バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第6話:料理人、ラノベ的展開を迎える

 獣臭さに耐えたのを称えつつ外に出ると、清々しい風がサアッと吹き抜けていった。
 エゲツない肉の味が洗い流されるような気分だったけど、現実の口の中はそうはいかないみたい。

「明日の昼までの我慢だ……ふぅ……」

 げっそりしつつ昨日休んだ木まで歩いて、幹に背を預けて腰掛ける。
 うん、相変わらずモフッとした感触もあって変な感じだ。
 何気にお気に入りの場所になりつつある大木、今度ベンチでも置こうかしら。

「一度サラッと見たけど、もう一度スキルの確認でもしておこうかな」

 タブレットを出して、状態(ステータス)を表示させる。
 上部のスキルタブをタップすると、所持しているスキル一覧がズラリと出てきた。


――

 <基本タブ>
 七節(ななふし) 綴文(つづみ)
 人族 中性的両性 十八歳 Lv1
 職業:料理人
 称号:異世界人、神の御使い、食の探求者、食材に愛されし者、幸運の女神
 体力:10
 魔力:計測不能
 攻撃:10
 防御:10
 素早:10
 運:MAX+限界突破
 装備:村娘の上服、村娘の下服、村娘の上着、木の靴


 <スキルタブ>
 【身体強化】Lv☆

 【能力強化】
 ――閲覧権限が与えられていません――

 【料理魔法】Lv☆
 火炎術:微火、弱火、中火、強火、火操
 水氷術:真水生成、海水生成、炭酸水生成、水操、氷生成、氷操
 温冷術:熱操、冷操
 風嵐術:乾燥風、湿気風、撹拌風、風操
 土木術:樹木生成、土砂生成、岩石生成、木材加工、石材加工、研磨
 光聖術:殺菌、消臭、消毒、光操
 闇邪術:解呪、隷属、催眠、魅了、催淫、五感遮断、闇操、魂操
 無重術:物操、重操
 毒癒術:回復、異常解除、蘇生、毒生成、解毒、毒操
 結界術:物理防御結界、魔力防御結界、封印結界、防音結界、防臭結界
 包丁術:筒斬、輪斬、半月斬、銀杏斬、色紙斬、短冊斬、細斬、千斬、櫛斬、拍子木斬、角斬、賽ノ目斬、微塵斬、乱斬、薄斬、笹掻、削斬、筋斬
 調理術:皮剥、種抜、桂剥、擦下、面取、鱗剥、内蔵抜、骨抜、筋取、潰砕、叩伸、満混、揉込、盛付
 調味術:絶対計量、絶対味覚

 【記憶鮮明】
 五感記憶強化Lv☆
 記憶強化:瞬間記憶Lv☆、空間記憶Lv☆
 記憶操作:記憶整理Lv☆、記憶引出Lv☆、瞬間引出Lv☆
 記憶出力:記憶保管Lv☆、記憶印刷Lv☆、記憶投影Lv☆、記憶共有Lv☆
 記憶読取Lv☆

 【概念書換】
 概念創造Lv☆
 概念操作:概念連結Lv☆、概念切断Lv☆、概念融合Lv☆、概念解体Lv☆、概念施錠Lv☆、概念解錠Lv☆、概念複製Lv☆

 【魔眼】
 鑑定眼Lv☆、賢者ノ瞳Lv☆

 【タブレット】Lv☆

 ギフト:【限界突破】


――

「うん、どう見ても人間やめちゃってるね……石の仮面は被ってないはずなんだけど」

 【料理魔法】の中にどう見ても料理に関係ない物も含まれてるし、正直意味が分からない。
 ゼンシンとシットが、なんか頑張っちゃった感じかもしれない。

「まぁ使うかどうかは別として、あって困るものでもないし良いんだけどね……」

 はははっ……はぁ……。

「料理に関しては地球に居る時以上に……異常に? 上手く出来るようになってるみたいだし、記憶力も変態レベルになってるし、生活に困るわけじゃないし諦めが肝心かね……」

 溜め息が空気に溶けて消える。
 空を見上げれば、雲……はちょっと違うけど、空の青さは地球と大差無い。
 葉の隙間から漏れる木漏れ日も、頬を撫でる風もそうだ。
 この木の下から見上げる空が、今一番心を落ち着かせてくれるのがなんだか嬉しい。

「はぁ……今頃お母さん泣いてるんだろうなぁ……すごく寂しがり屋だったし……」

 残してきたお母さんを思い浮かべてちょっとうるっときていると、木の反対側からガサッと音がした。
 村の誰かが来たのかな? と思って目元を拭うと、こっちに近付いてきている事に気が付いた。
 何気なく音がする方を向いてみると……。

「……スライム?」

 ほんのり水色っぽい透明な物体がプルプルと揺れている。
 周りを見ても他にスライムは居ない……キミはどこから来たんだい?

「そういえば、この村の柵って簡単に入ってこれそうな感じだったね……」

 正直、戦闘力皆無だから倒せる自信は全く無い。
 かと言って放置するわけにもいかないし、どうしようか悩んでいるとスライムがプルプル震えながら飛びついてきた。

「ちょっ! 服溶かされる!」

 スライム=服を溶かしてくるイメージが先にきて腕をクロスして防御を試みる。
 が、プルプルボディのせいかヌルっとすり抜けてお腹辺りにポインっと弾力を感じる結果になった。
 しかし、予想に反して服が溶ける事も無く、何か攻撃をしてくるわけでも無く、ただ飛びついてきただけ?

――スライムをテイムしました
――スキル【従魔術】を獲得しました
――スキル【従魔術:契約】を習得しました
――スキル【従魔術:命令】を習得しました
――スキル【従魔術:意思疎通】を習得しました
――スキル【従魔術:従魔言語】を習得しました

「えっ! ちょっと! 異世界来て最初のテイムがスライムって、何千番煎じのラノベよ!」

 スライムはお腹にへばり付いてプルプル震えている。

「……えーっ……どうすればいいのよコレ……」

 スライムはお腹にへばり付いてプルプル震えている。

「私と一緒に居たいの?」

 スライムはお腹にへばり付いて頷くようにポインポインと動いている。

「ちょっ腹筋弱いんだから! ……しょうがないなぁ……とりあえず<鑑定眼(アヴィデクスパー)>」

 タブレットの画面が切り替わると、スライムのステータスが表示される。


――

 <基本タブ>
 ななし
 スライム 無性 0歳 Lv1
 職業:―
 称号:七節綴文の従魔
 体力:10
 魔力:10
 攻撃:10
 防御:10
 素早:10
 運:10
 装備:―


 <スキルタブ>
 【溶解】Lv1
 【体当り】Lv1


――

「キミは生まれたばかりだったんだね、ステータスも私と同じ初期値っぽい感じだし」

 膝の上に移動させてスベスベな体を撫でると、一度ポインと揺れた。
 せっかく一緒に居たいと言って? くれているし、なんだかんだ愛着湧き始めてるし……しょうがないか。

 元々試したい事は色々あったし、変なことになりそうなら直ぐ止めれば良いし、ちょっと協力でもしてもらおうかな。
 まずはどんな欠片が作れるか、だ。

「スライムにさせたい事をメインに考えたいから……<概念創造(コンクレエ):|巨大>」

 手の中に【巨大】と書かれた灰色の欠片が現る。
 それをスライムの概念板(コンセイル)に設置するが……特に何も起こらなかった。
 ステータスを見ても特に変化は無し、言葉として意味があっても何も影響がない場合があるのが分かった。

 次に【変化】の欠片を作って、同じように試したけど何も起こらず。
 なんとなく【巨大】と【変化】を融合してみると【巨大化】という二×一の横長な欠片ができた。
 それを設置してみると……カチリと嵌った直後にスッと消えた。

「え、え、なになに?」

 突然の出来事に焦ったけど、嬉しそうにしてるから異常は無いみたい、ホッ。
 私が焦ってどうすると思いながら、ステーテスの確認を行う。
 スキル欄に新たに【粘体術:巨大化】が追加されてる!

「なるほど! スキルとして判断されれば、吸収されて習得ができるようになるのね!」

 これは感動ものだ!
 増えたスキルをそっと撫でると、突然指がスッと入り込んで指先に何かが触れた。
 驚きつつそれを摘んで引き抜くと……そこには【巨大化】の欠片があった。
 と同時に、スライムがとても残念そうにヘニャッとなってしまった。

「スキルの習得と解除? 奪取? 強奪? 忘却? ……なんでもいいや、とにかくまた一歩人からかけ離れたのだけはよく分かったわ……」

 また乾いた笑いが出たけど、こんな事を知ってしまったら思わずにはいられない。
 この子のスキルをカスタマイズしたい!

「私はか弱い女の子だから、前衛も後衛も出来る万能タイプになってもらおう。必要なのは……」

 攻撃と回復に重点を置いて、捕縛とか出来るようにしよう。

「アレもあったがいいよね……あとコレと……漢字以外っていけるのかな……あ、いけた」

 スライムの出来る範囲を中心に、あーでもないこーでもないと考えながらスキルを増やしていく。
 いきなり全部高レベルにすると扱いきれないだろうから、基本Lv1にしておこう。
 ……最終的にこうなった。


――

 <基本タブ>
 ななし
 アサシンスライム 無性 0歳 Lv1
 職業:―
 称号:七節綴文の従魔
 体力:15
 魔力:20
 攻撃:15
 防御:10
 素早:25
 運:20
 装備:―
 適正属性:
  下位:水、風
  上位:幻、音
  特殊:毒、癒


 <スキルタブ>
 【体当り】Lv1

 【状態異常無効】Lv☆

 【粘体術】
 巨小化Lv☆、硬軟化Lv1、分裂合体Lv1、粘液Lv1、粘糸Lv1、溶解液Lv1

 【隠密術】
 隠密Lv1、透明化Lv1、気配遮断Lv1、気配察知Lv1、気配探知Lv1

 【操糸術】Lv1

 【魔法】
 水術:水刃Lv1、水撃Lv1、水砲Lv1
 風術:風刃Lv1、浮遊Lv1
 幻術:幻影Lv1
 毒癒術:自己再生Lv☆、毒生成Lv1、回復薬生成Lv1


――

 調子に乗って弄りすぎたかもしれない……種族まで変わってしまった。
 プルプルボディも半透明の黒になってるし。

「……一気に頼もしくなったね、心なしかキリッとして見えるよ、スライムさん」

 よほど嬉しかったのか、ポインポインと跳ね周って喜びを表現してるみたい。
 この感情が分かるのは従魔術の【意思疎通】のお陰なのかな、凄い役に立つね。
 そういえば、巨大化と縮小化を合わせた巨小化はLv1が最大値だった。

「よし、じゃあ小さくなって肩に乗ってくれるかな? 何時の間にか太陽も傾いてきたし、宿に帰らないとね……キミの事も紹介しなきゃいけないし」

 頷くようにプニュンと揺れて、きゅきゅーっと小さくなって肩へ飛び乗る。
 ……何この可愛い生物、ヤバイ愛しい。

「……はっ! ちっちゃ可愛いのに見惚れてしまった! ……帰ろうか」

 指で撫でてあげると左右にプルンプルン揺れて喜ぶものだから、顔が綻んでしまう。
 ニマニマしながら白々亭へと歩を進めながら、ある事に気が付いた。

「そうだ名前……スライムって単細胞生物だよね? 細胞ってセルだったっけ? よし、今からキミの名前はセルゥだ」

 気に入ってくれたのか、プルンプルンと揺れて頬にすり寄ってくる。
 あぁほんと可愛い奴め!


――神界――

「無事に従魔化できたようじゃな」
「なんでスライムなんすか?」
「愛らしいじゃろ、スライム」
「……え? そんな理由っすか?」
「そうじゃ、常に一緒に居てくれる可愛い仲間が居った方がいいじゃろ?」
「そこは全面肯定するっすけど……スライムっすか……」

 【前進】が顎を指で摘んで首を傾げる姿を見て、【輪廻】はとても不満そうに鼻を鳴らした。

「なんじゃなんじゃ! 何なら良かったんじゃ!」
「いや……宿で良くしてもらってますし、しばらくはいらなかったんじゃないかなーと思っただけっす」
「…………そうかの?」
「あたし個人の意見なんでアレっすけど」
「ま、まだ先かむ、村に着くまでに……仲間にしても……よかったか、かな……と……」

 おずおずと【嫉妬】が【前進】に同意した事で微妙な空気になる。
 【輪廻】が口を尖らせて何かブツブツ言っているが、従魔を仲間にする事自体は否定されていない事に気付いてはいないようだ。

 相変わらず綴文への伝言を忘れているが、思い出す日は来るのだろうか……。

しおり