたん!! その子は、ミランダ! 彼らは孤児院の子達よ!!」

 ルナの声にケニーは、驚いて相手の顔を見る。

 銀仮面越しにミランダの荒んだ目とケニーの真摯な目が合う。

 ミランダもルナの声でケニー達に気が付く。

「お前達は、昼間の!?」

 ケニーは、ミランダと剣を交えて剣戟を繰り返しながら、話し掛ける。

「ミランダ! 僕達は敵じゃない! 話を聞いてくれ!!」

「うるさい!!」

「孤児院も、院長先生も、シンジケートも、僕達が何とかする!! 信じてくれ!!」

「関係無い! お節介なんだよ!!」

 ルナは、ケニーとミランダを挟む位置に回り込み、剣を構える。

 ルナの位置取りを見たケニーは、本気を出す。

 ケニーは、右手のショートソードの柄、十手のように湾曲した部分でミランダの剣を絡め取ると、身を翻して左手のショートソードの剣先をミランダの喉元に突き付ける。

「うっ!?」

 ルナとケニーに挟まれ、喉元に剣先を突き付けられたミランダは、動きを止める。

 ミランダは、観念して剣を屋根の上に捨てると、口を開く。

「好きにしな。・・・何者なんだ? お前達は??」

 ケニーは、両手の剣を鞘に収めると、ミランダに話し掛ける。

「明日の昼、キラーコマンドのみんなで宿屋の食堂に来て欲しい。そこで話そう」

 ミランダは、諦めたように答える。

「判った。・・・ただし、説教なら聞かないよ!」

 そう言うと、ミランダは、二人の元から走り去って行った。







 キラーコマンドの三人、ヒロ、クリス、マギーの三人は、深夜の貧民街の通りで荷車を押して居た。

 ヒロとクリスが荷車を動かして貧民街の通りを進み、マギーは荷車の上で金貨の入った箱を開け、小袋に金貨を少し入れると、貧民街の家々に金貨の入った小袋を投げ込んでいく。 

 金貨を配る三人の元に他のキラーコマンドのメンバー達が駆け寄ってくる。

 ヒロが口を開く。

「今日も上手くいったな。・・・ミランダは?」

 ロブが答える。

「新手の二人が屋根の上まで追い掛けて来て、ケツ持ちに」

「そうか。ま、ミランダなら大丈夫だろう」

 金貨を配り終えたマギーがヒロに話し掛ける。

「ヒロ、配り終わったわ。残りはこれだけ」

 僅かな金貨がキラーコマンド達の手元に残っていた。

 ヒロが答える。

「残りは、銅貨に両替してから院長先生に「寄付だ」と言って渡すんだぞ。金貨のまま、渡したらダメだからな」

「判ってるわ」

 そう答えたマギーは、荷車の上で下弦の月を見上げながら、ヒロに話し掛ける。

「ねぇ、ヒロ。・・・私達、いつまで、こんな事続けるの?」

 ヒロは、苦しそうにマギーに答える。

「・・・判らない。こんな暮らしから、抜け出せるようになるまでさ!!」

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