第三十話 仮面盗賊団キラーコマンド
--夕刻。
ジカイラとヒナ、ティナが宿屋に戻ると、程なくケニーとルナも宿屋に戻ってきた。
五人は宿屋の食堂に集まり夕食を取りながら、それぞれ探索の結果を話す。
ジカイラが口を開く。
「ま、少なくとも、この街の領主が無能だということと、孤児院があるってことは判った訳だ」
ヒナがため息を吐く。
「そうね。今日の成果は、今の所そのくらいしか無いわね」
ティナはケニーの話に関心があるようであった。
「孤児院の件、お兄ちゃんにフクロウ便で相談しよう。きっと、何とかしてくれるよ」
ジカイラが少し困った顔で答える。
「判った。孤児院の件は、オレからラインハルトに報告しておく。それと・・・」
ケニーが口を開く。
「それと?」
ジカイラが続ける。
「麻薬組織や盗賊団が動くとしたら、昼より夜だ。全員、装備は解くな。夕食後も、臨戦態勢を維持しておくように」
「「了解」」
夕食を終えたジカイラは、自室へ戻ると、手早くラインハルトへの報告書を書く。
麻薬組織ジェファーソン・シンジケート、盗賊団キラーコマンドのこと。無能な領主のこと、孤児院のことを羊皮紙の報告書に綴る。
ジカイラは、ラインハルトへの報告書を作り終え、一階に降りて宿の主人にフクロウ便を頼む。
食堂の方を見ると、ケニーなどの他のメンバーは、食後の談笑をしていた。
宿屋に男が駆け込んでくる。
「出た! キラーコマンドが現れたぞ!!」
駆け込んできた男の叫びに、食堂 兼 酒場で酒を飲んでいた者達は、ジョッキやグラスを掲げ、キラーコマンドに喝采を送り始める。
駆け込んできた男にジカイラが尋ねる。
「何処だ? 何処に現れた?」
男は息を切らしながら答える。
「商店街だ!」
ジカイラは、食堂にいる他のメンバーに声を掛ける。
「皆、行くぞ! 商店街だ!!」
ジカイラ達は、宿屋を出て、商店街へ向かう。
--少し時間を戻した商店街の一角 輸入品店
店の奥で、丸々と太った商人と店員は、縄で縛られて芋虫のように床に転がっていた。
彼らの傍らには、銀色の仮面を付け、ローブを纏った八人が、縛られて床に寝転がっている商人達を見下していた。
ローブを着た八人のうち、五人は商人の金蔵から金貨の入った箱を運び出し始める。
商人がローブの者達に叫ぶ。
「『キラーコマンド』だか、何だか知らんが、誰の金か判ってやっているのか!! 組織の金だぞ!? お前ら全員、殺されるぞ!!」
ローブの者達は、『キラーコマンド』と名乗る盗賊団であった。
キラーコマンドの一人が屈んで商人に話し掛ける。
「どうせ麻薬を売って得た『汚れた金』だろう? オレ達が有効に使ってやる!」
まだ若い男の声に、商人が言い返す。
「ガキが! シンジケートに殺されるがいい!!」
キラーコマンドのリーダー格の者が、他のメンバーに指示を出す。
「皆、撤収するよ!!」
若い女の声であった。
キラーコマンド達は、金貨の入った箱を外の荷車に載せると、店を後にする。
金貨の入った箱を載せた荷車を押しながら、薄暗い商店街の路地裏を進むキラーコマンド達の前に、チンピラ達が現れる。
チンピラの一人が叫ぶ。
「居たぞ!! キラーコマンドだ!! 事務所に知らせろ!!」
チンピラ達の一人は、直ぐにその場から走り去った。
キラーコマンドのリーダーの女が舌打ちする。
「チッ! シンジケートが嗅ぎ付けて来やがった!! みんな! 戦闘用意!!」
チンピラ達は、それぞれナイフやダガー、棍棒を手にキラーコマンド達に襲い掛かる。
チンピラが叫ぶ。
「お前ら、やれぇ!!」
キラーコマンドのリーダーの女が指示する。
「ロブ! 煙玉だ!」
「あいよ!」
キラーコマンドの一人が懐から黒い玉を取り出すと、チンピラ達に投げつける。
投げられた黒い玉は、チンピラ達の前の地面に当たると、轟音と共に周囲一帯に煙幕を発生させる。
「行くよ!」
リーダーの女の声に、キラーコマンド達は、ショートソードを抜くと、チンピラ達に斬り込んで行く。
煙幕の煙で涙目のチンピラ達は、デタラメに得物を振り回すが、キラーコマンド達は巧みに攻撃を避け、チンピラ達に手傷を負わせ、叩きのめしていく。
「今のうちに荷車を!」
「判った!」
キラーコマンド達は、シンジケートの一隊を倒し、暗い路地裏を荷車を押しながら、走り去っていった。
路地裏の一角で立ち止まり、キラーコマンドのリーダーの女が指示する。
「ヒロ、クリス、マギー。お前達は荷車をいつものところへ運びな!」
ヒロと呼ばれた少年が聞き返す。
「ミランダ達は、どうするのさ?」
リーダーの女ミランダが、新手が現れた事に気が付く。
「新手が来た! 後で!」
キラーコマンド達の前に現れた新手。
それは、ジカイラ達であった。
銀色の仮面を被るキラーコマンド達を見たジカイラが口を開く。
「仮面盗賊団とは、なかなかシャレてるじゃねぇか!! みんな、殺すなよ?」
そう言うとジカイラは、愛用の
「帝国無宿人、ジカイラ推参!!」
ミランダがキラーコマンドのメンバーに指示する。
「みんな! やっちまいな!!」
ジカイラは、相手を観察しながら
(こいつら、小柄だな!? それに、剣に殺気が無い。間合いを取って避ける、この動き方は・・・スカウトか?)
キラーコマンド達は、ジカイラ達に比べ、体格的に一回り小柄な者達であった。
ケニーとルナがジカイラの両脇を走り抜け、キラーコマンド達に迫る。
ケニーは、素早く二本のショートソードを抜くと、キラーコマンドの一人と斬り結ぶ。
二人のショートソード同士が金属音を立てて擦り合う。
ケニーも、相手の異様さに気が付く。
(なんだ? こいつら?? 技量的に良くて、基本職のスカウトか。それに・・・子供!?)
ルナも、ケニーとほぼ同じタイミングでキラーコマンドの一人と斬り結ぶ。
「やぁああっ!!」
ルナは、身を翻して左手に装備している
小柄なキラーコマンドは、ルナの
「ぎゃっ!!」
壁に当たったキラーコマンドの一人は、悲鳴を上げると地面に蹲る。
キラーコマンドの悲鳴を聞いたルナが驚く。
「えっ!? 子供の声??」
キラーコマンドのリーダーのミランダは、
「ミ、ミランダ! こいつら、強ぇえよ!!」
「グズグズするな! 引くよ!!」
ミランダは、
ルナは、その名前に聞き覚えがあった。
「ミランダって!? まさか!!」
ミランダは、懐から煙玉を取り出すと、ジカイラ達の前に投げ付ける。
投げられた黒い玉は、ジカイラ達の前の地面に当たると、轟音と共に周囲一帯に煙幕を発生させる。
煙玉が作った煙幕が晴れる頃、キラーコマンド達はジカイラ達の前から姿を消していた。